2008年11月の図書紹介(2008年10月受け入れ図書)

1.渡辺聰子他著『グローバル時代の人的資源論』東京大学出版会(ⅹⅴ+275+ⅹⅵ頁,A5判)

 企業間競争の激化は、社員活力の引き出し、組織力の強化を企業経営者に求めている。本書は、日本・EU内企業の異なる階層に面接調査を実施し、モティベーションのパターン等を明らかにしている。仕事意識は、国の違いより階層の違いが大きくなると予想、日本と英米型のハイブリッド型人的資源政策を提言している。

2.チャールズ・オライリー他著『隠れた人材価値』翔泳社(389頁,B6判)

 平凡な社員が働いている企業は、大競争の時代、利益を上げることはできるのか。本書は、平凡な企業8社の調査記録である。人材こそが重要な資産であると信じ、社員のもてる価値を存分に引き出せばそれは可能であると著者たちは結論づけている。「社員への投資」等の具体策も提示、企業経営の参考となるであろう。

3.牧野富夫他編著『格差と貧困がわかる20講』明石書店(256頁,B6判)

 非正規、女性だから賃金が低くていいわけではない。合理的な理由がなければ、格差ではなく差別となり、貧困や社会的排除に結びつきやすい。日本大学経済学部での20人の講義と橘木イントロダクションで構成される本書は、格差社会の現状分析、未来予測、内外の現場報告等、格差と貧困の諸相を簡潔にまとめている。

4.NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班編『ワーキングプア』ポプラ社(248頁,B6判)

 NHKワーキングプア取材班による第3弾。韓・英・米との比較により、日本での解決方法を模索している。3か国に比して危機意識が足りないとしながらも、一部の職場での懸命な努力もレポート。日本に必要な対策はなにか。社会的企業と労働者の連帯だけでなく、この悲惨な現実に対する政策的対応が求められている。

5.NHK「名ばかり管理職」取材班著『名ばかり管理職』日本出版放送協会(205頁,新書判)

 非正規のワーキングプア化だけでなく、正規管理職にも異変が生じている。課長=重役出勤=高給・高権限=No残業代との思い込みがあるが、権限もなく、時間管理されながら残業代のでない「名ばかり管理職」は日本中に蔓延、本書を契機に、島田報告書後手付かずの状態にある管理・監督者の実態解明を期待したい。

6.笹山尚人著『人が壊れてゆく職場』光文社(234頁,新書判)

 権利・生活・人格が蹂躙されている職場が増えている。労働側弁護士である著者は、長時間労働、いじめ、解雇・雇止め等、携わった事件をもとに現代日本のホット・イシューである格差、ワーキングプア、貧困に対する各地の取り組みを紹介している。労働者の権利が実現され、健全な職場が再生されることを祈りたい。

7.矢野栄二編著『雇用形態多様化と労働者の健康』労働科学研究所出版部(ⅹ+290頁,A5判)

 増加する非正規労働者の安全衛生面での管理方法の見直しが急務であるが、第11次労働災害防止計画では曖昧な取扱いになっているという。本書は、日本産業衛生学会ワーキング・グループの研究成果である。労働衛生と法律研究者の共同研究によって、既存研究のレビュー、非正規労働者の健康状況等が報告されている。

8.遠野はるひ他著『トヨタ・イン・フィリピン』社会評論社(363頁,B6判)

 トヨタを巡る労働関係の報道といえば、ジャスト・イン・タイムや現場・現物主義などの優れた生産方式に関するものがほとんどである。本書は2001年3月のフィリピン・トヨタ社での233人の解雇紛争を扱っている。労使関係も国際化する中で、本事件とフィリピン政府との関わり、労組の国際連帯等が紹介されている。

9.塚崎裕子著『外国人専門職・技術職の雇用問題』明石書店(344頁,A5判)

 専門的外国人の受入をといくら騒いでも、魅力的な職場を日本企業が提供できなければ、外国人に日本は選ばれない。本書は、職業キャリアの観点から、専門的外国人の雇用に関する先行研究を綿密にサーベイするとともに、需供両面の独自調査に基づき、専門的外国人の就労可能性を丁寧に分析、政策提言も行っている。

10.日本経団連出版編『ワークライフバランス推進事例集』日本経団連出版(246頁,A5判)

 少子高齢化社会は、男女共同参画社会の形成と男性の働き方の変化を求めている。これに対して企業はどのような解答を出しつつあるのか。諏訪康雄教授の解説、有名大企業14社のワークライフバランス(WLB)事例により成る本書は、個人と企業と社会の関係の見直し、WLB社会の実現に大いに参考になりそうである。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年9月に労働図書館受け入れ

  1. 人生戦略会議著『28歳からのリアル』WAVE出版(215頁,B6判)
  2. 雨宮処凛著『雨宮処凛の闘争ダイアリー』集英社(253頁,B6判)
  3. 村松岐夫編著『公務員制度改革』学陽書房(300頁,A5判)
  4. 布施哲也著『官製ワーキングプア』七つ森書館(ⅷ+239頁,B6判)
  5. 菅幹雄他著『アメリカ経済センサス研究』慶応義塾大学出版会(ⅹⅱ+354頁,B5判)
  6. 大竹文雄著『格差と希望』筑摩書房(242頁,B6判)
  7. 日本経営学会編『企業経営の革新と21世紀社会』千倉書房(2+10+242頁,A5判)
  8. 日本経済新聞出版社編『ビジネスプロフェッショナルの仕事力』日本経済新聞出版社(ⅹⅳ+184頁,B6判)
  9. 関島康雄著『チームビルディングの技術』日本経団連出版(174頁,B6判)
  10. 柳澤大輔著『この「社則」、効果あり。』祥伝社(219頁,新書判)
  11. ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所編『ロシアにおける雇用・労務管理の諸問題』ロシアNIS貿易会(ⅳ+127頁,A4判)
  12. 秋田稲美著『これから10年女性社員を伸ばす者が勝つ』PHP研究所(197頁,B6判)
  13. 著『』労務行政(+335頁,A5判)
  14. 小笹芳央著『なぜ、できる人から辞めていくのか?』大和書房(205頁,B6判)
  15. マイケル・P.ライター他著『バーンアウト』金子書房(ⅹⅴ+187頁,A5判)
  16. 津曲公二著『実践!プロジェクト・マネジメント』PHP研究所(174頁,A5判)
  17. 菅下清広著『ピンチをチャンスに変える極意(コツ)』産経新聞出版(215頁,B6判)
  18. 北野一著『なぜグローバリゼーションで豊かになれないか』ダイヤモンド社(194頁,B6判)
  19. 後藤道夫他著『なぜ富と貧困は広がるのか』旬報社(162頁,A5判)
  20. 岩村正彦編『高齢化社会と法』有斐閣(ⅷ+266頁,A5判)
  21. 井上雅雄他編『講義仕事と人生』新曜社(ⅲ+200頁,B6判)
  22. 加藤卓雄著『第一線労働基準監督官の回顧録』歴研(189頁,B6判)
  23. 水口洋介著『労働契約』旬報社(142頁,A5判)
  24. 大内伸哉著『労働法学習帳』弘文堂(ⅴ+192頁,A5判)
  25. 大谷強他編『自治体雇用・就労政策の新展開』公人社(ⅹ+202頁,A5判)
  26. テンプル・グランディン他著『アスペルガー症候群・高機能自閉症の人のハローワーク』明石書店(197頁,A5判)
  27. 清正寛他著『定年前の仕事えらびを見る目に確かさを』成文堂(ⅱ+134頁,A5判)
  28. 日本ドリームプロジェクト編『働く人の夢』いろは出版(ページ付なし,B6判)
  29. 荒井千暁著『その転職ちょっと待った!』アスキー・メディアワークス(172頁,新書判)
  30. 橋爪祐美著『勤労女性の生活と介護の両立支援に関する研究』全国勤労者福祉・共済振興協会(132頁,B6判)
  31. ブレインワークス編著『キャリア・マザーズ』カナリア書房(209頁,B5判)
  32. 上田晶美著『ママも今日から働くワ!』日本経済新聞出版社(239頁,B6判)
  33. 月沢たかね著『ハケンは見た!』高陵社書店(237頁,B6判)
  34. 姫岡とし子他著『ジェンダー』ミネルヴァ書房(ⅹⅶ+348+23頁,A5判)
  35. 門倉貴史他著『貧困大国ニッポン』宝島社(206頁,新書判)
  36. 雨宮処凛他著『「生きづらさ」について』光文社(213頁,新書判)
  37. 青山紘一著『不正競争防止法』法学書院(18+299頁,A5判)
  38. アラン・ブライマン著『ディズニー化する社会』明石書店(375頁,B6判)
  39. 山口一男著『ダイバーシティ』東洋経済新報社(ⅲ+221頁,A5判)
  40. 黒井勇人著『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』新潮社(413頁,B6判)