2009年5月の図書紹介(2009年4月受け入れ図書)

1.小池和男著『日本産業社会の「神話」』日本経済新聞出版社(278頁,B6判)

 日本産業社会には、個人間競争が乏しい、等の集団主義の神話、民間企業の実力を軽んじる「政府のお陰」神話等多くの神話が存在している。その原因は、国際比較における他国の状況把握のあやしさにあるという。事実の誤解に基づく政府の政策や企業の方針を懸念する小池先生には、既に憂国の士の雰囲気が漂っている。

2.フランソワ・エラン著『移民の時代』明石書店(151頁,B6判)

 フランスは家族政策が功を奏し、高い合計特殊出生率を誇っている。それでも人口減少は免れず、少子高齢化社会の問題を抱えることになるが、フランスの頼みは人口の8%を占める500万人の移民である。移民に扉を閉ざしている日本にとってフランスの事例は、人口政策を検討する際の重要な先例・教訓となるであろう。

3.太田正孝著『多国籍企業と異文化マネジメント』同文舘出版(14+274頁,A5判)

 本書は、国際ビジネス研究における異文化問題をシステマティックに解明するとともに、異文化マネジメントを自律的な研究領域として確立することを企図しているという。効率性、ファイナンス一辺倒の時代から、文化・環境が重視される時代に豊かな生活を追求するとき、多国籍企業の総合的分析が不可欠となっている。

4.丸尾直美他編『福祉政策と労働市場』ノルディック出版(367頁,A5判)

 本書は、労働市場と福祉政策への女性雇用・人口高齢化の影響について、日本とスウェーデンの経済・社会学者による共同研究の成果である。前回の不況に対して規制緩和政策か社民的政策か、公共事業か金融機関の信用回復か、両国の政策は大きく分かれた。政策見直しに当って、互いに学び合うことができるであろう。

5.駒村康平他編『希望の社会保障改革』旬報社(223頁,B6判)

 少子高齢化等に加えて、雇用システムの不安定化、小さな政府路線等、社会保障制度をめぐる状況は厳しい。お年寄りに安心、若者に仕事、子どもに未来を保障するため、中堅・若手研究者で構成される「新しい社会保障像を考える研究会」は、財源論のみでない明確な理念の必要性を強調、各種の斬新な提案を行っている。

6.航空労働研究会編『航空リストラと労働者の権利』旬報社(606頁,A5判)

 序文を含め606頁の大著であるが、労働法や労働組合活動等についての基礎的な情報も併載されており、航空関係に焦点をあわせた章は、航空産業における不当労働行為事件と航そら機乗務員の勤務を扱った章のみである。タイトル通り労働者の権利を通覧するとともに、航空労働者の実態を垣間見る際に参考になるであろう。

7.仁田道夫他編『日本的雇用システム』ナカニシヤ出版(309頁,A5判)

 日本的雇用慣行・雇用システムは、いつ、どのように形成されたのか。本書は雇用システムの歴史的形成過程を明らかにしようとした5人の研究者の成果である。「日本的雇用システム」という言葉が不用意に使用されることが多いが、賃金制度や能力開発、労働組合や人事部等の日本的システムが分析対象となっている。

8.伊藤健市他編著『ニューディール労働政策と従業員代表制』ミネルヴァ書房(ⅹ+280頁,A5判)

 本書は、大不況後のニューディール型労使関係の構築に従業員代表制が与えた影響を明らかにすることを目的としている。現代アメリカの労使関係の理解に不可欠だと認識されているからである。GE等そうそうたる企業の事例分析により、これまで比較的研究蓄積のないアメリカの従業員代表制の帰趨が紹介されている。

9.メアリー・C.ブリントン著『失われた場を探して』NTT出版(245+5頁,B6判)

 著名な米国人社会学者による日本の若者問題解明の書である。日本社会を知悉する著者は、ロスト・ジェネレーションの生成原因は家庭、学校、職場における「場」の崩壊であるとして、地下鉄車内でケイタイを操作する押し黙った乗客の姿を象徴的に紹介している。提案されている失われた場の再生策は有効であろうか。

10.西川真規子著『ケアワーク支える力をどう育むか』日本経済新聞出版社(245頁,B6判)

 強い実践的動機にもとづく書である。ケアワークは誰にでもできると思われているが、高度な知識とスキルが必要であるという。家庭でのケアワークと有償ケアワークを同時に考察することにより、ケアワークに関する議論の混乱を整理するとともに、生命活動にかかわる労働をないがしろにしてきた風潮を憂慮している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年3月に労働図書館受け入れ

  1. マッテオ・モッテルリーニ著『世界は感情で動く』紀伊國屋書店(357頁,B6判)
  2. 山口浩著『リスクの正体!』バジリコ(252頁,B6判)
  3. 榊原英資著『間違いだらけの経済政策』日本経済新聞出版社(221頁,新書判)
  4. アルバート・O.ハーシュマン著『連帯経済の可能性』法政大学出版局(ⅷ+204頁,B6判)
  5. ポール・R.クルーグマン著『クルーグマンの視座』ダイヤモンド社(133頁,B6判)
  6. 常盤文克著『ヒトづくりのおもみ』日経BP社(213頁,B6判)
  7. 企業法務研究会著『実践コンプライアンス法務』学陽書房(219頁,A5判)
  8. 村橋勝子著『カイシャ意外史』日本経済新聞出版社(253頁,B6判)
  9. 三枝匡他著『「日本の経営」を創る』日本経済新聞出版社(390頁,B6判)
  10. 田中弥生著『NPO新時代』明石書店(269頁,B6判)
  11. 西村英俊著『会社は毎日つぶれている』日本経済新聞出版社(233頁,新書判)
  12. 蓮尾登美子著『女性が部下をもったら読む本』同文舘出版(206頁,B6判)
  13. 本田有明著『若者が3年で辞めない会社の法則』PHP研究所(234頁,新書判)
  14. 高梨昌他編著『非正規雇用ハンドブック』エイデル研究所(415頁,A5判)
  15. 河合克彦著『要員・総額人件費マネジメント』社会経済生産性本部生産性労働情報センター(254頁,A5判)
  16. 玄田有史他編『希望をめぐる対話』東京大学社会科学研究所(296頁,B5判)
  17. 竹崎孜著『貧困にあえぐ国ニッポンと貧困をなくした国スウェーデン』あけび書房(172頁,A5判)
  18. ロジャー・ローウェンスタイン著『なぜGMは転落したのか』日本経済新聞出版社(351頁,B6判)
  19. 西谷敏著『労働法』日本評論社(ⅹⅹⅹ+607頁,A5判)
  20. 岩出誠編著『論点・争点現代労働法 改訂増補版』民事法研究会(45+989頁,A5判)
  21. 冷泉彰彦著『アメリカモデルの終焉』東洋経済新報社(247頁,B6判)
  22. やおき福祉会編『精神障害とともに働く』ミネルヴァ書房(ⅷ+247頁,B6判)
  23. 福祉臨床シリーズ編集委員会編『就労支援サービス』弘文堂(ⅷ+184頁,B5判)
  24. 田路則子他著『キャリアデザイン』ファーストプレス(110頁,A5判)
  25. 大宮登編『キャリアデザイン講座』日経BPソフトプレス(159頁,B5判)
  26. ジェイムズ・A.ウーテン著『エリサ法の政治史』中央経済社(ⅱ+2+335頁,A5判)
  27. 野川忍他編『労働契約の理論と実務』中央経済社(2+15+395頁,A5判)
  28. 中野洋著『甦る労働組合』編集工房朔(271頁,B6判)
  29. 高井晃他著『どうする派遣切り2009年問題』旬報社(127頁,A5判)
  30. 吉田典史著『非正社員から正社員になる!』光文社(241頁,B6判)
  31. 岡清彦著『ルポ トヨタ・キャノン”非正規切り”』新日本出版社(221頁,B6判)
  32. 「外国人労働者問題とこれからの日本」編集委員会編『「研修生」という名の奴隷労働』花伝社(228頁,B6判)
  33. フィリップ・ロートリン他著『ボーアウト』講談社(180頁,B6判)
  34. 二村英幸著『個と組織を生かすキャリア発達の心理学』金子書房(ⅹⅰ+190頁,A5判)
  35. 岩淵弘樹著『遭難フリーター』太田出版(206頁,B6判)
  36. NHKスペシャル取材班他著『「愛」なき国』阪急コミュニケーションズ(276頁,B6判)
  37. 佐藤博樹編集代表『ワーク・ライフ・バランス』ぎょうせい(ⅹ+325頁,A5判)
  38. 本田由紀他編著『仕事と若者』日本図書センター(ⅶ+403頁,A5判)
  39. ジェフリー・K.ライカー他著『人材開発』日経BP社(上=277頁、下=255頁,B6判)
  40. 日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会編『日本女性差別事件資料集成(全8巻+3巻)』すいれん舎(B5判)