全国加重平均で56円引き上げの1,177円に。引き上げ額は過去2番目の高さ
 ――2026年度の地域別最低賃金改定

スペシャルトピック

2026年度の各都道府県における地域別最低賃金の改定額答申が9月3日、出揃った。改定後の最低賃金は全国加重平均で56円増の1,177円となり、引き上げ額は過去最高だった昨年度の66円増に次ぐものとなった。東京都など14都道府県が中央最低賃金審議会の目安と同額の引き上げを答申した一方で、33府県は目安を上回る引き上げとした。10月1日~12月2日までの間に順次発効の予定となっている。

<各都道府県の地方最賃審の答申内容>

目安を上回る引き上げとなったのは33府県

中央最低賃金審議会(会長:藤村博之・独立行政法人労働政策研究・研修機構理事長)が7月28日にとりまとめた答申は、引き上げ目安額について、Aランクの都道府県を54円、B・Cランクを56円とした。全国加重平均の上昇額は55円。この答申を参考に、各地方の最低賃金審議会(都道府県労働局に設置)で、地域における賃金実態調査や参考人の意見などもふまえて調査・審議が行われた。9月3日までに、すべての都道府県の改定額答申が出揃った。

それによると、14の都道府県が目安どおりの引き上げを答申し、33の府県は目安を上回る引き上げとなった(図表)。

図表:2026年度の地域別最低賃金の答申状況
画像:図表

注1:括弧内の数字は改定前の地域別最低賃金。

注2:効力発生日は、答申公示後の異議の申出の状況等により変更となる可能性がある。

(公表資料から編集部で作成)

目安との差が最も大きいのは佐賀県で、目安の56円に対して引き上げ額は65円と、9円上回った。そのほか、鹿児島県が8円、高知県と沖縄県が7円、目安を上回っている。

全国加重平均では56円の引き上げとなり、中央最賃審の答申を1円上回った。改定後の最低賃金は全国加重平均で1,177円。最高額は東京都の1,280円で、最低額は宮崎県の1,085円となった。

最高額(1,280円)に対する最低額(1,085円)の比率は84.8%(昨年度83.4%)となり、12年連続での比率上昇となった。

今年度の発効日はすべての都道府県で年内に

各地で答申された改定額は、都道府県労働局での異議申出に関する手続きを経たうえで、都道府県労働局長の決定により、順次発効されることになる。昨年度は、例年以上に発効日にバラツキが生じ、10月中の発効は20都道府県にとどまる一方、6県は2026年に入っての発効となった。秋田県では3月の発効だった。

今年度は10月中の発効が37の都道府県となったほか、すべての都道府県が年内に発効する予定となった。

<中央最賃審の改定目安に対する労使団体の見解>

「厳しい結果」(日商)/「経営への影響に大きな懸念」(商工会連合会)

7月28日に中央最賃審の目安答申が出された際の労使の反応をみると、日本商工会議所は小林健会頭のコメント(7月28日)で、「現下の中小企業・小規模事業者の支払い能力からすると厳しい結果」だとしつつ、「昨年の引上げ率を踏まえれば、企業の実態が一定程度勘案されたもの」と受け止めた。

全国商工会連合会のコメント(7月28日)は、「例年以上に法が定める三要素(生計費、賃金、支払い能力)に基づき、明確な根拠・データに基づいた納得感ある目安の提示がこれまで以上に求められた中、三要素について丁寧かつバランスよく見た議論が、時間をかけて真摯に行われた」と評価しつつ、目安額については「特に引き上げ幅の大きい、B・Cランク等の地方で事業を営む事業者や、小規模事業者の特に厳しい業況を十分に考慮できたとは言い難い」「中東情勢の影響などによる物価高及び最低賃金を含む人件費の高騰等分を、十分に価格転嫁できている中小企業・小規模事業者は未だ少なく、経営への影響については大きな懸念がある」とした。

「『額差』是正の流れをつくれた」(連合) /「支払い能力ありきの審議」(全労連)

連合の神保政史事務局長の談話(7月29日)は、「今次の春季生活闘争の成果を労働組合のない職場で働く労働者へと波及させ、最低賃金近傍で働く労働者の暮らしを底上げするには十分とは言えない」としたものの、「公労使がデータ等に基づき真摯な議論を尽くした結果として受け止める」とコメント。

B・CランクがAランクを2円上回る目安額となったことについては、「労働側が最高額と最低額の『額差』是正につながる目安を強く求めた結果、Bランクまで幅を広げ『額差』是正の流れをつくれたことは評価できる」とした。

全労連の九後健治事務局長の談話(7月29日)は目安額について、「『労働者の生計費』をわきに置いて、企業の支払い能力ありきの審議が行われた結果」と指摘。さらに、「審議が本格化するまさにその時に、政府が『全国平均1,500円』の達成時期を2020年代から2030年代前半へ後退させる方針を示したことが、極めて大きな影響を与えた」とした。

<今年の中央審議での労使の主張>

他制度の課題を発効日の遅らせで解消するのは誤り/労働者側

中央最賃審の審議において労働者側委員は、今年の春闘について「全体では3年連続で5%を上回る賃上げ、有期・短時間・契約等労働者では6%台の賃上げが実現した」としつつ、「全ての働く人の生活を守り、景気を底支えしていく観点からも、賃上げと最低賃金の大幅引上げを通じ、賃金・経済・物価を安定した巡航軌道に乗せていくことが、今我が国が取るべきベストなシナリオである」と主張した。

地域間の最低賃金の額差については、昨年度はCランクの県で目安を大幅に超える引き上げが相次いだことについて、「地域の自主性が発揮された結果」であるものの、「地方審議における目安そのものの意義が問われかねない事態」と指摘した。そのうえで、目安の妥当性と納得性を高め、目安を軸としたより建設的な議論を促す観点からも、「中央最低賃金審議会としての地域間額差についてより強いメッセージを示すべき」と主張した。

発効日については、賃上げ効果を社会全体に速やかに波及させるうえ、「早期発効が重要」とし、「就業調整の問題等、最低賃金制度とは関係のない他制度の課題を発効日を遅らせて解消しようとすることは誤りであり、給付付き税額控除を含めた抜本的な制度改善で対応することが本筋だ」と訴えた。

中東情勢の影響でコスト増に苦慮する企業が多いことに留意が必要/使用者側

一方、使用者側委員は、最低賃金を一定程度引き上げる必要性は「十分理解する」としつつも、個々の中小企業・小規模事業者を含めた企業の賃金支払能力を十分にふまえた「慎重な判断」が不可欠と主張した。

中東情勢の影響にも触れ、「供給面の停滞・目詰まりに加え、国内企業物価指数や輸入物価指数の急激な上昇にも表れているとおり、燃料・石油化学製品をはじめとするコストの増加に苦慮する企業が多いことに留意が必要」と述べた。

発効日については、昨年度、各地方審議の結果として複数の地域で指定日発効となり発効が遅れたことは、「企業にとって、賃金原資の確保や給与規程の見直し、就業調整への対応等の観点から一定の意義があった」としつつ、「発効日を引上げ額との間で過度に交渉材料とすることなく、労働者の生活や企業経営に与える影響、各地域における様々な地域の事情を考慮しながら、当該地域の公労使委員間で十分に議論することが重要」だと述べた。

<公益委員の見解>

中東情勢の影響で国内企業物価指数が足下で上昇している点に留意が必要

公益委員は議論の経過について、「日本成長戦略」等において「最低賃金については、2020年代に全国平均1,500円という高い目標(『経済財政運営と改革の基本方針2025』)の達成に向け、官民でたゆまぬ努力を継続し、労働生産性の継続的な向上を図ることで、遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する」ことなどをふまえ、公労使で真摯に検討を重ねてきたとした。

最低賃金法が定める3要素のうち「労働者の生計費」については、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は引き続き上昇局面にあるものの、「上昇率は昨年より鈍化していることを踏まえる必要がある」とした。

「賃金」の動向については、春季賃上げ妥結状況における賃金引き上げ結果において、全体で5.01%、中小が4.69%と、昨年に引き続き高い水準となっていることや、有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額(時給・加重平均)についても6.18%の引き上げで昨年を上回る水準となっていることに触れた。

「通常の事業の賃金支払能力」については、売上高経常利益や従業員1人あたり付加価値額が高い水準で推移するなど、「企業の利益において改善の傾向にあることを考慮すべき」としつつ、「中東情勢の影響により、国内企業物価指数について、足下で上昇している点についても留意が必要」だとした。

こうした状況を総合的に勘案したうえで、今年度の各ランクの引き上げ額の目安を検討するにあたっては全国加重平均4.9%(55円)を基準として検討することが適当とした。

そのうえで、各ランクの目安額については、「日本成長戦略」等において、「地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る」とされていることや、雇用情勢はB・Cランクが相対的に良い状況にあることなどを考慮し、Aランクが54円(4.5%)、Bランクが56円(5.2%)、Cランクが56円(5.4%)の引き上げが適当とした。

(調査部)