2010年4月の図書紹介(2010年3月受け入れ図書)

1.山田昌弘著『なぜ若者は保守化するのか』東洋経済新報社(239頁,B6判)

 『週刊東洋経済』に連載されたコラムに、書き下ろしの序論を付加。既得権にあずかれない閉塞感と努力が報われない絶望感に多くの若者がさいなまれているが、新卒一括採用、正規-非正規格差等の社会制度に変化が見られないことに著者は危機感をいだきつつ、今後10年間の改革の可能性にかすかな望みを託している。

2.山西均著『大企業サラリーマン生き方の研究』日本経済新聞出版社(308頁,A5判)

 著者は、大手証券会社中堅社員。日本の終身雇用制大企業勤務の30歳以上の中堅社員の現実の世界 (経済的側面)と主観の世界(理念)を長期債券-債務関係、人的資産等の会計用語で考察。経済的に自立し、理念を実現させ、個として強く生きることを主張。 実体験に裏打ちされた生き方・働き方は思考実験として興味深い。

3.宮本太郎著『生活保障』岩波書店(ⅹⅲ+228+6頁,新書判)

 不安定雇用の蔓延や年金不信等から、多くの日本国民が生活不安に慄いている。本書は北欧の福祉国家やベーシック・インカム論等を参考に、雇用と社会保障が連携した生活保障と連帯に基づく社会的排除の克服を模索。官僚主義体制でも構造改革路線でもない新しい社会のあり方を追求する骨太の議論が展開されている。

4.宮島洋他編『企業と労働』東京大学出版会(ⅹⅰ+300頁,A5判)

 社会保障と経済社会の関係を総合的に分析した 「社会保障と経済」 シリーズ全3巻の第一巻。3人の編者の他に、各々の巻に編集協力者をおくという珍しい編集体制をとっている。本巻は全3巻の議論のベースを提供するとともに、社会保障と企業・労働との関係というユニークなテーマを14人の専門研究者が追究している。

5.水町勇一郎他編『労働法改革』日本経済新聞出版社(271頁,A5判)

 連合総研主宰研究会の2年間の活動成果。歴史研究と最先端の理論に基づき、編者が労働法改革の理念を描き、労使関係法制等5つの分野の労働法改革の全体像を提示、これに対して研究参加者が比較法、政策研究、経済学、実務の視点から、批判も含めて考察。目指しているのは、「参加による公正・効率社会の実現」である。

6.林祐司著『正社員就職とマッチング・システム 』法律文化社(ⅵ+175頁,A5判)

 「失われた10年」の真っただ中の世代の著者が、平成不況期においても正社員就職が可能であったマッチング・システムを追究。正規雇用の人材形成との関連、政府の若年労働政策を整理・考察するとともに、大学キャリアセンターを通じた正社員就職、正社員への登用事例を分析。博士学位請求論文に加筆・修正した著。

7.長島正治著『労働移動の開発経済分析』勁草書房(ⅶ+246頁,A5判)

 本書は経済発展論の古典、賃金率格差による国内労働移動やインフォーマルセクターの発生を説明するハリス=トダロー・モデルの理論的系譜を詳説。既存の説に違和感を覚えた著者の10年以上に渡る研究の成果。共同研究が盛んだが、理論研究だからこそ可能な個人研究の典型であろう。妥当性判断は、読者に委ねられる。

8.藤内和公著『ドイツの従業員代表制と法』法律文化社(ⅹⅵ+482頁,A5判)

 組織率低下に伴い、労働者の意見をいかに吸い上げるかは、労使関係の安定のみならず、企業の生産性向上にとっても致命的な課題である。著者20年来の研究成果である本文475頁に渡る本書は、総論、制度、運用、ドイツ法の意義、の4部構成。多様な労働者の意見調整制度は、組合か従業員代表かを判断する材料を提供。

9.中西新太郎他編『ノンエリート青年の社会空間』大月書店(ⅵ+403頁,B6判)

 「青年・労働問題研究会」に所属する研究者の3年間の活動の成果。個々の論文は独立性を保ちながらも、著書としては統一性をもったものとなることを目指しているという。ノンエリート青年が大人になることの困難性を中核的問題として措定し、学際的に分析。豊富な事例研究や長期の参与観察の成果も含む書である。

10.本田由紀著『教育の職業的意義』筑摩書房(224頁,新書判)

 過酷な労働市場・職場環境の中で呻吟する若者に、「適応と抵抗」「柔軟な専門性」をキー・コンセプトに助言。教育の職業的意義を力説しているが、教育と社会とを架橋する責任を果たそうとする著者の鬼気迫る思いが伝わってくる図書。世の中が著者のような人たちで構成されていれば、「抵抗」の手段は必要ないのであろう。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年1月-2010年2月に労働図書館受け入れ

  1. 弓ちひろ著『無理しないほうがうまくいく!ナチュラル・キャリア実践術』朝日新聞出版(235頁,B5判)
  2. 内閣府大臣官房政府広報室編『基本的法制度に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(175頁,A4判)
  3. シドニー・デッカー著『ヒューマンエラーは裁けるか』東京大学出版会(ⅹⅷ+254+ⅷ頁,B6判)
  4. 日本弁護士連合会ADRセンター編『紛争解決手段としてのADR』弘文堂(ⅴ+261頁,A5判)
  5. 千田亮吉他編著『行動経済学の理論と実証』勁草書房(ⅹⅴ+338頁,A5判)
  6. 早稲田大学産業経営研究所編『新興市場と日本の成長戦略』早稲田大学産業経営研究所(128頁,A4判)
  7. 寺西重郎編『構造問題と規制緩和』慶應義塾大学出版会(ⅹⅹⅹ+389頁, A5判)
  8. 松谷明彦著『「人口減少経済」の新しい公式』日本経済新聞出版社(304頁,文庫判)
  9. 吉田忠則著『見えざる隣人』日本経済新聞出版社(263頁,B6判)
  10. 宮島洋他編『財政と所得保障』東京大学出版会(ⅹⅱ+294頁,A5判)
  11. 久本憲夫編著『労使コミュニケーション』ミネルヴァ書房(ⅶ+306頁,A5判)
  12. 岩出誠著『実務労働法講義 第3版』民事法研究会(上巻=60+787+66頁,下巻=62+824頁,A5判)
  13. 伊藤博義著『雇用形態の多様化と労働法 新版』慈学社出版(ⅹⅰ+406頁,A5判)
  14. 青葉ビジネスコンサルティング編著『日本企業のための中国労働法』蒼蒼社(823頁,A5判)
  15. 城繁幸著『7割は課長にさえなれません』PHP研究所(215頁,新書判)
  16. 土屋竜一著『日本でいちばん働きやすい会社』中経出版(221頁,B6判)
  17. 梅永雄二編著『仕事がしたい! 発達障害がある人の「就労相談」』明石書店(251頁,A5判)
  18. 矢沢澄子他編『女性とライフキャリア』勁草書房(ⅹⅳ+256+ⅷ頁,B6判)
  19. UFJ総合研究所編『賃金マネジメント 2010年度版』UFJ総合研究所(195頁,B5判)
  20. ILO編著『世界給与・賃金レポート』一灯舎(ⅹ+100頁,B5判)
  21. 国鉄作家集団編『国鉄作家集団創立50周年記念作品集』アーク(350頁,B6判)
  22. 増田明利著『今日から日雇い労働者になった』彩図社(189頁,B6判)
  23. 日本総合愛育研究所編『日本子ども資料年鑑』中央出版(397頁,B5判)
  24. 松田茂樹他著『揺らぐ子育て基盤』勁草書房(ⅶ+222頁,A5判)
  25. 猪木武徳著『大学の反省』NTT出版(316頁,B6判)
  26. 松塚ゆかり他編『留学生教育を支える基盤』一橋大学大学教育研究開発センター(153頁,A4判)
  27. 日本看護協会編『潜在看護職員の就業に関する報告書 平成20年度版』日本看護協会中央ナースセンター(225頁,A4判)
  28. 月刊コンピューターテレフォニー編集部編『コールセンター白書 2009年版』リックテレコム(231頁,A4判)