2010年7月の図書紹介(2010年6月受け入れ図書)

1.大竹文雄著『競争と公平感』中央公論新社(ⅹⅱ+245頁,新書判)

 政府も市場も失敗するが、先進諸国の中で日本では政府・市場とも信頼度は低いという。世襲政治家が首相を務め、最近の首相4人がいずれも1年以内に辞任に追い込まれた国であっては、むべなるかなである。著者は市場競争のメリットを強調するとともに、政府を活用した公平で豊かな社会実現のヒントも提供している。

2.河野順一他著『労働基準監督機関の役割と是正勧告』中央経済社(554頁,A5判)

 労働基準監督機関による是正勧告の重点項目は、残業代不払問題であるという。「残業代請求バブル」を懸念する経営コンサルタントの著者達は、経営者に判例法理に基づいた毅然とした態度を要求、裁判例・法律の渉猟により、現状と問題点、是正勧告の法的性格を明らかにし、経営実務の指針となることを目指している。

3.武田圭太著『採用と定着』白桃書房(ⅵ+254頁,A5判)

 来年4月採用の新規学卒一括採用活動はすでに終息期なのだろうか。本書は、採用をめぐる諸問題を人と組織の双方の視点から分析。採用においては、面接者の仕事経験という偶然性に左右されると著者は指摘、仕事の世界に巣立つ若い人たちが、偶然性の非条理におしつぶされず元気にはばたくことを願うばかりである。

4.駒村康平編『最低所得保障』岩波書店(ⅷ+239+3頁,B6判)

 最低所得保障制度としての機能をもつ生活保護、社会手当、失業扶助、最低賃金、雇用保険、最低保障年金を、整合性・包括性の視点から分析。現在脚光を浴びているベーシック・インカム論等に対抗、現実的な提言も展開。駒村教授の問題提起の下、若き研究者が制度毎に、歴史的経緯にも目配りを払いつつ議論している。

5.苅谷剛彦他編『大卒就職の社会学』東京大学出版会(ⅹ+230頁,A5判)

 若手研究者等の実証研究の場である「就職研」の活動成果。1980年代末から2000年代初頭にかけての大卒就職の変容をアンケート調査等のデータに基づき描出。大学生が同年代の半分を占めるまでにいたった教育の現場と、非正規が3分の1を占める仕事の世界の結節点である大卒就職の実態の解明は、焦眉の課題である。

6.山内乾史他編著『学歴と就労の比較教育社会学』学文社(ⅶ+195頁,B6判)

 欧米や発展途上国では、低所得が教育の不足をもたらすが、日本では高学歴者の中からも不安定・低賃金者が出現し、若者も使い捨てられているという。本書は、英・北欧・エジプト・豪州の教育と職業との関係を分析、近年の日本社会の最大の懸案である格差社会論に、学力論という教育社会学の観点から切り込んでいる。

7.鶴光太郎他編著『労働時間改革』日本評論社(ⅹⅵ+184頁,A5判)

 長時間労働による過労死・メンタルヘルス不全が頻発しているが、日本でもようやく勤務間インターバル規制が不完全ながら導入されるようになってきた。さらに現場でも、WLBやファミフレ等労働時間への関心が高まっている。RIETI主催の政策シンポジウム「労働時間改革」での発表論文と追加論文で構成されている。

8.三井正信著『現代雇用社会と労働契約法』成文堂(ⅷ+258頁,A5判)

 労働契約法が施行されて2年余、本文19条の小ぶりな法は、期待された効果を発揮できているのだろうか。本書は、既発表の労働契約法関連論文に加筆・修正、一書にまとめたもの。労働契約法の意義・問題点、契約説に基づく就業規則の拘束力・不利益変更問題の検討、法改正に向けた立法論の提示を内容としている。

9.唐津博著『労働契約と就業規則の法理論』日本評論社(ⅹⅲ+381頁,A5判)

 2009年の日本労働法学会での研究報告のために、1987年の学会発表以来の就業規則に関する論文を整理・編集。労働契約の法理論と就業規則の法理論、就業規則と労働契約法の関係、の3つの内容で構成されている。労働契約法についての出版物が引きも切らないが、労働法学者にとって魅力に溢れたテーマなのであろうか。

10.尹敬勲著『韓国経済と労使関係』学術出版会(331頁,A5判)

 対する五大財閥の経済的貢献が40%を超えると言われる韓国では、財閥企業での労使対決による経済的損失を最小限におさえることは国家的課題である。本書は現代財閥を事例として、労使関係の歴史的展開、学歴による賃金格差と能力開発機会の不平等性等を分析。学歴重視社会の中での現代財閥の労使関係を詳述。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年4月-2010年5月に労働図書館受け入れ

  1. 土田とも子編『全所的共同研究の40年 資料編』東京大学社会科学研究所(133頁,B5判)
  2. 高橋直樹他編『構造と主体』東京大学社会科学研究所(110頁,B5判)
  3. 浜辺陽一郎著『民法大改正』日本経済新聞出版社(306頁,B6判)
  4. 依田高典著『行動経済学』中央公論新社(ⅳ+242頁,新書判)
  5. リチャード・セイラー他著『実践行動経済学』日経BP社(415頁,B6判)
  6. 清水耕一編著『地域統合』岡山大学社会文化科学研究科(ⅳ+233頁,A5判)
  7. 岡沢憲芙他編著『少子化政策の新しい挑戦』中央法規出版(287頁,A5判)
  8. 尾高煌之助他編『イノベーションの創出』有斐閣(14+259頁,A5判)
  9. 山下洋史編著『日本人の心理・行動モデルと日本企業のクォリティ』白桃書房(ⅹ+222頁,A5判)
  10. 八代充史他著『はじめての人事管理』泉文堂(ⅷ+210頁,B6判)
  11. 河合克彦他著『一次評価者のための目標管理入門』日本経済新聞出版社(228頁,A5判)
  12. 学習院大学経済経営研究所編『ワーク・ライフ・バランス推進マニュアル』第一法規(151頁,A5判)
  13. 日本経団連事業サービス人事賃金センター編著『役割・貢献度賃金』日本経団連出版(170頁,A5判)
  14. 現代産業社会と人間関係研究班編著『現代社会における人間関係とリスク 』関西大学経済・政治研究所(137頁,B5判)
  15. 市民参加研究班編『ソーシャル・キャピタルと市民参加』関西大学経済・政治研究所(236頁,A5判)
  16. リチャード・ウィルキンソン他著『平等社会』東洋経済新報社(ⅹⅹ+313+32頁,B6判)
  17. 宮島洋他編『社会サービスと地域』東京大学出版会(ⅹ+254頁,A5判)
  18. 国立社会保障・人口問題研究所編『社会保障の計量モデル分析』東京大学出版会(ⅹⅵ+358頁,A5判)
  19. 日本家政学会生活経営学部会編『暮らしをつくりかえる生活経営力』朝倉書店(ⅶ+172頁,A5判)
  20. 野川忍著『労働法 新訂』商事法務(20+490頁,A5判)
  21. 菅野和夫著『労働法 第9版』弘文堂(ⅹⅹ+837頁,A5判)
  22. 水町勇一郎著『労働法 第3版』有斐閣(ⅹⅶ+505頁,A5判)
  23. 土田道夫他編著『ケースブック労働法 第6版』弘文堂(ⅹⅹ+601頁,A5判)
  24. 石山貴章著『知的障害者の就労に関する雇用者の問題意識の構造』風間書房(ⅷ+220頁,A5判)
  25. 佐藤孝治著『「就活」廃止論』PHP研究所(240頁,新書判)
  26. 稲泉連著『仕事漂流』プレジデント社(357頁,B6判)
  27. 牧口晴一他著『事業継承に活かす従業員持株会の法務・税務』中央経済社(2+8+439頁,A5判)
  28. 青木宏之他編『激動期の労使関係』東京大学社会科学研究所(155頁,B5判)
  29. 杉秀信著『金杉秀信オーラルヒストリー』慶應義塾大学出版会(365頁,B6判)
  30. 連合大阪20周年記念誌編集部会編『連合大阪20年史』連合大阪(134頁,A4判)
  31. 松井保彦著『合同労組運動の検証』フクイン(+頁,B6判)
  32. 有賀夏紀他編『アメリカ・ジェンダー史研究入門』青木書店(ⅵ+328+18頁,A5判)
  33. 小野公一著『働く人々のキャリア発達と生きがい』ゆまに書房(ⅹⅱ+262頁,A5判)
  34. 石井まこと他編著『現代労働問題分析』法律文化社(ⅷ+300頁,A5判)
  35. 齋藤義博著『経済学と労働経済論』創成社(ⅷ+305頁,A5判)
  36. 岩間夏樹著『若者の働く意識はなぜ変わったのか』ミネルヴァ書房(ⅹⅱ+240頁,B6判)
  37. 間宮理沙著『内定取消 ! 』日経BP社(220頁,B6判)
  38. 青木宏之編『現場管理の世界』東京大学社会科学研究所(132頁,B5判)
  39. 進士五十八著『グリーン・エコライフ』小学館(222頁,B6判)
  40. 石田光男他編著『GMの経験』中央経済社(5+315頁,A5判)