2009年8月の図書紹介(2009年7月受け入れ図書)

1.東大社研他編『希望を語る』東京大学出版会(ⅹⅹⅲ+295+9頁,A5判)

 東大社研が2005年から4年間にわたって実施した、社会科学によって希望を論じる、希望学研究の成果全4巻の第一巻。本巻は、希望は社会の前提であるが、それが揺らいでいるという問題意識のもと、希望を論じることの意義と可能性を考えている。まさに、「『希望学』を知らずして、希望は語れない」のかもしれない。

2.石井由香他著『アジア系専門職移民の現在』慶應義塾大学出版会(ⅲ+195頁,A5判)

 アジア系専門職移民のホスト社会オーストラリアにおける生活者としてのあり方、ホスト社会への政治・社会参加、文化統合の現状を把握するとともに、彼らのホスト社会への影響を検討している。豪州の多文化主義とアジア系専門職移民との関連分析も含まれており、日本の移民社会化を検討する際の貴重な資料である。

3.河野英子著『ゲストエンジニア』白桃書房(ⅹⅲ+276頁,A5判)

 本書は、企業間ネットワークにおける人材形成について、自動車関連企業4社に対する延べ23回・53人・7年間に渡るインタビュー調査の成果である。企業間ネットワークの下で技術者を他社へ派遣することがもたらす人材形成機能に着目するとともに、関連する広範囲での連続的なキャリア構築の重要性を指摘している。

4.白波瀬佐和子著『日本の不平等を考える』東京大学出版会(ⅲ+302頁,B6判)

 日本の格差・貧困は、国際的にどの水準にあるのか。著者は、国民生活基礎調査とルクセンブルグ所得データ等を用いて、不平等度、若者・女性・高齢者等の国際比較を実施。生きる−産む−老いることの背後にある各国社会の仕組みを明らかにし、社会がそれをどう支えているかを国際比較で明らかにしようとしている。

5.清家篤他編著『労働経済学の新展開』慶應義塾大学出版会(428頁,A5判)

 第一線で活躍中の門下生17人による、島田晴雄教授慶應義塾大学退任記念の書き下ろし論文集である。仕事と暮らしに関する最良の研究書を目指し、労働、企業経営、人的資本、社会保障の4分野で構成されている。『労働経済学のフロンティア』以来最先端のテーマを研究してきた島田教授の衣鉢は確実に継承されている。

6.大橋勇雄編著『労働需要の経済学』ミネルヴァ書房(325頁,A5判)

 有効求人倍率が過去最悪の0.44を記録し、完全失業率もなお悪化の傾向にある。労働市場の状況は依然厳しいが、労働需要を決定する基本的な仕組みとその法的な枠組みの説明により、日本の労働需要の現状を読者に的確に伝えることを目的としている啓蒙の書と言える。「叢書・働くこと」の第二巻として編集されている。

7.西村純子著『ポスト育児期の女性と働き方』慶應義塾大学出版会(ⅲ+209頁,A5判)

 乳幼児を抱える母の就業率は、この20年ほとんど変化していないという。本書は末子が初等・中等教育段階にあるポスト育児期の女性の再就職後の状況を、ストレス研究の成果を援用して検討、女性の仕事と家庭の両立過程が、ストレッサー・ソーシャルサポート等の概念を用いることによって、社会的に分析されている。

8.福士正博著『完全従事社会の可能性』日本経済評論社(ⅹⅲ+272頁,A5判)

 「完全従事社会」とは聞きなれない言葉である。有給雇用に重心を置き過ぎた社会システムの再編成を企図したものであるという。環境問題や社会的排除への対応は、完全雇用のみで解決できないことは明らかである。完全従事社会は何によって駆動されるのか。どのような社会を築くべきかを問う社会哲学の書でもある。

9.鈴木江理子著『日本で働く非正規滞在者』明石書店(516頁,A5判)

 非正規滞在者は、国民が安心して暮らせる社会の実現を妨げる存在であるのか、という問題意識のもと、長期就労の28人の男性非正規滞在者からの聞き取り調査により、その実態を通時的把握し、長期滞在を可能にした日本側の要因を分析。非正規滞在者の経験の総括は、外国人政策の議論に大きな示唆を与えるであろう。

10.治部れんげ著『稼ぐ妻・育てる夫』勁草書房(ⅹⅰ+281頁,A5判)

 米国の大学に1年間留学した女性記者の記録である。子供を持つ高学歴で専門職・管理職の既婚女性のキャリアと夫婦関係を考察している。文献調査と52人の男女へのインタビューにより、夫の家事・育児分担が妻のキャリアに与える影響を分析、米国女性の社会進出の陰に、夕食の皿を洗う夫がいることを見出している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年6月に労働図書館受け入れ

  1. 村山皓著『政策システムの公共性と政策文化』有斐閣(ⅹⅲ+360頁,A5判)
  2. 鎌田慧著『いま、逆攻のとき』大月書店(159頁,B6判)
  3. 東大社研他編『希望をつなぐ』東京大学出版会(ⅹⅹⅶ+341+23頁,A5判)
  4. 川内克忠著『英米会社法とコーポレート・ガバナンスの課題』成文堂(ⅹⅳ+268頁,A5判)
  5. 谷英樹編『移民・難民・外国人労働者の多文化共生』有志舎(ⅶ+233頁,A5判)
  6. 国島弘行他編著『「社会と企業」の経営学』ミネルヴァ書房(ⅹ+249頁,A5判)
  7. 海道ノブチカ他編著『コーポレート・ガバナンスと経営学』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+245頁, A5判)
  8. 斎藤悦子著『CSRとヒューマン・ライツ』白桃書房(ⅹ+160頁,A5判)
  9. 市村浩一郎著『日本を元気にするNPOのつくり方』PHP研究所(212頁,B6判)
  10. 佐藤博樹他編『人を活かす企業が伸びる』勁草書房(ⅹⅰ+186頁,A5判)
  11. 福澤英弘著『人材開発マネジメントブック』日本経済新聞出版社(309頁,A5判)
  12. 広野穣著『「職場うつ」の正体』かんき出版(190頁,B6判)
  13. 山崎克雄他編著『ラテンアメリカにおける日本企業の経営』中央経済社(ⅷ+4+269頁,A5判)
  14. 門野圭司著『公共投資改革の研究 』有斐閣(ⅳ+218頁,A5判)
  15. 大内伸哉著『キーワードからみた労働法』日本法令(368頁,B6判)
  16. 野川忍著『労働判例インデックス』商事法務(15+330頁,A5判)
  17. 森戸英幸著『いつでもクビ切り社会』文藝春秋(219頁,新書判)
  18. アスキー新書編集部編『雇用崩壊』アスキー・メディアワークス(189頁,新書判)
  19. 海老原嗣生著『雇用の常識「本当に見えるウソ」』プレジデント社(207頁,A5判)
  20. 中野雅至著『雇用危機をどう乗り越えるか』ソフトバンククリエイティブ(228頁,新書判)
  21. 大内伸哉著『雇用はなぜ壊れたのか』筑摩書房(233頁,新書判)
  22. みずほ総合研究所著『「雇用断層」の研究』東洋経済新報社(ⅹⅷ+245頁,B6判)
  23. Voice編集部編『クビ切り不要!』PHP研究所(207頁,新書判)
  24. 竹信三恵子著『ルポ雇用劣化不況』岩波書店(ⅳ+230頁,新書判)
  25. 宮本謙介著『アジア日系企業と労働格差』北海道大学出版会(ⅷ+184頁,A5判)
  26. 年越し派遣村実行委員会編『派遣村』毎日新聞社(237頁,B6判)
  27. 宇都宮健児他編『派遣村』岩波書店(ⅹⅰ+170頁,B6判)
  28. 道幸哲也他編『変貌する労働時間法理』法律文化社(ⅴ+208頁,A5判)
  29. 長倉貞雄著『日本的ワークシェアリングの”ススメ”』アスク(141頁,B6判)
  30. アントン・ヴァン・ヌーネン著『フィデューシャリー・マネジメント』金融財政事情研究会(340頁,A5判)
  31. 中村圭介著『壁を壊す』教育文化協会(187頁,新書判)
  32. 宗形明著『異形の労働組合指導者「松崎明」の誤算と蹉跌』高木書店(221頁,B6判)
  33. 高井晃他著『どうする派遣切り2009年問題』旬報社(127頁,A5判)
  34. 関根秀一郎著『派遣の逆襲』朝日新聞出版(222頁,新書判)
  35. 建石真公子編『男女平等参画社会へ』公人社(ⅵ+260頁,A5判)
  36. 戸田忠雄著『チェンジ教師の職業倫理』明治図書出版(175頁,A5判)
  37. 作田良三他編『教師の仕事とは何か』北大路書房(ⅵ+190頁,A5判)
  38. 櫻井照士著『こんな人と働きたい』主婦の友社(159頁,B6判)
  39. 渡辺登監修『職場不適応症』講談社(99頁,A5判)
  40. 三浦耕吉郎編著『屠場』晃洋書房(ⅷ+237頁,B6判)