2007年12月の図書紹介(2007年10月受け入れ図書)

1.本田一成著『チェーンストアのパートタイマー』白桃書房(ⅷ+213頁,A5判)

 パートタイマーの質的・量的な基幹化の実態と労使関係の動向を、チェーンストア業界を題材に深く掘り下げている。非正規労働者の比率の増大が、パートの基幹化や労使関係にどのような影響を及ぼしているのか。著者は、アンケート調査と恩師ゆずりの事例調査に基づき労働市場の予測に不可欠な課題に取り組んでいる。

2.古郡鞆子編著『非典型労働と社会保障』中央大学出版部(ⅴ+212頁,A5判)

 本書は、労働市場の構造変化という社会経済環境の中で、非典型労働者の労働市場、家庭、企業における実像を把握し、非典型労働者の社会保障のあり方を模索している。労働者保護の検討、典型・非典型概念を越えた公平・効率的な社会保障制度の探求は、格差拡大、ワーキングプア増大の中、喫緊の課題となっている。

3.高田敏他編『ホームレス研究』信山社(ⅷ+225頁,A5判)

 釜ヶ崎を中心とする大阪のホームレスや日雇労働者の生活、健康、労働の実態を学際的に明らかにしている。居住福祉は基本的人権であるが、日本ではなぜかその実現が阻まれている。本書は実態調査に基づき対策を提言しているが、故郷と擁護者の喪失者であるホームレスの社会的排除の絶滅に向けた試みともなっている。

4.平沼高他編著『熟練工養成の国際比較』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+285頁,A5判)

 英米独仏における製造業の熟練工養成の実情を国際比較し、徒弟制度を再評価するとともに、企業内教育をキャリア形成の見地から問い直している。さらに、青年の経済的・社会的自立のため、政府、労使等が支援の諸制度を確立すべきであるとし、その中心に徒弟制度を位置づけている。徒弟制度は蘇生するであろうか。

5.染谷俶子編著『福祉労働とキャリア形成』ミネルヴァ書房(ⅳ+248頁,A5判)

 本書は、介護サービスの質を決定づける、従事者の専門教育、能力開発、人材確保等と幅広く論じている。高齢社会をいかに乗り切るかは、現代日本の課題の1つであるが、きめ細やかな対応が可能な十分な量の介護労働力の確保は、従事者の生きがい保持とともに、最晩年の我々の人生に影響を与える致命的課題である。

6.和田勝編著『介護保険制度の政策過程』東洋経済新報社(ⅹⅴ+589頁,A5判)

 社会保障の一環として公的介護保険制度を実施している日・独・ルクセンブルクを対象に、立法の経緯、制度の仕組み、制度実施後の問題点、等について比較研究、各国の介護保険制度も詳細に報告している。総頁589頁におよぶ大著だが、参考資料が二百頁余を占めており、資料集としての意義が濃い図書となっている。

  1. 孫田良平監修『賃金の本質と人事革新』三修社(303頁,A5判)
  2. 全国民主主義教育研究会編『格差社会と若者の未来』同時代社(242頁,B6判)
  3. 小室淑恵著『ワークライフバランス』日本能率協会マネジメントセンター(267頁,A5判)
  4. バーバラ・エーレンライク著『捨てられるホワイトカラー』東洋経済新報社(313頁,A5判)
  5. 水町勇一郎著『労働法』有斐閣(ⅹⅴ+445頁,A5判)
  6. 伊丹敬之著『経営を見る眼』東洋経済新報社(269頁,B6判)
  7. 林文夫編『経済停滞の原因と制度』勁草書房(ⅷ+348頁,A5判)
  8. 大谷拓朗他著『偽装請負』旬報社(155頁,B6判)
  9. 早川和男他編『ホームレス・強制立退きと居住福祉』信山社(ⅹⅴ+206頁,B6判)
  10. 小田晋監修『産業人メンタルヘルス白書 2007年版』社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所(210頁,A4判)

今月の耳より情報

 プロジェクト研究シリーズ紹介の最終回は、No.3『これからの雇用戦略』です。「誰もが輝き活力あふれる社会を目指して」という魅力あふれる副題がついています。「勝ち組・負け組」「ワーキングプア」「格差」というようなすさんだ言葉があふれる社会の中で、ほんのりと心温まるものがあります。本書もまた、これまでに紹介した図書と同じく、2,100円という値段の割に、もり沢山の内容となっています。その内容も、全員参画型社会、就業促進、就業の質、キャリア権、ワークライフバランス、均衡処遇、政策評価、そして各国の雇用戦略というようにバラエティーにも富んでいます。企業は、「失われた十年」の間に、必要に迫られ、短期的な視点から雇用の最適ポートフォーリオを模索、試行錯誤を重ねてきました。個々の企業が現状で最適と思って採用した雇用形態は、日本全国のすべての企業を集計してみたとき、パート等の非正規雇用と派遣・請負等の非雇用労働者の拡大という、良好な雇用機会の減少という姿として現れました。その結果、若年労働者のみでなく、中高年労働者においても不安定雇用が増大し、生活保護費以下で働く労働者も多数を数えます。将来に夢をもてない労働者が増えてしまったのです。本書は、そのような状況の中で、誰もが労働生活の未来に夢をもつことによって輝き、自分の労働能力がいかんなく発揮されることによって活力あふれる社会となる戦略を示しています。このような研究こそ、当機構の独壇場といえ、大学や民間シンクタンクではできないものではないでしょうか。明るい未来を信ずる本書を是非ご一読ください。

図書館長のつぶやき

 図書館での多様な問い合わせに対応するためには、色々な能力が必要とされる。図書や雑誌などの資料を必要とする利用者へ仲介すること、あるいは、調べ物・探し物のお手伝い、がレファレンス・サービスの定義であることから、それらについて十分な知識を持ち合わせていること、資料の探し方のノウハウが優れていること、が最低限必要とされる。さらに、関係機関や当該分野の専門家の紹介、簡易事実調査もレファレンス・サービスに含まれることから、これらについての知識も必要となる。しかし、以上のような知識やスキルだけでは十分ではない。レファレンス・サービスには当然ながら問い合わせる人とそれに答える人がおり、双方が呼応することによって成立する行為だからである。コミュニケーションが成り立たなければレファレンス・サービスは進行しないし、必要とされる資料・情報が的確に渡らないおそれもある。さらに、問い合わせを受けやすい雰囲気や環境もあるであろう。カウンターに座っていても作業に没頭していれば、利用者は声をかけるのを躊躇するし、カウンターの椅子が1つであれば、自分が独占していいものか、悩んでしまうかもしれない。そのため、スタッフがフロアで作業をしているときに問い合わせをうけることも多いという。自分自身大いに自戒するとともに、十分な知識・スキルを身につけ、自信をもってレファレンスに対応できるよう、そしてレファレンスを引き出せるよう、研鑚を積んでいきたい。読書の秋、大いに当館をご利用いただきたい。きっとカウンターにはにこやかに微笑んだスタッフが座っているであろう。