2007年7月の図書紹介(2007年5月受け入れ図書)

1.吉田誠著『査定規制と労使関係の変容』大学教育出版(iv+196頁,A5判)

 1950年代前半、自動車産業の産別組織である「全自」の賃金政策を、傘下の日産分会は、生活保障的電産型賃金政策から同一労働同一賃金という原則に基づく展開を試みた。本書は、賃金配分の査定規制という側面まで進んでいった日産分会の運動を、当事者からの聞き取りと当時の資料から丹念に再構成した力作である。

2.吉田容子著『地域労働市場と女性就業』古今書院(iii+283頁,A5判)

 労働市場への女性労働力の参入・退出に関する経済学的・社会学的研究論文は枚挙にいとまがないが、経済地理学とジェンダー視点を2つながら含んだ研究は珍しいのではないだろうか。内外の研究動向と2つの過疎山村の事例研究を含む本書は、労働市場という理論上の世界から、ビジブルな世界に我々を導いてくれる。

3.都筑学著『大学生の進路選択と時間的展望』ナカニシヤ出版(iv+182頁,A5判)

 三つの異なるコーホートに属する著者所属の大学生500人を対象に3年間の継続調査によって、進路選択の準備を進めることで将来目標が明確化し、肯定的な時間的展望が形成されることを明らかにしている。大学生心理学を専攻する著者の当然過ぎる結論であるが、積極的な進路選択だけが未来を開く鍵なのであろうか。

4.藤本茂著『米国雇用平等法の理念と法理』かもがわ出版(327頁,A5判)

 フリーター、非正規社員の増加に伴い、日本も雇用格差社会に突入した。歴史的経緯に基づく人種差別、根強い性差別に加えて、雇用差別が明確化したのである。米国雇用平等法を手本として著者は、職種概念に基づきながら、社会的公正に裏打ちされた平等概念によって描かれる雇用平等社会の実現を真剣に望んでいる。

5.大野昭彦著『アジアにおける工場労働力の形成』日本経済評論社(v+302頁,A5判)

 アジアには数十の国が帰属する。「工場労働力」といっても、到底「アジア」と一括りするほどの労働内容の共通性は存在しないであろう。その中で本書は、労務管理と職務意識を基礎概念として、ASEANとインド亜大陸の6カ国の工業化の下での労務管理戦略の変容を、各国の地道な調査により明らかにしている。

6.有村貞則著『ダイバーシティ・マネジメントの研究』文眞堂(xvii+248頁,A5判)

 基本的人権上、性や人種にかかわらず自由に構成された労働力をもつ職場が望ましいが、経済的に競争優位となるかは予断を許さない。政治的に望ましく、その可能性が想定されるのであれば実験してみる価値はあると、在米日系・在日米系企業の調査により、ダイバーシティ・マネジメントの必要性を著者は説いている。

  1. 上村千賀子著『女性解放をめぐる占領政策』勁草書房(x+262頁,A5判)
  2. 井上雅雄著『文化と闘争』新曜社(516頁,A5判)
  3. 西成田豊著『近代日本労働史』有斐閣(vi+378+xiii頁,A5判)
  4. 欒斌著『技術移転・発展と中核能力形成に関する研究』大学教育出版(xv+409頁,A5判)
  5. 橘木俊詔編『日本経済の実証分析』東洋経済新報社(x+314頁,A5判)
  6. 河西宏祐著『電産の興亡』早稲田大学出版部(vi+461+9頁,A5判)
  7. 葛文綺著『中国人留学生・研修生の異文化適応』溪水社(vii+143頁,A5判)
  8. 中川清著『現代の生活問題』放送大学教育振興会(286頁,A5判)
  9. 吉田美喜夫著『タイ労働法研究序説』晃洋書房(x+376+9頁,A5判)
  10. 村田毅之著『労使紛争処理制度』晃洋書房(vi+235頁,A5判)

今月の耳より情報

 本欄でも何回か紹介させていただいたが、当館では、購入・寄贈等で受け入れた全資料から、労働文献目録と蔵書、調査研究成果、論文の3つの文献関係データベース(DB)に収録する情報を作成、インターネットを通じて一般提供している。蔵書DBは文字通り、当館が所蔵している14万6千冊の図書のDBであり、書名、編著者名、出版社名、分類等の書誌的情報と貸出状況・請求記号等の所蔵情報で構成されている。調査研究成果DBは、いわゆる白表紙(報告書)のDBであり、報告書タイトル、研究参加者等の情報のほかに、当館作成の要旨や目次を掲載している。特定テーマの報告書は、タイトル、著者等から蔵書DBでも検索できるが、調査研究成果DBでは、要旨・目次内容まで検索対象としていることから、より広範囲に目的の資料を探しあてることができる。現在の登録報告書数は約8,400冊。論文DBは、雑誌や紀要に掲載された論文・記事のDBであり、タイトル、著者、掲載誌のほかに、論文目次を掲載している。現在の登録論文数は約3万2000。国立国会図書館(NDL)のNDL−OPACでも論文検索(雑誌記事索引の検索)は可能であり、NDLは全分野をカバーしているので、採録対象雑誌も、当然一桁多いが、労働分野の専門用語(裁量労働や従業員代表等)で検索すると当館の論文DBの方がヒット数は多くなる。労働とその周辺分野の専門雑誌をほとんどカバーし、日々更新しているからである。是非当館の文献関係DBを使ってみていただきたい。研究支援DBとして十分機能していると確信している。

図書館長のつぶやき

 ドッグイアーと言わずとも、この技術革新が激しい時代、スピードが現代の重要なキーワードになってきている。早い者勝ちであり、早い者がすべてを取る時代である。特許権等の産業財産権はもとより、研究論文等の著作権の世界でもプライオリティーが重要視されることになる。同じような内容の論文をほとんど同時に作成したとしても、発表順序で法的取扱いは天と地ほどの違いとなってしまう。入念に練られた構想の下、長年研究を継続し、畢生の大作として世に問う時代は過ぎ去ってしまい、近年刊行される専門書のほとんどは、過去に発表した論文をまとめたものとなっている。現代のように、多くの専門分野が林立する複雑多様化した学問の世界では、研究者が単独で研究成果を発表することは、経費の面でも、専門知識の面でも困難になってきつつある。政府や研究機関が資金を準備し、プロジェクトを組んでの調査研究が主流となっており、予算執行限度の3月末に報告書が作成され、その後、時間の制約でできなかった分析を深めて専門雑誌や紀要に論文を発表、最後に関連の論文を集めて論文集としての専門書が発行されるのである。そのため、この変化の激しい時代、最後に発表される図書で先行研究をサーベイするのでは、最先端の業績を見逃してしまう危険性が大きい。新たに研究を始めるとき、先行研究の渉猟は必要最低限の作業だが、その渉猟に耐えるだけの文献、特に販売ルートに乗っていない灰色文献の収集が研究機関の死命を制することになる。当館でも、紀要や報告書、ワーキングペーパーの収集に努力しているところである。