2008年7月の図書紹介(2008年6月受け入れ図書)

1.山形辰史編『貧困削減戦略再考』岩波書店(ⅹⅶ+261頁,A5判)

 本書は、開発途上国の事例分析に基づき、貧困削減を持続的に推進する戦略と制度を探っている。雇用機会創出を通じた生計の向上が中心的対策となるが、マイクロファイナンスやソーシャルファンド等の諸制度の意義も検討、貧困削減には公共サービスへの依存ではなく、主体的な取組が重要であることを指摘している。

2.小池和男著『海外日本企業の人材形成』東洋経済新報社(ⅹⅱ+294頁,A5判)

 古希をとうに迎えた事例研究の第一人者が、日系自動車企業海外事務所の現地技術者の人材形成を聞きとりによってまとめている。今回の対象者は生産ラインの設計技術者であるが、知的探究心の旺盛さには驚かされる。小池ワールドに耽溺できる機会が少なくなりつつあるが、聞きとりの作法を途絶えさせてはいけない。

3.大沢真知子著『ワークライフシナジー』岩波書店(253頁,B6判)

 仕事も生活も充実させる生き方であるワークライフバランス(WLB)は、シナジー効果にその根拠をおいている。両者は人間生活の一部であり、宇宙の中の星座のように相互作用が働くからである。本書は、前著『WLB社会へ』の姉妹編として、著者自身の仕事と生活を検証しつつ、WLBにかけた思いを綴っている。

4.品田知美著『家事と家族の日常生活』学文社(ⅵ+184頁,A5判)

 家電製品や家事代行サービスが増えて、日本の主婦は暇になったのだろうか。家事水準の上昇もあってそうでもないらしい。家事時間が多い人には理由があり、家事時間が少ない人は仕事をしているという。自身子を持ち充実した家族生活を送る著者の継続的研究により、家族に関する発見が蓄積されることを期待したい。

5.菅野和夫他編『友愛と法』信山社出版(ⅶ+513頁,A5判)

 本書は、山口浩一郎先生の古希をお祝いして寄稿された論文を編集したものである。タイトルの「友愛と法」は自由、平等に関する研究は多いが、近代社会の原理である友愛に関する研究がほとんど見られないという、山口先生の問題意識に端を発しているという。本書が友愛編を含む三部構成になっているのはその故である。

6.神林龍編著『解雇規制の法と経済』日本評論社(ⅷ+358頁,A5判)

 解雇は、解雇者には計り知れない影響を及ぼすが、労働力の再配置には経済合理的な側面もあるため、解雇ルールの設定は、労使の利害が衝突する政策課題となる。本書は、裁判における解雇事件についてケーススタディ、判例解釈、統計的分析を併用して研究している。紛争両当事者が納得するルールは可能なのであろうか。

7.櫻庭涼子著『年齢差別禁止の法理』信山社出版(ⅹⅰ+316頁,A5判)

 雇用における年齢差別禁止が国際的な広がりを見せている。日本でも、雇用情勢の悪化の下で募集・採用における年齢差別禁止が強行規定化されている。不合理な差別の解消は当然であるが、性・人種差別と異なり、誰もが歳をとるという平等性を持つ年齢の差別禁止法理の精緻化作業が、本書によって開始されたといえる。

8.岩間暁子著『女性の就業と家族のゆくえ』東京大学出版会(ⅳ+231頁,A5判)

 人口減少の下で、女性労働力に注目が集まっている。本書は、女性就業の重要性が家庭の内外で高まっている現状の中で、職業・学歴等の社会階層と社会的・文化的性差であるジェンダーに着目し、どのような女性が就業しているか、また女性の就業によって家族がどのように変化しているか計量経済学的に検討している。

9.安河内恵子編著『既婚女性の就業とネットワーク』ミネルヴァ書房(ⅷ+299頁,A5判)

 既婚女性就業者が増加しているが、性別役割分業が残存する日本では、ワーク・ファミリー・コンフリクトが増大している恐れがある。本書は、既婚女性の就業とその継続にとって家族等のサポートがどのような効果を持っているか、福岡市と徳島市の比較調査によって、都市度という観点から明らかにしようとしている。

10.阿部彩他著『生活保護の経済分析』東京大学出版会(ⅶ+272頁,A5判)

 ワーキングプア、最低賃金との関連で生活保護制度のあり方が問われている。本書は公的扶助(生活保護)に関わる、主に欧米で蓄積された経済理論・実証分析を日本の生活保護の文脈で紹介するとともに、年金・医療等の他の社会保障制度や行財政制度との関わり合いから生活保護制度の問題点を経済学的に示している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年5月に労働図書館受け入れ

  1. 色川大吉著『若者が主役だったころ』岩波書店(ⅹⅰ+340頁,B6判)
  2. 朝日新聞大阪本社編集局「地方は」取材班著『今、地方で何が起こっているのか』公人の友社(262頁,B6判)
  3. 政策形成研究班著『政策形成の新展開』関西大学法学研究所(188頁,A5判)
  4. 長谷川彰一著『法令解釈の基礎』ぎょうせい(ⅹⅴ+485頁,A5判)
  5. 公証制度研究班著『現代公証制度の理論と実務』関西大学法学研究所(ⅱ+202頁,A5判)
  6. ハインツ・D.クルツ著『シュンペーターの未来』日本経済評論社(ⅷ+165頁,B6判)
  7. 横溝雅夫著『人間の顔をした経済の復活』産経新聞出版(242頁,B6判)
  8. 吉田栄一編『アフリカ開発援助の新課題』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅳ+195頁,A5判)
  9. 総合研究開発機構編『地方再生へのシナリオ』総合研究開発機構(113頁,A4判)
  10. 神奈川大学人文学研究所編『在日外国人と日本社会のグローバル化』御茶の水書房(ⅷ+246+ⅱ頁,A5判)
  11. 関西経営者協会編『ホワイトカラーに求められる技能とその継承のあり方』関西経営者協会(41頁,A4判)
  12. 伊藤健市著『資源ベースのヒューマン・リソース・マネジメント』中央経済社(ⅷ+7+241頁,A5判)
  13. 関西経営者協会編『企業価値創造に向けた人事労務担当者の育成』関西経営者協会(46頁,A4判)
  14. 山住勝広他編『ノットワーキング』新曜社(ⅳ+315+17頁,B6判)
  15. 岩間俊彦著『イギリス・ミドルクラスの世界』ミネルヴァ書房(ⅹ+366頁,A5判)
  16. 靍理恵子著『農家女性の社会学』コモンズ(254頁,A5判)
  17. 門倉貴史著『ワーキングプアは自己責任か』大和書房(238頁,B6判)
  18. 玄田有史他編『希望学国際コンファレンス「希望と社会の新たな地平へ」全記録』東京大学社会科学研究所(134頁,B5判)
  19. 貝塚啓明他編著『年金を考える』中央経済社(4+3+245頁,A5判)
  20. 橋本祐子著『リバタリアニズムと最小福祉国家』勁草書房(ⅹⅷ+254+ⅹⅷ頁,B6判)
  21. 佐藤忍著『グローバル化で変わる国際労働市場』明石書店(355頁,A5判)
  22. 総合研究開発機構編著『就職氷河期世代のきわどさ』総合研究開発機構(123頁,A4判)
  23. 城繁幸著『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』筑摩書房(237頁,新書判)
  24. 佐藤博樹他編『バランスのとれた働き方』エイデル研究所(239頁,B6判)
  25. 倉地克直他編『働くこととジェンダー』世界思想社(ⅴ+312頁,B6判)
  26. 高崎真一著『コンメンタールパートタイム労働法』労働調査会(467頁,A5判)
  27. 萩野敦司他著『中国労働契約法の実務』中央経済社(3+10+228頁,A5判)
  28. 石嵜信憲編著『立法プロセスから読み解く労働契約法』中央経済社(3+3+221頁,A5判)
  29. 入江公康著『眠られぬ労働者たち』青土社(228頁,B6判)
  30. 金子幸子他編『日本女性史大辞典』吉川弘文館(8+795+137+24頁,B5判)
  31. レイ・ストレイチー著『イギリス女性運動史』みすず書房(ⅹⅱ+374+ⅹⅵ頁,A5判)
  32. 中西新太郎著『「生きにくさ」の根はどこにあるのか』前夜(139頁,B6判)
  33. 安立清史著『福祉NPOの社会学』東京大学出版会(ⅷ+260頁,A5判)
  34. 堀田聰子著『訪問介護員の定着・能力開発と雇用管理』東京大学社会科学研究所(273頁,B5判)
  35. ジークリット・ルヒテンベルク編『移民・教育・社会変動』明石書店(415頁,B6判)
  36. 米澤彰純他編『大学教員のキャリア・ライフスタイルと都市・地域』広島大学高等教育研究開発センター(ⅱ+108頁,B5判)
  37. 竹村之宏著『日本人の誇りと働き方』社会経済生産性本部生産性労働情報センター(186頁,A5判)
  38. 鈴木丈織著『仕事うつ』PHP研究所(135頁,A5判)
  39. 小磯修二著『地域自立の産業政策』イマジン出版(119頁,A5判)
  40. 関満博著『地域の片隅から』新評論(272+2頁,B6判)