2010年8月の図書紹介(2010年7月受け入れ図書)

1.向井公敏著『貨幣と賃労働の再定義』ミネルヴァ書房(ⅵ+363+3頁,A5判)

 1974年に大学を卒業した小子にとっては、なんともノスタルジックな著書である。当時はマルクスとウェーバー学が全盛期であったが、ソビエト連邦の崩壊とともに、マルクスも「死んだ犬」となったかと思っていたらリーマン・ショック後復活したらしい。1990年以降のマルクス価値論と賃労働論についての論考を所収。

2.佐藤洋一著『情報資本主義と労働』青木書店(ⅹⅰ+207頁,A5判)

 「情報資本主義」とは聞きなれない用語だが、IT技術を経済活動の基盤に据えた資本主義のことであるという。IT投資の経済成長率、労働生産性への寄与と所得分配との関連を軸に、情報資本主義段階を理論的・実証的に考察することを目的としているが、現代情報社会のマルクス経済学による分析ということであろうか。

3.小内透編著『在日ブラジル人の労働と生活』御茶の水書房(ⅶ+258頁,A5判)

 在日ブラジル人の教育と保育(第二巻)、デカセギの動向(第三巻)と一体で在日ブラジル人社会を体系的に追究した全3巻の第一巻。改正入管法の施行により、制限のない就労が可能になった日系ブラジル人の労働と生活についての4年間の調査の成果。ブラジル人集住地域や送出し地域での多様な実態調査に基づいている。

4.禹宗?編著『韓国の経営と労働』日本経済評論社(ⅳ+305頁,A5判)

 韓国の経営・労働の特徴である財閥の重要性や労働組合の戦闘性も、グローバル化・日本化しつつあるが、意思決定の速さや高学歴による人的資源の質の高さは維持されている。韓国の労使関係や人事労務管理、雇用・就業等の現状分析が中心的課題ではあるが、日本の今後の方向をも逆照射している。争点と事例の2部構成。

5.佐藤博樹編著『働くことと学ぶこと』ミネルヴァ書房(ⅶ+229+2頁,B6判)

 企業による能力開発が、従業員のキャリア・処遇に及ぼす影響を分析、能力開発にかかわる課題を把握し、政策課題の検討にまで発展させている。適職感覚経験、必死に働くことの大切さも示唆、初職が非正規社員であることが不利かどうかは、企業の能力開発機会にかかっているという。経済産業省からの委託調査の成果。

6.岩井浩著『雇用・失業指標と不安定就業の研究』関西大学出版部(ⅹⅹⅰ+294頁,A5判)

 失業率の改善は、求職意欲喪失者や部分就業者の増加で達成されるが、それは失業問題の本質的な解決ではない。本書は、雇用・失業統計と失業の代替指標、不安定就業に関する著者の1993~09年の研究論文を編集。イギリスの失業代替指標の研究を基に、わが国の失業、部分就業、非求職型ニート問題までも追究している。

7.佐口和郎編著『事例に学ぶ地域雇用再生』ぎょうせい(367頁,A5判)

 人口減少や限界集落等、日本各地の過疎化の苦悩は深く長い。本書は、自治労の中に設けられた研究会の2年間の活動の成果。持続可能な地域づくりはいかにして可能か。産業・雇用・生活の面から包括的に検討。多様な地域現場を事例として、金融・経済危機により見えてきた諸問題を分析し、望ましい地域づくりを展望。

8.野田知彦著『雇用保障の経済分析』ミネルヴァ書房(ⅷ+284頁,A5判)

 世界的金融・経済危機により、多くの企業は存亡の淵に立たされ、新卒採用抑制や非正規増加策等に走ったが、労使関係のもう一方の当事者の労働組合はいかなる行動をとったのか。本書は、企業の解雇回避行動が企業経営や労働市場に与える影響を組合効果の視点から分析、労働組合のあり方検討の素材を提供している。

9.山崎憲著『デトロイトウェイの破綻』旬報社(285頁,B6判)

 若者の自動車離れが進んでいる。加えてマスコミをにぎわしたトヨタのリコール問題がある。自動車産業の将来は、全くの視界不良である。本書は、デトロイト総領事館に3年間赴任した著者による米国自動車産業の労使関係の特徴=デトロイトウェイの詳細な紹介である。日本の自動車産業の将来も見えてくるだろうか。

10.千々岩力著『創成期の労働委員会と労働組合』旬報社(334頁,B6判)

 戦闘的労働組合運動は、歴史の彼方へ退場してしまったように見えるが、戦後初期、労働委員会にも2つの党派があり、両派が機関紙で論陣をはりあっていたという。60年の時の壁を越えてよみがえったまぼろしを見ているようである。本書は『月刊労委労協』に連載された、資料に忠実な労働委員会創成期の記録である。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年5月-2010年6月に労働図書館受け入れ

  1. 鈴木貞美他編『東アジア近代における概念と知の再編成』国際日本文化研究センター(ⅴ+371頁,B5判)
  2. 宇都宮大学重点推進研究グループ編『「国際学」としての『多文化公共圏」研究』宇都宮大学(296頁,A5判)
  3. 飯島大邦他編著『制度改革と経済政策』中央大学出版部(ⅹⅴ+350頁,A5判)
  4. 河野正男他編著『会計領域の拡大と会計概念フレームワーク』中央大学出版部(ⅹⅱ+264頁,A5判)
  5. 片桐正俊他編著『グローバル化財政の新展開』中央大学出版部(ⅹⅶ+369頁,A5判)
  6. 一井昭編『グローバル資本主義の構造分析』中央大学出版部(ⅹ+284頁,A5判)
  7. 谷口洋志他著『現代中国の格差問題』同友館(ⅷ+304頁,A5判)
  8. 磯辺剛彦他著『国境と企業』東洋経済新報社(ⅹⅹ+258頁,A5判)
  9. 荻原勝著『雇用調整の実務』中央経済社(201頁,A5判)
  10. 八代徹也著『実務家のための労働判例の読み方・使い方』産労総合研究所出版部経営書院(162頁,B6判)
  11. 高井伸夫他著『労使の視点で読む最高裁重要労働判例』産労総合研究所出版部経営書院(334頁,B6判)
  12. 海老原嗣生著『課長になったらクビにはならない』朝日新聞出版(189頁,B6判)
  13. 水谷研次他著『知らないと損する労働組合活用法』東洋経済新報社(173+ⅹⅴ頁,A5判)
  14. 全国労働組合総連合編『音楽家だって労働者』かもがわ出版(63頁,A5判)
  15. 楠木新著『会社が嫌いになっても大丈夫』日本経済新聞出版社(263頁,文庫判)
  16. 川人博著『過労死・過労自殺大国ニッポン』編書房(240頁,B6判)
  17. 香川孝三著『グローバル化の中のアジアの児童労働』明石書店(238頁,A5判)
  18. 海老原嗣生著『「若者はかわいそう」論のウソ』扶桑社(285頁,新書判)
  19. 津田倫男著『老後は本当はいくら必要か』祥伝社(210頁,新書判)
  20. 宇都宮大学国際学部田巻研究室編『栃木県における外国人児童生徒の教育・・・』宇都宮大学(209頁,B6判)
  21. 小川佳万編『東アジアの教育大学院』広島大学高等教育研究開発センター(ⅱ+94頁,B5判)
  22. 吉本圭一編『柔軟性と専門性』広島大学高等教育研究開発センター(ⅹ+136頁,B5判)
  23. 広島大学高等教育研究開発センター編『大学院教育の将来』広島大学高等教育研究開発センター(226頁,B5判)
  24. 広島大学高等教育研究開発センター編『知識基盤社会における人材養成・・・』広島大学高等教育研究開発センター(ⅲ+84頁,B5判)
  25. 小方直幸編『企業から見た専門学校教育』広島大学高等教育研究開発センター(ⅰ+88頁,B5判)
  26. 小関智弘著『町工場・スーパーなものづくり』筑摩書房(226頁,文庫判)
  27. 下川浩一著『自動車ビジネスに未来はあるか?』宝島社(204頁,新書判)
  28. 畑村洋太郎他著『危機の経営』講談社(221頁,B6判)