2007年3月の図書紹介(2007年1月受け入れ図書)

1.乙部由子著『中高年女性のライフサイクルとパートタイム』ミネルヴァ書房(v+277頁,A5判)

 女性雇用労働者の3分の1強がパートであるが、小売業、サービス業での就業が太宗を占めている。本書はスーパーの有子女性パートの理論、歴史、制度等を詳述している。著者は、パート女性と正社員男性の働き方の相違に義憤を感じ研究を始めたと吐露しているが、当人の人生という視点も加味した分析となっている。

2.福井秀夫他編著『脱格差社会と雇用法制』日本評論社(xvi+245頁,A5判)

 良かれと思って行った保護が、逆に労働者に不利益をもたらすという。著者たちは、格差と雇用法制との関わりを法と経済学を用いて分析し、当事者の合意した意思に基づく契約の尊重、という結論に達している。しかし、これはあくまで学問上の結論であって、諸々の利害関係の妥協の産物というのが法制度の常である。

3.樋口美雄他編著『転換期の雇用・能力開発支援の経済政策』日本評論社(xiii+439頁,A5判)

 ITの発展は、瞬く間に保有スキルを陳腐化していく。あと数年の職業生活であれば逃げ切ることもできようが、将来の社会を担う若者のためには、腰をすえた対応が必要である。本書は、多様化する就業形態の下、諸外国の事例も参考に、個人の能力開発に対する社会的支援の必要性を説き、そのあり方を模索している。

4.川喜多喬他著『キャリア支援と人材開発』経営書院(x+238頁,A5判)

 労働≒人生ではあるものの、一生のキャリアデザインを描くことは並大抵ではない。プランド・ハプンスタンス・セオリーではないが、個々人の自律的なキャリア形成は困難であり、企業内の研究事例も少ない。著者たち3人は、事例研究、アンケート調査等によってキャリア形成支援と人材開発の実態を明らかにしている。

5.白木三秀著『国際人的資源管理の比較分析』有斐閣(v+337頁,A5判)

 多国籍企業グループ間の人材移動を、従来多国籍企業には適用されなかった「多国籍内部労働市場」捉え、その視点から、日本企業の国際人的資源管理の特性を明らかにしようとしている。長年の文献研究、アンケート調査、事例研究の成果を遺憾なく披瀝しており、この分野の参照文献となることは間違いないであろう。

6.佐藤博樹他著『ヘルパーの能力開発と雇用管理』勁草書房(viii+184頁,A5判)

 すでに高齢社会真っ只中の日本ではあるが、今後さらに高齢化の度合いを深め、介護需要は増大するばかりである。外国人労働者導入の検討も必要だが、まず足もとの介護職の定着と能力開発が喫緊の課題である。本書は人事処遇制度や雇用管理のあり方から、サービス提供責任者の重要性を認め、対策を提起している。

  1. 谷口智彦著『マネジャーのキャリアと学習』白桃書房(xii+351頁,A5判)
  2. 鈴木銀治郎編著『事例に見る解雇効力の判断基準』新日本法規出版(14+440頁,A5判)
  3. 小塩隆士他編『日本の所得分配』東京大学出版会(viii+241頁,A5判)
  4. 府川哲夫他編著『年金改革の経済分析』日本評論社(vii+251頁,A5判)
  5. 伊藤善典著『ブレア政権の医療福祉改革』ミネルヴァ書房(viii+291頁,A5判)
  6. 京極髙宣著『生活保護改革の視点』全国社会福祉協議会(156頁,A5判)
  7. 弓狩匡純著『社歌』文藝春秋(189頁,B6判)
  8. 武井麻子著『ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか』大和書房(248頁,B6判)
  9. トム・ルッツ著『働かない』青土社(488+31頁,B6判)
  10. 内山節著『戦争という仕事』信濃毎日新聞社(334頁,A5判)

今月の耳より情報

 書架をみればその図書館の状況がわかると言われています。書架こそ図書館の顔であり、スタッフはそれを支える体のようなものです。顔色がすぐれないときは、体に問題がある場合が多いのではないでしょうか。当館の書架は健康な顔色を利用者の皆さんに見せているでしょうか。顔色を左右するのは、勿論どのような資料が書架にならんでいるかです。選書作業が重要になりますが、何回か当欄でご紹介したように、当館の選書行程には当機構の研究員等が深く関わっています。毎月オンライン書店のURLを全役職員に送信して選書をお願いし、既刊のものでも当館が所蔵していないものは、購入の提案をしてもらっています。しかし、研究員も多忙で、いつ使うかもしれない資料の整備まで手が回らない人も多いのです。当館スタッフが目を凝らしていますが、神様でもない限り、日々膨大に刊行される資料をもれなく目配りすることはできません。整備しておくべき資料を見落としている可能性があるわけです。来館者の皆さんのご意見を伺う理由がここにあります。そこで、当館閲覧室に設置してしている「みんなの声」に希望図書を書いて投函していただければ幸いです。ご来館いただかなくとも当機構のホームページの「労働図書館」の中のレファレンスサービスでのご要望も受け付けています。当館の資料の充実にご協力ください。なお、先般目安箱にH.S.Maineの『古代法』をご要望いただきましたが、配架されていますので、ご来館をお待ちいたしております。

図書館長のつぶやき

 インターネット時代を迎えて、情報があっという間に広範囲に流通し、その影響が計り知れないところから、不正使用に備えて個人情報の管理を厳格にしなければならないのは時代の要請である。自己情報のコントロール権とも言われるプライバシー権と同様に、個人情報全体も当該個人のコントロール下におかれるべきものである。しかし、当該個人以外はその情報を利用できない、またはどのような利用であってもそのつど了解をとるということになると、社会全体のコストは莫大なものとなる。そこで利用にあたっての基準を前もって定めておく必要がでてくる。当該個人と利用者の利害のバランスが求められるが、このネット時代には、利用者の不便を忍んでも、個人情報保護法が個人の側の権利擁護に軸足をおくのはいたし方ないところであろう。未成年容疑者の実名掲載紙の閲覧に関しては、日本図書館協会は、原則閲覧との案を昨年とりまとめたが、原則閲覧、書架から撤去、実名に張り紙など、各館の対応は分かれた。個人情報を編集した名簿の閲覧に関しては、他館の状況はどうなのであろうか。各図書館で判断するには荷が重過ぎる問題なので、図書館界としてどう考えるかは議論を尽くしておく必要がある。その基準をどう運用するかは、実名報道と同じく、各館の見識にかかってくる。基準があるからといって、判断を回避することはできないのである。インターネット時代は、図書館のあり方を日々悩まなければならない時代でもあるということである。