2008年12月の図書紹介(2008年11月受け入れ図書)

1.本田由紀著『軋む社会』双風社(255頁,B6判)

 将来の展望が困難な社会の中で、多くの若者が絶望している。本書は、家庭−学校−職場の3つの社会領域の歪みを詳述し、若者を救い出すべく苦闘している著者の2年間の闘いの記録といえる。新自由主義経済下の格差の拡大は、社会に多様な軋みを発生させているが、きめの細かな処方箋のみが解決策となるのだろう。

2.猿田正機編著『トヨタ企業集団と格差社会』ミネルヴァ書房(ⅹⅳ+402頁,A5判)

 トヨタの企業集団としての階層性や階層的労働市場、賃金・労働条件等を分析し、企業城下町での格差の実態を解明しようとする本書は、大幅な減益とはいえ、なお数千億の営業利益を生み出す世界のトヨタの負の側面をえぐり出しているのか。事実は多方面からの調査によって解明される。研究者間の論争に期待したい。

3.若林直樹他編『企業変革の人材マネジメント』ナカニシヤ出版(ⅳ+302頁,A5判)

 人材マネジメント研究が花盛りだが、本書は人材マネジメント、成果主義、コミットメント・マネジメント、キャリア・マネジメントの4部で構成されている。人材マネジメントが戦略性を帯び、事業戦略によって規定され、経営活動と一体なったとき、人事管理は、本書の主張のように企業変革の契機となれるであろうか。

4.マーサージャパン他著『個を活かすダイバーシティ戦略』ファーストプレス(281頁、B6判)

 ワークライフバランスとともに、ダイバーシティが脚光を浴びている。著者は、8社のケースをとりあげ、推進要因、施策内容等を紹介しているが、もはやダイバーシティが流行として消費されかけている、との危機感も露わにしている。オピニオンの多様性に活路を見出しているが、個々の日本企業の対応が注目される。

5.所由紀著『偶キャリ。』経済界(231頁,新書判)

Planned Happenstance理論に基づく本書は「キャリアはたまたまつくられる」ことを示す10人の経歴を紹介、我がキャリアからも腑に落ちるが、マーフィーの法則も連想させずにおかない。だが、折角のチャンスをものにするには好奇心、粘り強さ等5つのスキルが必要とされると、理論への信頼性・納得感も高まってくる。

6.土田道夫著『労働契約法』有斐閣(ⅹⅹⅴ+805頁,A5判)

 索引含め800頁を超え、労働法単著の久々の大作である。当然、筆者の紹介能力を超える。小さく産んで大きく育てざるをえない労働契約法の解説のみでなく、労働契約という視点から労働法を考察、労働契約の成立から終了までの全体像を理論的・体系的に描き出すという意図に基づいている。大著になった由縁である。

7.早川智津子著『外国人労働の法政策』信山社出版(ⅷ+351頁,A5判)

 本書は、外国人労働者の受け入れにおける「選択」の理念と、受け入れた外国人の「統合」の理念をいかに調和させるかという観点から、アメリカ法と比較し、入管法との交錯領域をも検討するとともに、外国人労働政策として、日本型受け入れ制度や国籍差別禁止の強化、行政による統合支援等の政策提言も行っている。

8.大橋昭一他著『ホーソン実験の研究』同文舘出版(11+231頁,A5判)

 歴史の彼方にフェイド・アウトしかけていた、ホーソン工場での人間関係論についての実験が2人の研究者によってよみがえった。おぼろげになっていた実験内容の全容とホーソン実験研究の進展を紹介しているが、当該実験が歴史の一コマとして記憶の対象となるのか、何らかの進展がみられるのか、興味深いものがある。

9.二木立代表編『福祉社会開発学』ミネルヴァ書房(ⅹⅳ+198頁,A5判)

 本書は、貧困と格差拡大、社会的排除などの問題解決のために、社会福祉と社会開発を融合した新たな理論の構築に向けた、日本福祉大学21世紀COEプログラムの5年間の研究の最終成果である。福祉社会開発学という新たな学問の理論・政策・実際を体系的に記述した世界初の教科書であることを編者は強調している。

10.京極高宣著『生活保護改革と地方分権化』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+206+9頁,A5判)

 ワーキング・プアが問題化したことで、最低限の生活保障の最後の砦である生活保護に注目が集まっているが、制度の大枠は制定当時と変わっていない。多くの省庁が関与し、学際的研究の対象でもある生活保護制度について政策科学者たる著者は、21世紀に相応しい制度改革と福祉事務所のあり方について提言している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年10月に労働図書館受け入れ

  1. 小川捷之著『会社に行きたくない!』早川書房(222頁,文庫判)
  2. 城塚健之著『官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」』自治体研究社(214頁,A5判)
  3. 大分大学経済学部編『グローカル化する経済と社会』ミネルヴァ書房(ⅶ+219頁,A5判)
  4. スーザン・ブロック他著『フラット化する世界のマネジメント』東洋経済新報社(286頁,B6判)
  5. 葉山滉著『フランスの経済エリート』日本評論社(ⅷ+232頁,A5判)
  6. エヌ・エヌ・エー編『海外赴任』エヌ・エヌ・エー(311頁,A5判)
  7. 労務理論学会編『企業の社会的責任と労働』労務理論学会(ⅴ+255頁,A5判)
  8. 太田肇著『日本的人事管理論』中央経済社(5+205頁,A5判)
  9. 川邉信雄他編『日系流通企業の中国展開』早稲田大学産業経営研究所(210頁,B5判)
  10. 吉越浩一郎著『「残業ゼロ」の人生力』日本能率協会マネジメントセンター(193頁,B6判)
  11. 八木章著『キャリア・マネジメント』中央経済社(ⅹⅰ+204頁,A5判)
  12. 三浦展著『格差社会のサバイバル術』学習研究社(243頁,新書判)
  13. 上村敏之他編『検証 格差拡大社会」日本経済新聞出版社(ⅹⅲ+237頁,B6判)
  14. 玉井金五他編『少子高齢化と社会政策』法律文化社(ⅷ+274頁,A5判)
  15. 大内伸哉著『どこまでやったらクビになるか』新潮社(207頁,新書判)
  16. 日本労働法学会編『労働法におけるセーフティネットの再構築』日本労働法学会(ⅱ+202頁,A5判)
  17. 石田眞他編『労働と環境』日本評論社(ⅹⅰ+271頁,A5判)
  18. 蓼沼謙一著『労働保護法論』信山社出版(ⅹ+303+ⅲ頁,A5判)
  19. 柏木理佳著『自分にあった仕事が見つかる本』PHP研究所(187頁,文庫判)
  20. 岡田亜弥他著『産業スキルディベロップメント』日本評論社(ⅹⅲ+241頁,A5判)
  21. 降旗学著『世界は仕事で満ちている』日経BP社(369頁,B6判)
  22. 水谷英夫著『職場のいじめ・パワハラと法対策』民事法研究会(20+339頁,A5判)
  23. 二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり』岩波書店(ⅹⅴ+298+7頁,B6判)
  24. 小林雅之著『上を向いて歩こう』本の泉社(238頁,B6判)
  25. 東京弁護士会労働法制特別委員会編『ケーススタディ 労働審判』法律情報出版(249頁,B5判)
  26. ニキ・ヴァン・デ・ガーグ著『ダイヤモンドはほんとうに美しいのか?』合同出版(119頁,B6判)
  27. 松繁寿和著『労働経済』放送大学教育振興会(261頁,A5判)
  28. 伊藤公雄著『ジェンダーの社会学』放送大学教育振興会(213頁,A5判)
  29. 田中滋子編『地域・家族・福祉の現在』まほろば書房(197頁,A5判)
  30. 上野千鶴子他編『ケアされること』岩波書店(ⅷ+253+3頁,A5判)
  31. 副田義也著『福祉社会学宣言』岩波書店(ⅹⅱ+326頁,B6判)
  32. 都筑学編『働くことの心理学』ミネルヴァ書房(ⅶ+197頁,A5判)
  33. 日本社会臨床学会編『「教育改革」と労働のいま』現代書館(325頁,B6判)
  34. 青島矢一編『企業の錯誤/教育の迷走』東信堂(ⅷ+196頁,B6判)
  35. 仙崎武他編著『キャリア教育の系譜と展開』雇用問題研究会(331頁,A4判)
  36. 日高教・高校教育研究委員会他編『学ぶはたらくつながる』かもがわ出版(190頁,A5判)
  37. 医療経営情報研究所編『病院・老健の雇用事情・勤務事情事例集』経営書院(283頁,B5判)
  38. 須田民男著『ストレスによる健康障害とその予防』かもがわ出版(143頁,A5判)
  39. 平野雅之著『ゼロ災運動が会社を変えた!』中央労働災害防止協会(244頁,新書判)
  40. 佐藤創編『アジア諸国の鉄鋼業』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅹⅰ+351頁,A5判)