2010年3月の図書紹介(2010年2月受け入れ図書)

1.橘木俊詔他著『貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか』人文書院(302頁,B6判)

 同じ大学・学部に籍をおく「アラフォー」と「アラ還」の経済学者の、4回に渡る対談の成果。生活権保障の必要性は共に認めるが、ベーシック・インカムによるか、社会保障制度の充実によるか、その処方箋に開きがある。さらに、格差問題、同一価値労働同一賃金、医療・雇用・介護保険等についても活発に議論を展開。

2.上原一慶著『民衆にとっての社会主義』青木書店(ⅹⅲ+326+10頁,B6判)

 シリーズ「中国にとっての20世紀」全7巻の一巻。本巻は、失業問題がテーマ。2008年以降の世界同時不況からの脱出には中国・インドの成長持続は必須条件である。計画経済から市場経済へ移行した共産中国を歴史的に総括。失業・格差拡大も懸念されるが、新自由主義とも一線を画す中国の動きから当分目を離せない。

3.津谷典子他編『人口減少と日本経済』日本経済新聞出版社(ⅹⅷ+345頁,B6判)

 本書は、2008年9月に開催された日本学術会議のシンポジウム「人口減少と日本経済」に提出された論文及びコメントを編集。少子化・未婚化による継続的人口減少・超高齢化が年金・医療・介護保険、労働市場、等に及ぼす影響を分析している。日本人は、人口の急激な減少という未曽有の事態に冷静に対処できるだろうか。

4.アドリアーノ・ティルゲル著『ホモ・ファーベル』社会評論社(231頁,B6判)

 原著は、グラムシと同時代のイタリアの文明批評家により、大恐慌勃発直前の1929年に刊行された。「古いものが死に、新しいものが生まれてこない」、80年前と同じ危機の時代の現代でも、本書が水先案内となりうるとの翻訳者の強い思いによって出版された。ギリシャ時代からファシズムの時代までの労働観が紹介されている。

5.橘木俊詔編著『働くことの意味』ミネルヴァ書房(ⅷ+257頁,A5判)

 働く意味を問われたら、小子は身すぎ世すぎのためと即答してしまいそうだが、それは小子の小子たる所以であろう。今時の若者が就活で自分探しをしたり、いい大人が働く意味に悩んだりしている。錚々たる研究者の執筆になる本書に納得のいく働く意味が提示されていると思うかどうかは、やはり各人の労働観による。

6.チェン, リィティン著『知的障害者の一般就労』明石書店(207頁,A5判)

 台湾出身の研究者が、知的障害者の一般就労をめぐる母親や職場の同僚等、多様な関係者への丁寧な聞取りによって日本の実態を分析。台湾での一般就労支援体験を間にはさみ、2度に渡る日本の大学での研究の成果である。了解的方法によって、本人の成長する能力を信じること、支援者支援の重要性等を見出している。

7.清家篤他著『60歳からの仕事』講談社(301頁,B6判)

 猛スピードで高齢化している日本では、意欲と能力のある高齢者が生涯現役でいられることは、社会の活力維持に不可欠である。本書は、研究者とジャーナリストの共同作業により、高齢者を活用している17の職場の事例紹介と解説を中心に編集、年齢基準の見直し、専門的能力や勤続経験を生かす働き方も提唱している。

8.山口一男著『ワークライフバランス』日本経済新聞出版社(ⅷ+287頁,A5判)

 シカゴ大学を本拠とする著者が、経済産業研究所の客員研究員等として、雑誌・新聞に発表したワークライフバランス関連の原稿を再編集、それに序論と政策提言を付したものである。実証分析結果を踏まえ、一人ひとりの個人が生き生きと生活できる社会であるための少子化対策、雇用制度、労働時間等を提言している。

9.石田光規著『産業・労働社会における人間関係』日本評論社(ⅳ+208頁,A5判)

 本書は、集団主義から脱却しつつある現在の日本の労働社会の中での人間関係の諸相を、パーソナルネットワーク・アプローチを用いて、労使双方の視点から分析。企業からの自立、個人主義的キャリアの形成が求められているが、職場の人間関係が仕事生活に及ぼす影響等を検討している。理論編と分析編との2部構成。

10.江原朗著『医師の過重労働』勁草書房(ⅷ+210頁,A5判)

 医師の高齢化、女性医師の出産による離職、新臨床研修制度による地方病院の医師不足等、医療荒廃がマスコミを賑わしている。小児科医である著者は、日本の医療問題が凝縮されている小児医療分野に焦点を当て実態を分析、医療危機対策として、不要不急の時間外受診自粛、医療機能の重点化・集約化を提案している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年12月-2010年1月に労働図書館受け入れ

  1. 河村幹夫著『不安な時代の人生設計図の描き方』時事通信出版局(151頁,B6判)
  2. ビル・トッテン著『「年収6割でも週休4日」という生き方』小学館(191頁,B6判)
  3. 生活経済政策研究所編『鳩山政権への提言』生活経済政策研究所(67頁,A5判)
  4. 村上淳一他著『ドイツ法入門(改訂7版)』有斐閣(ⅹⅱ+318頁,B6判)
  5. 日向清人著『最新経済・ビジネス英語2万語辞典』日本経済新聞出版社(1,243頁,B6判)
  6. 井堀利宏編『財政政策と社会保障』慶應義塾大学出版会(ⅹⅹⅹⅱ+521頁,A5判)
  7. 樋口美雄他編著『日本経済の構造変化と景気回復』日本評論社(ⅶ+228頁,A5判)
  8. トーマス・ラインズ著『貧困の正体』青土社(264+ⅵ頁,B6判)
  9. 細川孝他編著『転換期の株式会社』ミネルヴァ書房(ⅹ+259頁,A5判)
  10. 日本経済新聞社編『200年企業』日本経済新聞出版社(285頁,文庫判)
  11. 中小企業研究センター編『中小企業の新しい生存戦略に関する調査研究』中小企業研究センター(114頁,A4判)
  12. 清成忠男著『日本中小企業政策史』有斐閣(ⅹⅳ+306頁,A5判)
  13. カジ・グリジニック他著『グローバル製造業の未来』日本経済新聞出版社(189頁,B6判)
  14. フレデリック・W・テイラー著『新訳 科学的管理法』ダイヤモンド社(ⅹⅲ+175頁,B6判)
  15. 今野浩一郎他著『人事管理入門 第2版』日本経済新聞出版社(ⅹⅰ+361頁,A5判)
  16. 藤田至孝他著『日本的人事管理の基盤形成』慶應義塾大学出版会(383頁,B6判)
  17. 居樹伸雄著『21世紀日本の賃金像を描く』日本生産性本部生産性労働情報センター(ⅵ+209頁,A5判)
  18. 中田喜文編『高付加価値エンジニアが育つ』日本評論社(176頁,A5判)
  19. 鈴木亘著『だまされないための年金・医療・介護入門』東洋経済新報社(ⅹⅱ+280頁,B6判)
  20. 宮島洋他編『企業と労働』東京大学出版会(ⅹⅰ+300頁,A5判)
  21. 吉岡吉典著『ILOの創設と日本の労働行政』大月書店(331頁,B6判)
  22. 渡辺章著『総論・雇用関係法』信山社出版(ⅹⅹⅹⅳ+731頁,A5判)
  23. 石田真他編『ロースクール演習労働法 第2版』(ⅶ+328頁,A5判)
  24. 日本経団連事務局編著『Q&A改正労基法早わかり 改訂増補』日本経団連出版(189頁,A5判)
  25. 法律時報「労働判例研究」編集委員会編『労働条件の決定、変更;労使関係の成立・・・』日本評論社(ⅹⅰ+405頁,B5判)
  26. 法律時報「労働判例研究」編集委員会編『労働時間、年次有給休暇;賃金・退職金・・・』日本評論社(ⅹⅱ+371頁,B5判)
  27. 西村佳哲著『自分の仕事を考える3日間』弘文堂(243頁,B6判)
  28. 女性の職業研究会編『女性の職業のすべて 2011年版』啓明書房(267+4頁,A5判)
  29. 木村愛子編著『ディーセント・ワークとジェンダー平等』日本ILO協会(81頁,A5判)
  30. 加茂善仁著『労働条件変更の実務Q&A』三協法規出版(ⅵ+334頁,A5判)
  31. 労働者福祉中央協議会編『連帯と共同』労働者中央福祉協議会(29頁,A4判)
  32. 米田佐代子他編著『ジェンダー視点から戦後史を読む』大月書店(262頁,B6判)
  33. 総合研究開発機構編『高齢化は脅威か?』総合研究開発機構(79頁,A4判)
  34. 東京自治研センター編『介護職の賃金改善をめざして』東京自治研センター(52頁,A4判)
  35. 元木健他編著『非「教育」の論理』明石書店(348頁,B6判)
  36. 橘木俊詔他著『教育と格差』日本評論社(ⅷ+194頁,A5判)
  37. 上原正章著『ドキュメントノーネクタイ裁判』創栄出版(154頁,B6判)
  38. ベネッセ教育研究所編『第1回中学校英語に関する基本調査報告書』ベネッセ教育研究開発センター(151頁,B5判)
  39. 舛添要一著『舛添メモ』小学館(189頁,B6判)
  40. 茅陽一監修『CO2削減はどこまで可能か』エネルギーフォーラム(283頁,B6判)