2009年2月の図書紹介(2009年1月受け入れ図書)

1.森戸英幸他編著『差別禁止法の新展開』日本評論社(311頁,A5判)

 不当な「差別」と合理的な「区別」の違いはなにか。本書は、日米比較をもとに、差別禁止法の新たな展開について原理的・実証的に考察を行い、これからの日本における差別禁止法の在り方を模索している。多彩な研究者が美醜・容姿・服装・体型等を含む多様な差別を扱っており、まさしく問題提起の書となっている。

2.角田邦重他編『内部告発と公益通報者保護法』法律文化社(ⅹ+203+8頁,B6判)

 近年連鎖的に発生する内部告発は、「公益通報」と名前を変えて以前の暗いイメージが払拭され、社会的に定着しつつあるように見える。しかし、それを規整する公益通報者保護法は、施行後2年余を閲し、機能不全も見られるという。編者は、法制定の背景や課題、英米独の法制等を調査し、法の見直しを提案している。

3.前田一寿著『組織を守るストレスワクチン』同友館(212頁,B6判)

 ストレスというウイルスから組織を守るための工夫を紹介した図書である。「健康会計」という概念も含まれている。ストレスワクチンとは、組織崩壊を予防する危機管理法であり、職場に速やかに適応し、付加価値を生み出す人材育成法でもある。5年後も組織存続が可能な産業保健体制を構築するための実践本である。

4.鶴本花織他編『トヨティズムを生きる』せりか書房(194+ⅶ頁,A5判)

 自動車文化衰退の動きに現今の世界的不況が拍車をかけ、さしものトヨタも苦吟している。水に落ちた犬を叩くのではないだろうが、『自動車絶望工場』を嚆矢とするトヨタ・バッシング図書が散見されるようになった。本書は、フォーディズム後の合理的生産・生活様式である「トヨティズム」を学際的に分析している。

5.武川正吾編著『シティズンシップとベーシック・インカムの可能性』法律文化社(ⅵ+256頁,A5判)

 「新しい社会政策の課題と挑戦」シリーズ全3巻の最終巻である。前2巻では社会的排除、ワークフェアがテーマであったが、本巻ではベーシック・インカムが分析されている。格差や貧困が渦巻く社会の中で、21世紀の社会政策に課せられた困難な課題に対し、編者たちはベーシック・インカムの視点から挑戦している。

6.和田肇著『人権保障と労働法』日本評論社(ⅹⅵ+301頁,A5判)

 労働法学界においても規制緩和、労働市場の再評価、経済学との対話が流行しているが、著者は、憲法の基本的人権保障の価値を前提に労働法研究を行おうとしている。雇用平等、パートタイム労働、整理解雇等を憲法を基準に逆照射しているが、新たな状況に伝統的価値を対峙、孤高を守る姿勢は、ある意味、清々しい。

7.上野雄史著『退職給付制度再編における企業行動』中央経済社(4+9+245頁,A5判)

 本書は、2001年3月に適用された退職給付会計基準が制度に与えた経済的影響を考察している。アメリカの年金会計研究も参考に、日本の制度を理論的・実証的に分析しているが、蓄積の薄い日本の退職給付制度研究には、アメリカの研究成果の渉猟は不可欠なのであろう。日本の労働研究の一層の深化が求められている。

8.田中堅一郎著『荒廃する職場/反逆する従業員』ナカニシヤ出版(ⅴ+304頁,A5判)

 アメリカほどではないにしても、日本でも従業員の問題行動が増加しつつあると言われる。本書は、「組織市民行動尺度」の逆転項目=組織における反社会的行動=を心理学的に分析している。当該問題の研究のためには企業の協力が必要になるが、本書ではweb調査による分析に止まっていることを著者は嘆いている。

9.京都大学女性研究者支援センター編『京都大学男女共同参画への挑戦』明石書店(414頁,A5判)

 わが国の研究発展には女性研究者の活躍が不可欠である。本書は、女性研究者の割合が他大学に比して低い、天下の京都大学の男女共同参画社会形成の試みをまとめている。男女共同参画社会の形成が易しいとみられる大学においてこの状況であるとすれば、一般企業での取組みにはどのような困難が待っているのだろうか。

10.牧里毎治他編『住民主体の地域福祉論』法律文化社(ⅷ+326頁,A5判)

 実質的に井岡勉教授退官記念論集である本書は、地域福祉研究に専心してきた氏を敬愛する研究者の論文で構成されている。地域福祉の視点、対象、実践、展開の四部編集であるが、氏の研究手法である生活者の視点から地域福祉が分析されている。貧困が問題になっている現在、現場に密着した福祉再生の試みといえる。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年12月に労働図書館受け入れ

  1. フィリップ・マグロー著『史上最強の人生戦略マニュアル』きこ書房(429頁,B6判)
  2. アイ・キュー「人材バンクネット」編集部編『魂の仕事人』河出書房新社(253頁,B6判)
  3. 岸星一著『労働弁護五十年』商事法務(4+7+281頁,B6判)
  4. 牧野文夫著『疾駆の記』同時代社(270頁,B6判)
  5. 実哲也著『悩めるアメリカ』日本経済新聞出版社(245頁,新書判)
  6. 山本三春著『フランスジュネスの反乱』大月書店(295頁,B6判)
  7. 武内進一編『戦争と平和の間』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅹⅷ+400頁, A5判)
  8. ポール・クルーグマン著『格差はつくられた』早川書房(255頁,B6判)
  9. 遅野井茂雄他編『21世紀ラテンアメリカの左派政権』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅷ+347頁,A5判)
  10. 経済社会学会編『人口減少社会の経済社会学』現代書館(207頁,B5判)
  11. 竹内宏著『エコノミストたちの栄光と挫折』東洋経済新報社(ⅹ+350頁,B6判)
  12. 菊池一隆著『中国初期協同組合史論』日本経済評論社(ⅴ+425頁,A5判)
  13. ムハマド・ユヌス著『貧困のない世界を創る』早川書房(382頁,B6判)
  14. 日本経団連出版編『働きがいのある職場づくり事例集』日本経団連出版(224頁,A5判)
  15. 前川孝雄著『女性社員のトリセツ』ダイヤモンド社(ⅷ+274頁,A5判)
  16. 日本在外企業協会海外安全センター編『海外安全・危機管理標準テキスト』日本在外企業協会(71頁,B5判)
  17. 今村龍之助著『ドラッカーとトヨタ式経営』ダイヤモンド社(ⅹⅹⅱ+239頁,B6判)
  18. ポール・レンバーグ著『会社を変える不合理のマネジメント』ダイヤモンド社(286頁,B6判)
  19. 石田重森著『保険学のフロンティア』慶應義塾大学出版会(ⅹⅰ+313頁,A5判)
  20. 植村信保著『経営なき破綻 平成生保危機の真実』日本経済新聞出版社(ⅷ+293頁,B6判)
  21. 宮崎憲治著『動学的一般均衡租税モデルと景気循環会計』法政大学比較経済研究所(32頁,A4判)
  22. 山口裕幸著『チームワークの心理学』サイエンス社(ⅷ+189頁,B6判)
  23. ジグムント・バウマン著『個人化社会』青弓社(355頁,A5判)
  24. 藤村正之著『「生」の社会学』東京大学出版会(ⅶ+316+ⅹⅵ頁,B6判)
  25. 西山隆行著『アメリカ型福祉国家と都市政治』東京大學出版会(ⅴ+324+10頁,A5判)
  26. 保谷六郎著『社会政策』御茶の水書房(ⅹ+226頁,A5判)
  27. 増田雅暢編著『世界の介護保障』法律文化社(ⅴ+217頁,A5判)
  28. 何立新著『中国の公的年金制度改革』東京大学出版会(ⅴ+201頁,A5判)
  29. 河野順一著『会社を辞めるときに損をしない方法』労働調査会(249頁,A5判)
  30. 高梨昌編『70歳雇用時代への展望と課題』社会経済生産性本部生産性労働情報センター(147頁,A5判)
  31. 石渡嶺司著『転職は1億円損をする』角川書店(195頁,新書判)
  32. 町田遵一著『転職幹部の実務講座』データエージェント(上=119頁・下=95頁, A5判)
  33. 神林克明他著『労働組合の会計実務』税務経理協会(5+6+331頁,A5判)
  34. 坂東眞理子他編『ワークライフバランス』朝日新聞出版(240+ⅴ頁,新書判)
  35. 中島さおり著『パリママの24時間』集英社(189頁,新書判)
  36. 神山新平著『こどもニート、大人ニート』草思社(255頁,B6判)
  37. 宇都宮健児他編『反貧困の学校』明石書店(254頁,B6判)
  38. 産経新聞大阪社会部著『生活保護が危ない』産経新聞出版(257頁,新書判)
  39. 森まゆみ著『手に職。』筑摩書房(189頁,新書判)
  40. 財部誠一著『農業が日本を救う』PHP研究所(214頁,B6判)