2007年2月の図書紹介(2006年12月受け入れ図書)

1.水町勇一郎編『個人か集団か?変わる労働と法』勁草書房(x+303頁,B6判)

 労使関係や雇用管理が個別化される中で、日本の労働法はいかにあるべきか。本書は、この根本的な問題に対する少壮研究者グループによる意欲的な試みである。決定のレベルでは分権化、公正さを維持するためには集団的プロセス、というのが結論である。具体的な事例に即して、今後内実が充填されていくのであろう。

2.川喜多喬編『女性の人材開発』ナカニシヤ出版(229頁,A5判)

 事務職、秘書、看護師等女性が多く就いている5つの職業について、各々の職務を深く分析している。ジェンダー論からではなく、キャリア開発に共通する問題として議論、明らかにされた実務的含意は新鮮である。本書は、「日本の人材形成」シリーズの2作目であるが、続刊もきめ細やかな成果であることが期待される。

3.栃本一三郎他編『積極的な最低生活保障の確立』第一法規株式会社(xiv+306頁,A5判)

 生活保護受給率は、貧困世帯の一部を占めるにすぎないと言われる。連合総研主宰の「福祉国家の再構築」研究会の第三弾の成果である「最低生活保障制度の国際比較」に関する本書は、最低生活保障の確立をめざした政策論の書である。格差・貧困の拡大が喧伝される中、セーフティ−ネットの構築は喫緊の課題である。

4.杉田あけみ著『ダイバーシティ・マネジメントの観点からみた企業におけるジェンダー』学文社(x+317頁,A5判)

 人種・門地等自分に責任がない非情理な差別が少なくなることが歴史の進歩である、との考え方があるが、性差別の改善も遅々として進んでいない。経営教育を専門とする著者は、国際比較も交え、雇用の場における性差別を、ダイバーシティ・マネジメント、ワークライフ・バランス等をキーワードとして分析している。

5.孫暁冬著『中国型ワークフェアの形成と展開』昭和堂(xix+336頁)

 近代において政府が労働可能者の生活を維持する方法は、就業機会を提供する方法(ワークフェア)と一定額の所得を保障する方法(ベーシック・インカム)に分かれるが、著者はワークフェアを支持する立場から、ベーシック・インカムの難点を指摘、中国市場社会主義におけるワークフェア形成と変容にも言及している。

6.小宮文人著『現代イギリス雇用法』信山社(xxvii+410+v頁,A5判)

 タイトルは雇用法だが、経済政策の一環として発展してきた英国労働法全般を体系的に論じた書である。規制は詳細だが、履行強制が曖昧という英国労働法の特徴を詳述している。日系進出企業も多く、労働審判法等、日本の労働法への影響力も強い英国労働法の最新情報を伝える本書の刊行は、時宜を得たものと言える。

  1. 河西宏祐他著『労働社会学入門』早稲田大学出版部(xvii+364頁,A5判)
  2. 児美川孝一郎著『若者とアイデンティティ』法政大学出版局(xiii+196頁,A5判)
  3. 根岸毅宏著『アメリカの福祉改革』日本経済評論社(viii+229頁,A5判)
  4. 松本博之他編『団体・組織と法』信山社(xiv+388+ⅲ頁,A5判)
  5. 太郎丸博著『フリーターとニートの社会学』世界思想社(vii+218頁,B6判)
  6. 西村可明編著『移行経済国の年金改革』ミネルヴァ書房(vii+309頁,A5判)
  7. 右田紀久惠著『自治型地域福祉の理論』ミネルヴァ書房(ix+328頁,A5判)
  8. 東京法律事務所編『労働弁護士の事件ノート』青木書店(204頁,A5判)
  9. 全金本山労働組合「本山闘争の記録刊行委員会」編『本山闘争12000日』七つ森書館(349頁,A5判)
  10. 若林敬子編著『中国 人口問題のいま』ミネルヴァ書房(viiix+369頁,A5判)

今月の耳より情報

 今年も所蔵資料の不用処理を行う季節がめぐってきた。雑誌の製本化作業が一段落し年度内に入金処理まで終えるとなると、いつもこの時期となる。言うまでもなく、「不用」処理とは、「不要」な資料の処理ではなく、増え続ける資料すべてを保存しておくことは不可能なためのやむを得ざる措置である。そこである基準(当機構の場合、研究論文が掲載される可能性が高いか否か)をもとに、不用決定を行うことになる。しかし、不用決定された資料であっても、より有効に活用されるよう、段階を踏んで処理を行っている。不用決定された資料は、①まず、必要部門に管理換えを行い、②次に、HP等で広報し、一般に買取・交換を求め、③さらに①②の過程を経て残った資料は、必要とする当機構内の職員等に配布、④最後に、引き取り手のない資料は再生紙に生まれ変わることになる。当館のような手続をとっているところは少ないと思われる。学術情報の利用促進を図る目的で刊行されている、さるメールマガジンにおいて「注目したい取り組み」として評価されたからである。今年度の不用処理については内部手続を経て来月2月早々には、当機構のHP、メールマガジン等においてお知らせする予定である。不用リストの中には当館にとっては必要性が薄い資料であっても、皆様にとって貴重と感じられる資料も混じっている可能性は高い。言い値(かちあった場合は高いほう)での頒布となるので、ご期待いただきたい。不用処理手続は、資料の再利用をはかる行為でもある。他館でも実施され、図書館間で資料の有効活用が図られることを望みたい。

図書館長のつぶやき

 当館は、親機関をもち、「労働」という特定主題に関する資料を収集・提供している、まぎれもない専門図書館である。親機関をもっているということから類推できるように、専門図書館の第一の目的は、親機関の事務・事業(当機構にとっては、研究・研修事業)を支援することである。しかし、当機構の研究・研修のために収集したと言っても、公費で集めたものなので、その成果を一般に提供する(trickle down)ことも、当機構の中期計画に明示されている。これまでは、この研究・研修支援と一般提供・公開を二大目的として当館を運営してきたが、当機構のような独立行政法人を監視する「政策評価・独立行政法人評価委員会(政独委)」は、今年度発表した「勧告の方向性」で、図書館事業もその中に含まれる情報収集・提供事業については、調査研究事業と一体的に実施する必要性が乏しいものは廃止する、とした。かなり厳しい内容である。しかし、研究員等の意見・ニーズを十分に斟酌・忖度して図書館運営を行っているので、調査研究事業とは十分に一体性が保たれていると確信している。しかし、今後はさらに一体性を確保し、相乗効果を発揮できるように図書館を運営していくことになる。といっても、公開図書館としてのサービスを弱めていくということではない。図書館スタッフの人員が限られているので、サービスの量には限界があるが、情報技術を活用してサービスの質をあげていくとともに、サービス内容のウエート付けの見直しも行わざるをえない。バランス感覚と、見識・スキルが問われることになるのである。