2007年4月の図書紹介(2007年2月受け入れ図書)

1.柳澤武著『雇用における年齢差別の法理』成文堂(xiii+288頁,A5判)

 職場における三大差別である性・人種・年齢差別のうち、年齢差別は、誰もが等しく歳を加えることもあり、一部の研究者のみが分析し、是正を求めてきたが、高齢社会の急速な進展に伴い、一般の注目をも集めつつある。著者は、米英等との比較研究に基づき、日本の年齢差別政策に明確な方針を提供しようとしている。

2.山本真理著『戦後労働組合と女性の平和運動』青木書店(324頁,A5判)

 「平和運動」という言葉がなつかしく感じられる時代になってしまった。超大国同士の対立は瓦解したが、地域紛争は枚挙にいとまがない。世界の一体化は、日本の平和が危険にさらされる、あるいは日本が世界の平和を危険にさらす恐れを増大させている。過去の労働組合と女性平和運動に学ぶ意義は薄れてはいない。

3.大山正他編『事例で学ぶヒューマンエラー』麗澤大学出版会(270頁,A5判)

 「過つは人の常、許すは神の性」との諺もあるが、エラーの発生を防ぐことは困難であるので、たとえエラーが発生しても、事故に直結しない方策を考えることが大事になる。本書は交通・医療・産業事故には共通の要因があり、相互に学習可能であるとし、豊富な事例をもとにエラーの心理的メカニズムを分析している。

4.須藤洋介他著『企業のメンタルヘルス危機管理』高文堂出版社(221頁,A5判)

 経済問題に基づく自殺者の急増のもとで、職場のメンタルヘルスが脚光を浴び、長時間労働等を原因とするメンタルヘルスの危機が叫ばれている。本書は、ストレスによるうつ病、アルコール依存等の現状と対応を事例研究に基づき、細やかに解説、メンタルヘルスは企業経営上の重大テーマの一つとなっているのである。

5.佐藤忍著『グローバル化で変わる国際労働市場』明石書店(355頁,A5判)

 経済のグローバル化は、各国経済の連係を促し、相互に複雑な布置連関を成立させた。その結果、国際労働力移動が加速化しているが、外国人労働者は、多様な感情をもち、家族も帯同しており、経済論理だけでは解明できない側面をもっている。その複雑な国際労働力移動の実態を著者は地道に、詳細に実証している。

6.日本能率協会編『成果主義の新展開』日本能率協会マネジメントセンター(254頁,A5判)

 企業経営上、社員の能力をいかに効果的に発揮させるかが最重要課題となり、生き残りをかけた企業の模索が続いている。本書はその回答の一つとしての「成果主義人事制度」について、企業文化等の5つの原則から分析、机上の空論に陥らないか、今をときめく19社の事例研究によって確認が可能な編集になっている。

  1. 横田一著『介護が裁かれるとき』岩波書店(xi+212頁,B6判)
  2. 高山憲之他編『少子化の経済分析』東洋経済新報社(xi+271頁,A5判)
  3. 赤井伸郎著『行政組織とガバナンスの経済学』有斐閣(viii+306頁,A5判)
  4. 王文亮著『格差で読み解く現代中国』ミネルヴァ書房(ix+361頁,A5判)
  5. キャメル・ヤマモト著『グローバル人材マネジメント論』東洋経済新報社(238頁,A5判)
  6. ジョセフ・E・スティグリッツ著『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』徳間書店(414頁,B6判)
  7. 中原淳編著『企業内人材育成入門』ダイヤモンド社(xii+369頁,A5判)
  8. デンゾー高野著『私の部下はイギリス人』太陽企画出版(238頁,B6判)
  9. 島内晴美著『団塊フリーター計画』日本放送出版協会(211頁,新書判)
  10. 門倉貴史著『ワーキングプア』宝島社(222頁,新書判)

今月の耳より情報

 本誌2月号でもご紹介したが、2月1日から2月15日まで、平成18年度の不用資料(再度強調させていただくが、「不要」資料ではなく、スペースの関係上、どうしても保管が不可能になった「不用」資料である)の買取・交換を実施した。館内掲示、当機構のホームページ・メールマガジン等で紹介したが、専門図書館協議会のメールマガジンにも掲載していただいた。まだ、実際上の経験はないのだが、この買取・交換イベントのときにはいつも、子供の良縁を待ち望んでいる父(母)親の心境になる。今年はどのくらいの申出をうけることができるのであろうかと、気になってしまうのである。結局今年度は、6人の方から23のタイトルの雑誌(不思議なことにほとんどご要望が重複することがなかった)にご要望をいただくことができた。当館から当機構内の各部門への移管希望に応じた後のことなので、少し甘いかもしれないが、4回目の今年の買取・交換も、それなりの成果があったと判断している。できれば、すべての資料に引き取り手があることが望ましいが、広報や一時的な情報提供を主とした雑誌もあるので、それらはすでに使命を果たしたということなのだろう。これからは、最後の試みとして、関係機関にもご案内し、引き取り手探しをしばらく続けるが、大方の作業は終わったことになる。来年度はより広く、当館の不用資料が再利用されることを期待している。「注目すべき取り組み」として評価された不用資料の買取・交換、来年のこの時期の当館のホームページにご注目いただければ幸いである。

図書館長のつぶやき

 資料の保管スペースの確保は、いつもながら頭の痛い問題ではあるが、資料の保存状況にも気を配らないといけない。昨年11月、東京三田で、当館も会員である社会・労働関係資料センター連絡協議会(略称、労働資料協)の第21回総会が開催された。そのプログラムの中で、初めての取り組みである事例発表・研究発表が行われた。その一つとして、東京大学経済学部資料室の小島浩之氏から、資料劣化状況についてのサンプリング調査の報告があった。興味をひく報告であると同時に、資料保存対策がいかに大変であるか、あらためて身につまされることになった。現在のところ、資料の材料用紙は酸性紙が中心(東大経済学部では約7割)であることから、保存対策として、脱酸処理や他の劣化しにくい媒体への代替化処理が必要になる。何万点とある対象資料(東大の場合、18万点の7割)一つずつに対策を施すことになる。気が遠くなるような作業である。資料の重要性、緊急度等から優先順位をつけることになるのであろう。ひるがえって当館の場合、ほとんどの資料の用紙は酸性紙であろうから、同様な対策が必要なのであるが、それより緊急性の高い作業は、地下書庫のカビ対策である。資料保管スペースの絶対的不足から地下の倉庫を書庫化し、利用度の低い資料を地下書庫に別置している。しかし、なにせ地下書庫、湿度等保存環境に問題がある。一部にカビの発生が見られ、防カビ対策を施したうえでの資料のクリーニングが優先されるのである。脱酸処理等の対策はそのあと、地道で根気のいる作業が待ち構えていることになる。