2006年11月の図書紹介(2006年9月受け入れ図書)

1.萩原久美子著『迷走する両立支援』太郎次郎社エディタス(301頁,B6判)

 出産後、職場に復帰する女性労働者の割合は約2割と言われ、仕事と育児の両立は厳しい状況にあるが、子どもをもって働き続けるために必要な条件は、保育所の充実か、育児休業制度の拡充か、はたまた働き方の見直しか。政府の支援にもかかわらず、目立って状況が改善されない理由を、著者は執拗に問い続けている。

2.吉田良生他編著『国際人口移動の新時代』原書房(viii+261頁,A5判)

 貴種であれ、単純労働者であれ、外国人は敬遠されがちである。移民である外国人は、地域に摩擦をもたらし、社会的統合等の問題も惹起させると考えられているからである。政府の外国人労働者政策も徐々に変化しつつあるが、本書は、世界各国の事例を調査し、国際人口移動に関する国際秩序のあり方を検討している。

3.バーバラ・エーレンライク著『ニッケル・アンド・ダイムド』東洋経済新報社(295頁,B6判)

 ワーキング・プアが流行語となりつつある。フリーターは見慣れた現象となってしまったが、それ以外の、働いているのに貧困である人の姿はまだ、鮮明には浮かび上がってこない。本書は、著者の体当たり的な参与観察によって低賃金で生活する、アメリカ下流社会の人々の現実を共感をもって赤裸々に描き出している。

4.中野啓明他編著『ケアリングの現在』晃洋書房(xvi+219頁,A5判)

 心の時代に移りつつある言われながら、周囲にはストレス原因が横溢し、いやし、ケアが強く求められている。この問題に関して教育、医療、福祉など分野横断的な論文集として編まれたのが本書である。看護や福祉などの実際と理論の検討を通して、ケアする人とケアされる人の関係等のテーマが政策的に追究されている。

5.山田眞知子著『フィンランド福祉国家の形成』木鐸社(280頁,A5判)

 フィンランドの国際競争力が注目を集めている。本書は、フィンランド福祉国家形成過程を社会サービスと地方分権の視点から分析、20年前の改革によって地域間格差が解消され、地方分権も推進されたとしている。在住30年の経験に基づき、手厚い社会保障と国際競争力は矛盾しない、とする著者の主張は説得的である。

6.村串仁三郎著『大正昭和期の鉱夫同職組合「友子」制度』時潮社(428頁,A5判)

 本書は、『日本の伝統的労資関係−友子制度史の研究』に続く、大正、昭和期の友子制度に関する書であり、おそらく当該テーマについての著者最後の研究書である。労働組合が凋落している現在、鉱夫の労働と生活面で自治的機能を果たしてきた日本特有の存在である友子制度は、組合運動再生の参考ともなるであろう。

  1. 平澤克彦著『企業共同決定制の成立史』千倉書房(3+5+228頁,A5判)
  2. 北原佳郎著『「ヒト」を生かすアウトソーシング』ファーストプレス(222頁,B6判)
  3. 清家篤編『エイジフリー社会』社会経済生産性本部生産性労働情報センター(228頁,A5判)
  4. 川人博著『過労自殺と企業の責任』旬報社(214頁,B6判)
  5. 石井理恵子編著『ワーキングウーマン事情』同時代社(231頁,B6判)
  6. 兵庫大学附属総合科学研究所編『参画と協働』神戸新聞総合出版センター(331頁,A5判)
  7. 村山元英編著『グローカル経営戦略』文眞堂(476頁,A5判)
  8. 野村忍著『情報化時代のストレスマネジメント』日本評論社(vi+159頁,B6判)
  9. 大成浩市著『木と森にかかわる仕事』創森社(204頁,B6判)
  10. 斎藤貴男著『分断される日本』角川書店(255頁,B6判)

今月の耳より情報

 以前にもお伝えしたが、著作権法上、図書館等(図書館といっても、法律上は限定されており、民間の専門図書館や小中高校の学校図書館は含まれない)は、著作権者の許諾なく所蔵資料の複写ができることになっている。しかし、これも3つの場合に限定されており、「利用者の求めに応じ・・・」というのが第一の場合である。しかし、来館者に求められた場合でも無制限に認められるわけではなく、①調査研究のため②公表著作物の③一部分を④1人につき1部、提供する場合に限られる。いわゆるILLでの複写依頼についても同様である。当館の資料が充実していることにより、この9月の当機構の研究員等からの複写依頼件数13件に対し、他館からの複写受付件数は185件に達している。このような極端な依頼と受付のアンバランス状態にいたったのは、昨年9月に国立情報学研究所(NII)の文献複写等料金相殺サービスに加入したからである。そうでないと、自他ともに個々の複写依頼・受付毎に精算しないといけないが、これに加入すると3カ月分の収入と支出を相殺して経理処理が可能になる。処理量が大幅に減殺され、事務の合理化が達成されるのである。そのため、当館が制度に加入したとたん、依頼件数が急増したというわけである。しかし、受付件数が大幅超過しているのは、資料が充実しているばかりでなく、迅速な対応もその理由になっていると思っている。こういうことを申し上げると複写依頼が殺到し、処理能力を超える恐れもあるが、お困りの節は、当館のILLサービスをご利用いただきたい。当館の対応の迅速さが感得できるはずである。

図書館長のつぶやき

 先般、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の第一人者である「ミクシィ」が上場して注目を集めたが、同じくブログ、Wikipediaなどの言葉がマスコミを飛び跳ねており、インターネットを能動的に利用するWeb2.0の時代に入ったと言われている。広辞苑にも載っていない言葉を、いまをときめくGoogleで検索してみると、かなりの量のデータに瞬時にたどりつくことができる。紙の辞書や百科事典はもう完全に時代遅れになった感さえある。インターネットは情報収集の姿を根本的に変えてしまったのである。小子も職場では、インターネットを利用しない仕事のやり方は考えられないが、家庭で閲覧することはほとんどない。子どもにパソコンを占領されているということもあるが、その便利さは痛感しながらも、なければないでいいやと思ってしまうからである。ケイタイも持っていないのであるが、別に不便は感じない。こちらは便利さに目覚めていないだけかもしれないが、PCはそうではない。使わなくともいいという断固たる(?)決断の結果である。インターネット時代になって本当に生活は豊かになったのか疑問にも思うが、そのような個人的感想はともかくとして、デジタル・ライブラリーも技術的には夢ではなくなりつつある現在、現実の図書館のメリットとは何かを悩まなければならない時代になってきているのである。