2010年11月の図書紹介(2010年10月受け入れ図書)

1.加護野忠男他著『コーポレート・ガバナンスの経営学』有斐閣(ⅷ+340頁,B6判)

 学生や実務家を主な対象に、会社統治のあるべき姿を検討するための糸口提供が目的。価値の配分以上に価値の創造に力点をおいた議論を展開している。近年の過大な株主の権利主張、速すぎる企業経営者の雇用調整等、「失われた10年」に行われた制度改革の多くが失敗に終ってしまったとの認識に立っているからである。

2.G.オルコット著『外資が変える日本的経営』日本経済新聞出版社(280頁,A5判)

 この20年余、日本企業の国際評価は劇的に変化、東証上場外資系企業数も急激に増減。本書は、外資に買収された日本企業5社と在来の日本企業4社との比較を行い、外資による買収は、日本的経営の再活性化の手段となりうると結論。現場に比して弱い本社機能を外資のハイブリッド経営が克服すると予測するからである。

3.戸波江二編『企業の憲法的基礎』日本評論社(ⅷ+218頁,A5判)

 大上段に振り上げたタイトルに驚くが、早稲田大学21世紀COE叢書「企業社会の変容と法創造」全8巻の第二巻である。企業、市場、市民社会の3つをキーワードに、全法律学的研究活動により新しい法律学を創造することを目標としている。憲法学からの企業分析、団体活動・構成員の自由、私人間効力論の3部で構成。

4.山田久著『デフレ反転の成長戦略』東洋経済新報社(286頁,B6判)

 エコノミストとして「失われた20年」とともに歩んできた著者の日本経済再活性化に向けた提言の書。国際比較の視点から日本経済の長期停滞の原因究明を行い、デフレスパイラル脱却のため包括的で実践的な処方箋を提示。民間シンクタンクの研究者として、「ゆでガエル」的日本の危機感なき衰退に警鐘を鳴らしている。

5.鈴木亘著『社会保障の「不都合な真実」』日本経済新聞出版社(ⅹⅹ+238頁,B6判)

 年金、医療、介護、子育て等わが国社会保障問題全般についての経済学的分析に基づく啓蒙書。一般誌掲載論文を全面的に修正。手をこまねいていれば2010年代中にはIMF緊急融資による社会保障制度の強制改革が高齢者にも影響を及ぼすと予測する著者は、経済学者としての事実認識のもと、現実的な政策手段を提示。

6.蓼沼謙一著『戦後労働法学の思い出』労働開発研究会(ⅵ+356頁,A5判)

 戦後労働法学とともに歩んできた著者の学界50年の回顧と、多様な人間模様に彩られた自身の研究の回想録。『季刊労働法』に長期連載されたエッセーをとりまとめたもの。戦後労働法学は、労働運動と不可分のものとして発展してきたが、日本的労使関係が変容した1970年で終了したとの盛教授の解説が序文に付いている。

7.中村圭介著『地域を繋ぐ』教育文化協会(199頁,新書判)

 連合総研の研究プロジェクトの成果『地域協議会の組織と活動の現状調査報告書』に、新たな資料、インタビュー結果を追加してまとめられた「連合新書」。本書には「静かな革命が始まった」というように、「アラ還」の小子にはなつかしい「革命」という言葉が頻出。同年代の研究者の真剣な思いが伝わってくる著書である。

8.設楽清嗣他編著『いのちを守る労働運動』論創社(ⅷ+274頁,B6判)

 団塊の世代の2人の編者による、最前線の労働運動家へのインタビュー集。編者相互のインタビュー記録も含まれている。解雇・失業は、まず労働組合の責任との認識にたち、「新時代の日本的経営路線」と「成果主義」で変貌した職場の復活は可能か模索。刺激的な事実が収録された、いのちを守る労働運動証言集である。

9.東海ジェンダー研究所編『越境するジェンダー研究』明石書店(510頁,A5判)

 (財)東海ジェンダー研究所創立10周年記念事業。「ジェンダー平等の課題」をテーマに、関係者に寄稿を依頼、海外5人を含む23人の論文で構成された500頁余の大著。ジェンダーの歴史、家族、人権、教育等の項目で編集、ジェンダー平等の現状と課題が俯瞰可能。女性労働の増大とジェンダー平等が矛盾するというのは驚き。

10.野村武夫著『「生活大国」デンマークの福祉政策』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+257頁,A5判)

 高福祉、フレキシキュリティの国であるデンマークは、どのようにして「生活大国」へと発展しえたのか。社会保障制度、労働市場、教育等の面から、豊かな社会構築の理念、政策実践を幅広く取り上げている。中負担・中福祉さえ困難と言われる日本であっても、多様性等の考え方は、社会改編の有益な手がかりとなろう。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年8月-2010年9月に労働図書館受け入れ

  1. 政策時報社編『政官要覧 平成22年秋号』政策時報社(1191頁,B6判)
  2. 内閣府大臣官房政府広報室編『労働者の国際移動に関する世論調査』内閣府(126頁,A4判)
  3. 愛知県経営者協会編『海外駐在員の処遇の決め方』愛知県経営者協会(61頁,A4判)
  4. 全労済協会編『地域と防災』全国勤労者福祉・共済振興協会(53頁,B5判)
  5. 全労済協会編『地域と協同』全国勤労者福祉・共済振興協会(61頁,B5判)
  6. 全労済協会編『地域と活性化』全国勤労者福祉・共済振興協会(122頁,B5判)
  7. アジア太平洋資料センター編『アジア連帯経済フォーラム2009報告集』アジア太平洋資料センター(119頁,A4判)
  8. 内閣府大臣官房政府広報室編『大都市圏に関する世論調査』内閣府(108頁,A4判)
  9. 山田昌弘著『ワーキングブア時代』文藝春秋(245頁,B6判)
  10. 高齢・障害者雇用支援機構編『障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究』高障機構(193頁,A4判)
  11. 黒川清他著『世界級キャリアのつくり方』東洋経済新報社(255頁,B6判)
  12. 石川武男追悼・遺稿集編集委員会編『石川武男追悼・遺稿集』石川武男追悼・遺稿集編集委員会(83頁,A5判)
  13. 愛媛県労働者福祉協議会編『愛媛における勤労者の生活と働く環境について』(85+7頁,A4判)
  14. 厚生労働省職業能力開発局編『派遣・請負設計技術者のキヤリア形成支援のための手引 』(42頁,A4判)
  15. 厚生労働省職業能力開発局編『事務系派遣スタッフのキャリア形成支援のための手引』(42頁,A4判)
  16. 厚生労働省職業能力開発局編『製造業派遣・請負職場の現場リーダーの人材育成の手引』(52頁,A4判)
  17. 厚生労働省職業能力開発局編『派遣労働者等に係る能力開発・キャリア形成の仕組み・・・』(119頁,A4判)
  18. 恩田饒他著『女性を輝かせるマネジメント術』カナリア書房(219頁,B6判)
  19. 中野知律他編著『表象されるアイデンティティ』明石書店(305頁,B6判)
  20. 妙木忍著『女性同士の争いはなぜ起こるのか』青土社(421+ⅲ頁,B6判)
  21. 介護労働安定センター編『事業所における介護労働実態調査・・・』介護労働安定センター(176+63+16頁,A4判)
  22. 介護労働安定センター編『介護労働者の就業実態と就業意識・・・』介護労働安定センター(6+151+92+15頁,A4判)
  23. 全労済協会編『社会的排除と高等教育政策に関する国際比較研究』全労済協会(60頁,A4判)
  24. 内閣府大臣官房政府広報室編『身近にある化学物質に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(226頁,A4判)
  25. 経済産業省編『産業構造ビジョン2010』経済産業調査会(ⅴ+386頁,B5判)
  26. 中村圭介著『地域経済の再生』東京大学社会科学研究所(ⅳ+111頁,B5判)
  27. 総合研究開発機構編『東アジアの地域連携を強化する 個別分野編』(97頁,A4判)
  28. 総合研究開発機構編『東アジアの地域連携を強化する 緊急提言』(19頁,A4判)