2007年5月の図書紹介(2007年3月受け入れ図書)

1.大内伸哉著『労働者代表法制に関する研究』有斐閣(vii+237頁,A5判)

 労働組合の組織率が20%を割って数年が経過したが、8割の未組織労働者の保護はいかにして可能であるのか。憲法上労働組合の再興こそ王道であろうが、代替案として、労働者代表制も有力な選択肢である。著者は労働者代表制の安易な導入には警告を発している。各々の場面を想定した思考実験を重ねる必要である。

2.豊田真穂著『占領下の女性労働改革』勁草書房(ix+266頁,A5判)

 女性労働者は基本的に弱者で保護の対象なのか、それとも男性との平等こそ優先するのか、現在でも議論を呼ぶ問題である。日本占領下のGHQは、戦後女性労働改革をどのように進めようとしたのか。労働基準法等の法律、行政機関、労働運動の側面から、原点に立返って「女性解放」政策の歴史的再評価を試みている。

3.堀有喜衣編『フリーターに滞留する若者たち』勁草書房(vi+190頁,B6判)

 就業のみでなく、家族形成、住宅取得等への若者の包括的な移行の重要性が注目を集めている。非正社員が増大する中で、これらの移行が困難な時代になってきている。本書は、未だ明確には見えていない、若者を巡る社会の基層変化と思われる状況を事実として提示している。若者の将来はいかに切開かれるのであろうか。

4.佐藤博樹他著『人材育成としてのインターンシップ』労働新聞社(xii+200頁,A5判)

 インターンシップは、学生のキャリア教育だけでなく、受け入れ企業にとっても職場の活性化や指導担当者の育成に有効であるという。だとすれば、インターンシップの受け入れは、社会的責任というだけでなく、企業利益追求の面からも活況を呈していくだろうし、学生の適職選択の手段としても定着していくであろう。

5.木下武徳著『アメリカ福祉の民間化』日本経済評論社(xii+250頁,A5判)

 世界的に福祉システムは就労促進の方向に再編されつつあるが、米国でも福祉サービスの民間委託契約が進行している。委託契約によって宗教団体やNPO等の民間団体は、民間であることの良さ、その役割や使命は損なわれないのか。指定管理者制度導入によって公的施設運営の民間化が進む日本の参考となるであろう。

6.青木宏之他著『ホワイトカラーの管理と労働』社会経済生産性本部生産性労働情報センター(264頁,A5判)

 研究者はホワイトカラーに属するのに、ブルーカラー研究に専念し、ホワイトカラー分析は少なかった。方法論が確立されていなかった故といわれるが、若き研究者である著者たちは、インターネットを用いたモニター調査によって、職種を限定し、定量的に成果主義、労働ストレス、労働者の組織間異動を分析している。

  1. 帖佐隆著『職務発明制度の法律研究』成文堂(7+333頁,A5判)
  2. 久谷與四郎編著『ワーク・ライフ・バランスの実践』日本リーダーズ協会(214頁,B6判)
  3. 後藤道夫著『格差社会とたたかう』青木書店(277頁,A5判)
  4. 塚本隆敏著『中国の労働組合と経営者・労働者の動向』大月書店(228頁,A5判)
  5. 野口定久編『福祉国家の形成・再編と社会福祉政策』中央法規出版(vii+257頁,B5判)
  6. 瀧澤仁唱著『障害者間格差の法的研究』ミネルヴァ書房(viii+278頁,A5判)
  7. 伊藤周平著『権利・市場・社会保障』青木書店(vii+373頁,A5判)
  8. 宣賢奎著『介護ビジネスと自治体政策』大学教育出版(xii+432頁,A5判)
  9. マリーナ・ピアッツァ著『母性と仕事に揺れる三十代』ミネルヴァ書房(v+261頁,B6判)
  10. B.H.ワシック他著『ホームビジティング』ミネルヴァ書房(xi+283頁,A5判)

今月の耳より情報

 当館はこの4月から、独立行政法人としての第二次中期計画において、研究・研修援助を主な活動内容とする図書館(調査または研究図書館と呼ばれる)として再スタートすることとなった。体制は前年度をほぼ踏襲したので、すぐに看板どおりに調査図書館となることは困難である。加えて、これまでご利用いただいてきた外部の方へのサービスも継続する必要がある。研究・研修支援にウェイトを置くといっても、外部利用をないがしろにはできない。逆に、外部利用者の要望に応えることによって図書館サービスの質が向上し、ひいては業務支援の向上という好循環が生まれる可能性もある。それではこれからは、調査研究のための図書館として活動するためにはどのように努めるべきであろうか。当館内だけであれこれ悩んでも埒があかないので、図書館勤務の経験をもち、図書館情報学にも精通している専門家の方に今後の方向についてアドバイスをお願いすることにした。当館の視察や職員ヒアリング等の成果がこのたび報告書として提出された。その結論は、印刷物とコンピュータ時代を卒業して高度情報通信ネットワーク時代に対応した図書館に脱皮しなければならないとするものである。ネット上には膨大な有用情報が眠っている。また、情報技術(IT)の進展も著しい。そのような最新のITを駆使して、ネット上の情報を活用できれば、研究支援となることは確かである。さらに、そのような状況は、当機構以外の利用者にも益するところが大きいであろう。今後の当館の変化を長い目で見守っていただければ幸いである。

図書館長のつぶやき

 インターネット時代になって、意味のわからない単語等も、これまでのように辞・事典をひかなくとも、Googleにその単語を入力すればたちどころに膨大な情報がヒットする。ちなみに、グローバル化時代の今日、逆に、地域連合が脚光を浴びている。EUはもちろん、ASEAN10、Mercosur、ヴィシェグラード諸国等の情報も簡単に集めることができる。また、今注目を集めているBRICsやまだあまり知られていないNext11、VISTAも同様である。しかし、これらのネット上の情報は、概ね匿名の人が作成した情報であることが多い。以前は、定評のある出版社の著名な執筆者の情報が尊重されていた。二重のスクリーニングがかかっていたのである。しかし、匿名情報となると、その情報の信用性はどのように判断したらいいのであろうか。出版社名や執筆者名といった判断基準がなければ情報自体によって判断せざるをえなくなる。しかし、わからないからこそWikipedia等の情報を参考にしようとしているのである。そのとき判断の根拠となるのは意外と単純なことではないだろうか。私見としては、まず、日本語としてしっかりしたものであること、用字・用語にも十分気を配ったものであることである。つたない経験であるが、海外文献の翻訳が正しいかどうかを判断する方法は、文意が通っているかどうかである。日本文として違和感のあるところは、誤訳していることが多い。また、一つの単語にも神経を集中できる人の情報こそが信用できるというのは、頼りない基準のようで意外と真実をついているのではないか。当欄の文章は天につばするものとなっていないであろうか。