2009年1月の図書紹介(2008年12月受け入れ図書)

1.石田英夫著『日本型HRM』慶應義塾大学出版会(ⅷ+404頁,A5判)

 本書は、企業事例研究(ケース・メソッド)の第一人者が30年余に渡り蓄積した60余りの教育用ケースから、「戦略的人的資源管理」ケースブックとの方針に基づき、12の企業を精選したものである。高度成長期からグローバル化を経て、技術経営(MOT)重視時代までの経営史として読める史料的価値を持つ著作でもある。

2.西沢和彦著『年金制度は誰のものか』日本経済新聞出版社(ⅹⅳ+289頁,B6判)

 年金制度について基礎的データと制度解説により、国民自らが制度選択する際の参考となることを目的として、本書は編まれている。同時に、消えた年金事件にからんで執行機関のあり方、生活保護と基礎年金との関係、制度改革におけるプロセス重視など、時事的なテーマもカバー、論争を誘発する編集ともなっている。

3.樋口美雄他編『日本の家計行動のダイナミズム[Ⅳ]制度政策の変更と就業行動』慶應義塾大学出版会(ⅷ+245頁,A5判)

 住宅ローン減税の縮小、育児休業法の改正、有期労働契約の期間延長、高年齢者雇用安定法の改正等の就業行動への影響が実証分析されている。今後益々政策の影響が輻輳化するとき、政策評価の手法も洗練・精密化されなければならない。本書もそれに基づいている慶應義塾家計パネル調査の真価・実力が問われている。

4.村田毅之著『労働法の新展開』晃洋書房(ⅹ+240頁,A5判)

 労働契約法が、労使間ルールの明確化を求めて08年3月1日施行された。しかし、制定過程における加除・修正が法の理解を困難にさせ、地道な確認作業が不可欠である。同時に、大幅な改正作業が必要なのか、検証の時期でもある。本書も、教科書ではあるが、労働法全般を見渡した上でのその作業の一つの成果と言える。

5.五十嵐仁著『労働再規制』筑摩書房(238頁,新書判)

 規制には既得権益がからみつくが、市場の手に委ねる規制緩和派にも、利害はついてまわる。名ばかり管理職、偽装請負の頻出は、規制緩和は行き過ぎであることを示し、見直しが求められているが、再規制の転換点が06年にあった、とする著者の論述は説得的である。迫真のルポを読んでいる興奮が味わえる図書である。

6.ジョーン・フィッツジェラルド著『キャリアラダーとは何か』勁草書房(ⅹⅹⅳ+228+13頁,A5判)

 まぎらわしい書名である。個人のキャリアではなく、新自由主義によるガビョウ型の職業構造から、普通の人々のディーセントワークを重視する「キャリアラダー戦略」への転換を提案。医療、保育、製造業を分析しているが、訳者らによる解説と論点提起も併載したユニークな図書である。日本にも参考になるであろう。

7.中川美紀著『「女性職」の時代』角川書店(191頁,新書判)

 バリキャリや勝ち組・負け組というような言葉が跋扈したのはほんの数年前である。性別に拘わらず生命をすり減らして働くか、とにかく生きていければいい働き方をするか。著者は二者択一の働き方ではなく、女性の感性等を生かした、教師・看護師・秘書等の女性職での活躍を提唱している。一考に値する議論である。

8.杉井静子著『格差社会を生きる』かもがわ出版(183頁,B6判)

 本書は、セクハラやDV問題など、女性の人権を守る弁護士活動を続けてきた著者による、大学での「ジェンダー研究入門」講義の成果である。差別の視点は多様であるが、格差論の中心をなす男女格差をわかりやすく学生に解説している。やはり、格差社会を変革する主体は若者である、と著者が期待するからであろう。

9.伊藤セツ著『生活・女性問題をとらえる視点』法律文化社(ⅹⅴ+281頁,B6判)

 家族、女性文化、ジェンダーをめぐる状況は複雑化し、学際的にしか問題は解明されないのであろう。著者は、大河内社会政策学をも頼みとしてこれらの諸問題に独自の立場から精力的に取り組んできた。本書はその記録であると言える。ジェンダー・バッシングに立ち向かう理論的武器を本書は提供しているであろうか。

10.園田恭一他編著『ソーシャル・インクルージョンの社会福祉』ミネルヴァ書房(ⅷ+267頁,A5判)

 障害者や生活困難者の地域社会参加を促すソーシャル・インクルージョンをキー概念に、社会福祉の現状を把握し、政策を展望している。社会的排除に対する施策は、つながりの再構築によって達成されるのであろうが、社会に包み込む感受性が求められることから、地域の社会福祉の理想的な姿も、まだ揺れ動いている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年11月に労働図書館受け入れ

  1. 梅森浩一著『91%の社員は「ムダ!」である』講談社(199頁,B6判)
  2. 鎌田慧著『心を沈めて耳を澄ます』創森社(357頁,B6判)
  3. 北野幸伯著『隷属国家日本の岐路』ダイヤモンド社(270頁,B6判)
  4. 総務省行政管理局編『平成19年度における行政機関等個人情報保護法の施行の状況について』総務省(260頁,A4判)
  5. 山本直治著『実は悲惨な公務員』光文社(252頁,新書判)
  6. 塩見治人他編『日米企業のグローバル競争戦略』名古屋大学出版会(ⅶ+406頁,A5判)
  7. 専門図書館協議会関東地区協議会編『会社史・経済団体史総合目録』専門図書館協議会(286頁,A4判)
  8. 菊澤研宗著『「命令違反」が組織を伸ばす』光文社(270頁,新書判)
  9. 梅島みよ著『日本の課長の能力』日本経済新聞出版社(195頁,新書判)
  10. リクルートHCソリューショングループ編著『実践ダイバーシティマネジメント』英治出版(221頁,A5判)
  11. 経営労働協会編『経営労働の現実と課題』経営労働協会(126頁,A5判)
  12. ジョンC.ボーグル著『米国はどこで道を誤ったか』東洋経済新報社(ⅹⅷ+353+12頁,B6判)
  13. 鎌倉治子著『諸外国の付加価値税:2008年版』国立国会図書館調査及び立法考査局(44頁,A4判)
  14. 総合研究開発機構編『統計改革への提言』総合研究開発機構(165頁,A4判)
  15. 電通総研他編『世界主要国価値観データブック』同友館(255頁,B5判)
  16. 三浦展著『下流社会第2章』光文社(237頁,新書判)
  17. 厚生労働省大臣官房統計情報部編『中高年者縦断調査』厚生労働省大臣官房統計情報部(318頁,A4判)
  18. 家計経済研究所編『制度変更と家計』家計経済研究所(164頁,A4判)
  19. 加茂善仁著『解雇・退職(第3版補訂版)』中央経済社(6+6+413頁,A5判)
  20. 石嵜信憲編著『労働契約解消の法律実務』中央経済社(2+32+516頁,A5判)
  21. 中部産業・労働政策研究会編『生産現場における高年齢者が活躍できる職場づくりと課題』中部産政研(109頁,B5判)
  22. 松本哉他著『さよなら下流社会』ポプラ社(223頁,B6判)
  23. 梅澤正著『職業とは何か』講談社(173頁,新書判)
  24. ウィメンズ・サポート・オフィス連編『女性パワーハラスメント』ウィメンズ・サポート・オフィス連(95頁,A5判)
  25. 労働問題リサーチセンター編『UIゼンセン同盟の組織形態と機能に関する研究報告書』労働問題リサーチセンター(124頁,A5判)
  26. 東京都産業労働局雇用就業部編『パートタイム労働ガイドブック:働いているみなさんへ』東京都産業労働局(62頁,A5判)
  27. 東京都産業労働局雇用就業部編『パートタイム労働ガイドブック:事業主の方へ』東京都産業労働局(38頁,A5判)
  28. ジェンダー法学会編『ジェンダーと少子化社会』日本加除出版(ⅲ+197頁,A5判)
  29. 桑原靖夫他編著『外国人労働者と地域社会の未来』公人の友社(62頁,A5判)
  30. R.コンネル著『ジェンダー学の最前線』世界思想社(ⅵ+289頁,B6判)
  31. ジグムント・バウマン著『新しい貧困』青土社(248+ⅳ頁,B6判)
  32. 上野千鶴子他編『家族のケア』岩波書店(ⅷ+235+3頁,A5判)
  33. 長寿社会開発センター編『訪問介護に求められる医療関連情報』長寿社会開発センター(36頁,A4判)
  34. 全労済協会編『希望のもてる社会づくり』全労済協会(54頁,B5判)
  35. ベネッセ教育研究開発センター編『中学校選択に関する調査報告書』Benesse教育研究開発センター(238頁,B5判)
  36. 藤本壱著『Excelでできるらくらく統計解析』自由国民社(295頁,A5判)
  37. 藤本隆宏他著『ものづくり経営学』光文社(564頁,新書判)
  38. 成田康朗著『バイオ燃料』財務省財務総合政策研究所(44頁,A4判)
  39. 日通総合研究所編『企業物流短期動向調査(日通総研短観)調査結果』日通総合研究所(30頁,A4判)
  40. 鈴木敏夫著『仕事道楽』岩波書店(ⅶ+211頁,新書判)