2010年6月の図書紹介(2010年5月受け入れ図書)

1.長谷川千春著『アメリカの医療保障』昭和堂(ⅴ+249頁,A5判)

 オバマ政権の内政上の最大課題は、数千万人とも言われる不安定雇用者の医療保険未加入問題である。本書は、アメリカ医療保険制度の全体像をGM-UAW等の事例調査、1980年代以降の動向分析、先行研究のフォロー等により体系的かつ具体的に描き出すことを目的としている。博士学位取得論文に加筆・修正した著作。

2.大島和夫著『企業の社会的責任』学習の友社(191頁,B6判)

 組合活動歴30年の経験を基に書かれた社会的責任についての啓蒙書。企業の雇用に対する責任、CSRの具体的内容がまとめられている。職場内や企業横断的連帯、同一労働同一賃金の実現等を望んでいるが、「お年寄りの寄合い」化している組合の現状には厳しい目を向けている。民主的改革のための経済学シリーズの1冊。

3.江口匡太著『キャリア・リスクの経済学』生産性出版(350頁,A5判)

 キャリア形成に対して確固としたイメージがもてなくなってきているキャリア・リスクの現在、著者は企業組織内の人事管理をめぐるリスクを、人事評価、昇進、技能形成、採用と転職、情報伝達と権限、雇用調整の項目別に分析。組織の経済学、特にゲームの理論を多用、インセンティブとコミットメントがキーワード。

4.石田光男他著『人事制度の日米比較』ミネルヴァ書房(ⅶ+236頁,A5判)

 失われた10年に呻吟していた日本は、当時好況を謳歌していた米国の人事制度をモデルとして、日本的雇用慣行からの脱却を企図。しかし、その典型モデルであった成果主義はいまや見るも無残である。本書はアメリカでの3度の詳細な事例調査を基に日米の人事制度、特に等級・賃金・評価制度の内容と運用実態を詳述。

5.高山憲之著『年金と子ども手当』岩波書店(ⅹⅴ+127頁,A5判)

 国民の年金制度に対する不信、不安、怒りがピークに達しているが、持続可能で信頼のおける年金制度の構築はいかにして可能か。本書は、長年の研究に基づき制度の在り方を提示するとともに、ホットイシューである年金記録問題や子ども手当にも言及。英米にも億件単位の年金記録漏れがあったというのは驚きである。

6.竹内宏他編『人材獲得競争 』学生社(257頁,A5判)

 人口減少時代の日本にとって、優秀な留学生・労働者を海外から獲得することは、豊かな社会の維持に致命的に重要である。しかし、世界の中での日本の経済的地位が低下している現在、この国際競争に勝ち抜くことは厳しい状況にある。本書は、このテーマに対する「第13回静岡アジア・太平洋学術フォーラム」の成果である。

7.高橋美保著『中高年の失業体験と心理的援助』ミネルヴァ書房(ⅹⅷ+321頁,A5判)

 民間企業に就職し、90年代後半以降のリストラ解雇を身近に経験した著者は、失業者の心の声に関心を抱き、臨床心理学による失業研究者に転身。中高年者の失業体験を、就業意識・実態も視野に分析。ハローワークでの失業者の心理的援助の在り方も検討。博士論文を厳選したシリーズ「臨床心理学研究の最前線」の1冊。

8.中沢孝夫著『就活のまえに』筑摩書房(199頁,新書判)

 厳しい新卒就職戦線が続くが、10年間の就職指導経験をもつ著者は、就活前の行動から内定後の過ごし方、読書案内まで懇切丁寧に説明。実際の仕事の世界、職場・働き方の国際化にも言及。自己実現には他者と共通の価値観をもつべきと諭している。ニート、フリーター等にも優しい良い仕事、良い職場への道案内の書。

9.野依智子著『近代筑豊炭鉱における女性労働と家族』明石書店(269頁,A5判)

 女子高での勤務等を経て研究生活を開始した著者の博士論文が原著である。戦前の筑豊には、炭鉱経営の保育所が存在したことから、女性鉱夫の労働と家族の問題を歴史的に研究。「家族賃金」等をキーワードに、機械化・合理化による夫婦共稼ぎの就労形態から、専業主婦化へのジェンダー関係の成立過程を追跡している。

10.佐藤博樹他編『実証研究 日本の人材ビジネス』日本経済新聞出版社(ⅹⅹ+604頁,A5判)

 人材ビジネス企業からの寄付による東大社研人材ビジネス研究寄付研究部門の6年間の研究成果。本文21章604頁の大著。実施した13の調査等により、三者間関係である派遣事業と請負事業を中心に分析。佐藤教授等の指導下、若手研究者がこの業界の人事マネジメント、人材育成、就業意識、等を精力的に追究している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年3月-2010年4月に労働図書館受け入れ

  1. 渡邉美樹著『きみはなぜ働くか。』日本経済新聞出版社(205頁,文庫判)
  2. 大阪産業大学産業研究所編『アメリカの社会と文化に関する総合的研究』大阪産業大学産業研究所(ⅲ+103頁,A5判)
  3. 国立国会図書館編『持続可能な社会の構築』国立国会図書館調査及び立法考査局(262頁,A4判)
  4. 総務省編『情報公開制度と個人情報保護制度のガイドブック』総務省行政管理局(24頁,A4判)
  5. 大阪産業大学産業研究所編『平和学論集Ⅳ』大阪産業大学産業研究所(ⅰ+164頁,A5判)
  6. 河宮信郎編著『成長停滞から定常経済へ』中京大学経済学部付属経済研究所(ⅶ+205頁,A5判)
  7. 総合研究開発機構編『「市場か、福祉か」を問い直す』総合研究開発機構(95頁,A4判)
  8. 樋口美雄編『労働市場と所得分配』慶應義塾大学出版会(ⅹⅹⅷ+632頁,A5判)
  9. 機械振興協会編『新興国市場としての中東地域における日系企業の現状と展望』機械振興協会(164+ⅵ+ⅹⅵ頁,A4判)
  10. 榎本悟他編著『地域間の統合・競争・協力』岡山大学社会文化科学研究科(ⅳ+201頁,A5判)
  11. 国立社会保障・人口問題研究所編『長寿革命』国立社会保障・人口問題研究所(190頁,A4判)
  12. 佐伯弘文著『移民不要論』産経新聞出版(181頁,B6判)
  13. 戴秋娟著『中国における日系企業の発展と国有企業経験者の役割』東京大学社会科学研究所(ⅵ+236頁,B5判)
  14. 仁田道夫編『コールセンターの雇用と人材育成に関する国際比較調査』東京大学社会科学研究所(121頁,B5判)
  15. 吉田典史著『あの日、「負け組社員」になった・・・』ダイヤモンド社(215頁,B6判)
  16. 神保紀秀著『非正規社員を競争力に変える法』ダイヤモンド社(234頁,B6判)
  17. 労働問題リサーチセンター編『就労形態の多様化・労働時間管理の柔軟化と生産性・・・』労働問題リサーチセンター(159頁,A4判)
  18. 全労済協会編『社会連帯型人材育成モデルの構築に当たって』全労済協会(57頁,B5判)
  19. 柴田昌治著『なぜ社員はやる気をなくしているのか』日本経済新聞出版社(309頁,文庫判)
  20. トーマツ年金会計サービスライン編『退職給付会計』清文社(333頁,A5判)
  21. 竹中平蔵他編『これからの「働き方」はどうなるのか』PHP研究所(219頁,B6判)
  22. 乾彰夫他著『若者の教育とキャリア形成に関する調査』若者の教育とキャリア形成に関する研究会(166頁,A4判)
  23. 田嶋淳子著『中国における海外への労働者送り出し(労務合作)…』法政大学比較経済研究所(24頁,A4判)
  24. 高齢・障害者雇用支援機構編『障害者の加齢・高齢化に対応した継続雇用・・・』高齢・障害者雇用支援機構(154頁,A4判)
  25. 阿部正浩他編『キャリアのみかた』有斐閣(ⅹⅴ+294頁,B6判)
  26. 21世紀職業財団編『再就職に関する雇用管理研究会報告』21世紀職業財団(219頁,A4判)
  27. 労働問題リサーチセンター他編『公的な職業紹介システムの今日的な意義・・・』労働問題リサーチセンター(178頁,A4判)
  28. 木村周著『キャリア・コンサルティング理論と実際』雇用問題研究会(364頁,A5判)
  29. 森健著『就活って何だ』文藝春秋社(254頁,新書判)
  30. 鴨桃代他著『「君、クビね」と言われたら読む本』PHP研究所(166頁,B6判)
  31. 杉浦正男他著『メーデーの歴史』学習の友社(207頁,B6判)
  32. 熊本県商工観光労働部編『働きやすい職場環境づくりのススメ』熊本県商工観光労働部(26頁,A4判)
  33. 日本国際協力センター編『日系人就労準備研修事業現状調査報告書』日本国際協力センター(152頁,A4判)
  34. 機械振興協会編『モノづくり企業における外国人研究開発者の戦略的活用』機械振興協会(156頁,A4判)
  35. 経営労働協会編『オランダ、スウェーデン両国における外国人受入・・・』経営労働協会(157頁,A4判)
  36. 大沢真理他編『女性の貧困化に社会はどう立ち向かうのか』東京大学社会科学研究所(137頁,B5判)
  37. 堀田聰子他編『高齢者介護施設における派遣スタッフの活用と就業実態』東京大学社会科学研究所(300頁,B5判)
  38. マーク・ロバーツ他著『医療改革をどう実現すべきか』日本経済新聞出版社(ⅹⅹⅶ+345頁,A5判)
  39. 木村琢磨他著『登録型派遣業における営業担当者の仕事と技能』東京大学社会科学研究所(287頁,B5判)
  40. 佐藤博樹他編『「人材ビジネスの市場と経営に関する総合実態調査」集計結果』東京大学社会科学研究所(95頁,B5判)