【賃上げの全体状況】
ベースアップなどの「賃上げ分」は3年連続で3%台を維持。実質賃金プラスを確保へ。中小組合の賃上げは健闘と言える状況に
――労働組合の回答集計でみる2026年賃上げ額・賃上げ率の最新状況
春闘取材
労働組合のナショナルセンターである連合(芳野友子会長)が集計した最新の賃上げ回答結果(6月4日公表、6月1日時点)によると、定期昇給相当込みの賃上げ率は5.02%で、3年連続での5%台となっている。定昇相当分を除く「賃上げ分」でみると、引き上げ率は3.52%となっており、昨年に続き、過年度物価上昇率(総合指数で2.6%)を上回った。中小の賃上げも「健闘している」と言える状況にあり、300人未満の組合の「賃上げ分」の引き上げ率は3.54%と全体平均を上回っている。現時点での賃上げの全体状況を眺める。
<2026春闘の着目点>
前回の2025闘争では2年連続の5%台を達成し、賃上げ率は5.25%を記録
前回の2025春闘では、連合の最終の回答集計結果でみた定期昇給相当込みの賃上げ率は5.25%となり、2024春闘(5.10%)から2年連続で5%台を達成(図表1)。経済や企業業績の後追いではなく、「人への投資」を起点にステージを変え、経済を好循環させる「未来づくり春闘」の実現をめざす連合は、2025闘争の最終総括である「2025春季生活闘争まとめ」で、「新たなステージの定着に向け前進したと受け止める」と評価した。
図表1:連合結成以降の平均方式での定昇相当込み賃上げ率(加重平均)の推移(単位%)

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注:2025年までは最終集計。2026年は6月1日時点の第6回集計結果。
(連合の公表資料から編集部で作成)
また、2025春闘では、定昇相当を含まない、ベースアップや賃金改善分だけでみた「賃上げ分」の賃上げ率が3.70%となり、2024年度の消費者物価指数(総合)3.0%を十分に上回って「実質賃金プラス」も達成する結果となった。
規模間格差是正では「歯止めをかけるに至らず」
ただ、格差是正の取り組みについては、進展がみられなかった。中小組合の賃上げ結果をみると、300人未満の組合の賃上げ率は4.65%と5%に届かず、全体平均と0.60ポイントの差がついた。300人未満の組合の賃上げ率が全体平均を下回るのは31年連続となり、連合の「2025春季生活闘争まとめ」は、「格差拡大に歯止めをかけるには至らなかった」と総括せざるを得なかった。
そのため2026春闘では、3年連続で5%台の賃上げを実現できるか、実質賃金プラスを定着させることができるか、今年こそ中小の格差是正を前進させられるか、などが大きな着目点となった。
<労働組合はどのような要求方針を立てたか>
生活が向上したと実感している人は少数にとどまる、と連合方針
2026春闘では、労働組合はどのような方針を立てて臨んだのだろうか。
まず、ナショナルセンターの連合からみていくと、連合は2025年11月に「2026春季生活闘争方針」を策定した。2026方針は、前回の2025闘争において2年連続となる5%台の賃上げが実現したものの、「生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は低迷している」と指摘。「多くの人が生活向上を実感し、将来への希望と安心感を持ててこそ、賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せることができる」と述べて、賃上げの恩恵がまだ生活者に行き渡っていないとの認識を示した。
そのうえで、2026方針は、「日本の実質賃金を1%上昇軌道に乗せ、これからの“賃上げノルム”としていくことが、国民経済の安定と経済の好循環を実現するカギとなる」と強調。「そのためには、賃上げのすそ野を中小企業や労働組合のない企業などに広げ、格差是正を進めることが不可欠」だとし、関税の問題など経済の外的マイナス要因を乗り越えるためにも、「国内の消費マインドを喚起できる賃上げが必要不可欠」だと訴えた。
「実現をめざす」から「実現にこだわる」に書きかえ
具体的な賃上げの要求目標について2026方針は、引き上げ幅の「数値」は2025方針から据え置いたものの、数値以外の部分の表現を強めることで、前年以上に積極的に賃上げに臨む姿勢を強調。「全体の賃上げの目安は、賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上とし、その実現にこだわる」と記載し、「3%」「5%」という数値は2025方針から引き上げなかったものの、2025方針で「実現をめざす」としていた表記を「実現にこだわる」とあらためた(図表2)。
図表2:連合の春季生活闘争方針における賃上げ要求目標の2025年と2026年の比較

注:下線は、変更点をわかりやすくするために編集部で付けた。
(連合2025年・2026年春季生活闘争方針をもとに編集部で作成)
中小については過去3年で逃した賃上げ分の回復もめざす
中小組合の規模間格差是正の取り組み方針では、2025方針と同様、全体の賃上げ目標である5%に「格差是正分 1%以上を加えた 18,000円以上・6%以上を目安とする」としたが、今回はそれに「3年前の賃金水準と比べ9%以上(過去3年分の物価上昇率)増えていない場合は、その回復についても求めていく」との文言を付加。300人未満の組合の「賃上げ分」の引き上げ率が2023年以降は大手(300人以上)に届いておらず、規模間格差がむしろ拡大しつつあることや、例年以上に実質賃金プラスの確保の必要性を強く意識させる書きぶりとした。
一方、正社員とパートタイム労働者などの雇用形態間格差の是正に向けた取り組み方針では、2025方針では示さなかった引き上げ要求目安の「率」を明示。今夏の地域別最低賃金の引き上げ審議でも例年と同様に高率での引き上げとなることが見込まれることから、正社員の引き上げ率よりも高い「7%を目安に少なくとも地域別最低賃金の引き上げ率を上回る賃金引き上げに取り組む」と掲げた。
金属労協や主要な産業別労組でも昨年を上回る要求方針に
主要な産業別労働組合の方針でも、2025春闘より積極的な賃上げ要求を掲げる動きが目立った。
自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5つの金属関連産別でつくる金属労協〈JCM、金子晃浩議長(自動車総連会長)〉の「2026年闘争方針(2026年闘争の推進)」は、「すべての組合員の実質賃金向上を確固たるものにするべく、積極的な賃上げと要求実現にこだわり、生活の安心・安定の確保を図る」と明記。ベアや賃金改善分などの「賃上げ」の要求基準について、要求額は2025方針と同じ「1万2,000円以上」としたが、「すべての組合で1万2,000円以上にこだわる」と記述し、「取り組む」との文言だった前回方針よりも強い決意を表した(図表3)。
図表3:金属労協と主な加盟産別の方針(賃金要求部分)の比較(2026年と2025年)

注:下線は、変更点をわかりやすくするために編集部で付けた。
(連合、金属労協、各産別の方針をもとに編集部で作成)
自動車総連は「以上」と「こだわる」の文言で昨年より強い姿勢を表現
自動車総連(金子晃浩会長)は「2026年総合生活改善の取り組み方針」で、「過去3年間で積み上げてきた賃金引き上げと物価上昇のサイクルを今後も持続可能なものへと前進させ、全年代で物価上昇を上回る実質賃金の引き上げを目指すことが極めて重要」だと強調し、中小組合のために示す平均賃金での要求目安について、「賃金カーブ維持分を確保した上で賃金改善分1万2,000円以上の実現にこだわる」と明示。「1万2,000円」については2025方針と同額としたが、今回は格差是正の必要性をより強く意識して「以上」の文言を付加するとともに、文末を「実現にこだわる」に強めた。
電機連合は水準改善の要求額を1,000円増額
「開発・設計職基幹労働者賃金」の個別ポイントで水準改善額の統一要求基準を設定している電機連合(神保政史会長)は、「2026年総合労働条件改善闘争方針」で、水準改善額(賃金体系維持分除く)を「1万8,000円以上」と設定し、2025方針の「1万7,000円以上」から1,000円引き上げた。
機械や金属関連の中小組合を多く抱えるJAM(安河内賢弘会長)も要求額を引き上げた。JAMの「2026年春季生活闘争方針」は、「2026年春季生活闘争では、すべての組合員が生活向上を実感でき、『格差拡大に歯止めをかける』賃上げに粘り強く取り組む」などと強調。賃上げ要求について「賃金構造維持分を確保した上で、所定内賃金の引き上げを中心に17,000 円以上の『人への投資』を要求する」と掲げ、引き上げ率で前年水準(5%)を下回らないようにするため、要求額を2025方針から2,000円引き上げることにした。
流通・サービスもカバーするUAゼンセンも昨年から1,000円引き上げる
流通・小売やサービスなどの業界もカバーしているUAゼンセン(永島智子会長)は、「2026労働条件闘争方針」で「物価高で実質賃金は低下し生活は厳しい。中小組合の4割超は実質賃金維持が困難。個人消費停滞等が要因」などとして、「実質賃金1%程度の上昇を定着させる」と強調した。
方針は正社員(フルタイム)組合員の要求基準(賃金水準がUAゼンセンが設定する「ミニマム水準」未達の場合)について、賃金体系が維持されている組合については、「体系維持分に加え4%」、それに「格差是正分として1%程度を加えて賃金を引き上げる」と設定し、要求額としては「体系維持分に加え1万3,500円(格差是正分含む)」と掲げた(図表4)。前回の2025方針は「4%、要求額1万2,500円(格差是正分含む)」との内容。今回の方針は格差是正分の1%をはじめから要求基準に盛り込むとともに、要求額を昨年より1,000円高くした。
一方、賃金体系が維持されていない組合については、6%に「格差是正分として1%程度を加えて賃金を引き上げる」とし、要求額としては「1万8,000円に達するよう積極的に取り組む」(格差是正分含む)」と設定。なお、2025方針は「6%、要求額1万7,000円(格差是正分含む)」との内容だった。
図表4:UAゼンセンの「労働条件闘争方針」の2026年と2025年の比較

注:下線は、変更点をわかりやすくするために編集部で付けた。
(UAゼンセンの労働条件闘争方針、連合公表資料をもとに編集部で作成)
<経営側の2026年労使交渉に向けた賃上げのスタンス>
経団連の経労委報告はベアの実施が「スタンダード」と書き込む
賃上げの要求を受ける側の経営側も、「成長と分配の好循環」の実現に向けて、昨年以上のトーンで賃上げを重要視するメッセージを発した。
経営者団体の経団連(筒井義信会長)は、1月20日に経営側の2026年春季労使交渉方針とも言える「2026年版経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を発表。報告は、「人的投資を拡充・促進し、賃金引き上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』に向けて、経団連は社会的責務としてその先導役を果たすとの覚悟をもって今年の春季労使交渉に臨む」と表明。
月例賃金の引き上げの方法については、「ベースアップ実施の検討が賃金交渉におけるスタンダード」だと言及して、昨年報告の「(定期昇給等の)制度昇給の実施はもとより、ベースアップを念頭に置いた検討が望まれる」との記述よりも高いレベルで、ベアの実施を会員企業に促した(図表5)。
図表5:経団連「経営労働政策特別委員会報告」の2025年版と2026年版の賃上げスタンスの対比

(経団連「経営労働政策特別委員会報告」の2025年版・2026年版から編集部で作成)
高市首相も「物価に負けないベースアップの実現」に期待を示す
一方、政府は、2025年11月25日という労働組合の要求方針策定よりも早い時期に「2026年春季労使交渉に向けた意見交換」を開催。連合と経団連を招いて意見交換を行った。
高市早苗首相は、労使のトップを前に「30年以上ぶりに5%を超える高水準となっている賃上げを確かなものとして定着させるために、一昨年、昨年の水準と遜色のない水準での賃上げ、とりわけ、物価上昇に負けないベースアップの実現に向けたご協力を心よりお願いする。もちろん、政府もしっかりと頑張っていく」と呼びかけ、昨年並みの賃上げの実現に向けた期待を明らかにした。
<労働組合の賃上げ要求集計結果>
定昇相当込みの賃上げ要求額の平均は1万9,506円
労働組合の昨年以上の要求方針を反映し、連合が3月5日に発表した要求集計(3月2日時点)では、要求額の全体平均は前年以上の水準となった。
全体の賃上げ要求額の加重平均は1万9,506円と前年より262円高い水準となり、率では5.94%とほぼ前年(6.09%)並みとなった(図表6)。また、定昇相当込みで6%以上の賃上げを要求した組合の割合は前年(62.7%)を上回り、63.1%に及んだ。
図表6:連合の要求集計結果の2022年からの推移(定昇相当込み賃上げ額・率)

(連合が公表する各年の要求集計から編集部で作成)
中小組合は額も率も前年より高く、率は6.6%超に
中小組合の要求額も前年を上回り、格差是正の必要性を昨年以上に訴えた連合の闘争方針が反映される形となった。
300人未満の組合の要求額の加重平均は1万8,548円となり、前年を881円上回った。一方、率は、30年ぶりに6%を上回った前年(6.57%)をさらに上回る6.64%に達した。
有期・短時間・契約等労働者の時給引き上げの要求も連合方針に沿った水準となった。引き上げ率の加重平均は7.60%と7%を大きく超えるとともに、前年(7.06%)を0.54ポイント上回った。引き上げ額の加重平均は92.16円となり、前年を10.81円上回った。
<賃上げ回答の最新の状況>
定昇相当込みの賃上げ額は前年同期を119円上回る
では、現時点での賃上げ回答はどのような結果になっているのだろうか。
連合の最新(6月1日時点)の回答集計結果である第6回集計結果(6月4日発表)をみると、月例賃金の改善を要求した5,342組合のうちの87.9%にあたる4,693組合が妥結している。
そのうち4,862組合(286万3,436人)について集計した平均賃上げ方式での定昇相当込みの賃金引き上げ額(月例賃金)の加重平均は1万6,518円で、前年同期を119円上回っている。賃上げ率は5.02%と5%台を維持し、前年同期を0.24ポイント下回った。
前年の最終結果と比べると、率は0.23ポイント下回ったものの、額では162円上回った(図表7)。率では前年同期を下回った点について、連合の仁平章・副事務局長は、ここ数年高い水準の賃上げが続いたことで「賃金のベース額が上がっていることが影響している」と説明。仁平氏によると、連合の加盟組合を対象にした労働条件調査のデータでは、この3年間で所定内賃金の水準が約3%ずつ上昇しているという。
図表7:連合の春季生活闘争の賃上げ額・率の2014年からの推移〈平均賃金方式 定昇相当込み賃上げ〉

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注1:2014年~2025年は最終集計。
注2:2026年の日付は集計日。
(連合公表資料から編集部で作成)
「賃上げ分」の額が1万円を超えるのも3年連続
次に、定昇相当分を含めない、ベアなどの「賃上げ分」だけでみた引き上げ額・率をみていくと(賃上げ分が明確にわかる3,441組合・251万3,240人について集計)、額では前年同期比150円マイナスの1万1,613円で、率は前年同期を0.19ポイント下回る3.52%となっている。前年の最終結果との比較では、額は100円程度のマイナスで、率は0.18ポイントのマイナスとなっている(図表8)。ただ、「賃上げ分」での引き上げ額が1万円を超えるのは、これで3年連続。また、率が3%台となるのも3年連続のことだ。
図表8:連合の春季生活闘争での「賃上げ分」の額・率の2015年からの推移〈平均賃金方式 賃金改善分が明確に分かる組合の集計(加重平均) 賃上げ分〉

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注1:2015年~2025年は最終集計。
注2:斜線のセルは、連合公表資料に該当の数値がないため記載できず。
注3:2026年の日付は集計日。
(連合公表資料から編集部で作成)
消費者物価上昇率(総合)を約0.9ポイント上回る
実質賃金でプラスを確保できたのかどうかを確認するため、総務省統計局の消費者物価指数(2026年度平均)と比べてみる。
消費者物価指数は、「総合指数」で前年度比2.6%の上昇、「生鮮食品を除く総合指数」で同2.7%の上昇、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」で同3.0%の上昇となっている(図表9)。過年度物価との比較では、昨年に引き続き、いずれの指数と比べても賃上げ率(賃金改善分での引き上げ率)のほうが高い結果となっており、「総合指数」との比較では「賃上げ分」が0.92ポイント上回っている。
図表9:「賃上げ分」の率と過年度物価上昇(2023~2025年度平均消費者物価上昇率)との対比(単位:%)

注1:「賃上げ分」は、2024春闘・2025春闘は最終結果で、2026春闘は第6回集計結果。
注2:消費者物価上昇率は2023年度平均、2024年度平均、2025年度平均の結果。
(連合・総務省統計局の公表資料から編集部で作成)
中小の「賃上げ分」は額も率も全体平均を上回る
次に、中小組合の賃上げ回答状況をみていく。
同じ連合の回答集計から、300人未満の組合の結果をみると、定昇相当分を含む賃上げ額(加重平均)は前年同期を476円上回る1万2,929円で、率は前年同期と同じ4.70%となっている。また、前年の最終結果と比べると、額では568円、率では0.05ポイント上回っている(前掲の図表7)。全体平均を超えるような結果にはならなかったが、全体平均との差でみれば、2025年の最終結果では額の差が3,995円、率の差が0.6ポイントだったのに対し、2026年の現時点では、額の差が3,589円、率の差が0.32ポイントとなり、今年のほうが、差が小さくなった。
回答額の分布をみると(5月7日集計時点)、回答額のヤマは規模計でも300人未満の組合でも、1万円に集中するとともに、2番目に高い山が1万5,000円となっており、連合では「賃上げの定着がみられる」としている。また、回答額の分散度合いは規模計、300人未満ともに縮小傾向にあるという。
一方、「賃上げ分」についてみると、額では前年同期を413円上回る9,924円で、率も0.03ポイント上回る3.54%となっている(前掲の図表8)。前年の最終結果と比べると、額は456円上回っており、率は0.05ポイント上回っている。また、率は現時点で、全体平均(3.52%)と300人以上平均(3.52%)を上回っており、連合は「中堅・中小の健闘も続く」(6月4日発表の回答集計プレスリリース)としている。
7月3日に公表される予定の最終集計でも中小の率が全体平均および300人以上平均を上回れば、2022年以来4年ぶりのことになる。
有期・短時間・契約等労働者の時給引き上げが2014年以降で初めて6%台を記録
最後に、有期・短時間・契約等労働者の賃上げを確認すると(378組合・90万351人について集計)、時給でみた賃上げ額・率の加重平均は74.90円・6.16%で、前年同期を7.88円・0.35ポイント上回った(図表10)。2014年以降では初めて70円台・6%台を記録している。
図表10:連合の春季生活闘争における有期・短時間・契約労働者の時給等引き上げの2014年からの推移(加重平均)

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注:最低賃金全国加重平均額のカッコ内の数値は前年比(%)。
(連合公表資料から編集部で作成)
<連合の回答結果に対する評価>
3年連続の5%台は粘り強く真摯に交渉した結果
連合は5月28日、千葉県浦安市で中央委員会を開催し、第5回回答集計(5月7日時点)までの結果をふまえた「2026春季生活闘争中間まとめ」を確認した。
中間まとめは、回答結果に対する全体的な受け止めについて、「全体では、3年連続で定昇込み5%台の賃上げが実現し、定昇除く賃上げ分は過年度物価上昇率(2.6%)を1%弱上回っている。中東情勢による不透明な状況への危機感をもちつつも、労使が、賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せ『賃上げがあたりまえの社会』を実現する正念場であるとの共通認識のもと、組合員の生活の安心・安定と企業の持続的成長、日本全体の生産性向上につながる『人への投資』の重要性について、粘り強く真摯に交渉した結果」だと評価した。
「賃上げノルム」が形成されつつある、とも明記
中間まとめはまた、「3年連続で5%以上の賃上げ目安を掲げ、本年度は結果にこだわることで、5%以上の獲得組合数の割合は、2022年1%→2023年10%→2024年36%→2025年43%→2026年48%と増加し、賃上げのすそ野は着実に広がっている」と紹介したうえで、「全体的な傾向として、4%台~6%台に収れんする動きがみられるなど、『賃上げノルム』が形成されつつある」と述べた。
さらに、中間まとめは、「この5年間の積み重ねによって、日本社会は、賃金も物価も上がらない『慢性デフレのサイクル』から脱却し、『人への投資』を起点とする好循環が回っていく『賃上げがあたりまえの社会』に向けて前進したと受け止める」と総括した。
「賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』へ、確かな手応え」(経団連会長)
経営側の反応をみると、経団連は先行大手の回答が出揃った集中回答日の3月18日に筒井義信会長のコメントを発表した。
コメントは、「製造業の大手企業を中心に、1万円以上の大幅なベースアップや5%を超える月例賃金の引上げなど、昨年と同等以上や労働組合の要求通りの満額となる回答が多く提示されたことを率直に歓迎する」とし、「『人への投資』推進の観点から、賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』へ、確かな手応えが感じられる内容と受け止めている」と評価した。
また、「これまでに各企業が示した回答が、中小企業をはじめ、これから労使交渉が本格化する多くの企業に波及した結果、賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』が実現し、各企業、ひいては社会全体の『成長と分配の好循環』につながっていくことを強く期待しながら、今後の回答も注視していきたい」とした。
中小企業を会員企業に多く抱える日本商工会議所の小林健会頭も3月18日にコメントを発表。「大手各社から大幅な賃上げの回答が示されたことを歓迎する。この賃上げの動きが、地方を含む中小企業・小規模事業者へ広く普及し、社会全体で定着することを強く期待する」とする一方、「多くの中小企業・小規模事業者は依然として、業績の改善を伴わない防衛的賃上げを余儀なくされており、昨今の国際情勢の不安定化による影響も懸念される」と述べ、政府に対して、中小企業・小規模事業者が持続的に賃上げできる環境の整備を要望した。
「労使の努力で実を結びつつある」と高市首相
一方、政府側の高市首相は、4月29日の連合系メーデーの中央大会に来賓出席。あいさつした高市首相は、「今年の春季労使交渉では、連合の皆様を始めとする労使の皆様の真摯なご努力により、第4回回答集計において、一昨年、昨年と同水準の5%を超える賃上げとなったと承知している」と述べたうえで、「政府としても、賃上げを事業者の皆様に丸投げせず、継続的に賃上げできる環境を整備することとして、事業者の皆様を後押ししてきたが、労使の努力によって、実を結びつつあるものと考えている」と話し、労使の交渉をねぎらった。
<主要産別の回答結果>
金属労協の「賃上げ」獲得額は比較可能な2014年以降で最高
金属労協や主要産別の回答集計でも、昨年を上回る賃上げ結果となっている。
金属労協が5月27日に発表した「2026年闘争要求・回答状況総括表(5月25日現在)」(要求提出組合の9割弱の組合が回答・妥結済み)によると、ベアや賃金改善分などの「賃上げ」の平均獲得額は1万630円で、前年同期の1万324円を約300円上回るとともに、前年の最終結果(1万169円)よりも500円弱高くなっている(図表11)。
図表11:金属労協・2014年以降の賃金改善分の獲得額(単純平均)の推移(単位:円)

注:2026年は5月25日現在での集計。その他の年は最終集計。
(金属労協の公表資料から編集部で作成)
規模別では、「299人以下」が前年同期比343円増の9,621円、「300~999人」が同226円増の1万2,000円、「1,000人以上」が同214円増の1万3,065円と、すべての規模区分で前年同期を上回るとともに、前年の最終結果も上回った。
金属労協が同日に発表した「第9回戦術委員会確認事項」は、「賃上げの要求額・回答額ともに、比較可能な2014年以降で最も高い水準となったことに加え、中小の底上げを前進させるなど、大きな成果を上げることができた」と評価している。
自動車総連の賃上げ額は1976年以降で最高に
自動車総連の5月21日時点の回答引き出し状況まとめ(要求提出組合の83.8%で妥結・妥結方向)によると、賃金カーブ維持分と賃金改善分を合わせた総額の平均回答は1万3,700円と昨年同時期を553円上回った。また、賃金改善分が昨年同時期を291円上回る1万14円となり、ともに1976年以降で最高額となっている。
JAMでも、5月14日時点の回答集計結果(賃金要求した組合の約9割で回答済み・約8割で妥結済み)によると、ベアなどの「賃金改善分」の平均額は1万37円と1万円を超え、1999年の結成以来の最高を記録。また、賃金構造維持分を含む賃上げの回答額が1万3,782円(4.88%)、妥結額が1万3,963円(4.92%)となり、回答額・妥結額ともに5年連続で過去最高となった。
UAゼンセンの短時間組合員の時給は額・率ともに結成以来の最高水準に
UAゼンセンでは、6月1日午前9時時点の妥結集計をみると、正社員組合員の制度昇給とベア等を合わせた賃上げ合計額の加重平均(1,200組合が妥結)は1万5,177円(4.78%)、ベア等だけの「賃金引き上げ分」は1万1,154円(3.42%)となり、額ではUAゼンセンの結成(2012年)以来の最高を記録。
一方、短時間組合員の時給引き上げ額(制度昇給とベア等を合わせた賃上げ合計額)の加重平均(366組合で妥結)も74.7円(6.19%)となり、額・率ともに結成以来の最高水準となった。率で正社員組合員を上回るのはこれで11年連続だ。
<中東情勢の交渉・回答への影響>
米国・イスラエルがイランを攻撃し、影響に注目が集まる
2026春闘では、大手組合の回答のヤマ場を半月後に控えた2月28日に、米国とイスラエルがイランを攻撃。原油価格が高騰し、日本企業への影響も避けられない見通しとなったことから、賃上げ交渉への影響が急きょ、関心を集めた。
ただ、ヤマ場の集中回答日(3月18日)の段階では、金属労協の金子議長(自動車総連会長)は「直接的な中東情勢による交渉の影響は出ていないと認識している」とし、4月2日の会見でも、「昨今では中東情勢をもとにした不安感や先行きの見通せなさといった懸念が騒がれているが、金属労協加盟組織のなかでは、いまの足元の環境変化にはほぼ影響していない」と話した。また、金属労協傘下のJAMの安河内会長も、4月3日に開いた賃上げ回答に関する会見で、石油関連の原材料の大幅な上昇や中東向けの自動車関連部品の在庫の積み上がりなどビジネスへの影響については指摘したものの、中小組合の回答に対する影響については「(単組から)それほど、大きな影響は出ているという報告はない」と語った。
連合の芳野会長は、5月28日の中央委員会で「交渉期間中に中東情勢が激変し、日本経済や国民生活への影響が懸念される状況だったが、危機感を持ちながらも今後の動向を冷静に見極め、交渉を進めた労使が多かったように思う」と振り返った。
4月に入り、現場から影響の声があり緊急要請を実施
ただ、連合は、「春季生活闘争は中東情勢と切り離して交渉を続けてきた」ものの、「4月に入り現場から影響が出始めているとの声が聞こえてきた」こともあり、中東情勢が現場で具体的にどのような影響を及ぼしているかを把握するため、4月に構成組織の協力を得ながら「現場実態調査」を実施。調査結果をもとに「緊迫が続く中東情勢から国民生活を守るための緊急要請書」を作成し、4月25日、芳野会長が赤澤亮正経済産業大臣に手交した。
要請書は、現場調査の結果、「軽油、重油、航空機燃料をはじめとする燃料油、潤滑油、尿素、有機溶剤、塗料、接着剤、包装用資材・容器、手袋、おむつ、ごみ袋などの石油製品やアルミ・タングステンなど原材料の入手難・価格急騰の懸念が広がっており、操業調整の動きも出始めていることが分かった。こうした影響は、製造、整備・点検、建設、物流、交通、医療、教育現場など幅広い産業・企業などに及んでいる」として、①物資の供給動向に関する正確な情報の共有・発信②事業者が雇用を守るための支援策などの拡充・周知③国民の省エネ・倫理的な消費行動の推進、転売防止――の3点の対応を政府に対して求めた。
なかでも、事業者への具体的な支援としては、従業員の雇用を守るための各種支援策や相談窓口の周知の実施、また、今後の状況に応じて、新たな支援措置、経営環境変化対応資金のさらなる要件緩和や労働政策審議会職業安定分科会の「緊急時における雇用調整助成金の在り方」報告書(2026年3月)をふまえた雇用調整助成金の特例措置の検討を行うことを盛り込んだ。
これに対し、赤澤大臣からは、「事業者から雇用維持にかかる相談があった場合には、厚生労働省において丁寧な相談対応を行い、必要に応じて雇用調整助成金をはじめとする支援策の活用を促している。経済への影響を注視しながら、臨機応変に必要な対応を進めてまいりたい」「経済への影響を最小化すべく、中東情勢の影響を受ける中小企業などへの支援に全力で取り組むとともに、引き続き、物価上昇を上回る継続的な賃上げの実現に向けて連合と連携していきたい」などの返答があった。
<来春闘に向けた課題>
実質賃金の持続的上昇、賃上げのすそ野拡大と格差是正に一層のこだわりを持つ
来春闘以降に向けた課題について、連合の「2026春季生活闘争中間まとめ」は、①持続的な「人への投資」と「賃上げノルム」の確立・浸透②「未来づくり春闘」評価委員会報告書で提起された課題の検討③賃金水準闘争の強化④付加価値の適正分配と格差是正など「基盤強化」の取り組み――などをあげている。
中間まとめは、5年間の賃上げの取り組みの結果、「経済社会は、着実に変わってきたものの、多くの人が生活向上を実感し、将来への希望と安心感を持てる段階には至っていない」として、「『未来づくり春闘』の基本的方向性を継続しながら、日本全体の実質賃金の持続的な上昇、賃上げのすそ野の拡大と格差是正に一層のこだわりを持って、『賃上げノルム』の確立・浸透に取り組む必要がある」としている。
評価委員会の要求基準に関する提言については「連合の役割も踏まえ、検討」
また、連合の「未来づくり春闘」評価委員会(座長:玄田有史・東京大学社会科学研究所教授)が報告書(2025年9月)のなかで提言した、賃上げの要求基準について①過去のインフレ実績ではなく、将来のインフレ見通しを要求基準に反映させる②実質賃金に関するキャッチアップ条項を導入する③人手不足要因を要求基準に反映させる④積極的な情報発信により労働者の中長期的な賃金予想を安定させる――との見直し提案について、「連合の役割も踏まえ、検討する」とした。
格差是正を効果的に進めるための賃金水準闘争の強化では、「連合の調査によると、自らの賃金実態の把握の有無によって賃上げ率にも有意な差があることが確認できる」と指摘し、「消費者物価は、直近4年間で約12%上昇しており、労働組合は、賃上げが組合員の生活向上に結びついているか、社会的水準との差は縮小しているか、中期の時間軸でも検証する必要がある。また、格差是正には、社会的指標などとの比較による具体的な格差を示し、労使交渉を進めることが有効」だとしている。
適正な価格転嫁・適正取引は道半ば
付加価値の適正分配については、「適正な価格転嫁・適正取引は道半ば」だとして、「取り組みを強化する」としている。
また、格差是正の基盤強化では、中小企業での「人への投資」を政策的に支援するとともに、自動化や省力化への助成や税制優遇などで生産性を高め、企業を持続的に発展させる必要があると主張。「連合として、中小企業が活用できる施策や相談窓口などに関するコンパクトな資料を作成する」ほか、「公正取引委員会や中小企業庁の実態調査などを踏まえ、適切な価格転嫁・適正取引の取り組みを徹底する」とともに、政府に対して、官公需における中小企業・小規模事業者の取引環境の改善を図るために策定された「官公需における価格転嫁・取引適正化加速化プラン」(4月6日)の「予算措置を含む速やかな実行を求める」などとしている。
(荒川創太)
2026年7月号 春闘取材の記事一覧
【賃上げの全体状況】
- ベースアップなどの「賃上げ分」は3年連続で3%台を維持。実質賃金プラスを確保へ。中小組合の賃上げは健闘と言える状況に ――労働組合の回答集計でみる2026年賃上げ額・賃上げ率の最新状況
- 賃上げの流れが「大都市圏のみならず全国的に広がる」 ――連合の2026春季生活闘争「地方連合会合同記者会見」


