2008年6月の図書紹介(2008年5月受け入れ図書)

1.湯浅誠著『反貧困』岩波書店(ⅹ+242+2頁,新書判)

 うっかり足をすべらせたら、どん底の生活にまで転げ落ちてしまう社会を「すべり台社会」と著者は名づけたが、貧困に落ち込む5つの要因を「五重の排除」、排除されないための方法を「溜め」、と命名、実践家ならではの目配りと知恵が本書に満載されている。格差から貧困へと問題は進行し、対策は喫緊の課題である。

2.川喜多喬他編『実証研究 優れた人材のキャリア形成とその支援』ナカニシヤ出版(ⅱ+248頁,A5判)

 ビジネスリーダーやエグゼクティブ候補、ファッションデザイナー等、5つのキャリアを詳細に調査、「優れた」人材の養成過程をきめ細かく研究している。特定の事例を深く探求することの学問的意義は判然とはしないが、一読者として、自分にも開かれていたかもしれないある職業の物語として、興味深く読ませられた。

3.駒村康平編『次世代のための家族政策の確立に向けて』社会経済生産性本部(ⅲ+166頁,A5判)

 本書は、30歳代半ばの団塊ジュニア世代を念頭に、体系的・長期的な家族支援のための社会システムの整備を提案するとともに、政府の次世代育成支援政策は効果も不十分であると指摘、雇用、能力開発、所得保障、教育等、総合的政策の継続的な実施と子どもの可能性を広げるための、国、地方、企業の連携を求めている。

4.笹島芳雄著『最新 アメリカの賃金・評価制度』日本経団連出版(213頁、A5判)

 著者の長期にわたる文献渉猟とアメリカ各地の80以上の個別企業、労組へのヒアリング調査等の成果である。数百万社に及ぶアメリカ企業の実態把握は絶望的な試みではあるが、アメリカ企業の最新の賃金・評価制度の実情に近づき、日米企業間での相違を把握するには、著者のような地道な取組みしか方法はないであろう。

5.佐藤博樹他編『バランスのとれた働き方』エイデル研究所(239頁,B6判)

 「仕事と生活の調和憲章」の制定にもかかわらず、両者のインバランスが拡大している。本書は、都市勤労者の仕事と暮らしの定点観測調査の2001年からの6年分、1万人のビジネス・パーソンの声を再分析、長時間労働や男女間の家事・育児時間の不均衡問題など、仕事中心の男性モデルの働き方の変革を訴えている。

6.舩橋惠子他編著『雇用流動化のなかの家族』ミネルヴァ書房(ⅳ+198頁,A5判)

 低所得・低学歴の若者ほど家族形成が困難と言われているが、雇用流動化のなかで家族はどのように変容しているのか。社会経済環境の変化と家族の変化の相互作用を分析、伝統的男性稼ぎ手モデルの崩壊を主張、さらに、家族と職業との関係を析出、日本の家族の行方を問うとともに、家族に関する社会政策も模索している。

7.海外職業訓練協会編『ベトナムの日系企業が直面した問題と対処事例』海外職業訓練協会(ⅹⅱ+281頁,A5判)

 世界の工場が中国からベトナムにシフトしているとも言われるが、本書は、「海外日系企業が直面する問題と対策に関する調査研究委員会」の下、在ベトナム日系企業関係者が雇用管理、労使関係等16の分野の困難事例の概要、対処の概要、知っておくべき情報・知識、の3項目について、88の生々しい事例をまとめている。

8.大森義明著『労働経済学』日本評論社(ⅹⅱ+243頁,A5判)

 労働経済学のテキストであるが、労働関係のデータを経済学的に解釈する方法を丁寧に解説するとともに、実証研究における実験群と対照群の差の推定という識別問題を直感的に理解する方法も示している。紙幅の関係とはいえ、本書で割愛されている労働組合、差別、失業問題については著者の個別的解明を期待したい。

9.城繁幸著『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』筑摩書房(237頁,新書判)

 年功序列を筆頭とする22の昭和的価値観に対して著者は、多様性という名の平成的価値観を対峙、企業社会が目指すべき改革方向を示している。一言でいえば「労働者が適正に報酬を得られるシステム」だと総括、それは、昭和的働き方を忌避して平成的生き方を求めている若者を支援することにつながると説いている。

10.後藤和智著『「若者論」を疑え!』宝島社(220頁,新書判)

 「いまどきの若者」という嘆きは、ギリシャ時代からとも言われるが、近年はその大合唱である。バリバリの若者である著者にとっては、それは事実と異なる老人の繰り言にすぎない。本書は、ニートや格差等の労働問題だけでなく、犯罪急増論やゲーム有害論等、根拠のない大人のたわ言を統計に基づき論破している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2008年4月に労働図書館受け入れ

  1. 寺本実編『ドイモイ下ベトナムの「国家と社会」』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅴ+180頁,B5判)
  2. 鈴木均編『アフガニスタンと周辺国』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅶ+223頁,A5判)
  3. 大西康雄編『中国調和社会への模索』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅷ+139頁,A5判)
  4. 京都学園大学法学会編『転換期の法と文化』法律文化社(ⅳ+330頁,A5判)
  5. 司法研修所編『裁判員制度の下における大型否認事件の審理の在り方』司法研修所(3+8+343頁,A5判)
  6. 司法研修所編『民事訴訟における事実認定』司法研修所(6+7+396頁,A5判)
  7. 工藤年博編『ミャンマー経済の実像』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅹⅰ+232頁,A5判)
  8. 横田高明編著『日本とアジアの経済統合にともなう産業協力の進展』大阪産業大学産業研究所(ⅲ+114頁,A5判)
  9. 海外職業訓練協会編『国際協力人づくり事例集』海外職業訓練協会(ⅳ+201頁,A5判)
  10. 小黒一正著『人口減少経済における世代間移転と資本蓄積』財務省財務総合政策研究所(45頁,A4判)
  11. 財務省財務総合政策研究所編『人口減少の罠は脱出できるか』財務省財務総合政策研究所(37頁,A4判)
  12. 関西社会経済研究所編『人口変動が関西の消費に与える影響』関西社会経済研究所(126頁,A4判)
  13. 出水力編著『英国を中心としたEUに進出した日系企業の経営と技術の移転』大阪産業大学産業研究所(ⅲ+121頁,A5判)
  14. 熊本県しごといきいき応援会議編『仕事と生活の調和推進構想』熊本県しごといきいき応援会議(49頁,A4判)
  15. 海外職業訓練協会編『インドの日系企業が直面した問題と対処事例』海外職業訓練協会(ⅴ+239頁,A5判)
  16. 海外職業訓練協会編『インドネシアの日系企業が直面した問題と対処事例』海外職業訓練協会(ⅵ+311頁,A5判)
  17. 雇用・能力開発機構編『非正規雇用者の雇用管理と能力開発に関する調査研究報告書』雇用・能力開発機構(ⅵ+291頁,A4判)
  18. 日本在外企業協会編『これからの海外安全対策のコツとポイント』日本在外企業協会(ⅳ+79頁,A4判)
  19. 社会経済生産性本部他編『ワーク・ライフ・バランスの推進等のあり方に関する総合的な調査研究報告書』社会経済生産性本部(145頁,A4判)
  20. 梅本迪夫著『日本型成果主義に基づく自律型人事・賃金制度』社会経済生産性本部(ⅶ+231頁,A5判)
  21. 佐野陽子著『はじめての人的資源マネジメント』有斐閣(ⅹⅰ+261頁,B6判)
  22. 総務省統計局編『東京都の人口』総務省統計局(123頁,B5判)
  23. 総務省統計局編『大阪府の人口』総務省統計局(123頁,B5判)
  24. 三輪哲他編『2005年SSM日本調査の基礎分析』2005年SSM調査研究会(ⅷ+137頁,B5判)
  25. 太郎丸博編『若年層の社会移動と階層化』2005年SSM調査研究会(ⅹ+236頁,B5判)
  26. 佐藤嘉倫編『流動性と格差の階層論』2005年SSM調査研究会(ⅷ+171+3+9+11頁,B5判)
  27. 阿形健司編『働き方とキャリア形成』2005年SSM調査研究会(ⅷ+160頁,B5判)
  28. 木村和範著『ジニ係数の形成』北海道大学出版会(ⅹⅳ+324頁,A5判)
  29. 実務労働法研究会編『実務労働法最新事情』社会経済生産性本部(96頁,A5判)
  30. 梅崎修他編『早矢仕不二夫オーラルヒストリー』慶応義塾大学出版会(363頁,B6判)
  31. 斎藤一郎著『戦後労働運動の焦点』あかね図書販売(302頁,B6判)
  32. 菅野和夫他著『労働審判制度(第2版)』弘文堂(ⅷ+281頁,A5判)
  33. 荒金雅子他編著『ワークライフバランス入門』ミネルヴァ書房(ⅷ+192+3頁,B6判)
  34. 向井啓二研究代表『ベトナムのソーシャルワーカー養成における現状理解に関する基礎的研究』種智院大学仏教学部(104頁,A4判)
  35. ベネッセ教育研究開発センター編『学習基本調査・国際6都市調査報告書』ベネッセコーポレーション(161頁,B5判)
  36. 機械振興協会経済研究所編『人に優しい社会システムの構築とモノづくり企業の可能性』機械振興協会(ⅱ+88+11頁,A4判)
  37. 機械振興協会経済研究所編『機械関連産業における多様な人材の活用に関する調査研究』機械振興協会(ⅱ+126+10頁,A4判)
  38. 機械振興協会経済研究所編『中国の環境ビジネス市場と日本企業進出の現状に関する調査研究』機械振興協会(138頁,A4判)
  39. 水野正己他編『開発と農村』日本貿易振興機構アジア経済研究所(ⅵ+278頁,A5判)
  40. 鈴村源太郎著『現代農業経営者の経営者能力』農林水産省農林水産政策研究所(ⅴ+199頁,A5判)