2007年1月の図書紹介(2006年11月受け入れ図書)

1.戎野淑子著『労使関係の変容と人材育成』慶應義塾大学出版会(vii+300頁,A5判)

 非正規化の進展等の国内産業社会の変化と企業の海外直接投資に基づく国際環境の変化は、従来の安定した日本的労使関係に変容をもたらした。著者は、現状の労使関係を歴史的視点をもって分析し、「疎隔化した労使関係」という概念を析出した。本書が起爆剤となって、労使関係研究が活発化されることを期待したい。

2.黒田祥子他著『デフレ下の賃金変動』東京大学出版会(xvi+259頁,A5判)

 日本銀行金融研究所の研究成果である本書は、「名目賃金の下方硬直性」と中央銀行が目指すべき望ましいインフレ率を検討したものである。賃金や失業の動きなどの労働市場の動向は、景気変動や産業構造を考える上での重要な位置を占めており、本書は、金融政策のみでなく、労働市場全体の分析の書ともなっている。

3.乾彰夫編著『不安定を生きる若者たち』大月書店(161頁,A5判)

 本書は、フリーター・失業・ニートについての日英比較セミナーの成果である。フリーター・ニート本が多数出版される中で、編著者たちは英国のNEETと日本のニートの違いに注目、日本の「新たな流動層・不安定層」であるフリーター問題点等が供給側に限定されていることを危惧している。プロ若者の書と言える。

4.田上富信著『使用関係における責任規範の構造』有斐閣(xiv+402+ⅹⅱ頁,A5判)

 著者は、他人の不法行為に対する責任形態は、部族・家長責任の集団責任から個人責任へ、さらに事業者の責任集中へと歴史的に進化していると説く。しかし小子は、部下の監督不行届を理由に上司が責任を取らされることに疑問をもってきたが、斜め読みでも腑に落ちたとはいえない。小子の理解力不足が原因であろう。

5.小池和男編『プロフェッショナルの人材開発』ナカニシヤ出版(224頁,A5判)

 本書は、小池和男監修のキャリア研究選書シリーズの第1巻である。本書では、組織的プロフェッショナル人材としての新聞記者、企業内研究者、革新的マネジャー、ファンドマネジャー、融資審査部門をとりあげ、組織内の仕事の熟知者が分担執筆している。このような革新的な取組である本シリーズの続刊が期待される。

6.権丈善一著『医療年金問題の考え方』慶應義塾大学出版会(xvii+650頁,A5判)

 医療・(中黒は小子付与)年金問題を扱いながらも、「勿凝学問(学問に凝ること勿れ)」とのタイトルのエッセーに気をひかれ、能力もわきまえず本書をとりあげてしまった。しかし本文は628頁に及び、エッセーといっても平均10頁、動学的視点と歴史的センスに基づく論文集には到底歯がたたない。「請専門家批評」。

  1. 橋本健二著『階級社会』講談社(226頁,B6判)
  2. 中野麻美著『労働ダンピング』岩波書店(xiv+229+8頁,B6判)
  3. 渡部恒夫著『社会政策の産業平和機能』学術出版会(625頁,A5判)
  4. 二宮厚美著『ジェンダー平等の経済学』新日本出版社(397頁,B6判)
  5. 大森彌著『官のシステム』東京大学出版会(xii+281+6頁,B6判)
  6. 山田昌弘著『新平等社会』文藝春秋(285頁,B6判)
  7. 飯田辰彦著『現代仕事人列伝』河出書房新社(194頁,B6判)
  8. 毎日新聞社会部著『縦並び社会』毎日新聞社(239頁,A5判)
  9. 労働総研労働時間問題研究部会編『非常識な労働時間』学習の友社(167頁,A5判)
  10. 全国民営職業紹介事業協会編『職業紹介読本』全国民営職業紹介事業協会(322頁,B5判)

今月の耳より情報

 当館は約一五万冊の社会科学・労働関係の図書を所蔵しているが、残念ながら「すべての図書をその読者に」とのランガナタンの「図書館学の五法則」にもかかわらず、そのすべての図書が均等に利用(館内閲覧等)されるわけではない。当館の蔵書も購入による収集(収集方法には、主に、①購入②寄贈③自社[自ら出版したもの]④移管[図書館間の所蔵換えによって入手したもの]、の四つがある)が多くを占め、選書段階では、希望者による購入図書は言わずもがな、図書館スタッフも利用者の手に渡ることを念頭に選書しているが、望みかなわず、書架に埋もれてしまう図書も多くあるであろう。ブラッドフォードの法則にあるように、ごく限られた図書に利用の多くが集中するのである。そこで利用希望図書が重なってしまうことになる。しかし、当館は公共図書館における小説のように、経費とスペースの観点から、同じタイトルの図書を何冊も複本として整備するわけにはいかず、基本的には一部のみ収集している。図書の貸出は、全くの先着順であるため、利用しようと思っても、「貸出中」ということが発生する。「貸出可」に変わったかどうか確認するのは面倒である。そのために予約制度がある。貸出カード番号を教えていただければ電話での予約も可能である(「貸出可」の図書の予約も可能)。当該図書が返却されれば電話等でお知らせし、二週間以内に取りに来ていただくことになっている。この貸出予約制度を有効にご活用いただければ幸いである。

図書館長のつぶやき

 期間においては「いざなぎ景気」を越えたと言われる現在の景気(まだ名前がないらしいが、○二年二月から継続中)は、労働市場においても雇用状況の改善をもたらした。新規大卒男子に限っては、バブル期以来の売り手市場となり、数社の内定を勝ち取ったものも大勢いることがマスコミをにぎわした。好景気は世の中を明るくするが、しかし、図書館界は、好景気のカヤの外におかれているらしい。先般開催された社会・労働関係資料センター連絡協議会(略称:労働資料協、概要はホームページのURL http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rodo/を参照してください)の総会で加盟組織の近況報告が行われたが、縮小・移転というような厳しい状況が多くの図書館から披露された。企業における成果主義賃金制度の導入と同じく、社会においても「教養、調査研究・・・に資する・・・施設」である図書館を支援する長期的視点が薄れてしまったように思われる。その端的な例が公共図書館における指定管理者制度の導入であろう。これは、制度的には、地方自治法の改正により可能となったものである。地方自治体の財政窮乏化のもとで、請負制度の導入と同じく、行政コストの削減を目的としたものであるが、管理者の指定は契約行為ではなく、行政処分として行われる。独立行政法人である当機構も運営交付金と人員削減が求められている。当館も遅まきながら、運営経費の見直し、効率的な執行が求められるようになったが、これで民間の苦労が理解できるであろうか。