業務時間外の連絡ルールの整備の検討や、創造性を高めるための余白時間の設定の労使論議を
――電機連合が労働協約改定項目で初めて要求
労働組合取材
日立製作所やパナソニックなどの大手電機メーカーの労働組合をはじめ、電機業界各社の労働組合でつくる電機連合(神保政史会長)は、今春の2026年総合労働条件改善闘争で、労働協約改定の要求項目として、労働者の健康確保や柔軟な働き方に関する環境整備などを掲げた。具体的な要求内容のなかで、ユニークで特に目を引いたのは、休息時間を確保するための業務時間外の連絡ルールの整備の検討と、創造性を高める働き方に向けた余白時間の設定などに関する労使論議の実施。電機産業の組合員の職場の最新実態とともに、要求に至った背景や狙いについて、電機連合本部を取材して尋ねた。
要求の背景と狙い
1年おきに労働協約改定項目を経営側に要求
電機連合が毎年春に労働条件の改善などについて経営側と協議する「総合労働条件改善闘争」では、2年に1回、賃金水準の改善などの労働条件と並んで労働協約改定項目についても要求を掲げる。2026年闘争は、労働協約改定項目を要求する年にあたり、電機連合は「適正な総実労働時間の実現」「働き方改革の取り組み」「誰もが活躍できる環境の実現に向けた取り組み」――などを要求項目の柱に設定した。
そのなかで、【適正な総実労働時間の実現】における取り組みの軸として、①労働者の健康を守る取り組み②総実労働時間の短縮に向けた取り組み――の2点を据えた。
業務から適切に離れ十分な休息と回復が図れるように
具体的にどのようなことを要求内容に掲げたのだろうか。〔労働者の健康を守る取り組み〕からみていくと、36協定の特別条項での限度時間について、1カ月80時間以下で協定を締結することの徹底と、1年の限度時間について、640時間以下での締結に向けて計画的かつ実効的な方策の検討を行うことを要求内容として掲げた。また、勤務間における休息時間の確保を重視し、「すべての労働者を対象に勤務間インターバル制度や深夜労働時間規制を導入する」「休息時間は連続11時間をめざす」ことに加え、「休息時間において、業務から適切に離れ十分な休息と回復を図ることができるよう、業務時間外の連絡ルールの整備など運用面の検討を行う」ことを盛り込んだ。
一方、〔総実労働時間の短縮に向けた取り組み〕では、1日の所定労働時間を7時間45分以下とすることを徹底し、さらなる引き下げについて検討を行うことなどを盛り込んだ。
電機連合は【適正な総実労働時間の実現】の項目について、闘争に参加するすべての組合が同じ水準に向かって統一してその到達をめざす「統一目標基準」に位置づけた。
思考の切り替えや深い思考へつなげる意図的な余白時間を設定する
一方、【働き方改革の取り組み】では、「やりがい・働きがいを高め、労働の質と生産性向上を図る取り組みを継続するとともに、社会経済の変容に対応していくため、創造性を高める働き方に資する環境整備を進める」などの考え方のもと、①すべての労働者の立場にたった働き方改革の継続②柔軟な働き方に関する制度の導入や環境整備③交替・変則勤務者の働き方に関する環境整備――を取り組みの軸に設定。
そのうち〔柔軟な働き方に関する制度の導入や環境整備〕では、「創造性を高める働き方に資する職場環境の整備」という特色ある項目を掲げ、「思考の切り替えや深い思考へつなげる意図的な余白時間を設定するため、会議やミーティングを実施しない時間帯の設定や余白を意識したスケジュール設計など環境整備へつなげるための労使協議を行う」ことを求めていくことにした。
電機連合は【働き方改革の取り組み】の各取り組み項目については、できるだけ統一して各組合が取り組む「統一推進項目」に設定した。
業務時間外の連絡ルールの整備や余白時間の設定を掲げるのは初めて
電機連合が、労働協約改定項目の要求で、「休息時間において、業務から適切に離れ十分な休息と回復を図ることができるよう、業務時間外の連絡ルールの整備など運用面の検討を行う」「思考の切り替えや深い思考へつなげる意図的な余白時間を設定するため、会議やミーティングを実施しない時間帯の設定や余白を意識したスケジュール設計など環境整備へつなげるための労使協議を行う」という内容を掲げたのは、今回が初めてだ。
しかも、「業務時間外の連絡ルール」や「余白時間」、「会議やミーティングを実施しない時間帯の設定」といった、先進的なワードが含まれた内容が目を引く。
今回の労働協約改定項目の要求に、こうした内容を盛り込んだ背景や狙いにはどのようなことがあるのか。電機連合・中央執行委員(労政部門労協・法規政策担当/労働調査担当)の出口直哉氏に聞くと、「労働時間政策を見直したことが大きな背景となっている」と説明した。
20年ぶりに労働時間政策を改定し、第4次政策を1月に確立
電機連合では、労働時間に関する運動の基軸となる労働時間政策を数年おきにつくっているが、今次闘争の直前に20年ぶりに労働時間政策を改定し、1月に「第4次労働時間政策」を確立した。
前政策である「第3次労働時間政策」(2006年確立)は、単なる労働時間の短縮だけでなく、「働き方の質」の重視を打ち出すとともに、ワーク・ライフ・バランスの実現を目標に、生活面ではゆとりとやすらぎの実現、仕事面では、創造性とやりがいのある働き方の実現をめざすという内容だった。20年ぶりに政策を改定した理由は、この20年間で社会・経済や電機産業が置かれた状況に加え、電機連合組合員の働き方や働く意識、仕事への価値観などが大きく変化したからだ。
「労働人口が大きく減少し、生産年齢人口も減少するなか、電機産業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)も加速度的に進んできている。そういうなかで、仕事のやり方も複雑になってきており、変化への対応力や適応力も問われるようになってきた。変化に対応するためには、労働者が自律的に働き、新たな価値を生む創造性を高める働き方がこれまで以上に重要になってきた」(出口氏)
総実労働時間は減少し、休暇日数は増加
出口氏によれば、電機連合組合員の労働時間や働き方の状況も大きく変わってきているという。
例えば電機連合「各種労働条件調査」(2025年)から総実労働時間の状況をみると、2016年度から2024年度までの8年間で85.8時間減少し、1,953.4時間となった。これは近年で最も低い水準にある。また、年次有給休暇の取得日数は2014年度の14.4日から2024年度には16.9日まで増加し、取得率は63.7%から75.8%まで高まっている。
一方、柔軟な働き方の状況をフレックスタイム制度の導入状況でみると、2024年ではすでに80.1%と8割に達し、また、コアタイムの設定率は2016年の82.2%から2024年には55%にまで低下しており、働く時間の柔軟化が一層進んできている。加えて、在宅勤務制度の導入率は2024年では78.4%と8割近くに達している。
組合員の意識についてもみていくと、仕事と生活のバランスについて<満足>(「非常に満足している」+「ある程度満足している」)の割合は増加傾向にあり、2023年には55.2%と半数以上に達している(電機連合「組合員意識調査」)。
仕事量や長い時間の神経集中への不安が高まる
ただ、同時に気になるデータも表れた。
同じ「組合員意識調査」から、仕事や職業生活に関する不安の理由をみると(3つ以内選択)、「仕事量が多すぎる」「長い時間神経を集中」の回答割合が増加傾向にあることがわかった。「仕事量が多すぎる」は、2014年は32.4%だったのが、2023年は36.3%まで上昇。「長い時間神経を集中」は、2014年は15.8%だったが、2023年には18.5%に上昇していた。
労働時間が減り、休暇が増えて、柔軟な働き方が拡充されてきているにもかかわらず、なぜ、組合員の不安感は増えているのか。第4次労働時間政策を検討した電機連合内の委員会もこの点に着目したという。
「限られた時間のなかで、高い仕事のパフォーマンスを出さなければいけないというプレッシャーが表れたのではないかなどと委員会では話し合った」と出口氏は振り返る。
余白喪失への対応も必要と政策に盛り込む
こうした課題意識をふまえ、「第4次労働時間政策」では、変化に対応していくために持続的に創造性を発揮できる働き方の実現と自律的に働くことのできるキャリアの実現をめざすうえで、「デジタルなスケジュール管理やタスクの過密化により発生した余白喪失への対応」も必要だと、取り組みの方向性を整理することにした。
「余白」が失われていることに着目した理由を出口氏はこう説明する。「デジタルなスケジュール管理により、会議やタスクの過密化が起きている。例えば、会議と会議の合間がなかったり、社内で個々人のスケジュールがオンライン上で共有されている場合は、他の社員が空いている時間帯に会議や打ち合わせの予定などを入れていくことも可能になっている。こうした働き方は、生産性の向上などにつながる一方、適切に活用されなければ、思考の切り替えや対話、省察に加え、集中力や認知力・判断力の回復などを阻害するケースもあり得る」
持続可能な働き方を構成する8要素を提示
第4次政策では、労働時間の「質」に着目したのが大きな特徴だ。
持続可能な働き方に必要な要素を「長さ」「時間帯」「予測可能性」「働き方の主体性」「心理的安全性」「リカバリー」「生活時間との調和」「時間の意味・充実」――の8つに整理。それぞれの要素で良好な状態を保つよう提言する。
今回、労働協約改定の要求内容に盛り込んだ「勤務間における休息時間の確保」と「創造性を高める働き方に資する職場環境整備」は、この8要素の「リカバリー」をふまえたものだ。
第4次政策は、「リカバリー」を重視する意義について、「心身の疲労やストレスの蓄積を防ぐためには、単に休息時間を取ることにとどまらず、仕事の要求状態から離れ、身体的・精神的・認知的にリセットできる環境を確保することが重要」だと強調するとともに、「健康を守るための時間であると同時に、創造性を生み出す時間資源でもある。余白(バッファ)時間は、認知の切り替えや発散的思考にとって重要」だと述べる。
2026年闘争での取り組みの状況
36組合が業務時間外の連絡ルールについて要求・協議
では、今春の経営側との交渉・協議において、こうした項目を実際にどれくらいの組合が要求し、回答を得たのだろうか。
電機連合の闘争に参加する組合は全部で500組合程度あるが、取材時点(4月下旬)で「業務時間外の連絡ルールの整備など運用面の検討」を「要求・協議する」と本部に報告した組合は36組合で、「会議やミーティングを実施しない時間帯の設定や、余白を意識したスケジュール設計など、創造性を高める働き方の環境整備へつなげるための労使協議の実施」を要求・協議するとした組合は19組合だった。
具体的な各組合の要求・協議内容としては、「業務時間外の連絡ルールの整備など運用面の検討」では、「休息時間が勤務時間に及ぶ場合は勤務免除とし有給とすること」「勤務時間外の連絡制限に関するガイドラインの策定を求める」「連絡ルール整備など運用に関する検討を行う」のほか、海外では勤務時間と時間外の区切りが曖昧になりがちなことから「海外出張時の時間外管理強化を要求」といった内容がみられた。
一方、「会議やミーティングを実施しない時間帯の設定や、余白を意識したスケジュール設計など、創造性を高める働き方の環境整備へつなげるための労使協議の実施」では、「会議時間の短縮や効率化に向けて協議を行う」「労使協議の場で会社の方針や計画を確認していく」などの要求があった。
創造性を高める働き方の労使論議については2組合が電機連合の要求内容に到達
組合の要求に対し、経営側はどのような回答をしたのだろうか。
「業務時間外の連絡ルールの整備など運用面の検討」については、「電機連合が要求する内容に到達」したのが5組合、「一部到達」が2組合で、闘争前からすでに到達していて交渉・協議する必要のなかった組合も含めた「すでに到達している」組合数の合計は92組合となった。
一方、「会議やミーティングを実施しない時間帯の設定や、余白を意識したスケジュール設計など、創造性を高める働き方の環境整備へつなげるための労使協議の実施」については、「電機連合が要求する内容に到達」が2組合、「一部到達」がゼロで、「すでに到達している」組合数の合計は47組合となった。
こうした取り組み結果について、先進的なテーマだけに出口氏も「まだまだこれからといったところ」と率直に受け止めている。大手組合では、働き方改革を進めるなかで、すでに労使で論議され取り組みを進めているところがある一方、創造性を高める働き方の必要性については、各労使で濃淡があるとも指摘。「そもそも課題意識を持たなかったので、議論しなかったところも多かったことが考えられる」と分析する。
産業労使レベルでは認識が一致
一方、産業労使レベルで、課題認識を一致できた点は評価できると強調した。
電機連合は闘争期間中に、電機産業の経営者団体である「電経連」(電機・電子・情報通信産業経営者連盟)と「産別労使交渉」を複数回開催し、意見交換している。そのなかで、デジタル化の進展により業務のスピードが上がる一方、会議やタスクが過密になり、結果として議論の質や集中を阻害するケースについて、問題意識を共有することができたという。また、そうした実態をふまえ、組織内コミュニケーションの時間、新たな価値を生むために集中して検討する時間を意図的に確保することについて、課題認識の一致が図れた点は評価できると話す。
今後に向けて
まずは第4次労働時間政策の理解・浸透・実践に注力
今回の闘争では、第4次労働時間政策の最終確認と、闘争方針の決定のタイミングがともに1月の中央委員会で同時だったこともあって、要求の狙いや考え方を浸透させる時間が短くならざるを得なかった。それが回答数の少なさにつながった点は否めない。
今回の労働協約改定の要求項目を含め、創造性を持続的に発揮できる働き方の実現に向け、取り組みを今後さらに広げていくため、出口氏は「まず、土台である第4次労働時間政策について、加盟組合における理解・浸透を進め、その実践へつなげていきたい」と話す。
また、電機産業といっても、総合電機、通信、重電など業種によって職場の状況は多様であることから、「第4次労働時間政策で取り上げた8要素を各組合で最適に組み合わせたり、強弱をつけることで、電機連合全体で第4次労働時間政策がめざす職場を実現させていきたい」としている。
(荒川創太、田中瑞穂)
組織プロフィール
- 電機連合
- 本部所在地:東京都千代田区内幸町1丁目3番1号 幸ビルディング7階
- 上部団体:連合
- 会長:神保政史(連合・事務局長を兼務)
- 組合員数:56万5,000人(厚生労働省・労働組合基礎調査)
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