2007年10月の図書紹介(2007年8月受け入れ図書)

1.義村敦子著『基礎研究者の職務関与と人的資源管理』慶應義塾大学出版会(ⅹⅱ+210頁,A5判)

 担当職務との心理的な距離である職務関与を、当該概念の測定、パフォーマンスへの影響、職場環境、の3つの視点から分析している。アンケート調査とインタビュー調査に基づいている本書は、研究書には珍しく、実務的な含意も披露、基礎研究者のモティベーションの向上を目指す組織にとっても有益な書となっている。

2.嵩さやか他編『雇用・社会保障とジェンダー』東北大学出版会(438頁,A5判)

 本書は、東北大学のCOEプログラム「男女共同参画社会の法と政策」の一環としての「雇用と社会保障」研究の成果である。平等へのアプローチ、諸外国の雇用・社会保障政策等から構成されている。実力研究者が執筆しているが、今後の研究の進展により日本の雇用・社会保障差別解消の有効な政策提示を期待したい。

3.佐藤厚編著『業績管理の変容と人事管理』ミネルヴァ書房(ⅶ+245頁,A5判)

 企業環境が激変する中、変化の波を直接浴びている家電メーカーは、①グローバル化、②成果重視人事管理、③間接雇用増加、にどのように対応しているのか。ヒアリング調査、文書資料により、業績管理と人事管理の関係を3人の研究者が分析、メガコンペティションに晒されている企業の「選択と集中」戦略を詳述する。

4.大内伸哉著『雇用社会の25の疑問』弘文堂(ⅹⅱ+312頁,A5判)

 紅顔の若手研究者もいつのまにかイタリアワインが似合う実力研究者となり、若者からの労働に関する疑問、基本的な問題等に、裁判例、用語解説も交えて懇切丁寧に答えることにより、著者のユニークな考えを披瀝している。各疑問の最後の結論を流し読みするだけでも、少し賢くなったと思わせる本づくりとなっている。

5.熊沢誠著『格差社会ニッポンで働くということ』岩波書店(ⅹ+260頁,B6判)

 本書は、一貫して望ましい「労働社会」のあり方を追求してきた著者の連続講座講演録を編集したものである。就業形態の多様化、市場万能主義・規制緩和政策が格差社会の成立を加速させたとすると、「個々の労働者の連帯的な試み」は、歴史の歯車を逆転させる力をもちうるのだろうか。労働者の力量が問われている。

6.岩田正美著『現代の貧困』筑摩書房(221頁,新書判)

 ワーキングプア・生活保護が連日マスコミをにぎわしているが、本書は時流に乗ったキワモノの書ではなく、地道に貧困研究に取り組んできた研究者による啓発の書である。近年の貧困の形態である「社会的排除」のように、生存を脅かす貧困が解決されても、「再発見」される貧困解決の努力はやむことはないのだろうか。

  1. 橘木俊詔編『政府の大きさと社会保障制度』東京大学出版会(ⅶ+240頁,A5判)
  2. ジェイ・マクラウド著『ぼくにだってできるさ』北大路書房(ⅷ+280+11頁,A5判)
  3. 沈潔編著『中華圏の高齢者福祉と介護』ミネルヴァ書房(ⅲ+238頁,A5判)
  4. 木下康仁著『改革進むオーストラリアの高齢者ケア』東信堂(ⅹⅰ+212頁,B6判)
  5. 松村高夫著『日本帝国主義下の植民地労働史』不二出版(373頁,A5判)
  6. 古川孝順編『生活支援の社会福祉学』有斐閣(ⅹⅴ+269頁,A5判)
  7. 京極髙宣著『社会保障と日本経済』慶應義塾大学出版会(ⅹⅹ+423頁,A5判)
  8. 渡戸一郎他編著『在留特別許可と日本の移民政策』明石書店(240頁,A5判)
  9. 山田久著『ワーク・フェア』東洋経済新報社(284頁,B6判)
  10. 朝日新聞特別報道チーム著『偽装請負』朝日新聞社(211頁,新書判)

今月の耳より情報

 「JILPTプロジェクト研究シリーズ」紹介第二弾として、『地域雇用創出の新潮流−統計分析と実態調査から見えてくる地域の実態』を取り上げます。本書も、「序章」「おわりに」のほかに全九章からなり、広範囲のテーマをカバーしています。日本経済の景気回復に伴い、地域の失業構造分析から雇用創出分析へテーマがシフトした関係で、内容にも多面性が見られますが、これこそが格差が拡大している日本経済の状況を正直に反映しているのかもしれません。「シャッター通り」は、Wikipediaにも載るようになりましたが、同一県の中でも(鉄道の)駅前の通りの空洞化とロードサイドのショッピング・モールのにぎわいとの二極化が進み、日本の中でも三島と本州中心部の格差が目立っています。地域の均衡ある発展こそが望ましいのでしょうが、雇用・労働面の状況はどうなっているのでしょうか。本書は、雇用・失業の都道府県格差、地域の若年雇用問題、景気回復期の地域格差、職業紹介効率の地域格差、地域の雇用創出の取組、等多彩な内容で構成されています。少々荒削りですが、悲鳴をあげている地域の実情が紹介され、地域のにぎわいを回復する方途が模索されています。今後の地域活性化の重要な参考資料になることでしょう。ご関心のある方は是非手にとっていただき、お気づきの点を、当機構までお知らせください。地域の雇用・失業問題は、当機構の今後五年間の研究計画(第二期中期計画)の主要なテーマとして、継続して設定されており(雇用・失業の地域構造の変革要因に関する研究)、研究が継続されるからです。

図書館長のつぶやき

 先日、「図書館と地域」をテーマとするフォーラムに参加し、「MLA連携」という言葉を仕入れてきたので、ご承知の方もあろうが、ご紹介したい(MLA連携とは、Museum[博物館]、Library[図書館]、Archives[文書館]間の協力関係)。前途多難な図書館の将来像を模索するのに参考となると考えたからである。図書館が収集すべき資料は、図書館法上では、図書館資料と呼ばれるが、主なものは以下の四つである。①文字、②音、③映像、④プログラム、をそれぞれ記録したものである。当館は、音を記録した資料は収集対象とせず、映像・プログラムを記録した資料も積極的には収集していないので、主な収集資料は、単行書・単行本と継続刊行物の文字資料だけである。しかし、文字資料は、インターネット上に氾濫し、ディジタル・ライブラリーさえ夢ではない時代に突入しつつあるので、建物としての、また現物の資料を収集・提供するものとしての図書館の存在意義はかなりおびやかされていることは確かである。紙には紙のよさ(一覧性やポータブル性などの利便性、情報の保存年限を自館の都合で決定できる主体性[ネット上の情報は、いつ削除されるかわからない])があるが、図書館に博物館や文書館としての機能をあわせもたせることによって、あるいは、博物館・文書館と連携することによって、利用者の利便性を向上させる必要がある。生の業務資料や特定造形物の収集等によって機能を拡大することなどが考えられる。図書館人も、ダ・ビンチほどではないとしても、万能人、マルチな能力・感覚が必要とされる時代になってきたのである。