2009年11月の図書紹介(2009年10月受け入れ図書)

1.黒崎卓著『貧困と脆弱性の経済分析』勁草書房(ⅷ+307頁,A5判)

 「開発経済学の挑戦」シリーズの一書である。日本でも現在、貧困・格差が大きな社会問題となっているが、それは本書が扱っている貧困=絶対的貧困とは本質的に異なる。貧困の経済分析に関する研究動向を展望するとともに、パキスタン調査でのパネルデータを用いて、ミクロレベルでの貧困の実相解明にも努めている。

2.小峰隆夫他編『女性が変える日本経済』日本経済新聞出版社(173頁,A5判)

 高学歴女性の活用や女性の積極的登用によって日本経済の再興を図るというメッセージを発信するとともに、「女性経済学」の扉を開くとして、女性雇用や消費・貯蓄主体としての女性を分析している。天の半分を支えている女性に日本経済の将来がかかっていることを鑑みると、「女性経済学」の開始は遅すぎたとも言える。

3.社宅研究会編著『社宅街』学芸出版社(241+ⅹⅲ頁,A5判)

 第二次産業企業が開発した社宅街の管理・運営に関する研究報告書である本書は、各地の社宅街を紹介するにあたっての横断的視点の提示と12の事例報告により、社宅街経営にこめた企業の意図を読みとこうとしている。「社宅街データベース」も掲載され、今後、社宅街が研究テーマとして展開する可能性を暗示している。

4.小杉礼子編著『若者の働きかた』ミネルヴァ書房(ⅵ+232頁,A5判)

 「叢書・働くということ」の第6巻。この分野では常連の執筆者が、専門学校生、大学生等のキャリア形成と若者の働きかたを取り巻く社会の仕組みを分析している。「はしがき」での編者の思いの表明は「カツマー」ではなく「カヤマー」を想起させ、実証的データに基づきながらも若者に対する優しい眼差しを感じさせる。

5.清家篤編著『高齢者の働きかた』ミネルヴァ書房(ⅵ+288頁,A5判)

 「叢書・働くということ」の第8巻。働く意思と仕事能力をもつ高齢者が「生涯現役」でいられる社会を実現するため、高齢者労働のマクロ・ミクロ分析と、高齢者雇用に関する政策論で構成されている。この分野の実力者が執筆している本書は、高齢者の働きかたについてのオーソドックスで堅実な研究書となっている。

6.三善勝代著『転勤と既婚女性のキャリア形成』白桃書房(ⅹⅱ+295頁,A5判)

 適材適所、人材育成のための措置である転勤が、女性にとってはキャリア形成の障壁となっている。20年来、既婚女性のキャリア形成の観点から日本企業の転勤を研究してきた著者は、コミューター・マリッジ(一方の転勤に伴う共働き夫婦の別居結婚)をキャリア形成と夫婦の親密関係を両立させるものとして注目している。

7.河西宏祐著『路面電車を守った労働組合』平原社(309頁,B6判)

 私鉄総連広島電鉄支部との25年来の交流経験をもつ著者による、1970-80年代に同支部委員長を務めた小原保行とその周りの組合活動家の記録である。路面電車を守る闘い、少数派組合から多数派組合への組織活動等、原爆症にもかかわらず組合運動に人生を捧げた一人の組合活動家を中心とする人間味豊かな物語である。

8.白崎朝子著『介護労働を生きる』現代書館(206頁,B6判)

 いのちに寄り添う大切な仕事」ととらえている高齢者ヘルパーである著者による現場からの切実な報告。介護に愛は必要か、介護労働者はなぜ労働運動ができないか等、ヘルパーやグループホーム運営の経験を元に模索を続けている。介護労働者が労働に希望と誇りを見出せることを切望しているからである。

9.出井康博著『長寿大国の虚構』新潮社(235頁,B6判)

 高齢者介護現場の人手不足対策が現下の喫緊の課題となっている。その対策の一つとして、EPAに基づきインドネシア等から介護士・看護師が来日した。外国人介護士が導入されれば、日本人の老後は安泰なのか。著者は、多面的取材により、外国人介護士が外国人研修生・技能実習生の二の舞とならないか、危惧している。

10.石田光男他著『日本自動車企業の仕事・管理・労使関係』中央経済社(2+4+255頁,A5判)

 本書は、自動車企業2社の労組幹部へのインタビューに基づく、開発−生産技術−生産部門を通した聞取りの成果である。これらの部門の労働システム=仕事、組織、労使関係=について質問を繰り返し、特に組織が競争力を維持するための労使協議制度に着目し、その内容を検討している。労働関係図書優秀賞の受賞作。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年9月に労働図書館受け入れ

  1. 上野千鶴子他著『世代間連帯』岩波書店(ⅴ+246頁,新書判)
  2. 八田達夫著『効率化と格差是正』東洋経済新報社(ⅹⅶⅰ+603頁,A5判)
  3. デブラ・E..メイヤーソン著『静かなる改革者』ダイヤモンド社(ⅹⅹⅷ+255頁,B6判)
  4. 日経ビジネス編『あなたは会社から求められていますか?』日本経済新聞出版社(256頁,文庫判)
  5. 植田寿乃著『人事部と女性のための女性活躍推進実践アドバイス』産労総合研究所(ⅹⅲ+183頁,B6判)
  6. 石嵜信憲編著『管理職活用の法律実務』中央経済社(2+16+428頁,A5判)
  7. 高谷知佐子著『雇用調整の法律実務』労務行政(238頁,A5判)
  8. ナナ総合コミュニケーション研究所編『社内誌白書』ナナ総合コミュニケーション研究所(74頁,A4判)
  9. 木谷宏他著『在宅勤務』全国労働基準関係団体連合会(ⅴ+198頁,A5判)
  10. 石嵜信憲編著『配転・出向・降格の法律実務』中央経済社(1+14+389頁,A5判)
  11. 前田修身監修『ここが困った外国人雇用』第一法規(201頁,B5判)
  12. 矢部武著『世界で一番冷たい格差の国・日本』光文社(244頁,B6判)
  13. 埋橋孝文他編『東アジアの社会保障』ナカニシヤ出版(ⅷ+205頁,A5判)
  14. OECD編著『仕事と家庭生活の両立』明石書店(206頁,B5判)
  15. 山口浩一郎他編『経営と労働法務の理論と実務』中央経済社(9+746頁,A5判)
  16. 高橋保他著『雇用関係の法知識』法学書院(ⅹⅹ+321頁,A5判)
  17. 鴨田哲郎著『ユニオンへの加入・結成と活用』旬報社(159頁,A5判)
  18. 荒木尚志著『労働法』有斐閣(37+696頁,A5判)
  19. 宮島理著『雇用大崩壊』中経出版(240頁,B6判)
  20. 中野育男著『米国統治下沖縄の職業と法』専修大学出版局(185頁,A5判)
  21. 高橋俊介著『自分らしいキャリアのつくり方』PHP研究所(197頁,新書判)
  22. 福西七重著『リクルートの女性力』朝日新聞出版(246頁,B6判)
  23. 北見昌朗著『消えた年収』文藝春秋(203頁,B6判)
  24. 虎の門法律事務所編『労働契約法と労務管理の実務』三協法規出版(319頁,A5判)
  25. 平沢栄一著『争議屋』論創社(304頁,B6判)
  26. 浜林正夫著『イギリス労働運動史』学習の友社(287頁,B6判)
  27. 河野順一他著『労働関係紛争における「裁判外紛争解決」の手引き』中央経済社(2+20+688頁,A5判)
  28. 清水直子他編著『フリーター労組の生存ハンドブック』大月書店(212頁,B6判)
  29. 笹気健治著『なぜ月曜の朝はつらいのか?』東京書籍(197頁,B6判)
  30. 山口毅著『急増する個人請負の労働問題』労働調査会(171頁,A5判)
  31. 長野ひろ子他編著『経済と消費社会』明石書店(305頁,A5判)
  32. 高橋伸子監修『新・女性の選択』マガジンハウス(229頁,B6判)
  33. 湯浅誠他編著『若者と貧困』明石書店(274頁,A5判)
  34. 宇都宮健児他編『いま”はたらく”が危ない』明石書店(188頁,B6判)
  35. アーニャ・カメネッツ著『目覚めよ!借金世代の若者たち』清流出版(362頁,B6判)
  36. 浅井春夫他編著『福祉・保育現場の貧困』明石書店(355頁,B6判)
  37. 広田照幸著『格差・秩序不安と教育』世織書房(ⅷ+407頁,B6判)
  38. 原清治他著『「使い捨てられる若者たち」は格差社会の象徴か』ミネルヴァ書房(ⅵ+226+19頁,B6判)
  39. 下村英雄著『キャリア教育の心理学』東海教育研究所(203頁,B6判)
  40. 野崎道哉著『地域経済と産業振興』日本経済評論社(ⅴ+216頁,A5判)