コンサルティングに追加・強化が必要な能力として、AI活用なども含めた「開発型」支援を提言
――厚生労働省の「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会」報告書
スペシャルトピック
経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングに必要な能力や、その能力を得るために有効な施策のあり方などについて検討してきた厚生労働省の「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会」(座長:坂爪洋美・法政大学キャリアデザイン学部教授)は1月21日、報告書をまとめた。報告書は、今後、キャリアコンサルティングにおいて追加・強化が必要となる能力について、労働者が職業人生のなかで目指す姿を実現できるようにするために、それに向けて継続的に取り組む力を身につけることを支援する「開発型」の支援を行える能力が求められると指摘。支援の具体的な内容では、将来予測も含めた最新の情報をふまえた職業選択に関する支援や、AI等のデジタルツールを活用した支援も盛り込んだ。
経済社会情勢が変化するなか、個人自らがキャリアを築き上げる必要が増している
キャリアコンサルタントについては、2016年にキャリアコンサルタント登録制度が創設されて以降、国家資格登録者数は着実に増加しており、2025年3月末には約8万人に達した。報告は、この間、産業構造・就業構造の変化や技術革新の進展、労働者の働き方の多様化など、経済社会情勢の変化が続いているとし、「こういった変化は今後ますます加速するものと見込まれている」と言及。個人が自らキャリアを築き上げる必要性がさらに増しているほか、企業においても、人的資本投資も含めた生産性の向上に向けた戦略的な取り組みが必要となっていると指摘した。
自ら取り組む自律的人材の育成に取り組むことが求められる
そのうえで報告書は、キャリアコンサルティングをとりまく状況を整理。まず、仕事に対する価値観や生活スタイルの多様化が進み、職業人生も長期化するなかで、労働者のキャリアや働き方の多様化が進んでいることを指摘。企業においては、人材の最適配置やエンゲージメント向上による生産性向上を実現し、賃金・処遇の向上を図っていくため、キャリア形成や能力開発に自ら取り組む自律的人材の育成に取り組むことが求められているとした。
あわせて、DXやAI技術などの技術革新の進展により労働需要が大きく変化していることや、さまざまな職業において業務内容と必要とされる知識・技能に急激な変化が進んでいると指摘した。
こうしたなかで、労働者が生涯にわたり充実した職業人生を送るためには、「変化する環境の中で自身のキャリアの方向性について考え、主体的・継続的に能力開発に取り組み、環境変化に能動的に対応していく、自律的・主体的なキャリア形成に取り組むことが不可欠」だと強調。労働者のキャリア形成に向けた取り組みを支援するキャリアコンサルタントに対する期待は「ますます高まっている」と述べ、「その活動の場が、企業や需給調整機関のほか、学校、行政機関、各種支援機関など、様々な領域に広がるにつれ、それぞれの活動領域に応じた専門性が求められるようになっている」と言及した。
必要な能力を「全活動領域に共通する能力」と「各領域において必要な能力」の2種類に整理
報告書は、今後のキャリアコンサルティングに必要な能力を「すべての活動領域に共通して追加・強化が必要な能力」と「各活動領域において追加・強化が必要な専門的能力」の2種類に整理した。
「すべての活動領域に共通して追加・強化が必要な能力」については、キャリア形成について問題を抱えた労働者の課題解決を支援する「解決型」の支援だけでなく、労働者が自身の職業人生において目指す姿を設定し、その実現のための課題の達成に向けて継続的に取り組む力を身につけることを支援する「開発型」の支援を行うことができる能力が求められると説明。
具体的には、さまざまな情報を活用して相談者の自己理解・仕事理解・環境理解を支援するほか、働くことの意義の理解まで含めた職業生活設計に関する支援、将来予測も含めた最新の情報をふまえた職業の選択に関する支援、動機づけ支援や伴走支援も含めた職業能力開発・向上に関する支援、組織・環境への働きかけおよび専門家等と連携した支援、AI等のデジタルツールを活用した支援ができる能力が必要だとした。
このうちAI等のデジタルツールを活用した支援については、デジタル技術が急速に進化するなか、「AI等のデジタルツールをデータ収集・分析等のツールとして活用する機会が増えていることに加え、労働者に対するキャリアコンサルティング自体にAIを活用する例も見られるようになってきている」と指摘。こうしたなか、キャリアコンサルタントには、AI等のデジタルツールを活用して情報を収集・分析する能力に加え、AIが提示する情報の正確性や妥当性を見極める能力や、倫理面の問題が生じない形でAIをキャリアコンサルティングの質を高める支援ツールとして効果的に活用する能力が求められるとした。
企業領域では人事部門との連携やキャリア形成支援に向けた環境づくりなど
「各活動領域において追加・強化が必要な専門的能力」については、領域を「企業領域」「需給調整領域」「教育領域」「地域・福祉領域」の4つに区分。
「企業領域」で必要な能力については、企業の理解の促進、経営層や人事部門との連携・協力、従業員のキャリア形成支援に向けた環境づくりをあげた。「需給調整領域」では、労働市場や職種の情報の提供、マッチング、求職条件・採用条件変更への働きかけ、職場定着支援の能力が必要とした。 「教育領域」では、キャリア教育、就職支援・インターンシップ関連業務、カリキュラム設計への協力、リカレント教育を実施する能力を列挙した。「地域・福祉領域」では、情報収集とアセスメント、支援の方向性の提案、支援プログラムの企画運営、キャリアプランの作成・実行支援をあげた。
計画的な更新講習の受講や自己研鑽に積極的に取り組むことを期待
報告は、キャリアコンサルタントの能力開発の促進に向けた提言も盛り込んでいる。
報告書のなかで整理した今後のキャリアコンサルティングに必要な能力について、報告は「キャリアコンサルタントには、これを活用して、計画的な更新講習の受講や自己研鑽に積極的に取り組むことを期待したい」と表明。講習の実施機関においても「本報告書を参考として、より能力開発に資する講習の設定に取り組まれることを期待する」とした。
さらに、更新講習の受講や自己研鑽だけでなく「現場」での実際のキャリアコンサルティングについての学びを行うことは、「知識・技能の向上につながるだけでなく、キャリアコンサルタントとして目指す姿を改めて自覚する契機にもなる」と説明。キャリアコンサルタントには知識・技能だけでなく、現場で直面する可能性がある倫理的ジレンマに適切に対応するための職業倫理についても学ぶことが求められるが、そのためには実践的な学びが有効だと強調した。
具体例としてコンサルティング場面への陪席やインターンシップなど
実践的な学びの手法の具体例としては、活動経験の少ないキャリアコンサルタントが経験豊富なキャリアコンサルタントの指導のもと、キャリアコンサルティング場面に陪席することや、実際にキャリアコンサルティングを行う「インターンシップ」が非常に効果的であるとした。
また、キャリアコンサルタントが個別事例を持ち寄り、その事例の見立てや援助方法の有効性について意見交換を行う事例検討会などの取り組みも非常に効果的だとしている。
さらに、より実践的な学びの手法の1つとして、高い知識・技能および豊富な経験を有する指導者が、各キャリアコンサルタントの成長課題に応じた教育的介入を行う「スーパービジョン」をあげたうえで、「知識・技能の向上、実践力強化を図る上で高い効果が期待できる」とした。
実際に体験する機会を拡充することが今後の活用促進に向けて重要
最後に、報告書はキャリアコンサルタントの活用促進に向け、提言した。
キャリアコンサルタントとして登録している人の約3割はキャリアコンサルティングに関連する活動を行っていないが、その理由は、「キャリアコンサルティングとは関係のない組織、部署等に所属している」「周囲にキャリアコンサルティングの仕事(ニーズ)がない」などが多い。また、企業がキャリアコンサルティングを実施しない理由としては、「労働者からの希望がない」が最も多くなっている。
これらの状況について報告書は、「経営層、管理職などにおいてキャリアコンサルティングの意義・効果や制度の認知が進んでいないことや、労働者がキャリアコンサルティングを受ける機会や相談経験が乏しいことが、活用へのハードルとなっている場合も多い」との見方を示したうえで、「様々な立場の関係者がキャリア支援の価値を理解し、実際に体験する機会を拡充していくことが、今後の活用促進に向けて重要」だと提言した。
労働者、企業、学校、業界団体などさまざまなレベルでも促進に向けた機運醸成を
こうしたなか、キャリアコンサルティングのさらなる活用を図るためには、キャリア形成やリ・スキリングの重要性・必要性とキャリアコンサルティングの効果について、国民の認知・理解を促進することにより、労働者、企業、学校等教育機関、業界団体など、さまざまなレベルにおける取り組みの促進に向けた機運醸成を図っていくことが必要だと指摘。
また、各領域で活動するキャリアコンサルタントが、自らの知識・技能の向上に向けて研鑽することに加え、例えばITなど専門性の高い業種に精通した人がキャリアコンサルタントの資格を取得して活躍することを促進することも、キャリアコンサルティングの質の向上につながり、ひいてはキャリアコンサルタントの価値向上や活躍の機会の創出に寄与するものと期待されると主張した。
厚生労働省では報告書や今後の検討をふまえ、キャリアコンサルティングのあり方の見直しなどを行い、労働者のキャリア形成支援を一層推進するとしている。
(調査部)
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