2007年9月の図書紹介(2007年7月受け入れ図書)

1.久場嬉子編著『介護・家事労働者の国際移動』日本評論社(x+250頁,A5判)

 単純労働者の受入れに加え、特定専門職労働者の受入問題が再燃している。本書は、保育・介護・家事労働者等の国際移動を、エスニシティ、ジェンダーをキーワードにして考察するとともに、米国、北欧等海外の豊富な事例も加味して実態把握に努めている。介護労働力問題は、高齢社会である日本の喫緊の課題である。

2.岡本祥浩著『居住福祉と生活資本の構築』ミネルヴァ書房(viii+231頁,A5判)

 本書は、「生活資本」(生活の基盤である住居の確保と、人間としての暮らしの保障)概念をもとに、生活水準向上実現の方法を検討している。生活習慣病の蔓延と長寿化が進む中での生活様式等の変化が、新たな住宅問題等を引き起こし、生活資本の再構築が必要となっている。労働力再生産の観点からも重要な課題である。

3.日本弁護士連合会編『検証 日本の貧困と格差拡大』日本評論社(ix+320頁,A5判)

 日本の生存権保障はまだ不十分との立場にたち、貧困問題、特に生活保護等の実態を把握するとともに、セーフティネット拡充の取組みと独英韓の現状を紹介し、弁護士として、貧困の連鎖を断ち切る政策課題を提示している。豊富なデータ、裁判例などを盛り込んだ、日本弁護士連合会第49回人権擁護大会の成果である。

4.小峰隆夫他編『人口減・少子化社会の未来』明石書店(269頁,A5判)

 高齢化対策も十分でないのに、政府見通しより1年早く始まった人口減少への対応は、焦眉の急の課題となっているが、雇用・労働、社会保障等に及ぼす影響は計りしれない。火の粉が眉から頭髪に飛び広がる前に、生活者の視点からの学際的研究の成果である本書を始めとして、実効性のある研究成果の出現を期待したい。

5.神尾京子著『家内労働の世界』学習の友社(430頁,A5判)

 本書は、家内労働者の組織化や現行法制の活用等を強調した現実的実践者でもある故神尾氏の実践的研究論文、随想等より構成された著作集である。障害にもかかわらず、志をもって家内労働研究に一生を捧げた氏の存在は、現実的利益を求めて右顧左眄する研究者が多い日本の学界での一つのモデルともなるであろう。

6.デヴィッド・マースデン著『雇用システムの理論』NTT出版(xviii+378頁,A5判)

 原著は1999年の出版だが、現行の雇用システムにも適用できると、著者・翻訳者は自信を見せている。演繹的に導出された雇用システム、職務・職能等の雇用ルールは、各国各々の特徴を示しているが、米国と日本のシステムには近接化が見られるという。グローバリゼーションは、システムの収斂をもたらすのだろうか。

  1. 丹下博文著『企業経営のグローバル化の研究』中央経済社(2+7+279頁,A5判)
  2. 小林美希著『正社員になりたい』影書房(180頁,B6判)
  3. 橋本真由美著『お母さん社長が行く!』日経BP社(251頁,B6判)
  4. 尼鋼会「尼鋼争議」編集委員会編著『尼鋼争議』アットワークス(183頁,A5判)
  5. 中津孝司編著『中小企業と人材育成』創成社(vii+174頁,A5判)
  6. 大木啓介編『公共政策の分析視角』東信堂(xiii+189頁,A5判)
  7. 渡辺峻著『「組織と個人」のマネジメント』中央経済社(3+8+263頁,A5判)
  8. 秦尭禹著『大地の慟哭』PHP研究所(478頁,B6判)
  9. 有賀敏之著『グローバル企業再編』同文舘出版(8+253頁,A5判)
  10. 松本憲嗣著『アメリカの企業とは』東京図書出版会(407頁,B6判

今月の耳より情報

 先月号で当機構が総力をあげて研究した成果を「プロジェクト研究シリーズ」として出版したことを紹介したが、今後折をみて各巻の内容を紹介するとともに、関連した管見を披露していく予定である。今月は現在脚光を浴びているワーク・ライフ・バランスを主題とするシリーズNo.7『仕事と生活-体系的両立支援の構築に向けて』をとりあげたい。本書は、序章、終章を含めて5部17章より構成されている。少々、部・章構成が煩雑であるが、逆に言えば、内容が盛りだくさんであるということでもある。基本的には、結婚、出産、育児、介護と仕事との関係を分析しているが、女性のM字型就業構造、在宅労働の可能性、男性の家事・育児分担、地域資源との関係等、ライフコースを通して重要な問題を取扱っている。人間として「生活が第一」であり、労働生活とともに、労働以外の生活の充実が人生の充実とイコールとなる。これまでは、仕事人間、会社忠誠心が評価されてきたが、日本も敗戦時夢見た豊かな社会が実現し、仕事一途でない生活も構想できるようになった。仕事(賃金)は生活の経済的基盤であるが、同時に、仕事そのものに生きがいを感じる人も大勢いるので、仕事中心の生活に他人がとやかく言う筋合いではないが、仕事以外の生活の充実をはかることが可能になったことは、確かに歴史の進歩と言えるであろう。その進歩を実りあるものにするために、本書、本シリーズを有効に役立てていただければ幸いであり、きっとそのようになることを小子自身も確信しているところである。

図書館長のつぶやき

 先日、東京都図書館協会の講演会、元『ユリイカ』編集長歌田明弘氏の「本の将来はどうなるか−デジタル化する書物」に出席した。専門図書館界では、図書館自体の閉鎖・縮小が頻出しているが、はたして本の将来がどうなるか、興味があったからである。Googleのデジタル・ライブラリー事業が喧伝されているが、実際はどこまで進んでいるのであろうか。正直なところ、全世界の図書を網羅することなど夢のまた夢だと高をくくっていたが、現在の技術力では、1台で1時間に2400ページの本のスキャンができるという。小規模な図書館ならその可能性が見えてきたといってもいい。大量に機械を購入できるところであれば、なおさら現実味を帯びてくる。例えば、世界最大の図書館である米国議会図書館が所蔵する1億冊の本を、1冊240ページとして、3年でデジタル化するためには400台の機械を導入すればいいことになる。1台1000万円として40億円、人件費を合わせたとしても、Googleの財力をもってすればわけないであろう。問題は、著作権をどうクリアするかであるが、米国にはオプトアウト制度(クレームがつかないかぎり実行可能)がある。そうなると財力のあるところがすべての図書をサーバに収納し、われわれはサーバを所蔵する神のごとき人・会社から図書をわけ与えてもらうしもべのごとき存在になる。まさしく『1984年』の世界である。神に都合の悪い図書は出回らなくなるだろうが、紙の手触り、インクの匂いもなくなってしまう。たとえ書物に催眠剤としての効能しかないとしても、できれば紙の書物のない世界は御免こうむりたいものである。