2006年12月の図書紹介(2006年10月受け入れ図書)

1.橘木俊詔他著『日本の貧困研究』東京大学出版会(xiii+358頁,A5判)

 本書は、貧困の歴史、国際比較、政策等を扱っており、貧困に関する包括的な研究書となっている。格差の拡大がかまびすしく騒がれているが、著者たちは、日本の貧困がさらに深刻化し、貧困政策は優先度の高い課題になると主張、米国型ではなく社会保障制度の充実という欧州型の貧困対策が望ましいと判断している。

2.吉川徹著『学歴と格差・不平等』東京大学出版会(iv+260+ⅹⅲ頁,B6判)

 「格差・不平等」に関する図書・論文・記事等は枚挙にいとまがないが、格差の実態は見きわめにくい。それに対して著者は、これまでの格差論が問題の解決をはかる政策科学となっていると説き、計量的データに基づき、因果関係解明に向けて研究、手垢にまみれたと思われた「学歴」の説明力の強さを探り当てている。

3.本間照光他著『階層化する労働と生活』日本経済評論社(ix+364頁,A5判)

 階層格差が拡大・固定化しているが、著者たちは、相互の関連性、規定性が問題にされなかったことが労働と生活の困難を増幅させた、との問題意識の下、国際化等がもたらす諸側面、貧富の格差、社会福祉、企業の海外進出、雇用不安等、を分析しようとしている。しかし、相互関連性の追究は継続的課題となっている。

4.李尚波著『女子大学生の就職意識と行動』御茶の水書房(xiv+299頁,A5判)

 少子高齢化の下で大卒女子労働力に寄せられる期待も大きい。留学当時の女子学生の就職行動にショックを受けた著者は、均等扱いが努力義務であった86~97年の11年間の女子学生の就職状況を就職意識と行動、企業の対応の3つの視点から分析している。一般職と総合職の溝が埋るとの著者の予測は的中するであろうか。

5.山中俊之著『公務員人事の研究』東洋経済新報社(xiv+209頁,B5判)

 元公務員の公務員人事コンサルタントとして、のべ1万人に及ぶ公務員への研修とインタビュー経験に基づき、公務員制度の問題点等を指摘、公務員にとって辛口の人事制度改革を提言している。人事制度を変えることが、バッシングが激しい日本の公務員制度の変革につながるとの主張は、わかりやすく、説得的である。

6.小島貴子著『就職迷子の若者たち』集英社(195頁,新書判)

 フリーターが正社員化するのは絶望的なほど困難であるが、景気の回復により、新規学卒の若者の就職状況には改善が見られる。にもかかわらず、就職活動に尻込みする(就職迷子の)若者は多い。豊富なキャリア・カウンセラー経験をもつ著者は、就職活動に臨もうとしている若者の背中を母親のように優しく押している。

  1. 河野龍太郎編『ヒューマンエラーを防ぐ技術』日本能率協会マネジメントセンター(215頁,A5判)
  2. 室住眞麻子著『日本の貧困』法律文化社(ix+202頁,A5判)
  3. 平野光俊著『日本型人事管理』中央経済社(3+xi+276頁,A5判)
  4. 岩田憲治著『人事労務管理制度の形成過程』学術出版会(vii+280頁,A5判)
  5. 渡辺智子著『コーポレート・ガバナンスと企業理論』慶応義塾大学出版会(vi+210頁,A5判)
  6. 赤羽恒雄他編『国境を越える人々』国際書院(316頁,A5判)
  7. 橘木俊詔著『アメリカ型不安社会でいいのか』朝日新聞社(vi+199頁,B6判)
  8. 城繁幸著『若者はなぜ3年で辞めるのか?』光文社(231頁,新書判)
  9. 阿部真大著『搾取される若者たち』集英社(157頁,新書判)
  10. 橘木俊詔著『格差社会』岩波書店(vii+212頁,新書判)

今月の耳より情報

 昨年も本欄でご紹介したが、秋の深まりとともに、当館は雑誌の製本・合本作業の準備にとりかかることになる。和雑誌・洋雑誌とも、出版された一冊、一冊の状態のままでは、散逸してしまう危険性が大きいし、特に薄い雑誌の場合、他の資料の間にまぎれこんでしまう恐れもある。そこで研究論文が掲載される可能性の大きい雑誌を製本している。しかし、当館が収集している雑誌で研究論文が載ったことのないものはほとんどないであろう。そこで、長年の研究員等の要望に基づいてつくりあげられた製本リストを毎年見直して当該年度の製本作業を実施している。今年度は、2005年度に発行された雑誌を中心に作業を進めているが、返却されていない雑誌があれば返却を督促し、不明雑誌があれば、寄贈されたものは恥をしのんで再度寄贈を依頼し、購入雑誌は再購入の内部手続をとることになる。もれなく対象雑誌をとりそろえるのは一大作業なのである。準備が整えば、実際の製本作業は業者に委託する。その間、当該雑誌は当館を離れることになる。その期間をできるだけ短くしようと努めているが、利用者の皆様にはご迷惑をおかけすることになる。その間は他館での閲覧・複写をしていただければありがたいが、必要な場合はご相談いただければ製本委託先に連絡し、コピーを送ってもらっている。FAXでの送信なので若干鮮明度はおちるが、コピーサービスとして対処している。製本対象雑誌は、新たな衣装に飾られて、大方年内には納本される予定である。

図書館長のつぶやき

 週刊誌・新聞等への少年犯罪の実名掲載が注目をあび、問題化している。少年法六一条は、「家庭裁判所の審判に付された少年・・・については、氏名・・・等によりその者・・・を推知できる・・・記事又は写真を・・・掲載してはならない」と規定している。これを倫理規定と判断するかどうかは新聞社、雑誌社側の問題だが、その新聞や雑誌を受け入れている図書館としてどのように対応したらいいのであろうか。野放しの状態から、該当部分の張り紙や閲覧停止まで、図書館によって対応はまちまちだった。このたび日本図書館協会の「図書館の自由委員会」は「公開が原則」との素案をまとめた。当館も日本図書館協会の会員ではあるが、「強制ではなく、自主的な判断を尊重する」ということなので、この案を参考にそれぞれの館が判断することになる。当館としては、これまで新聞・雑誌に対して閲覧から外すというような措置を講じたことはなかった。閲覧を原則としてきたからではなく、問題意識が薄かったというのが実態である。当館の利用者は研究者が中心であるので、新聞・週刊誌が公開でも非公開でも実質的な影響はないであろうが、知る権利を根拠に公開した場合と、少年法を基づき非公開にした場合のそれぞれの影響を比較考量して判断することになるが、どちらの対応をとっても利用者にその選択の理由を説明しなければならない。当館の良識が問われることになるが、図書館の社会的影響力に自覚的でなければならないということを認識させられた事件だった。