2010年2月の図書紹介(2010年1月受け入れ図書)

1.下村恭民他編著『貧困問題とは何であるか』勁草書房(ⅷ+286頁,B6判)

 複雑な構造をもつ貧困に経済学、政治学、人類学等から接近するとともに、貧困を捉える視角と開発学への道程をも示している。本書の特徴は、途上国社会に埋め込まれている「問題解決の仕組み」を活用して、貧困脱却アプローチを提案していることである。統計研究会での「貧困の学際的研究会」の6年間の検討の成果。

2.時井聡他編著『現代の企業組織と人間』学文社(ⅷ+206頁,A5判)

 大学生の就業前教育プログラムとして研究者と企業実務家によって実施されたオムニバス形式の講義の成果。第Ⅰ部概説編は、新規学卒者が働き始めるにあたって必要な働く目的や雇用システム、人材評価などの知識を付与することを目的とし、第Ⅱ部では、各企業の人材の採用方法や人的資源管理の実態が紹介されている。

3.大藪毅著『長期雇用制組織の研究』中央経済社(3+10+261頁,A5判)

 日本人の「働き方」との関係において、「人の扱い方」=人材マネジメントを社会学、心理学、認知科学等の援用と公式承認・柔軟貸借等の独自のモデルにより理論化を試みている。人事・雇用システムに関する議論への理論的ベースの提供を狙いとしているからである。理論編−インプリケーション編−事例編の3部で構成。

4.樋口美雄他編『労働市場の高質化と就業行動』慶應義塾大学出版会(ⅹ+273頁,A5判)

 慶大−京大連携グローバルCOEプログラム「高質な市場を形成するための市場インフラの総合的設計」の成果。「日本の家計行動のダイナミズム」シリーズの第Ⅴ巻。2004年~08年に実施された5回の慶應義塾家計パネル調査のデータを基に、労働供給、賃金、民営職業紹介等の「労働市場の質」の経年変化が検証されている。

5.八代尚宏著『労働市場改革の経済学』東洋経済新報社(ⅹⅱ+272頁,B6判)

 急進的規制緩和論者と目されている著者は、日本の労働市場問題の根幹は正社員・非正社員間の労労対立であると説き、同一労働・同一賃金、非正社員の雇用安定を追求している。長期経済停滞下での慢性的残業、頻繁な転勤をも問題視し、公平で流動性の高い労働市場の形成を目指している真っ当な政策提言の書である。

6.石川晃弘著『体制転換の社会学的研究 』有斐閣(ⅹⅰ+225頁,A5判)

 チェコ・スロバキアから始められた研究がプラハの春以降、ポーランド、ハンガリーへ転換、これら4か国の体制崩壊過程を企業と職場の中間レベルから追究。1980年代末にまとめられていた研究論文が時代の急展開でお蔵入り、旧体制崩壊20年を期に旧稿を大幅に改訂、崩壊前後10年間を扱ったものとして日の目をみた。

7.労働運動研究会編『連合運動』えるむ社(419頁,B6判)

 英米独仏の労働運動を紹介するとともに、連合結成からの20年間の運動を歴史的に検証、課題と展望を明らかにすることを目的としている。規制緩和や労働者保護法制の見直し等に対し、労働運動の反撃を目指している。格差の拡大、雇用情勢の悪化等に対し、支援政党である民主党政権下での労働運動への期待は大きい。

8.渡辺めぐみ著『農業労働とジェンダー』有信堂高文社(212+5頁,A5判)

 環境、介護と並んで、労働の場としての農業が注目され、農産物直売場等の女性起業家にも関心が集まっている。本書はインタビュー調査によって、家父長制は男女格差の源泉というグランドセオリーを専業農家というミクロの視点からの解明を目指している。専業農家の娘という自らの立ち位置も明かしている珍しい書。

9.道中隆著『生活保護と日本型ワーキングプア』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+199頁,A5判)

 貧困問題の最終的セーフティネットとしての生活保護制度の重要性が増している。行政の立場にいた著者は、ホームレスや母子世帯等要保護世帯を対象とした4つの生活実態調査から、最終学歴の低位性、固定化、世代間継承等の貧困の様相を抽出し、議論の一層の深化と貧困を社会的課題として捉え直すことを求めている。

10.池田功他著『「職業」の発見』世界思想社(ⅷ+290+11頁,B6判)

 職業は、共同体の一員としてなすべき仕事であると同時に、自分の生活維持のための仕事という意味も持つ。本書は近現代の著名な小説家等17人の先人が、天職とも呼べる職業をどのように発見したかを紹介。天職に就くことのできる人がどの位いるのか不明だが、先人の経験は、我ら凡人の職業発見の参考になるだろうか。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年11月-2009年12月に労働図書館受け入れ

  1. 大阪社会労働運動史編集委員会編『大阪社会労働運動史 第9巻』大阪社会運動協会(ⅹⅹⅳ+733+21頁,B5判)
  2. 川人博著『テキストブツク 現代の人権』日本評論社(ⅵ+232頁,A5判)
  3. 内閣府大臣官房政府広報室編『外交に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(223頁,A4判)
  4. 伊藤元重編『国際環境の変化と日本経済』慶應義塾大学出版会(ⅹⅹⅳ+403頁,A5判)
  5. 池尾和人編『不良債権と金融危機』慶應義塾大学出版会(ⅹⅹⅴ+458頁,A5判)
  6. 池田信夫著『希望を捨てる勇気』ダイヤモンド社(ⅹⅲ+243頁,B6判)
  7. アジア法文化研究班著『アジアの法文化の諸相』関西大学法学研究所(242頁, A5判)
  8. 冨士谷あつ子他編著『日本・ドイツ・イタリア超少子高齢社会からの脱却』明石書店(252頁,A5判)
  9. 日本経営学会編『日本企業のイノベーション』千倉書房(2+11+282頁,A5判)
  10. 共生型経済推進フォーラム編『誰も切らない、分けない経済』同時代社(274頁,A5判)
  11. 上野佳恵著『情報調査力のプロフェッショナル』ダイヤモンド社(ⅷ+227頁,B6判)
  12. 木村琢磨著『雇用の境界に関する理論的・実証的研究』東京大学社会科学研究所(227頁,B5判)
  13. 川喜多喬著『人材育成とキャリアデザイン支援』労働新聞社(253頁,B6判)
  14. 高谷知佐子編『M&Aの労務ガイドブック』中央経済社(4+7+244頁,A5判)
  15. 坂本光司著『なぜこの会社はモチベーションが高いのか』商業界(213頁,A5判)
  16. 有吉実著『ストレス社会の人間学』日刊工業新聞社(170頁,B6判)
  17. 南條善治他著『年齢0~100歳の生存率におけるBrass logitモデルと・・・』日本大学人口研究所(21頁,B5判)
  18. 日本財政学会編『少子高齢化社会の財政システム』有斐閣(ⅷ+386頁,A5判)
  19. 総務省統計局編『日本統計年鑑 第59回』総務省統計局(ⅹⅹⅹⅷ+942頁,B5判)
  20. 金子郁容他編著『コミュニティ科学』勁草書房(ⅹ+226頁,A5判)
  21. 渡辺雅雄他編『中国の格差、日本の経済』彩流社(292頁,A5判)
  22. 権丈善一著『社会保障の政策転換』慶應義塾大学出版会(ⅹⅷ+312頁,B6判)
  23. 石田光男他編著『労働市場・労使関係・労働法』明石書店(248頁,A5判)
  24. NHK「あすの日本」プロジェクト他編『"35歳"を救え』阪急コミュニケーションズ(301頁,B6判)
  25. 土田道夫他著『ウォッチング労働法』有斐閣(ⅹⅱ+458頁,A5判)
  26. 戴秋娟著『中国の労働事情』社会経済生産性本部生産性労働情報センター(ⅵ+88頁,A5判)
  27. 井上修一著『労働条件保護法の展開』晃洋書房(ⅶ+223+4頁,A5判)
  28. 日本紙パルプ紙加工産業労働組合連合会編『2009年度労働条件実態調査』紙パ連合(275頁,A4判)
  29. 全日本金属情報機器労働組合編著『わたしたちと労働組合』学習の友社(78頁,A5判)
  30. 岩崎馨著『日本の労働組合』日本生産性本部生産性労働情報センター(ⅱ+88頁,A5判)
  31. 佐藤博樹他著『派遣という働き方を通じたキャリア形成』東京大学社会科学研究所(207頁,B5判)
  32. 池森憲一著『出稼ぎ派遣工場』社会批評社(239頁,B6判)
  33. 白樫三四郎編『産業・組織心理学への招待』有斐閣(ⅷ+242頁,A5判)
  34. 天野正子他編『権力と労働』岩波書店(ⅹⅴ+321,B6判)
  35. 内閣府大臣官房政府広報室編『男女共同参画社会に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(265頁,A4判)
  36. 安西愈著『介護労働者の雇用管理総論』介護労働安定センター(4+253頁,A4判)
  37. 寺田盛紀著『日本の職業教育』晃洋書房(ⅵ+205頁,A5判)
  38. 花香実著『教育学雑録』大空社(282頁,A5判)
  39. 日通総合研究所編『2009・2010年度の経済と貨物輸送の見通し』日通総合研究所(29頁,A4判)
  40. 内閣府大臣官房政府広報室編『体力・スポーツに関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(224頁,A4判)