2009年9月の図書紹介(2009年8月受け入れ図書)

1.川村千鶴子編著『「移民国家日本」と多文化共生論』明石書店(405頁,A5判)

 本書は、多文化共生都市・新宿の歴史、出産・子育て等のライフステージ毎の状況、トランスカルチュラリズム、の3部で構成されている。都市工学、人類学等の多様な学問分野により、多文化都市の課題を分析し、具体的な政策を提言している。「移民国家日本」がすぐそこまで忍び寄っていることが感じられる書である。

2.久原正治著『日本の若者を世界に通用する人材に』学文社(ⅶ+225頁,B6判)

 世界の若者と切磋琢磨できる若者なしには日本の将来はない、との危機意識を持つ著者は、グローバル人材をいかに育てていくかを教育の現場で真剣に模索している。自国の若者の人材育成と海外からの優秀な留学生の引きつけなしには、グローバリゼーションの荒波を乗り切れず、日本は沈没の憂き目にあうからである。

3.黒田兼一他編著『人間らしい「働き方」・「働かせ方」』ミネルヴァ書房(ⅹ+218頁,A5判)

 競争・効率・自助が席巻する世界が未曽有の経済危機に直面している下で、ディーセント・ワーク、「人間らしく働く・働かせる」ための課題提示を本書は目的としている。雇用ポートフォーリオ、間接雇用、外国人労働者、労働時間管理、成果主義等の人事労務の現場・現実を紹介している基本的・実践的な教科書である。

4.山本寛著『人材定着のマネジメント』中央経済社(3+5+268頁,A5判)

 物的資産、金融資産と並んで組織にとって重要な資産である人的資産が注目されている。高い知識・技能を持つ人材の定着(リテンション)が組織存続に不可欠との認識が広がりつつあるからである。本書は従業員の視点とともに、競争力の源泉である高業績人材のマネジメントの観点からこの問題を体系的に論じている。

5.太郎丸博著『若年非正規雇用の社会学』大阪大学出版会(207頁,B6判)

 フリーター・ニート問題がマスコミに登場する回数は減ったが、若年非正規雇用問題の重要性・切迫性は減少してはいない。本書は、教科書として編集されたが、若年非正規雇用問題に関する見取り図でもあることを目指している。社会階層論に依拠するとともに、政策提言にまで踏み込もうとしている異色の書と言える。

6.武石恵美子編著『女性の働きかた』ミネルヴァ書房(ⅶ+307頁,A5判)

 女性労働に関し、働き方の変化、企業や社会の受け止め方に実証的にアプローチし、女性が働き続けるための課題を明らかにしている。女性の就業構造、育児・介護休業法等の継続就業支援制度、企業のポジティブ・アクション、ファミフレ施策、ダイバーシティ・マネジメント等、多様な視点からその課題に接近している。

7.野田進編『判例労働法入門』有斐閣(ⅹⅹⅲ+356頁,A5判)

 労働法を正しく使いこなせるようになることを目的とした実践的労働法入門書である本書は、「判例」を効果的に使用し、労働法分野全般をその射程としている。著者たちは九州大学において労働法・社会保障法の判例を学んだグループであるが、東大労働判例研究会との特色の違いは、小子の評価能力の範囲を超えている。

8.鶴光太郎他編著『労働市場制度改革』日本評論社(ⅹⅷ+306頁,A5判)

 経済産業研究所が立ち上げた労働法学者、経済学者、経営学者をメンバーとする「労働市場制度改革研究会」により昨年開催された政策シンポジウムでの報告が骨子となっている。錚々たるメンバーによる学際的な研究であると同時に国際比較も加え、制度のソフトとハード面の連携を重視し、包括的に制度を考察している。

9.橘木俊詔他著『学歴格差の経済学』勁草書房(ⅷ+183頁,A5判)

 格差問題研究のバイオニアである橘木教授の『女女格差』に次ぐ本書は、若い弟子とともに、学歴格差と教育問題を分析している。大学進学率が50%を越え、学歴格差は経済的要因のみに基づくものではないとの研究もあるが、教育の所得決定に及ぼす影響と親の階層が子どもの教育達成に与える影響等を分析している。

10.斉藤武雄他編著『ノンキャリア教育としての職業指導』学文社(ⅴ+275頁,A5判)

 技術教育の理論を研究する技術教育研究会の研究活動の成果である。労働権の実現には、普通教育としての技術・職業教育、職業準備・職業向上のための専門的技術・職業教育、職業指導の三位一体的保障が不可欠であるとの認識の下、ノンエリートである青年が、人間らしく働けるための教育の役割を見つめ続けている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年7月に労働図書館受け入れ

  1. ベティ・L.ハラガン著『ビジネス・ゲーム』光文社(214頁,A6判)
  2. 岡沢憲芙著『スウェーデンの政治』東京大学出版会(ⅹⅹⅰ+382頁,A5判)
  3. 松野弘他編著『現代地域問題の研究』ミネルヴァ書房(ⅶ+384頁,A5判)
  4. 神田外語大学国際社会研究所編『グローカリゼーション』神田外語大学出版局(249頁,A5判)
  5. 鈴村興太郎著『厚生経済学の基礎』岩波書店(ⅹⅹⅰ+552頁,A5判)
  6. 小川一夫著『「失われた10年」の真実』東洋経済新報社(ⅹⅳ+387+5頁,B6判)
  7. 朝日新聞「変転経済」取材班編『失われた「20年」』岩波書店(ⅷ+254頁,B6判)
  8. 中川雅彦編『朝鮮社会主義経済の現在』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅳ+88頁,A5判)
  9. 安達誠司著『恐慌脱出』東洋経済新報社(ⅵ+256頁,B6判)
  10. 足立辰雄他編著『サステナビリティと経営学』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+254頁,A5判)
  11. 鈴木良始他編著『日本のものづくりと経営学』ミネルヴァ書房(ⅹ+218頁,A5判)
  12. 足立辰雄他編著『CSR経営の理論と実際』中央経済社(2+ⅳ+254頁,A5判)
  13. 江橋崇編著『企業の社会的責任経営』法政大学現代法研究所(ⅹ+212頁,A5判)
  14. 長野経済研究所著『危機を生き抜く企業力』信濃毎日新聞社(314頁,B6判)
  15. 窪田千貫著『付加価値分析による人件費の支払限度』同友館(277頁,B6判)
  16. 吉川徹著『学歴分断社会』筑摩書房(229頁,新書判)
  17. 平山洋介著『住宅政策のどこが問題か』光文社(310頁,新書判)
  18. 森岡孝二著『貧困化するホワイトカラー』筑摩書房(253頁,新書判)
  19. スティーブン・グリーンハウス著『大搾取!』文藝春秋(461頁,B6判)
  20. 石嵜信憲著『実務の現場からみた労働行政』中央経済社(2+7+250頁,A5判)
  21. 西谷敏他著『派遣法改正で雇用を守る』旬報社(126頁,A5判)
  22. 宮里邦雄他編『不当労働行為と救済』旬報社(163頁,A5判)
  23. 山田久著『雇用再生』日本経済新聞出版社(273頁,B6判)
  24. 大久保幸夫著『日本の雇用』講談社(203頁,新書判)
  25. 中野雅至著『「正社員クビ!」論』PHP研究所(257頁,B6判)
  26. 18歳のハローワーク制作プロジェクト編著『18歳のハローワーク』ゴマブックス(223頁,A5判)
  27. 矢林朗著『成功と自由のためのハローワーク』ソフトバンククリエイティブ(237頁,B6判)
  28. 最低賃金を引き上げる会編『最低賃金で1か月暮らしてみました。』亜紀書房(206頁,A5判)
  29. 松田純一編『個別労働紛争解決手続マニュアル』新日本法規出版(410頁,A5判)
  30. 駒崎弘樹著『働き方革命』筑摩書房(200頁,新書判)
  31. ゲイリー・レイサム著『ワーク・モティベーション』NTT出版(ⅴ+537頁,B6判)
  32. 「女性百年」刊行委員会編『女性百年』東北大学出版会(175頁,A5判)
  33. 神崎智子著『戦後日本女性政策史』明石書店(448頁,A5判)
  34. 貧困研究会編『流動社会における新しい貧困のかたち』明石書店(164頁,B5判)
  35. 湯浅誠他著『湯浅誠が語る「現代の貧困」』新泉社(117頁,A5判)
  36. 坂本直文著『人生のエントリーシート』PHP研究所(223頁,A5判)
  37. 飯田哲也他著『日本版グリーン革命で経済・雇用を立て直す』洋泉社(187頁,新書判)
  38. 商船高専キャリア教育研究会編『船しごと、海しごと。』海文堂出版(223頁,A5判)
  39. 廣瀬純著『シネキャピタル』洛北出版(188頁,B6判)
  40. フリーター薫著『どうしてボクには仕事がないんだろう』徳間書店(238頁,B6判)