2008年10月の図書紹介(2008年9月受け入れ図書)

1.橘木俊詔著『女女格差』東洋経済新報社(ⅴ+344頁,B6判)

 どのような時代や社会であれ、格差の発生を完全に阻止することはできない。しかし、それが自分の努力ではどうにもならない非情理な格差であれば、制度の改善を試みるのは当然である。格差論争の火付け役である著者は、美人−不美人間の格差も含む女性同士の多様な格差にも目を向け、合理性いかんを検証している。

2.萩原久美子著『「育児休職」協約の成立』勁草書房(ⅷ+315頁,A5判)

 日本では職業と家庭の調和を求める時、なぜ育児休業制度がこれほど期待されるのか。利用者が女性に偏るのはなぜか。1965年に締結された全電通とNTTの「育児休職」協約は、家族責任をもつ女性にのみ休職が認められるものだったことが著者の研究の出発点となった。職場の男女平等は、現在でも未完の課題である。

3.手塚和彰他編『変貌する労働と社会システム』信山社出版(ⅹⅵ+536頁,A5判)

 本書は、平成14~17年度の「経済構造変化にともなう雇用変化と雇用関係法に関する実証的・比較法的研究」の成果であるとともに、編者の一人、手塚教授退官記念論集という珍しい位置づけを与えられている。社会システムと労働の関係に重点を置くとともに、海外の論稿も併載され、多彩な内容の論文で構成されている。

4.高木朋代著『高年齢者のマネジメント』日本経済新聞出版社(ⅹⅳ+503頁、A5判)

 本書は、この10年来、高年齢者雇用促進企業の取り組みを研究してきた著者の成果である。人的資源に関わるマネジメントの全体像を眺望し、高年齢期になっても必要とされ続ける人材を育成し、活用する企業マネジメントを明らかにしようとしている。個々の労働者の心理、尊厳にも目配りを利かせたものとなっている。

5.川喜多喬著『中小製造業の経営行動と人的資源』同友館(422頁,A5判)

 日本の全中小企業の人材育成の現状を調査するのは不可能であるし、有意義でもない。問題関心に合わせて標本調査すれば足りることである。現場主義に徹する著者は、1987~2005年の優れた東京の中小製造業の優れた人材形成の実情を調査し、詳述している。川喜多中小企業研究の衣鉢を継ぐ研究者の出現を期待したい。

6.斎藤智文著『働きがいのある会社』労務行政(335頁,A5判)

 賃金水準には明白なランクがあるが、働きがいについてはどうであろうか。働きがいと賃金水準にもある関係が存在するであろうが、本書は経営者との信頼関係、連帯感、仕事の誇りの視点から職場をランク付けし、日本のベスト25社の「強み」を紹介している。これから就職・転職活動する人には大いに参考になるだろう。

7.山内乾史編著『教育から職業へのトランジション』東信堂(ⅷ+300頁,A5判)

 若者の就労が「問題化」しているが、研究者に必要とされることは、現実を見つめ、問題の原因を析出することである。本書は、そのための共通の土俵づくりを目的としているが、アフリカを含む海外の事例の紹介も興味深い。若者問題は、分析・政策実施の段階を経て、政策評価の時代に達しているのではないだろうか。

8.金川幸司著『協働型ガバナンスとNPO』晃洋書房(ⅹⅴ+212頁,A5判)

 市場と政府の失敗は、第三セクターに国民の目を向けさせ、阪神大震災ではボランティアが脚光を浴び、NPO法が施行され、2007年現在NPO法人は公益法人数を越えるほどまでに成長している。本書は、英国のNPOを事例として行政とNPOの関係を模索している。新たな社会には、NPOは不可欠なものであろう。

9.佐藤彰男著『テレワーク』岩波書店(ⅶ+209頁,新書判)

 一所一斉でない多様な働き方が注目を集めている。オフィス以外の場所で働くテレワークもその一つである。技術の進歩によって在宅勤務が可能になっているが、著者は、長時間労働に陥る危険性も指摘している。著者の算定ではテレワーカーの規模は数万人程度にすぎないが、障害者等にも優しい働き方の拡大を望みたい。

10.小林美希著『ルポ"正社員"の若者たち』岩波書店(ⅹⅵ十218頁,B6判)

 現代における二大労働問題は、非正規労働者の労働条件の劣悪さと正規労働者、特に2、30代の若手正規労働者の長時間労働である。本書は後者に焦点をあわせ、若者の働きにくさを渾身のルポルタージュで明らかにしている。現在日本では、このような実態調査・報告に基づいたwarm-heartedな労働政策が求められている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年8月に労働図書館受け入れ

  1. 横江公美著『アメリカのシンクタンク』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+221+12頁,B6判)
  2. 紀平英作編著『アメリカ民主主義の過去と現在』ミネルヴァ書房(ⅹⅲ+327+7頁,A5判)
  3. 青柳武彦著『情報化時代のプライバシー』NTT出版(ⅳ+342頁,A5判)
  4. 大津留智恵子他編著『アメリカが語る民主主義』ミネルヴァ書房(ⅹⅱ+343+13頁,A5判)
  5. 副田隆重他著『ライフステージと法』有斐閣(ⅹⅲ+294頁,B6判)
  6. クリストファー・W.ムーア著『調停のプロセス』日本加除出版(ⅹⅷ+491頁,A5判)
  7. バート・B.ライシュ著『暴走する資本主義』東洋経済新報社(ⅷ+379頁,B6判)
  8. 古野庸一他編『日本型リーダーの研究』日本経済新聞出版社(360頁,A6判)
  9. フィル・ローゼンツワイグ著『なぜビジネス書は間違うのか』日経BP社(310頁,B6判)
  10. 吉川美樹著『残業ゼロで成果が上がる!スピード仕事術』大和書房(174頁,B6判)
  11. 永井隆著『人事と出世の方程式』日本経済新聞出版社(214頁,新書判)
  12. 大内伸哉他著『望ましい就業規則』社会経済生産性本部労働情報センター(363頁,A5判)
  13. 大薗恵美他著『トヨタの知識創造経営』日本経済新聞出版社(379頁,B6判)
  14. 黒田宣代他著『よくわかる社会調査法』大学教育出版(ⅷ+129頁,A5判)
  15. 袖井孝子他編著『転換期中国における社会保障と社会福祉』明石書店(370頁,B6判)
  16. 山口浩一郎著『労災補償の諸問題』信山社出版(ⅹⅲ+447頁,A5判)
  17. 西村健一郎著『社会保障法入門』有斐閣(ⅹⅴ+299頁,B6判)
  18. 小沼純一著『はたらくって何?』アスペクト(185頁,B6判)
  19. 井上雅雄他編『講義仕事と人生』新曜社(ⅲ+200頁,B6判)
  20. 大内伸哉著『君たちが働き始める前に知っておいてほしいこと』日本労務研究会(55頁,B5判)
  21. 伊藤実他著『地域における雇用創造』雇用開発センター(289頁,A5判)
  22. 谷口晋一著『「福業」のススメ』あさ出版(223頁,B6判)
  23. 佐藤文男著『転職後、いい仕事ができる人の条件』経済界(226頁,B6判)
  24. 川崎昌平著『若者はなぜ正社員になれないのか』筑摩書房(222頁,新書判)
  25. 労働問題リサーチセンター他編『雇用平等法制の比較法的研究』日本ILO協会(304頁,A4判)
  26. 全国労働組合総連合編『貧困と格差の拡大の中で』全国労働組合総連合(87頁,A4判)
  27. フリーターズフリー編『フリーター論争2.0』人文書院(201頁,B6判)
  28. 杉田俊介著『無能力批評』大月書店(351頁,B6判)
  29. 松原敏浩他編『経営組織心理学』ナカニシヤ出版(ⅷ+318頁,A5判)
  30. 松井計著『家に帰らない男たち』扶桑社(195頁,新書判)
  31. 西川潤著『データブック貧困』岩波書店(79頁,A5判)
  32. 前田正子著『福祉がいまできること』岩波書店(ⅹⅵ+221頁,B6判)
  33. 上野千鶴子他編『ケアすること』岩波書店(ⅷ+253+3頁,A5判)
  34. 大曾根寛編『ライフステージ社会福祉法』法律文化社(ⅷ+241頁,A5判)
  35. 林壮一著『アメリカ下層教育現場』光文社(259頁,新書判)
  36. 苅谷剛彦他著『格差社会と教育改革』岩波書店(71頁,A5判)
  37. ことば探偵団著『知ってるようで知らない日本の職業』幻冬舎コミックス(124頁,B6判)
  38. 北原照代著『現代の女性労働と健康』かもがわ出版(143頁,A5判)
  39. 長山靖生著『貧乏するにも程がある』光文社(241頁,新書判)
  40. 石田衣良著『傷つきやすくなった世界で』日本経済新聞出版社(243頁,新書判)