2009年12月の図書紹介(2009年11月受け入れ図書)

1.松谷明彦編著『人口流動の地方再生学』日本経済新聞出版社(243頁,B6判)

 「国土の均衡ある発展」という全国総合開発計画による画一的政策は、逆に地方の疲弊を招いた。地方には各々のビジネス・モデルがあり、地方再生には学際的知識が必要と説く。各々の豊かさを目指すことが地方発の地方再生の鍵であり、地方間を行き来する人口流動を特に重視する。骨太の実践的政策提言の書である。

2.堀内かおる編著『福祉社会における生活・労働・教育』明石書店(284頁,A5判)

 本書は、伊藤セツ昭和女子大学教授の退官記念論文集とも言える書となっている。生活に関するテーマに足場をおき研究を進めてきた15人の女性研究者は、生活・労働・教育の視点から現在の社会を分析し、提言している。現実に根ざした実証的な研究から、今後に向けた具体的な提言することが共通の目的であるからという。

3.浅野慎一編著『現代社会論への社会学的接近』学文社(ⅵ+164頁,A5判)

 北川隆吉監修の「シリーズ現代の産業・労働」全3巻の第一巻。計画とは異なり、企業社会、労働世界への社会学的接近の巻の後に刊行された。序章に「21世紀世界の変動と労働社会学」をもち、グローバリゼーション等の大状況を分析。「百年に一度の時代」のグランド・セオリーとしての評価は、筆者の能力の外にある。

4.増田英樹著『階級のない国の格差』教育評論社(254頁,B6判)

 中国の労働問題を十数年定点観測してきた著者の3冊目。社会主義的市場経済の狭間の問題、特に格差問題等の労働事情を歴史的・文化的背景を含めてエッセー風に綴っている。GDP世界2位になろうとする中国は、先富社会から和諧社会に脱皮できるのか。世界経済や環境問題の動向を占う上からも興味をひくものがある。

5.佐藤博樹編著『人事マネジメント』ミネルヴァ書房(ⅶ+278頁,A5判)

 「叢書・働くということ」の第四巻。企業の人事管理と人材活用に焦点が合わされている。人事管理として賃金管理、労働時間管理、定年延長等が、人材活用として非正規労働者の活用等が論じられている。労働法学者の協力を得て、実力者・若手研究者の共同作業で、人的資源の開発、労働意欲の向上が追求されている。

6.週刊ダイヤモンド編『雇用危機 』ダイヤモンド社(ⅹ+270頁,A5判)

 2008年8月から2009年5月刊行の『週刊ダイヤモンド』の特集を再編集。親の経済力格差が子の職業格差をもたらす過程で、非正規社員は呻吟し、正規社員も苦悩している。日本経済も明るさを取り戻しつつあるが、雇用状況には改善は見られない。緊急の政策対応が求められるが、足元を見つめ直す材料が満載されている。

7.杉浦浩美著『働く女性とマタニティ・ハラスメント』大月書店(ⅶ+225+ⅴ頁,B6判)

 世界同時不況の下、育休切り、妊娠解雇がマスコミで報道されるようになったが、著者はそれ以前から妊娠に伴う職場のプレッシャーを含め、妊娠期の女性労働に関心を寄せてきた。自身の経験と問題意識から、調査に基づき労働と身体のあり方を問うことから働くことまでを根源的に追究。博士論文に加筆修正した著作。

8.白井利明他著『フリーターの心理学』世界思想社(ⅴ+230頁,B6判)

 本書は2007年のロスト・ジェネレーションを中心とする23~39歳の大卒者層限定の調査結果に基づいている。個人的・社会的価値を実現させる経歴の確立を「キャリアの自立」ととらえ、フリーターのキャリア自立の心理的メカニズムを解明し、その支援のための提言をすることを目的としている。心理学者5人の共同著作。

9.斎藤貴男著『強いられる死』角川学芸出版(261+ⅷ頁,B6判)

 北海道拓殖銀行や山一証券等が破綻した次の年の1998年に自殺者が3万人台に突入して以降、11年連続で大台を維持していることは、日本の経済・社会の異常さを端的に表わしている。調査報道の旗手である著者は、郵政民営化、多重債務、中小企業等の現状を調査し、実態を暴きだしているが、状況は苦しくやりきれない。

10.田中恭子著『保育と女性就業の都市空間構造』時潮社(254頁,A5判)

 少子化対策として保育サービス確保の重要性は、各種調査で指摘されてきたが、さらに日本では、女性労働者の就労状況自体にも顕著な改善は見られない。地理学博士号をもつ著者は、スウェーデン、アメリカの保育サービスの供給形態を空間的視点から分析、大都市圏における社会サービス供給の比較研究を行っている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年10月に労働図書館受け入れ

  1. M.チクセントミハイ著『フロー体験とグッドビジネス』世界思想社(ⅹ+300頁,B6判)
  2. 大久保幸夫著『「仕事が不安!」を抜け出す本』大和書房(158頁,B6判)
  3. 王文亮著『格差大国中国』旬報社(222頁,B6判)
  4. 浜本隆志他著『最新ドイツ事情を知るための50章』明石書店(313頁,B6判)
  5. 井之上繁規著『民事控訴審の判決と審理』第一法規(ⅹⅹⅳ+443頁,A5判)
  6. 連合総合生活開発研究所編『雇用とくらしの新たな基盤づくり』第一書林(162頁,B6判)
  7. 宇野重昭他編『北東アジア地域協力の可能性』国際書院(277頁, A5判)
  8. 若田部昌澄著『危機の経済政策』日本評論社(ⅹ+314頁,B6判)
  9. 中央経済社編『不況下の労務リスク対応』中央経済社(156頁,B6判)
  10. 飯塚尚己他述『パネルディスカッション景気はいつ底を打つか』統計研究会(37頁,A4判)
  11. 正村俊之著『グローバリゼーション』有斐閣(ⅹ+224頁,B6判)
  12. 健康保険組合連合会編『健康保険組合論の構築に関する調査研究』健康保険組合連合会(143頁,A4判)
  13. 健康保険組合連合会編『ドイツの医療保険制度改革追跡調査報告書』健康保険組合連合会(167頁,A4判)
  14. イニシアチブ2009研究委員会編『労働法改革のグランドデザイン』連合総合生活開発研究所(172頁,A4判)
  15. 鈴木銀次郎編著『事例にみる解雇効力の判断基準』新日本法規出版(17+510頁,A5判)
  16. 笹山尚人著『労働法はぼくらの味方!』岩波書店(ⅵ+193+5頁,新書判)
  17. 日本ILO協会編『障害者雇用法制に関する比較法的研究』労働問題リサーチセンター(278頁,A4判)
  18. 西村佳哲著『自分をいかして生きる』バジリコ(184頁,B6判)
  19. 西山昭彦著『人生のキャリアデザイン術』KKロングセラーズ(258頁,新書判)
  20. 水谷英夫著『職場のいじめパワハラ・リストラQA150』信山社(ⅹⅹⅱ+352頁,B5判)
  21. 労働調査会出版局編『労働安全衛生法のポイント(改訂2版)』労働調査会(68頁,A4判)
  22. 久保知行著『どう変える?退職金・企業年金』オフィスTM(77頁,A5判)
  23. 生活経済政策研究所編『今なぜ労働運動か』生活経済政策研究所(7+74頁,A5判)
  24. 竹内真一著『労働組合運動の可能性』学習の友社(143頁,B6判)
  25. 全国労働組合総連合編『全労連20年史』大月書店(521頁,A5判)
  26. 日建協55年史編集委員会編『受け継がれるもの』日本建設産業職員労働組合協議会(162頁,A4判)
  27. 愛媛県労働者福祉協議会編『愛媛における勤労者の仕事と暮らしについて』愛媛県労働者福祉協議会(162+10頁,A4判)
  28. 厚生労働省編『短時間正社員制度』アイデム(32頁,A4判)
  29. 福島正伸著『キミが働く理由(わけ)』中経出版(223頁,B6判)
  30. 連合総合生活開発研究所編『労働組合におけるジェンダー平等』連合総合生活開発研究所(79頁,A4判)
  31. 朴権一他著『韓国ワーキングプア88万ウォン世代』明石書店(321頁,B6判)
  32. スティーブ・M.ボードイン著『貧困の救いかた』青土社(255+ⅵ頁,B6判)
  33. 塚原修一編著『高等教育』日本図書センター(254頁,A5判)
  34. ベネッセ教育研究開発センター編『放課後の生活時間調査』ベネッセ教育研究開発センター(23頁,B5判)
  35. 坂本章紀著『これから就活を始める君たちへ』日本経済新聞出版社(186頁,新書判)
  36. AERA編集部編『職場のうつ』朝日新聞出版(129頁,B5判)
  37. 中央労働災害防止協会編『あなたの職場の安全点検』中央労働災害防止協会(158頁,B6判)
  38. 西村利孝監修『住宅業界のしくみ』ナツメ社(255頁,B6判)
  39. 内閣府大臣官房政府広報室編『歩いて暮らせるまちづくりに関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(250頁,A4判)
  40. 中小企業総合研究機構編『農商工等連携による事業展開に関する調査研究』中小企業総合研究機構(ⅳ+185頁,A4判)