2009年7月の図書紹介(2009年6月受け入れ図書)

1.東大社研他編『希望の再生』東京大学出版会(ⅹⅴ+315+5頁,A5判)

 東大社研が全所あげて取り組んだ、希望と社会との関係を考える希望学プロジェクトの成果全4巻の第二巻。本巻と第三巻で釜石を多角的に捉え、地域振興のための希望をつかみ取ろうとしている。研究参加者の息づかいが感じられる書であるが、希望とは、挫折を恐れず、お仕着せでなく自分で見つけるものであるようだ。

2.イ・チョルヒ他編『韓国における高齢化研究のフロンティア』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+573頁,A5判)

 日本を上回る速度で高齢化に突き進む韓国社会を、韓国を代表する研究者24人が労働市場とマクロ経済への影響の観点から検討した論文を所収、本文573頁の大著である。国勢調査の個票やパネル調査等から、高齢者の就業決定要因や共働き世帯の引退行動、公的年金の持続可能性、労働生産性の変化等が分析されている。

3.宇佐美英司著『リテンション・クライシス』ファーストプレス(230頁,B6判)

 日本企業でも、年功序列・終身雇用の崩壊とともに、リテンション・クライシス(人材流出危機)が現実味を帯びてきた。海外人事12年の経験を有する著者は、人材引止めの対策を、報酬、評価、モチペーション向上の視点から紹介。若者、女性、高度技能外国人等のリテンションは、中長期の日本経済全体の課題でもある。

4.数度直紀著『階層意識のダイナミクス』勁草書房(ⅵ+331頁,A5判)

 著者は、階層帰属意識分布の安定期及び上昇期の変動メカニズム、並びに階層帰属意識の性差が産出されるメカニズムを実証的かつ理論的に解明することを目指している。この課題設定の背後には、階層帰属意識と現実の社会階層との捩れた対応関係は、実際の問題を隠蔽し、現実を下支えしているという問題意識がある。

5.小林甲一著『ドイツ社会政策の構造転換』高菅出版(4+ⅲ+241頁,A5判)

 本書は、著者がこの20年あまりの間に発表してきた論文を博士号請求のために再編成したものである。社会保障の拡充により見過ごされがちであった人間の労働や労働生活という根本的な問題から、ドイツ社会政策の構造転換を歴史的に明らかにし、わが国の社会保障・社会政策研究に新たな視点を提供しようとしている。

6.駒村康平編著『年金を選択する』慶應義塾大学出版会(262頁,A5判)

 全労済協会「参加インセンティブから考える公的年金制度のあり方研究会」での議論の成果である。年金制度への国民の不信による参加意識の低下のもとで、制度のデザイン、安定性の確保、国民参加の観点から提案を行う総論と、その根拠を示す、雇用と年金の接続、世代間のリスクの分担等の各論から構成されている。

7.大内伸哉編著『働く人をとりまく法律入門』ミネルヴァ書房(ⅹⅳ+310頁,A5判)

 本書は、雇用されて「働く」ということをキーワードに「働く人」をとりまく諸法律を科目横断的に概観したものである。神戸大学の各分野の法律専門家10人により、憲法、労働法、民法、社会保障法等が紹介されている。科目横断教科書としての側面と、労働に関する実務に携わる人への入門書としての性格をもつユニークな書。

8.下山晃著『世界商品と子供の奴隷』ミネルヴァ書房(ⅷ+276+19+7頁,B6判)

 身の回りにある「当たり前」の商品と「子供の奴隷=強制児童労働」という「当たり前」とは思えない労働形態との関係を考察した書である。「当たり前の生活」を成立させている仕組やシステムの問題点を歴史的・具体的に明らかにし、世界商品によって可能となった私達の生活や物の見方を考え直させることを目的としている。

9.枡田大知彦著『ワイマール期ドイツ労働組合史』立教大学出版会(ⅹⅰ+326頁,A5判)

 本書は、ワイマール期ドイツの労働組合運動を、職業別から産業別組合に編成替えしようとした「組織問題」という視角から見直す試みである。議論の展開過程がつぶさに紹介されているが、ナチスの台頭で全労組が解体させられ、歴史の中に埋れることになった。著者の意図した「現代の始まり」は見つけられたであろうか。

10.新川敏光他編著『労働と福祉国家の可能性』ミネルヴァ書房(ⅵ+335頁,A5判)

 生活経済政策研究所に設置された「比較労働運動研究会」の2年間の活動の成果であり、韓・米・豪等11か国の比較研究を含む15人の研究者の共著である。格差・貧困の進行の中で労働組合は、資源・経験・英知の蓄積であるとして、新たな社会保障構築に向けた役割を問い直している。労働組合へのラブコールの書である。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年5月に労働図書館受け入れ

  1. 唐燕霞編著『北東アジアの経済・社会発展とその課題』島根県立大学(92頁,B5判)
  2. サスキア・サッセン著『グローバル・シティ』筑摩書房(ⅹⅹⅶ+477頁,A5判)
  3. 国島弘行他編著『「社会と企業」の経営学』ミネルヴァ書房(ⅹ+249頁,A5判)
  4. 海道ノブチカ他編著『コーポレート・ガバナンスと経営学』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+245頁,A5判)
  5. 鈴木良始他編著『日本のものづくりと経営学』ミネルヴァ書房(218頁,A5判)
  6. 虎ノ門スクウェア法律事務所著『不祥事を防ぐ社員の意識づけと行動ルール』中経出版(159頁,B6判)
  7. 高井伸夫著『労務も知らずに上司といえるか』かんき出版(253頁,B6判)
  8. 雨宮処凛著『「生きる」ために反撃するぞ!』筑摩書房(188頁,B6判)
  9. 徳住堅治他著『どうする不況リストラ正社員切り』日本経済新聞出版社(130頁,B6判)
  10. 菅野和夫他編著『ケースブック労働法 第5版』弘文堂(ⅹⅷ+582頁,A5判)
  11. 両角道代他著『労働法』有斐閣(ⅹⅹⅶ+345頁,A5判)
  12. 労働者を守る弁護士有志の会編著『それでは、訴えさせていただきます』角川SSコミュニケーションズ(175頁,新書判)
  13. 西村佳哲著『自分の仕事をつくる』筑摩書房(331頁,文庫判)
  14. 成美堂出版編『女性の仕事全ガイド 2010年版』成美堂出版(295頁,A5判)
  15. 八幡成美著『職業とキャリア』法政大学出版局(ⅷ+197頁,A5判)
  16. 女性と仕事の未来館編『「女性と仕事総合支援事業」事業年報』女性と仕事の未来館(40頁,A4判)
  17. 三浦雄二著『高度産業社会と構造的疎外』慶應義塾大学出版会(ⅷ+456+19頁,A5判)
  18. 市村聖治著『貧困社会と若者』同時代社(222頁,A5判)
  19. 内閣府政策統括官編『いきいき人生』内閣府政策統括官(164頁,A5判)
  20. 小方直幸編『専門学校教育と卒業生のキャリア』広島大学高等教育研究開発センター(ⅰ+99頁,B5判)
  21. 大場淳編『大学職員の開発』広島大学高等教育研究開発センター(ⅲ+114頁,B5判)
  22. 広島大学高等教育研究開発センター編『我が国大学院の現状と課題』広島大学高等教育研究開発センター(ⅲ+102頁,B5判)
  23. 大場淳編『フランスの大学評価』広島大学高等教育研究開発センター(ⅳ+124頁,B5判)
  24. 小川佳万他著『アメリカのアドバンスト・プレイスメント・プログラム』広島大学高等教育研究開発センター(ⅱ+96頁,B5判)
  25. 加野芳正他編『大学におけるキャリア支援のアプローチ』広島大学高等教育研究開発センター(ⅳ+104頁,B5判)
  26. サンユー会広報実務委員会編『企業活動としての産業保健』法研(433頁,A5判)
  27. 西日本石炭じん肺訴訟原告団・弁護団編『天草炭坑・石炭じん肺の闘い』花伝社(116頁,A5判)
  28. 丸山知雄編『中国の産業集積の探究』東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点(97頁,B5判)