2009年6月の図書紹介(2009年5月受け入れ図書)

1.小口孝司他編著『仕事のスキル』北大路書房(230頁,A5判)

 管理職は、担当業務の遂行、部下の育成、組織改善の3つの責務を負っていると言われるが、本書では16人の研究者が、ホワイトカラー・マネージャーに必要とされるスキルを職務遂行・既存概念の変容・対人関係スキルと措定し、組織心理学等からアプローチ。章毎に具体的な提言も組み込まれ、実務的な著作でもある。

2.上村敏之著『公的年金と財源の経済学』日本経済新聞出版社(ⅹⅳ+300頁,B6判)

 年金不信が蔓延している。なぜ年金制度は国民との合意点から乖離してしまったのか。本書は、公的年金制度の歴史的・社会的背景や必要性を検証するとともに、効率性と公正性の両面から財源の在り方等望ましい公的年金制度を検証。社会保障特別会計の創設から年金通知方法等まで、具体的な政策提言をまとめている。

3.小林良暢著『なぜ雇用格差はなくならないのか』日本経済新聞出版社(246頁,B6判)

 非正規労働者1800万人時代を迎え、有効な政策を打ち出さなければ、雇用状況はますます混迷の度を深めるとの危機意識に基づき、昨年来の非正規リストラに対し緊急失業対策を提言、加えて、正規と非正規の雇用構造の在り方も模索している。長年の組合活動経験に裏打ちされた、地に足のついた分析・提言の書である。

4.笹島芳雄著『労働の経済学』中央経済社(225頁,A5判)

 本書は、労働経済学の入門書として、就業・失業構造、非正規社員問題、雇用機会均等、高齢者雇用問題、賃金・労働時間、最低賃金と生活保護等、変化の著しい労働経済の諸問題について、少子高齢時代の政策課題を提示し、問題解決のための検討を行っている。基礎的な表を多用し、わかりやすい教科書となっている。

5.岩崎えり奈著『変革期のエジプト社会』書籍工房早山(216頁,A5判)

 中東に関する社会科学研究は、利用可能なデータが少なく、希少である。著者は「世帯調査」「人口センサス」を使い、貧困、労働移動、就業をキーワードに、エジプト社会の都市−農村間関係、農村部からの移住者の送出し要因、大カイロ労働市場への参入状況、移住後の農村出身者の経済生活を明らかにしようとしている。

6.渡辺三枝子他編『女性プロフェッショナルたちから学ぶキャリア形成』ナカニシヤ出版(ⅹⅱ+192頁,A5判)

 筑波大学大学院国際経営プロフェッショナル専攻による2年間の研究活動の成果である。本書の中心は、MBA取得者で転職等の経験をもつ第一線活躍者7人のケース・スタディであるが、統計を用いた国際比較や理論構築の試み等も加味されている。7人の共通行動の抽出は、実用的にもキャリア形成に資するであろう。

7.西成田豊著『退職金の一四○年』青木書店(349頁,B6判)

 明治期から現代に至るまでの退職金制度の成立・発展・衰退の歴史を国家、産業、企業、労働運動の視点から考察。著者は、退職金の起源は新たな機械や技術に労働者を適応させるための政策であったと推論するが、時代とともに生活保障の側面ももつようになったと説く。戦前に退職金に関する法律があった事実には驚く。

8.猿田正機編著『トヨタの労使関係』税務経理協会(7+5+295頁,A5判)

 本書は、中京大学「トヨタ研究プロジェクト」による成果の第2弾である。トヨタ本体の労使協議制、労働時間短縮政策、企業内少数派組合活動、関連企業の労使関係等が批判的に分析されている。世界同時不況は、さしものトヨタにも、非正規雇止め等の対策を強いたが、不況下でもトヨタ的労使関係は健在のようである。

9.河本毅著『合同労組と上部団体』日本法令(453頁,A5判)

 雇用不安が蔓延する中、合同労組の活動が注目を集めている。著者は、合同労組・上部団体とも、構成員の大部分が使用従属関係なき部外者である「有名無実の組合」との認識にたち、合同労組の出現から交渉を経て和解に至る過程を戦争になぞらえて対応を検討している。経営法曹会議役員によるアンチ・レーバーの書。

10.上野輝将著『近江絹糸人権争議の研究』部落問題研究所(382頁,A5判)

 本書は、歴史上名高いが研究蓄積の少ない近江絹糸の労働争議についての著者10年来の研究の成果である。研究会での発表や労働者等からの聞き取り等をもとに書き下ろされている。不安定雇用や長時間労働など、労働者の権利がないがしろにされている現在、近江絹糸の人権争議の検証は、労働運動上も有意義であろう。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年3月-2009年4月に労働図書館受け入れ

  1. 青山弘之他著『現代シリア・レバノンの政治構造』岩波書店(ⅹ+278頁,A5判)
  2. 西川芳昭他編『地域の振興』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅷ+260頁,A5判)
  3. 村田良平著『祖国の再生を次世代に託して』ミネルヴァ書房(ⅹⅱ+413+20頁,B6判)
  4. 柳澤治著『戦前・戦時日本の経済思想とナチズム』岩波書店(ⅹⅲ+370+8頁,A5判)
  5. ダイアン・コイル著『ソウルフルな経済学』インターシフト(397頁,B6判)
  6. 矢部洋三他編著『現代日本経済史年表』日本経済評論社(ⅶ+520頁,B6判)
  7. 佐々木智弘著『現代中国の政治的安定』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅴ+178頁, A5判)
  8. 兼清弘之他編著『人口減少時代の社会保障』原書房(ⅵ+234頁,A5判)
  9. 小林俊治他編著『CSR経営革新』中央経済社(2+4+172頁,A5判)
  10. 岩倉秀雄著『コンプライアンスの理論と実践』商事法務(ⅹⅳ+236頁,A5判)
  11. 森一夫著『経営にカリスマはいらない』日本経済新聞出版社(236頁,新書判)
  12. ジェームズ・P.ウォーマック他著『リーン・シンキング』日経BP社(411頁,A5判)
  13. 今野浩一郎著『人事管理入門(第2版)』日本経済新聞出版社(183頁,新書判)
  14. 職場の問題研究会編『Q&A職場のトラブル110番 』民事法研究会(11+301頁,B6判)
  15. 日本経団連出版編『ワークライフバランス推進事例集』日本経団連出版(246頁,A5判)
  16. 遠藤公嗣他著『労働、社会保障政策の転換を』岩波書店(61頁,A5判)
  17. 日本経済研究センター編『明日の日本をつくる人的資本』日本経済研究センター(170頁,A4判)
  18. 奉恵子監修『私の仕事道』日本能率協会マネジメントセンター(235頁,B6判)
  19. 上田理恵子著『働くママに効く心のビタミン』日本BP社(219頁,B6判)
  20. 花香実著『職業技術・労働と教育』大空社(303頁,A5判)
  21. 三推社出版部編『工場マニア!』三推社(143頁,B5判)
  22. 吉岡完治他編著『宇宙太陽発電衛星のある地球と将来』慶応義塾大学出版会(ⅹ+183頁,A5判)
  23. 香川大学経済学部ツーリズム研究会編『観光学へのアプローチ』美巧社(215頁,A5判)
  24. 堀内都喜子著『フィンランド 豊かさからのメソッド』集英社(199頁,新書判)
  25. 原田順子他編著『官民の人的資源論』放送大学教育振興会(198頁,A5判)
  26. 社会経済生産性本部生産性総合研究センター編『公共・行政サービスの生産性』社会経済生産性本部(49頁,A4判)
  27. 王在喆著『中国経済の地域構造』慶應義塾大学出版会(ⅹⅴ+212頁,A5判)
  28. 八代充史著『人的資源管理論』中央経済社(3+9+213頁,A5判)
  29. 林信吾著『イギリス型<豊かさ>の真実』講談社(198頁,新書判)
  30. 水町勇一郎編著『事例演習労働法』有斐閣(ⅷ+264頁,A5判)
  31. 中川恒彦著『残業手当のいらない管理職』労働法令協会(ⅹⅳ+264頁,A5判)
  32. 勝間和代著『会社に人生を預けるな』光文社(228頁,新書判)
  33. 近藤健児著『環境、貿易と国際労働移動』勁草書房(ⅶ+184頁,A5判)
  34. 東京都産業労働局労働部労働環境課編『雇用危機と労働組合』東京都産業労働局(127頁,A4判)
  35. 日本経済新聞社編『働くニホン』日本経済新聞出版社(258頁,B6判)
  36. 門倉貴史著『大失業時代』祥伝社(188頁,新書判)
  37. 外国人研修生権利ネットワーク編『使い捨てをゆるさない社会へ』明石書店(242頁,A5判)
  38. 荻久保嘉章編『産業情報社会』成文堂(5+9+296頁,A5判)
  39. 経済広報センター編『経営を支える広報戦略』日本経団連出版(318頁,B6判)
  40. 鈴木崇児編著『交通安全の経済分析』勁草書房(ⅵ+143頁,A5判)