2008年3月の図書紹介(2008年1月受け入れ図書)

1.福谷正信著『研究開発技術者の人事管理』中央経済社(6+7+282頁,A5判)

 メガ・コンペティション状況の下で競争優位を確保し、他社を引き離す原動力となるのは、技術力である。研究開発技術者の評価・育成等が日本企業の人事管理の重要な一部となる。著者は、文献研究、アンケート調査、面接調査により、技術経営 (MOT) における研究開発技術者の人事管理の在り方を提示している。

2.丹野清人著『越境する雇用システムと外国人労働者』東京大学出版会(ⅴ+328頁,A5判)

 日本で就労する外国人を労働者と認識するか、労働力と捉えるかは、外国人労働者問題を追究するとき、問題解決の射程の違いとなって現れる。著者は、外国人「労働者」問題を社会制度変化の指標として認識、就労と社会問題の関係を明らかにするとともに、一般的に外国人労働者を説明する理論的枠組を模索している。

3.中島要著『ユーロ時代の企業経営』白桃書房(ⅹⅵ+306頁,A5判)

 EUの通貨統合は、在ドイツ日系企業及びドイツ企業の経営全般にいかなる影響を及ぼしたか。在ドイツ8年の勤務経験をもつ国際金融専門家である著者は、通貨統合前後3度に渡る個別企業アンケート及びヒアリングで時系列的に明らかにする。定年後研究を志した1934年生まれの著者の探究心に感服するばかりである。

4.三島亜紀子著『社会福祉学の<科学>性』勁草書房(ⅹⅳ+211+36頁,A5判)

 ソーシャルワーカーを養成する社会福祉学は、研究蓄積の弱さのため、長年、科学とはみなされなかったという。ある実践が科学化されるとはどういうことなのか。本書は、ソーシャルワーカーの専門職化への取り組みと理論研究の変遷をたどっている。医学のように、エビデンスが科学化のキーワードとなるのであろう。

5.佐藤博樹他著『不安定雇用という虚像』勁草書房(ⅹⅱ+179頁,B6判)

 今や雇用者の3分の1を占める非正社員の実態を、主婦パート、フリーター、派遣者の三者について、就業理由、キャリア等を詳述、人材活用上の課題も提示している。正社員とは異なる働き方を求める非正社員は一定数存在するが、本書のタイトルは「不安定雇用という虚像」ではなく、「非正社員の実像」が適切である。

6.田端博邦著『グローバリゼーションと労働世界の変容』旬報社(375頁,B6判)

 雇用・労働が社会問題化し、多様な働き方が拡大しているが、労働組合が問題解決の主役として登場してくることは稀である。本書は、先進国の労使関係を分析することにより、ネオリベラリズムに翻弄される日本の労使関係の在り方を模索、自由競争が人々の幸せに繋がる保証はないと、組合の存在意義を力説している。

  1. 森岡孝二編『格差社会の構造』桜井書店(333頁,B6判)
  2. 吉川徹編著『階層化する社会意識』勁草書房(ⅷ+210頁,A5判)
  3. 近藤潤三著『移民国としてのドイツ』木鐸社(322頁,A5判)
  4. 武川正吾著『連帯と承認』東京大学出版会(ⅷ+262頁,A5判)
  5. 小梛治宣著『ドイツ社会保障の潮流』朝文社(233頁,A5判)
  6. 村尾龍雄著『中国・労働契約法の仕組みと実務』日本経済新聞出版社(381頁,A5判)
  7. 宇佐見耕一編『新興工業国における雇用と社会保障』アジア経済研究所(ⅵ+299頁,A5判)
  8. 金子勇著『格差不安時代のコミュニティ社会学』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+210+14頁,A5判)
  9. 永井暁子他編『対等な夫婦は幸せか』勁草書房(ⅵ+160頁,B6判)
  10. 樋口直人他著『国境を越える』青弓社(278頁,B5判)

今月の耳より情報

 当機構の前々身である日本労働協会の設立目的の一つが、1958年という労使関係が不安定な時代の設立も示すように、「労働問題に関する理解と良識をつちかう」ことであったため、その蔵書をすべて継承した当館は、労働組合・労使関係に関する資料の豊富な所蔵が、特長の一つになっている。その当館が所蔵している労使関係資料は、過去及び現在のナショナルセンターや産業別組合(産別)、一部企業別組合の大会資料や労働組合機関誌・労働組合新聞等である。大会資料については、定期的に送付される資料もあるが、当方から主だった産別等に依頼して寄贈していただいたものも多い。永久保存かつ禁帯出資料として大切に保管しているので、特定の産別の歴史を辿ることも可能である。また、労働組合機関誌・紙も約100種所蔵している。雑誌はともかく、新聞は、一般紙と同じく綴じられていないものがほとんどであり、版型も大きいので、製本するのも困難である。一定期間閲覧室に保管し、所蔵ボックスが満杯になると封筒にいれて別置している。しかし、なにぶん、袋に入れているので、閲覧するのが少しやっかいであると同時に、酸性紙の劣化の問題もある。そこで、当館では、スタッフの提案を受け、中性紙保存箱に入れて保管することにした。折角の貴重な資料だからである。そのような特長をもつ当館であるが、日本労働協会の努力もあってか労使関係は安定し、これらの豊富な資料を利用する労使関係研究者が少なくなっているのは皮肉である。研究者のみならず、労使関係の当事者も当館の労使関係資料を大いに利用していただくことを願っている。

図書館長のつぶやき

 古本がひそかなブームらしい。鼻眼鏡をかけたオヤジに値踏みされるような昔ながらの古本屋が扱う古本もあるが、新古本という訳の分らぬ、出版物流通の鬼っ子のような本もある。さらに、買い手と売り手が交互に役割を交換しながら何回も両者の間を行き来する古本もある。古本には独特の臭いがつきまとうが、古本買いを楽しむマニアも生息しているようだ。そのせいか、『古本通』(樽見博著)や『古本買い十八番勝負』(嵐山光三郎著)というような一見あまり売れそうもない本も出版されている。これらの本には古本探索の楽しさが生き生きと綴られている。小子もほぼ毎週近所の古本屋巡りを週末の予定に組み込んでいる。古本屋を訪れる楽しみは、意外な本が見つかることと、値段の安さである。店の前には、客を店に引き込むための超特価本がおいてあるが、その中に長年探し求めていた本が見つかった時のうれしさは格別である。見つけた喜びと値段の安さで二重の喜びとなるからである。ただ現在は、町の古本屋は次第に姿を消しつつあり、大手古本屋チェーンが跋扈している。これらの古本屋では、一律の値付けがされており、掘出し物を見つける楽しみがないのは残念である。また、現在では、町の中を歩き回らなくとも、古本屋サイトが充実しており、新刊書店では入手困難な本の収集には便利な時代になった。当館も1%台ながら、紛失図書がある。紛失を完全に防ぐことはできないので、補充するためにこれらのサイトの利用も考えざるをえない。仕事の上でも古本屋巡りの機会はなくなりつつあるのである。