2010年5月の図書紹介(2010年4月受け入れ図書)

1.浪江巖著『労働管理の基本構造』晃洋書房(ⅳ+255頁,A5判)

 本書は、人的資源管理とほぼ同義の労働管理の基本構造を理論的に把握しようとしたもの。マルクス『資本論』の方法を援用しつつ、資本家の経営実践のうち、従業員にかかわる4つの活動(雇用、作業管理、賃金管理、労使関係)を一般論として検討。アラ還の小子には、なつかしさとともに驚きをも感じさせる著書である。

2.山下昇他編著『変容する中国の労働法』九州大学出版会(ⅹⅰ+190頁,新書判)

 中国では2007年以降、労働契約法の制定等、労働法制の整備が急速に進展しているが、社会主義的市場経済下の「世界の工場」のワークルールとしては、制度と運用の乖離等わかりにくい面が多いと言われる。本書は、日系中国進出企業の労務管理担当者には、入門テキストとして有効であろう。日中の労働法学者による共著。

3.イギリス労働法研究会編『イギリス労働法の新展開』成文堂(ⅹⅲ+325頁,A5判)

 科学研究費補助及びイギリス労働法研究会の活動成果。メンバー3人の還暦記念でもある。ブレア政権の「第三の道」をめざす労働立法政策下の実相を描き出し、わが国の労働法規制システムに関する理論的枠組を創出することも目的としている。4部構成で第四部では「社会的包摂」等、4つの新たなキー・コンセプトを詳述。

4.玄田有史著『人間に格はない』ミネルヴァ書房(312頁,A5判)

 副題に「石川経夫と2000年代の労働市場」とあるように、分配問題を追究し続けながらも51歳で早世した恩師へのオマージュ形式の論文集。当時の労働市場の特徴を、格差、無業、非正規雇用、長時間労働の4つのキーワードで描出。通常の論文集とは異なり、各章毎に「要点」と「解説コラム」を付加、丁寧な本づくりである。

5.小杉礼子著『若者と初期キャリア』勁草書房(290頁,A5判)

 専修学校・高校・大学から職業への移行過程研究に長年の蓄積をもつ当機構統括研究員による当該研究の総括の書。名古屋大学提出の博士論文に加筆修正。特に、1990年代後半から若者の失業、不安定雇用(フリーター)、非労働力化(ニート)が目立ってきたが、本書はこのような非典型キャリアからの再出発が分析の中心。

6.昭和女子大学女性文化研究所編『女性と仕事』御茶の水書房(ⅹ+328頁,A5判)

 学際的視点に基づく女性文化研究叢書第七集。現代の女性労働に関わる社会科学的論考と、歴史・文化的視点からみた人文科学的論考の2部構成。非正規、エグゼクティブ、中高年、農業者等、多様な女性労働者に対して、調査、インタビュー、統計分析等により考察、同一価値労働同一賃金原則の実施等を提言している。

7.山根純佳著『なぜ女性はケア労働をするのか』勁草書房(305+22頁,B6判)

 家庭内での育児・介護、労働市場における保育・看護等の他者を世話するケア労働には、なぜ女性労働者が多いのか。著者は、先行理論を渉猟することにより、この問題を分析。経験の言語化・対象化である「エージェンシー」概念を用いて性別分業の変動と再生産メカニズムを説明。博士学位論文に加筆・修正した著作。

8.田思路著『請負労働の法的研究』法律文化社(ⅶ+299頁,A5判)

 請負等雇用契約以外の契約で労務を提供する就業者でも、労働者性を有する、あるいは経済的に従属していれば法的保護は必要である。著者は日本、中国、ILOの議論における請負労働者の労働法上の保護に関する現状と法的課題を、日本での7年間の留学と中国での研究、既存資料、判例、学説等に基づき検討している。

9.三輪泰史著『日本労働運動史序説』校倉書房(326頁,A5判)

 「歴史科学叢書」の1冊。著者にとっては20年前の著作『日本ファシズムと労働運動』に続く2冊目の労働運動に関する論文集。今回は紡績労働者の人間関係・意識に焦点を合わせ、生身の人間の苦闘の過程を叙述。労働者への共感に根ざしつつ、歴史研究から現在や将来の見通しが得られにくくなっていることを嘆いている。

10.本田一成著『主婦パート 最大の非正規雇用』集英社(188頁,新書判)

 活用の段階から戦力化へ、さらに基幹化が注目されているパート研究の第一人者である著者は、非正規雇用の中で最大である主婦パートが、企業と家庭を支えることに疲弊しきっていることを懸念。家庭の協力が得られず、企業にも不実な基幹化により「つけこまれている」からである。解決策として著者は「社員化」を提案。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年2月-2010年3月に労働図書館受け入れ

  1. 大久保幸夫著『成長する人が実践する30のルール』日本経済新聞出版社(191頁,B6判)
  2. 大塚進著『競争社会の限界』早稲田出版(214頁,B6判)
  3. スティーブン・シャベル著『法と経済学』日本経済新聞出版社(ⅹⅷ+860頁,A5判)
  4. 佐藤正俊他編『民法「債権法」改正の要点』ぎょうせい(ⅹⅴ+418頁,B5判)
  5. 民法(債権法)改正検討委員会編『債権法改正の基本方針』商事法務(ⅹⅲ+438頁,B5判)
  6. 浦川邦夫他著『地域間格差縮小政策の貧困削減効果』全国勤労者福祉・共済振興協会(53頁,B5判)
  7. 若林敬子著『人口・農村・開発・意識・教育』東京農工大学出版会(454頁,A5判)
  8. 若林敬子著『農山漁村人口調査』東京農工大学出版会(374頁,A5判)
  9. 海外事業活動関連協議会著『グローバル経営時代のCSR報告』日本経団連出版(147頁,A5判)
  10. 加藤志保他著『NPOにおける若者の就労支援に関する調査研究』全国勤労者福祉・共済振興協会(119頁,B5判)
  11. 鈴木貴博著『会社のデスノート』朝日新聞出版(234頁,B6判)
  12. ピーター・センゲ他著『持続可能な未来へ』日本経済新聞出版社(523頁,B6判)
  13. 日本在外企業協会編『中国実用ノウハウ事例集』日本在外企業協会(上下巻,B5判)
  14. 佐藤広一著『御社の就業規則 この35カ所が危ない! 』中経出版(159頁,B6判)
  15. 酒井穣著『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』光文社(204頁,新書判)
  16. 日本経団連出版編『社会人の常識』日本経団連出版(156頁,B6判)
  17. 野村総研ノンペーパー推進委員会著『野村総合研究所はこうして紙を無くした!』アスキー・メディアワークス(189頁,新書判)
  18. 山田一成著『聞き方の技術』日本経済新聞出版社(231頁,A5判)
  19. 労働調査会出版局編『精神障害等の労災認定』労働調査会(343頁,A5判)
  20. 立岩真也他著『ベーシックインカム』青土社(329+ⅹⅷ頁,B6判)
  21. 熊沢誠著『働きすぎに斃れて』岩波書店(ⅹⅱ+386頁,B6判)
  22. 渡辺弘著『労働関係訴訟』青林書院(19+348頁,A5判)
  23. 中窪裕也著『アメリカ労働法 第2版』成文堂(ⅹⅵ+355頁,A5判)
  24. 産労総合研究所編『進化する柔軟な雇用システム』産労総合研究所出版部(359頁,B5判)
  25. OECD編著『日本の若者と雇用』明石書店(147頁,A5判)
  26. 原田順子編著『多様化時代の労働』放送大学教育振興会(239頁,A5判)
  27. 風間直樹著『融解連鎖』東洋経済新報社(ⅶ+277頁,B6判)
  28. しらいさりい著『ぼくは無職だけど働きたいと思ってる。』朝日新聞出版(140頁,A5判)
  29. 海老原嗣生著『学歴の耐えられない軽さ』朝日新聞出版(182頁,B6判)
  30. 大久保幸夫著『日本型キャリアデザインの方法』日本経団連出版(152頁,B6判)
  31. レスリー・T.チャン著『現代中国女工哀史』白水社(459頁,B6判)
  32. 田部昇著『インド:児童労働の地をゆく』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅹ+293頁,新書判)
  33. 森田慎一郎著『社会人と学生のキャリア形成における専門性』武蔵野大学出版会(223頁,A5判)
  34. 山本貴代著『女子と出産』日本経済新聞出版社(189頁,B6判)
  35. 染谷俶子著『まだ老人とは呼ばないで』日本経済新聞出版社(209頁,新書判)
  36. うてつあきこ著『つながりゆるりと』自然食通信社(221頁,B6判)
  37. 園田雅江他著『ウチの子内定まだなんです』日本経済新聞出版社(203頁,B6判)
  38. 埋橋玲子著『チャイルドケア・チャレンジ』法律文化社(ⅹⅴ+201頁,A5判)
  39. 佐藤博樹他編『実証研究 日本の人材ビジネス』日本経済新聞出版社(ⅹⅹ+604頁,A5判)
  40. 香川大学経済学部ツーリズム研究会編『地域観光の文化と戦略』リーブル出版(297頁,A5判)