統計情報Q&A: 賃上げ統計

先日(平成26年7月29日)、厚生労働省から発表された平成26年春の賃上げ率は2.19%でした。一方、毎月勤労統計調査によると、6月分の所定内給与は、前年同月に対して0.2%増しかありません。なぜ違うのですか。

 対象企業と対象労働者の違い、統計の内容の違いのためです。以下、1~3に述べるとおりです。

1 対象企業の違い

 ご指摘の春の賃上げ統計は、厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」です。

 これは、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業のうち、妥結額(定期昇給込みの賃上げ額)などを把握できた314社(平成26年調査の場合)を対象とする調査で、大企業が対象です。

 一方、毎月勤労統計は、規模5人以上の事業所を対象とし、中小企業の事業所も対象に含まれます。

 そのため、大企業の賃上げ結果の中小企業への波及の状況如何で、毎月勤労統計に違いが出ます。なお、一般に、中小企業の賃上げ交渉の妥結、賃金改定の決定は、大企業に比べて遅れます。


(参考)

2 対象労働者の違い

 賃上げ統計は、労使交渉の妥結額の統計で、基本的には労働組合員に関するものです。いわゆる正社員に関するものといってよいものです。

 一方、毎月勤労統計調査の統計は、非正社員も含む全労働者のものです。 そのため、例えば、正社員の賃上げがあっても、非正社員の賃金に変わりがなければ、毎月勤労統計に違いが出てきます。

3 統計の内容の違い

 賃上げ統計は、在籍労働者(それも正社員、労働組合員)の賃金引き上げ額、引き上げ率の平均です。この引き上げには、定期昇給があれば含まれます。

 一方、毎月勤労統計は、月々の労働者の賃金の平均です。前年同月との比較は、1年前の労働者の賃金の平均との比較となります。1年前も在籍していた者に限って比較しているわけではありません。1年間の労働者の入職、離職から影響を受けます。例えば、比較的賃金の低い若年層の入職や、比較的高い高齢層の離職があれば、在籍し続けた労働者の賃金に昇給があったとしても、労働者全体でみた賃金の平均は変わらない、ということもあり得ます。

(具体的な数字例)

 これを、具体的な数字例でみてみましょう。わかりやすくするため、数字は大げさにとってあります。

 1年前の労働者がA、B、Cの3人で、賃金がそれぞれ、30万円、35万円、40万円であったとします。1年前の賃金の平均は35万円です。

 この1年間で、A、B2人にそれぞれ5万円の昇給があり、Cは退職、新たに労働者Pが賃金30万円で採用されたとします。

 賃上げ統計では、平均5万円の賃金引き上げがあったことになります。

 現在の労働者P、A、B3人の賃金は、それぞれ30万円、35万円、40万円で、平均は35万円です。1年前と変わりありません。

労働者 1年前 今年  1年間の動き
A 30万円 35万円 5万円 引き上げ  昇給
B 35万円 40万円 5万円 引き上げ  昇給
C 40万円 -  退職
P - 30万円  新採
労働者平均 35万円 35万円
対前年比ゼロ
賃上げ額 5万円
・・・賃上げ統計
 

(補足)