2010年9月の図書紹介(2010年8月受け入れ図書)

1.金子勝他著『新興衰退国ニッポン』講談社(277頁,B6判)

 著者たちは、経済社会を多重なフィードバック機能をもつ調節制御システムであると捉え、小さな異常現象から本質発見の方法を模索。技術開発、貧困、雇用等の9つの分野で日本の衰退現象がなぜ生じているのかを追究し、日本再生のための8原則を提示。『逆システム学』に続く、著者たちによる問題提起の書である。

2.安宅川佳之著『家族と福祉の社会経済学』日本経済新聞出版社(248頁,B6判)

 日本福祉大学大学院での2002年からの7年間の「公共政策特論」の講義内容を再構成。現代日本の最も深刻な社会経済問題である少子化問題を保険理論の視点から分析、公共政策の進むべき方向を大局的に論述。60歳を過ぎて研究者の道に入った著者は、次世代の効用を重視し世代間共生・家族制度の強化を主張している。

3.守島基博著『人材の複雑方程式』日本経済新聞出版社(186頁,新書判)

 『プレジデント』連載コラムの新書化だが、書き下ろしと見間違うものとなっている。人材は競争力の源泉だが、育成には長期間を要する。「人の力」が失われつつある現実を危惧する著者は、人材マネジメントの大切さを強調。部下のフォロワーシップ、従業員のがまんの重要性等を指摘、実務的知恵が満載されている。

4.埋橋孝文他編『参加と連帯のセーフティネット』ミネルヴァ書房(ⅷ+323頁,A5判)

 連合総合生活開発研究所内に設置された研究会の2年間の活動の成果。未組織労働者やその家族も含めた参加保障と連帯に基づくソーシャル・セーフティネットを構想、具体的には最低賃金−社会保険−社会手当−生活保護の4層の制度を想定している。人間らしいディーセントな日本社会を追求した政策展望の書である。

5.鈴木玲編『新自由主義と労働』御茶の水書房(ⅹⅲ+253頁,A5判)

 本書は、新自由主義経済が労働運動・労使関係に及ぼした影響を実証的かつ理論的に分析。英米の学説史や研究動向等をフォロー、基本的には規制緩和論に批判的な立場から、市場原理規制の必要性を主張している。法政大学大原社会問題研究所主宰の研究会のⅢ部10章の成果・論文集であり、大原社研叢書の1冊でもある。

6.大沢真知子著『日本型ワーキングプアの本質』岩波書店(250頁,B6判)

 教育機会や安定的雇用等の剥奪状態からの脱却には、非正社員=世帯主の扶養労働者、という意識からの脱出が必要であると説く、メッセージ性の強い啓蒙書。派遣、パート、子供の貧困等を取り上げ、社会的連帯による持続可能社会の構築を模索。非正規労働日韓比較やインタビューにより説得力のある書となっている。

7.石塚浩美著『中国労働市場のジェンダー分析』勁草書房(ⅷ+255頁,A5判)

 中国都市部の労働市場、男女間の昇進・賃金・職業等の格差をジェンダーの視点で分析。著者によれば、本書の特徴は、中国労働市場を数値データで分析したこと、市場−企業−家庭の全レベルを包括的に分析していること、国有セクターと非国有セクターを比較分析していること、の3つである。博士論文に加筆・修正。

8.毛塚勝利他編『企業組織再編における労働者保護』中央経済社(2+5+225頁,A5判)

 連合総研内に設けられた、M&Aと労働組合の課題に関する研究会の2年間の活動の成果。グローバル化による競争激化や企業法制の改編により、企業再編に直面した労組関係者へのインタビュー等に基づき、新しい労使関係システムや労働者保護のための法システム構築の必要性と、その労働法上の検討課題を指摘している。

9.出井智将著『派遣鳴動』日経BPコンサルティング(246頁,B6判)

 年越し派遣村の出現で急きょ政策課題となった派遣法改正だが、参院選結果の影響もあり、混沌としている。登録型派遣や製造業派遣の廃止は、労働者の雇用を安定させるのか。人材ビジネス事業に20年余の経験をもつ著者のブログを編集、派遣法改正を中心に、ものづくりサービス事業者の現実的な疑問点が綴られている。

10.樋口美雄他編『貧困のダイナミズム』慶應義塾大学出版会(313頁,A5判)

 「日本家計パネル調査JHPS」成果の第一弾。今後毎年刊行される予定。経済主体の目的や主体を取り巻く状況が複雑化しており、政策の影響の解明にはパネル調査が有効である。JHPSは、学術・政策研究に寄与するデータの提供を目指しているが、本書では、JHPSの結果に基づき貧困や労働市場の諸問題が分析されている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年6月-2010年7月に労働図書館受け入れ

  1. 中村圭介著『絶望なんかしていられない』荘道社(164頁,A5判)
  2. 法政大学大原社会問題研究所編『占領後期政治・社会運動の諸側面 その2』法政大学(83頁,A4判)
  3. 総務省行政管理局編『行政機関等における個人情報保護対策のチェックリスト』総務省(ⅰ+63+13+15頁,A4判)
  4. 政策形成研究班著『政策形成における価値の生成と変容』関西大学法学研究所(187頁,A5判)
  5. 公証制度研究班著『公証制度の歴史と現在』関西大学法学研究所(ⅱ+187頁,A5判)
  6. 日本在外企業協会編『中国専門家が語る最新チャイナビジネス』日本在外企業協会(146頁,A4判)
  7. 山内昌斗著『日英関係経営史』溪水社(ⅵ+207頁,A5判)
  8. 政府の人的資源管理等に関する検討会編『政府の人的資源管理等に関する研究報告書』(105頁,A4判)
  9. 増田正勝著『ドイツ経営パートナーシャフト史』森山書店(8+7+302頁,A5判)
  10. 厚生労働省雇用均等・児童家庭局編『変化する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格差・・・』(70頁,A4判)
  11. 中部産業・労働政策研究会編『より健全で良好な労使関係の構築に向けた職場づくり』(154頁,B5判)
  12. 埼労連20年史編集委員会編『埼労連20年史』埼玉県労働組合連合会(119頁,B5判)
  13. 京品ホテル闘争編集委員会編『京品ホテル闘争報告集』労働組合東京ユニオン(91頁,B5判)
  14. 連合総合生活開発研究所編『困難な時代を生きる120人の仕事と生活の経歴』連合総研(284頁,A4判)
  15. 矢野久著『労働移民の社会史』現代書館(316頁,B6判)
  16. 落合恵美子編『いま構築されるアジアのジェンダー』国際日本文化研究センター(243頁,B5判)
  17. 藤森克彦著『単身急増社会の衝撃』日本経済新聞出版社(383頁,B6判)
  18. 内閣府編『高齢社会フォーラム<東京フォーラム、福岡フォーラム>報告書』内閣府(149頁,A4判)
  19. 国立社会保障・人口問題研究所編『人々の生活と自助・共助・公助の実態』国立社会保障・人口問題研究所(ⅱ+218頁,A4判)
  20. 浴風会編『地域包括支援センターにおける認知症ケアガイドライン』浴風会(147頁,A4判)
  21. 浴風会編『認知症地域包括ケアのあり方に関する研究事業報告書』浴風会(130頁,A4判)
  22. 安心と安全研究班著『安全・安心システムの創出』関西大学法学研究所(136頁,A5判)
  23. 一橋大学編『講義=演習連結型授業の創出、実践、普及』一橋大学(187頁,B5判)
  24. 一橋大学大学教育研究開発センター編『レポート剽窃問題を考える』一橋大学大学教育研究開発センター(79頁,A4判)
  25. 『平成21年度 ものづくり基盤技術の振興施策』(第174回国会(常会)提出)(9+ⅹⅳ+319頁,A4判)
  26. 山田伸顯著『日本のモノづくりイノベーション』日刊工業新聞社(233頁,A5判)
  27. 島根県立大学JST人材育成グループ編『島根で暮らす、環境共生という生き方』島根県立大学(83頁,A4判)
  28. ウィリアム・J・タイラー他著『石川淳と戦後日本』(ⅷ+366+226頁,A5判)