2007年11月の図書紹介(2007年9月受け入れ図書)

1.野村正實著『日本的雇用慣行』ミネルヴァ書房(ⅹⅲ+453頁,A5判)

 製造業・男性・肉体労働者に対象を限定して、日本的雇用慣行は終身雇用と年功制がその特徴であると結論づけてきたこれまでの大方の研究に対し、著者は、女性や職員も加えた日本的雇用慣行の全体的特徴は、学歴別・性別に仕切られた経営秩序であると断定している。全編書き下ろしというのも、近年稀な快挙である。

2.NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班編『ワーキングプア』ポプラ社(230頁,B6判)

 NHKスペシャルで2回に渡って放映された「ワーキングプア」の取材記録である。若者や女性、高齢者、地方や中小企業の厳しい状況が、具体的なケースに基づき克明に描写されている。ワーキングプアに蝕まれた日本の現状は、涙なしには読み進められないほど悲惨である。一日も早い抜本的政策対応が望まれている。

3.田中耕一他編著『社会調査と権力』世界思想社(ⅴ+234頁,A5判)

 社会調査、さらには社会学的な知のあり方を考える、という問題意識に基づき、10人の社会学者が論考を寄せている。社会調査は、完全ではありえない情報収集手段の一つであるが、著者たちは、社会調査の危機に対して知識社会学的な抵抗を試みている。やはり社会学的知を獲得するための有力な方法であるからである。

4.佐々木衞編著『越境する移動とコミュニティの再構築』東方書店(ⅹⅷ+270頁,A5判)

 送出し国と受入れ国の経済格差に基づく国際労働力移動は、日本においては労働「問題」を引き起こしているが、本書は、アジアや欧米における越境する外国人の、移動のネットワーク、エスニシティー、教育等、外国人の社会生活に焦点を合わせた分析を行っている。日本在住外国人の社会的統合の参考となるであろう。

5.奥島孝康監修・著『企業の統治と社会的責任』金融財政事情研究会(18+636頁,A5判)

 企業の社会的責任(CSR)論がメディアを賑わしている。本文636頁に及ぶ本書は、コーポレートガバナンス(CG)とCSRを、英米独仏韓との国際比較も交えて、学際的に分析している。CGとCSRはサステナビリティを共通基盤としており、CSR経営はサステナビリティ経営として統合される、としている。

6.柴田昌治著『なぜ社員はやる気をなくしているのか』日本経済新聞出版社(233頁,B6判)

 本書は、「内発的動機」「企業風土」等キーワードとして、働きがいを生む企業体質創造の秘訣を披露している。成果主義賃金は、モラールを維持する衛生要因とはなっても、促進要因とはなりがたい。社員のやる気をとり戻すためには、従業員の内発的動機を喚起し、それを適切に育成していくことが肝要なのであろう。

  1. 朝日新聞「ロストジェネレーション」取材班著『ロストジェネレーション』朝日新聞社(240頁,B6判)
  2. 岩城完之他編著『企業社会への社会学的接近』学文社(ⅷ+228頁,A5判)
  3. 小室淑恵著『ワークライフバランス』日本能率協会マネジメントセンター(267頁,A5判)
  4. 加藤榮一著『福祉国家システム』ミネルヴァ書房(ⅶ+395+17頁,A5判)
  5. 盛山和夫著『年金問題の正しい考え方』中央公論新社(2734頁,新書判)
  6. NHKスペシャル取材班著『ひとり誰にも看取られず』阪急コミュニケーションズ(235頁,B6判)
  7. コクラス・ルーマン著『福祉国家における政治理論』勁草書房(ⅲ+183+ⅹⅱ頁,B6判)
  8. 岸宣仁著『職場砂漠』朝日新聞社(215頁,新書判)
  9. 高橋利明著『お母さんのハートを打ったJRのレールマンたち』日本評論社(301頁,B6判)
  10. 鎌田慧著『全記録 炭鉱』創森社(363頁,B6判)

今月の耳より情報

 プロジェクト研究シリーズ紹介の第三弾は、No.四『多様な働き方の実態と課題』である。「雇用・就業形態の多様化」は、労働をとりまく環境の変化に言及するとき、グローバル化、少子高齢化、情報技術の進歩等と並んで必ず紹介されるキーワードの一つであるが、雇用形態または就業形態の多様化が何を意味しているのかは、必ずしも明確でなく、ただ単に、正社員以外の働き方をする労働者の割合が上昇していることを意味している場合もある。本書は、多様な働き方として、非正社員の増大、正社員の多様な働き方、雇用以外の働き方(独立自営とNPO就労)をとりあげ、その実態を分析している。さらに、多様な雇用者の人事管理、法政策まで対象範囲を広げ、最後に、政策課題まで披瀝している政策オリエンテッドな行き届いた構成となっている。秋山真志著『職業外伝』(ポプラ社、二○○五年刊)などをみれば、種々雑多な雇用以外の職業が紹介されているが、本書でもその大枠は把握されていると言っていいであろう。非正社員の労働条件、非雇用とされている独立自営業者の契約内容、NPO就労者の就労条件等、いずれも厳しい現実が認められるが、本書が紹介している正社員の働き方における労働時間管理の柔軟性や在宅勤務制度等に基づく勤務場所の柔軟性、副業の問題などは、労働者にとっても優しい働き方に発展していく可能性を宿している。明るい社会の実現に向けて、労働組合、使用者、行政、ソーシャルセクターが十分協議・連携し、Win-Winの関係となる方策が見つかることを期待したい。その実現に向けて、本書が有効な資料となると確信している。

図書館長のつぶやき

 図書館スタッフの適性とはなにか。どのような知識・能力等をもった人が、図書館サービスにふさわしい人なのか。図書館業務に従事するようになってまる四年が経過したが、馬齢を重ねるばかりで、自分に適性があるか、悩むことが多いのである。図書館にもいろいろな種類があり、適性といってもそれぞれ異なるであろうが、基本的に図書館の業績は、貸出冊数とレファレンスサービス件数で測られるというのが定説のようであるので、これらに対応した知識・能力をもっていることが前提になる。その具体的な中身となると、まず、貸出冊数を増やすためには、研究支援を目的とする労働の専門図書館として、現在解決が望まれている労働関係の研究テーマを把握しておく必要があるだろうし、それに対応した適切な資料を発見する能力も必要であろう。国内の資料については、著者や出版社から適切な資料であるかある程度の類推が可能であるが、海外の資料となるとこちらの能力不足が露呈することになる。レファレンス回答能力についても、いろいろな問い合わせが寄せられるので、幅広い知識が不可欠であるが、複雑な質問に対して、より深い知識も肝要になる。探しもの、調べもののお手伝いをするのがレファレンスサービスだといっても、専門的な知識も欠かせないのである。そうなると、幅広い知識に加え、専門性も必要となるので、本人がその知識を習得していなければ、海外の文献にも目利きができる幅広い人材ネットワークの助けを借りることとなるが、いつの日にか、そのような知識・能力を身に付けたいと望むこのごろである。