2007年8月の図書紹介(2007年6月受け入れ図書)

1.稲上毅他編『労働CSR』NTT出版(x+298頁,A5判)

 最近またもや企業不祥事が続発し、その社会的責任(CSR)が注目されている。企業は社会的な存在であり、CSRを果たすことは当然であるが、一方の当事者である労働組合の責任も大きい。本書は、アンケート調査や聞き取り、研究メンバー間の綿密な討議によって、誠実に労働CSRの問題点を解明しようとしている。

2.奥西好夫編『雇用形態の多様化と人材開発』ナカニシヤ出版(228頁,A5判)

 本書は、社会人大学院生の修士論文を主題別に編集した「シリーズ日本の人材形成」の3作目であり、雇用・就業形態の多様化に関する事例研究論文を収めている。障害者雇用や労働力の非正規化・外部化等のテーマを扱っているが、現場の社会人の問題意識が大学院教育を介して、優れた論文として現れているだろうか。

3.本田由紀編『若者の労働と生活世界』大月書店(365頁,B6判)

 若者の労働を、若手社会学者13人が分析している、若者による若者研究の書である。若者の未熟さ、必死さに共感する、もう若くない編者が、労働、教育等に関する議論を編集、いつの時代も、若者は異端的存在であるが、編者のような媒介者を通じてこそ、大方の大人も、若者理解のとば口に立つことができるのである。

4.風間直樹著『雇用融解』東洋経済新報社(xi+304頁,B6判)

 良好な雇用機会が新規学卒正社員に限定されている日本では、非正社員の就労条件はかなり悲観的である。さらに、グローバル競争は、安い労働力を求める企業側の欲望を駆動させた。本書は、若き記者による全国の非正規雇用現場の記録である。この暗澹とした状況を「若者再チャレンジ」政策は打破できるであろうか。

5.辻勝次編著『キャリアの社会学』ミネルヴァ書房(vii+269頁,A5判)

 バブル崩壊前の「会社本位のキャリア形成」から、崩壊後の市場競争下での「自己責任によるキャリア形成」への変化を、大企業労働者からのライフストーリー聞き取りと各社資料に基づき、個人の主体性の面から分析、基幹部分と周辺部分の格差が拡大しているとして、そのような企業の持続可能性に疑問を呈している。

6.天笠崇著『成果主義とメンタルヘルス』新日本出版社(174頁,新書判)

 過労死・過労自殺をももたらす長時間労働と、近年の成果主義が重なったとき、労働者はどのような心身状態に陥るのか。企業からは高い労働努力を求められながら、労働者のコントロール度が低く、努力も報われない状況は悲惨である。成果主義等との関係を解明しようとしている、小著ながら説得力ある著作である。

  1. レナード・ショッパ著『「最後の社会主義国」日本の苦闘』毎日新聞社(398頁,B6判)
  2. 佐喜真望著『イギリス労働運動と議会主義』御茶の水書房(xiv+358+iii頁,A5判)
  3. 坂脇昭吉他編著『現代日本の社会政策』ミネルヴァ書房(viii+332頁,A5判)
  4. A.エバース他編『欧州サードセクター』日本経済評論社(xii+368頁,A5判)
  5. 広井良典他編著『中国の社会保障改革と日本』ミネルヴァ書房(viii+329頁,A5判)
  6. 馬場房子他著『「働く女性」のライフイベント』ゆまに書房(v+251頁,A5判)
  7. 塩見佳代子編著『英語deハローワーク』文理閣(217頁,A5判)
  8. 千野信浩著『できる会社の社是・社訓』新潮社(190頁,新書判)
  9. 阿部真大著『働きすぎる若者たち』日本放送出版協会(204頁,新書判)
  10. 本間義人著『地域再生の条件』岩波書店(xiv+222頁,新書判)

今月の耳より情報

 当機構の独立行政法人としての第一期の中期計画期間が、この三月末に終了した。○三年一○月からの三年半の研究成果は、「プロジェクト研究シリーズ」全八巻として刊行された。仮製本ながら、二○○頁を超えるA五判の各巻が税込二一○○円という大特価である。当機構のホームページ(HP)でも全文公開しているが、研究機関や図書館等では、購入・所蔵していただければ幸いである(「プロジェクト研究シリーズ」についての詳細は、当機構のHP[URL http://www.jil.go.jp/]参照)。テーマも、No.1地域雇用創出、No.2労働条件決定システム、No.3雇用戦略、No.4就業形態の多様化、No.5成果主義と長期雇用、No.6教育訓練、No.7仕事と生活の両立、No.8中高年再就職支援、と多様・多彩である。プロジェクト研究のテーマは、厚生労働大臣から指定されるので、厚生労働省が政策形成上重要だと考える労働関係のテーマが当機構に研究指示されることになるが、研究成果の執筆は、当機構の研究員だけによるものでなく、各学問分野・専攻を網羅し、労働研究の第一人者で構成される特別研究員やその他の外部研究者の研究参加・執筆協力も得ている。とにかく多方面に及ぶ研究成果であるので、各巻から関心のあるテーマの論文をつまみ食い的にビックアップするという読み方も有用であろう。いずれにしても、現在解決が期待される課題のための労働政策に適切に反映されるとともに、新たな労働政策課題も豊富に含むであろう当シリーズが「ホットケーキのように飛ぶように売れ」洛陽の紙価ならぬ「東京の紙価を高める」ことを祈りたい。

図書館長のつぶやき

 特に公共図書館で問題になっているようだが、書き込みをする、マーカーで印をつける、ひどいものではほしいと思った箇所を切り取る、などといった、図書館所蔵の図書の汚損・破壊がときおり新聞紙上で紹介されることがある。本をまたいでもいけないと教えられた世代にとっては、痛ましい限りである。本に対する、あるいは著者の労苦に対する尊敬の念が薄れているのだろうか、それとも、他の利用者のことなど念頭にない、現在の社会をおおう自己中心的な行為のあらわれだろうか。汚損・破壊は、論外の犯罪行為だが、期限内に本を返さない延滞行為も犯罪的といえる。他人の利用を妨げるとともに、返却する気持ちがないのであれば、窃盗とも言えるからである。ではどうしたら汚損・破壊を防ぎ、延滞者から速やかに図書の返却をしてもらえるだろうか。悲しいかな人間は(勿論小子を含めてのことだが)、「公共の図書を自己中心的に使う、延滞しても気にならない」DNAをいくらかずつはもっているのではないだろうか。そのDNAをある限度を超えてまとまってもっている人が犯罪(的)行為に走るのではないか。いくら返却を督促しても意に介さない人が多すぎるので、そのような妄想にかられてしまう。犯罪を未然に抑止するためには、監視型社会を作り上げるしかなく、それはコスト面はともかく、息苦しい世の中になるので願い下げにしたいが、啓蒙活動だけでは多分むりがあるのであろう。コストと不具合の甘受のせめぎあいとなるが、また「水清ければ魚住まず」ともいうが、汚損・延滞のない図書館というのは、「百年河清を待つ」ようなものなのであろうか。