2009年4月の図書紹介(2009年3月受け入れ図書)

1.リヒテルズ直子著『残業ゼロ授業料ゼロで豊かな国 オランダ』光文社(270頁,B6判)

 同性愛婚や安楽死が認められているオランダでは、多様性が尊重される。労働時間は日本の3分の2で生産性は1.5倍、授業料負担がないという。1996年よりオランダ在住の著者は、オランダの教育・社会事情をつぶさに紹介。ワーク・ライフ・バランスが騒がれるが、ワークはライフの部分であることが痛感させられる。

2.藤田友敬編『ソフトローの基礎理論』有斐閣(ⅷ+282頁,A5判)

 5年間の21世紀COEプログラムの成果である本書は、国家が形成し、エンフォースメントする以外の規範であるソフトローを研究対象とし、その研究方法を模索している。企業倫理や商習慣、労働法上の努力義務等、多様なソフトローがすでに存在しているが、今後、大いに発展が期待される研究テーマの一つであろう。

3.大曽根寛他編『社会保障法のプロブレマティーク』法律文化社(ⅹⅰ+258頁,A5判)

 「社会保障法における対立軸」を共通テーマとした、早稲田大学久塚純一教授の還暦を記念した論文集である。社会保障の枠組み、社会保険、社会福祉の三部で構成されている。急速な高齢化により社会保障制度の持続可能性に重大な疑念が持たれている時、この分野の対立軸を一つずつ解決していく作業は重要である。

4.新川敏光編著『多文化主義社会の福祉国家』ミネルヴァ書房(ⅴ+324頁,A5判)

 本書は、「実験国家カナダにおける新たな社会的統合原理・政策展望に関する学際的研究」の成果である。英系・仏系カナダ人、先住民、移民等で構成される強度の多文化主義への合意がいかにして形成・維持されたか、また合衆国に対抗的な汎カナダ主義の福祉国家がいかに形成されたか、日加の研究者が分析している。

5.伊藤周平著『介護保険法と権利保障』法律文化社(ⅷ+462頁,A5判)

 2000年4月施行の介護保険法が高齢者の生存権侵害をもたらしたと考える著者は、要介護者や被保険者の権利保障の観点から介護保険法の下で生じている問題を描出し、貧困を拡大させている現在の社会保障政策の転換を求めている。財政再建でなく生存権という観点から社会保障を捉えようとしている根源的な著である。

6.遠藤昇三著『「戦後労働法学」の理論転換』法律文化社(ⅷ+351頁,A5判)

 社会保障法専門家による戦後労働法論であるが、いかにも大きなタイトルである。本書では、団結権保障法の見直しを取り扱い、労働権保障法見直しは今後の課題としている。沼田・籾井・西谷理論の継承・乗り越えをめざしているが、1989年から2002年までに『島大法学』に掲載された紀要論文がほとんどを占めている。

7.脇田滋他編『若者の雇用・社会保障』日本評論社(ⅹⅱ+266頁,A5判)

 龍谷大学に設置された「若年者社会保障法・雇用保障法研究会」の研究成果である。学際的に研究するだけでなく、社会的実践にも関わってきた研究者等が、法政策の課題、独・韓・UNにおける取り組み、政策実現のための主体形成の課題等を検討している。現代日本の喫緊の課題に対し、真摯に回答しようとしている。

8.浅岡泰史他著『企業価値を向上させる退職給付制度の運営』中央経済社(3+11+317頁,A5判)

 伸びない賃金、高まる年金不安等、国民を取り巻く状況は絶望的でさえある。著者らは、日本企業の活力復活のためには、従業員にインセンティブを与える退職給付制度が効果的であると力説、より企業価値向上に資するとする確定給付企業年金制度を中心に、財務リスクの排除等の実務的運用方法を検討・提案している。

9.中北浩爾著『日本労働政治の国際関係史1945-1964』岩波書店(ⅷ+390頁,A5判)

 副題の「社会民主主義という選択肢」が示すとおり、「社会民主主義を後押しする国際的な圧力が日本に対して加えられていた」というのは驚きである。ありえたかもしれない歴史をありうべきものにすることは可能なのか。本書の分析に関して論争がまきおこり、この分野の研究が発展することが期待できる力作である。

10.田村真広他編著『高校福祉科卒業生のライフコース』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+229頁,A5判)

 介護労働の現場は、重労働・低賃金ゆえに、福祉を学ぶ喜びも、福祉の仕事に従事する希望も語れない状況にある。このような課題に対し編者らは、介護福祉の道を歩き続けた高校福祉科卒業生の声に耳を傾け、座談会で未来を語り合うとともに、アンケート調査等に基づき、持続的キャリア発達の可能性を分析している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2009年2月に労働図書館受け入れ

  1. 藤岡改造著『美しき老後を迎えるために』ほおずき書籍(157頁,B6判)
  2. 藤井正他編著『地域政策入門』ミネルヴァ書房(ⅷ+331頁,A5判)
  3. アマルティア・セン著『グローバリゼーションと人間の安全保障』日本経団連出版(160頁,B6判)
  4. 藤井敏彦他著『アジアのCSRと日本のCSR』日科技連出版社(ⅷ+207頁,A5判)
  5. 産業能率大学総合研究所企業倫理研究プロジェクト編著『実践企業倫理・コンプライアンス』産業能率大学出版部(ⅹ+255頁,A5判)
  6. 山崎好裕著『企業犯罪の経済学』中央経済社(2+3+190頁,A5判)
  7. 升田純著『裁判からみた内部告発の法理と実務』青林書店(ⅹⅱ+459頁, A5判)
  8. 末吉竹二郎著『最新CSR事情』泰文堂(157頁,B6判)
  9. 駒橋恵子他著『信頼できる会社、信頼できない会社』NTT出版(277頁,B6判)
  10. 秋山進著『それでも不祥事は起こる』日本能率協会マネジメントセンター(245頁,B6判)
  11. 安井孝之著『これからの優良企業』PHP研究所(205頁,新書判)
  12. 郷原信郎著『企業法とコンプライアンス(第2版)』東洋経済新報社(342頁,A5判)
  13. 涌井美和子著『モンスター社員が会社を壊す!?』日本法令(180+10+18頁,B6判)
  14. 前川孝雄著『頭痛のタネは新入社員』新潮社(188頁,新書判)
  15. 冨塚祥子著『マトリックス表から組み立てる就業規則の作り方(三訂版)』日本法令(372頁,A5判)
  16. 労務行政研究所編『労働時間管理の実務』労務行政(272頁,B5判)
  17. 森紀男他著『労働時間管理完全実務ハンドブック(改訂版)』日本法令(334頁,B5判)
  18. 村上信夫他著『企業不祥事が止まらない理由(わけ)』芙蓉書房出版(282頁,B6判)
  19. 国宗浩三編『岐路に立つIMF』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅹ+248頁,A5判)
  20. 佐々木亮著『紛争解決システム』旬報社(156頁,A5判)
  21. 小川英郎著『賃金』旬報社(205頁,A5判)
  22. 棗一郎著『労働時間・休日・休暇』旬報社(186頁,A5判)
  23. 井上幸夫著『人事』旬報社(205頁,A5判)
  24. 君和田伸二著『解雇・退職』旬報社(191頁,A5判)
  25. 宮里邦雄他著『女性労働・非正規雇用』旬報社(271頁,A5判)
  26. 佐久間大輔著『安全衛生・労働災害』旬報社(201頁,A5判)
  27. 大塚達生他著『社会の変化と労働』旬報社(218頁,A5判)
  28. 徳住堅治著『企業組織再編と労働契約』旬報社(191頁,A5判)
  29. シンシア・シャピロ著『外資系キャリアの転職術』東洋経済新報社(318頁,B6判)
  30. 石井妙子他編『セクハラ・DVの法律相談』青林書院(ⅹⅲ+436頁,A5判)
  31. 小島妙子著『職場のセクハラ』信山社(ⅹⅰ+178頁,B6判)
  32. 野村昌二著『129職種の年収一覧』プレジデント社(131頁,B6判)
  33. 秋山謙祐著『語られなかった敗者の国鉄改革』情報センター出版局(351頁,B6判)
  34. 4・28連絡会編『郵便屋の叛乱 反マル生と4・28』彩流社(300+22頁,A5判)
  35. ウィリアムC.コッケルハム著『高齢化社会をどうとらえるか』ミネルヴァ書房(ⅹ+313頁,A5判)
  36. 増田明利著『今日、ホームレスになった』彩図社(223頁,B6判)
  37. 田中一正著『北欧のノーマライゼーション』TOTO出版(133頁,A5判)
  38. 山野良一著『子どもの最貧国・日本』光文社(273頁,新書判)
  39. 伊藤周平著『後期高齢者医療制度』平凡社(254頁,新書判)
  40. アレクサンドラ・ハーニー著『中国貧困絶望工場』日経BP出版センター(454頁,B6判)