2008年2月の図書紹介(2007年12月受け入れ図書)

1.秋山智久著『社会福祉専門職の研究』ミネルヴァ書房(ⅹ+305頁,A5判)

 著者によれば本書は、社会福祉士等の社会福祉専門職の歴史、理論、政策、実態を探求し、当該分野研究の「実証的基盤」の提示という学問的目的と、社会福祉の向上という実践的目的を持っているという。壮大な目的を持つ研究書であるが、著者が実施した25年間に及ぶ、5年毎6回の大規模調査も貴重な実績といえる。

2.埋橋孝文編著『ワークフェア』法律文化社(ⅵ+273頁,A5判)

 母子家庭や就職困難者等、社会から排除されがちな人々を統合するための一つの試みである、雇用志向的社会政策=ワークフェアを、国際的な動向と日本での政策論議等の両面から分析している。「働く貧民」問題は、労働と福祉の連携の下に1950年代にも研究されていたというが、まさしく歴史は繰り返されているのである。

3.中野育男著『スイスの労働協約』専修大学出版局(ⅳ+265頁,A5判)

 スイスの集団的労働関係は、協約交渉における交渉範囲、交渉事項の決定等の面でわが国の労働関係を活性化するための有益な示唆を提供するとしているが、前著『スイス労働契約の研究』と併せ、分権的で弾力的であるとされるスイスの個別的・集団的労働関係における特徴が解明され、日本の参考となるであろうか。

4.小池和男編『国際化と人材開発』ナカニシヤ出版(244頁,A5判)

 本書は、小池編者の下に結集した実務家等の丹念で詳細な聞き取り、アンケート等に基づく、海外子会社社長、海外派遣者等の人材形成についての単行書である。日本で流布している常識を事実に基づき検証している。編者によれば、珠玉のような研究を集めたものであるが、執筆からかなり経過しているのが悔やまれる。

5.小杉礼子編『大学生の就職とキャリア』勁草書房(ⅷ+216頁,B6判)

 大学生の就職環境は著しく改善されたとはいえ、学卒無業者の水準にめだった変化は見られない。本書は、当機構刊行の労働政策研究報告書No.78『大学生と就職』を再編集したものである。就職活動の問題点と必要とされる大学・関係機関の支援のあり方、職業能力形成における大学の役割とその課題等が分析されている。

6.岡澤憲芙他編『福祉ガバナンス宣言』日本経済評論社(327頁,B6判)

 所得・資産格差が拡大し、従来の日本型福祉が動揺しているが、本書は、現代福祉国家の主要課題について、個性的研究者で構成された連合総研研究会の成果である。市場と社会保障の連携によって社会不安に対処し、持続的な発展を実現する方途を探っている。福祉国家再編成の理念の具体化は、今後に残された課題である。

  1. 福原宏幸編著『社会的排除/包摂と社会政策』法律文化社(ⅵ+269頁,A5判)
  2. 脇田滋著『労働法を考える』新日本出版社(238頁,B6判)
  3. 牧里毎治他編著『協同と参加の地域福祉計画』ミネルヴァ書房(ⅶ+275頁,A5判)
  4. 金田秀治他著『トヨタ式ホワイトカラー革新』日本経済新聞出版社(249頁,B6判)
  5. 浅野慎一編著『増補版 日本で学ぶアジア系外国人』大学教育出版(ⅹⅳ+531頁,A5判)
  6. マイケル・マーモット著『ステータス症候群』日本評論社(ⅷ+335頁,A5判)
  7. 「少数派労働運動の軌跡」編集委員会著『少数派労働運動の軌跡』金羊社(293頁,B6判)
  8. NPO法人再スタート仕事センター著『正社員化最前線』本の泉社(175頁,B6判)
  9. ニッセイ基礎研究所著『定年前・定年後』朝日新聞社(198頁,B6判)
  10. 雨宮処凛著『プレカリアート』洋泉社(238頁,新書判)

今月の耳より情報

 当館の選書には全役職員が参加しているが、特に研究員は深く選書過程に関わっている。日本国内だけでも、毎日何百冊と出版される図書の中から、当館が所蔵すべき図書を選択するのは並大抵の知識・能力ではかなわない。「労働政策研究及び研修の効果的な推進等を支援する」(当機構中期計画)ためにはどのような蔵書構成が望ましいのか、選書基準の明確化が求められていると言える。しかし、その基準が明確になったとしても資料購入予算にも配架スペースにも限りはある。同じ主題の図書の中でどれを購入するか選択せざるをえない場合もある。和書なら、著者・出版社から所蔵すべきかどうか類推できても、洋書となるとまるでお手上げとなるので、その分野の専門研究員の関与はかかせないのである。現在は、ILL(Inter-Library Loan、図書館間貸出・複写サービス)制度も充実しているので、すべての関連図書を所蔵していなくとも、多少時間がかかることを除けば、研究・研修事業には致命的な障害とはならないだろう。そうすればなおのこと、何を所蔵し、何をILL制度の利用に委ねるかとの判断が重要になってくる。現在のところ、当館のILLサービスの対象は、当機構の役職員等に限定しているが、外部利用者への拡大も検討しなければならないだろう。当面は、お近くの公共図書館でILLサービスを利用されることをお薦めしたい。また、当館が所蔵していない図書で所蔵すべき図書があれば、閲覧室に設置してあるご意見箱「みんなの声」に購入希望をだしていただきたい。ご希望にお応えすることによって当館の蔵書を豊かにできればと願っている。

図書館長のつぶやき

 独立行政法人たる当機構は、監督官庁に設置されている評価委員会によって、事業毎に業績評価がなされる。当館もその一翼を担う「労働情報の収集・整理事業」に関しても、当然、毎年評価が下される。その評価項目として当館は、①貸出冊数②外部来館者数③レファレンス対応件数④複写枚数、を設定しているが、他館の状況を確認するため、先日、専門図書館協議会(専図協)の研究会に参加した。A県立図書館では、当館と同じ上記4項目のほかに、⑤県民向け講演会回数が評価項目に付加されていた。一方、B独立行政法人図書館では、複写枚数を評価項目としては用いるが、マイナスの指標としているのが新鮮な驚きであった。それは、B図書館では所蔵資料のディジタル化を進めており、その作業が順調に進めば複写枚数は減少するはずとの論理による。しかし、B法人が作成した資料を中心に公開・提供しているからこその指標であろう。ただ、このB図書館では、図書館事業は主力事業ではないので、外部評価の対象ではないとのことであった。各図書館の置かれている状況によって、評価項目や評価の仕方も異なるが、公的資金で運営されている図書館であれば、効率的な運営に心がけるのは当然のことである。当館に課せられた使命達成状況を的確に把握するためどのような評価項目を設定すべきなのか。先月号でご紹介した専図協の秋季セミナーでも話題になったが、大方は、前述の4項目が定番のようである。その中でも貸出冊数とレファレンス対応件数が中心になる。どのようにしたら問い合わせ対応能力を向上させることができるか、模索は続く。