3割が賞与・退職金の月給化の動きが「あった」
 ――パーソル総合研究所「賃上げと就業意識に関する定量調査」

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賞与の割合を減らしたり退職金を前倒しして毎月の給与に組み込む企業が増えている――。パーソル総合研究所が2025年11月13日に公表した「賃上げと就業意識に関する定量調査」結果によると、企業で働く正社員の約3割が、2023年以降に勤務先で賞与・退職金の月給化が「あった」と回答し、「わからない」と答えた人を除くと4~5割弱にのぼった。一方、ベースアップを中心に直近1年で基準内賃金が上がった人は6割近くに及ぶが、3%以上上がった人は3割弱。調査からは、賃上げがあったからといってモチベーションが上がるわけではない実態も浮き彫りになっている。

直近1年で基準内賃金が上がった人は6割弱

調査結果によると、直近1年で基準内賃金が上がった人は58.0%。ただし、上がった人の半数は1~2%の増加に過ぎず、3%以上増えた人は28.7%にとどまった。年代別にみると、基準内賃金が上がった人は年代が上がるほど少なくなる。

基準内賃金が上がった理由(複数回答)は、ベースアップが47.1%でトップ。以下、「年齢や勤続年数により昇給した」(26.4%)、「評価により昇給した」(25.4%)、「給与制度の改定で上がった」(20.1%)、「手当(残業代や通勤手当を除く)が増えた」(8.6%)、「昇進・昇格した」(7.7%)が続く。

ベアの有無別に基準内賃金の変化(2025年7月時点)をみると、2025年にベアがあった企業では基準内賃金が3%以上増えた人が40.8%を占めるのに対し、ベアがなかった企業で基準内賃金が3%以上増加した人は18.8%に過ぎず、ベアが基準内賃金の上昇に大きく影響していることがわかる。

約半数が「年収アップ」も若年層でも4割前後が「上がっていない」

次に2024年の年収を前年(2023年)と比べると、年収が増えた人は51.9%と約半数。このうち、約4割が3%以上増えていた。その一方で、年収が上がっていない(「変わらない」+「減少」の計)人も少なくなく、60代の72.6%、50代の54.4%、40代の46.9%で上がっていないほか、30代(44.3%)や20代(37.2%)でも4割前後は年収が上がっていない。業種では、特に「医療・福祉」の6割以上、職種別では「事務職」や「営業・販売職」の半数以上で年収が上がっていないことが目立つ。

年収増の主要因は賞与増やベースアップ

年収が上がった人に理由(複数回答)を聞くと、トップは「賞与・ボーナスの増額」で29.6%。次いで「ベースアップ」(29.2%)、「年齢や勤続年数により昇給した」(28.2%)、「評価により昇給した」(26.9%)、「給与制度の改定で上がった」(18.2%)など。賞与の一部には個人評価が反映されているものの、全体としては組織要因の影響が相対的に大きい傾向がみられる。

多くの企業で初任給アップやベアが進行

調査は、2023年以降の勤務先での、①初任給の引き上げ②ベースアップ③賞与・退職金の月給化④その他の給与制度の改定――の有無を尋ねている。その結果をみていくと、初任給の引き上げが「あった」のは64.7%、ベースアップが「あった」人は69.1%だった。参考までに、どちらの問いも「わからない」と答えた人を除いて集計すると、いずれも約9割を占めていた。

増える賞与や退職金を月給に組み込む動き

賞与の月給化(賞与割合を減らして、毎月の給与に組み込むこと)が「あった」と回答した人は32.8%。退職金の月給化(退職金の一部または全部を前倒しで毎月の給与に上乗せすること)が「あった」と答えた割合は27.7%にのぼった。こちらも「わからない」を除くと、前者が5割弱、後者は約4割となる。賞与や退職金を月給に組み込む企業の動きが目を引く。

ちなみに、賞与の月給化については、肯定派(「そう思う」+「ややそう思う」の計)が26.5%で、否定派(「そう思わない」+「あまりそう思わない」の計)の28.1%を若干下回る。ただし、年代別にみると、20代・30代では毎月の給与に含めてほしい人がそうでない人より多い。退職金の月給化も傾向はほぼ同じ。

自由記述では、「賞与の月給への組み込みをしているだけで、総額年収は変わらない。40代以上はベースアップの恩恵がなく、20~30代と経営層のみ年収が上がっており、やる気が出ない」(44歳男性、製造業)、「賞与を月給に組み込むことで、業績を反映した賞与に期待できなくなる」(51歳女性、宿泊・飲食サービス業)、「退職金の月給化を実施してほしい」(25歳男性、教育・学習支援業)、「退職金制度がなくなったのが不安」(31歳女性、金融・保険業)といった意見がみられた。

なお、その他の給与制度の改定があった人は41.7%で、「わからない」を除くと約6割だった。

給与差の縮小や将来の給与の伸びへの不安感も

また、調査結果からは、みてきたような処遇改定による給与変化で、40代以下の2~3割が部下・後輩との給与差が小さくなっていることや、30代以下の約2割、40代以上の約3割が将来の給与の伸びに期待できなくなったと感じていることなどもわかった。

給与差の縮小について、自由記述では、「毎年のように給与に関する話し合いが持たれておりその点は評価できるが、新入社員と複数年働いている人との給与の差が減ってきており不満を感じる」(27歳男性、製造業)、「物価上昇を考慮して、賃上げに応じてくれていると思っている。ただ、新卒初任給の引き上げは、私は反対である(年長者が後進に教えるモチベーションを失ってしまう恐れ、それに伴う引継ぎや技術伝承が不足する恐れのため)」(26歳男性、製造業)、「ベースアップは嬉しいが、今の若年層は実績が乏しいのにもかかわらずもらいすぎだとも感じる。また、自分のようなマネージャー職はアップ幅も少なく、若手の時は給料も少なく、割を食ってる世代」(34歳女性、金融・保険業)、「去年の自分の給料より新卒の初任給の方が高いという現象が続いていて、やる気がなくなる」(28歳女性、製造業)、「3年以内に入社した社員のみ、給与の見直しが行われ昇給する通達がでており、既存社員には何もなく悲しくなった」(36歳男性、情報通信業)などといった声が寄せられている。

ベアがあってもモチベーションが高まった人は半数にとどまる

では、賃上げは従業員のモチベーションにどういった影響を与えているのだろう。2023年以降に処遇改定があった人のなかで、自社のベースアップでモチベーションが向上した人は48.6%。特に20代は58.8%の人がモチベーションアップにつながっていた。また、「現在の会社で継続して働きたい」といった継続就業意向や「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」などといったワーク・エンゲイジメントも、自社でベースアップがなかった人より10ポイント程度高くなる。

その一方で、ベアがあっても約半数は、モチベーション向上につながっていない(「変わらない」もしくは「低下した」)と答えていた。年代別では、ベアでモチベーションが上がった人は50代で約4割、60代は3人に1人ほどに過ぎないなど、賃上げがあったからといって必ずしもモチベーションが上がるとは限らない状況が浮び上がった。

40代以上の約半数が「将来の昇給に希望を持てない」

調査は、未来不安と継続就業意向との関係も尋ねている。それによると、「将来的な昇給に対して希望が持てない」「将来の生活を考えると、現在の給与水準では不安を感じる」「今の会社で、将来的に十分な給与や退職金を得られるとは思えない」といった未来不安を感じている人は、感じていない人に比べて継続就業意向が20ポイント程度低かった。

これを年代別にみると、40代以上の半数近くが「将来的な昇給に対して希望が持てない」と感じていて若年層を上回る半面、「将来の生活を考えると、現在の給与水準では不安を感じる」と「今の会社で、将来的に十分な給与や退職金を得られるとは思えない」は年代が若くなるほど多くなる。

給与が「変わらない」のは「下がる」より就業意向が低下

さらに、未来不安の影響が強く見られる40代以下の層で、3年後の給与見込みと継続就業意向との関係をみると、3年後の給与が「上がる」と思っている人の継続就業意向は高く、「下がる/変わらない」と思っている人の継続就業意向は低い。特に、3年後の給与が「変わらない」と見ている人の継続就業意向は27.0%にとどまっており、「下がると思う」(31.5%)より低い。

若年層ほど「給与が上がらなければ転職を検討」

一方、調査結果からは、給与が上がらない場合の行動として、若年層ほど転職を検討することもわかっている。この先、給与が上がらない場合に取る行動(複数回答)として多いのは、「支出を見直す」(36.5%)、「投資に力を入れる/投資を始める」(28.2%)、「転職を検討する」(26.0%) で、「昇進・昇格」や「資格取得・スキルアップ」といった社内での躍進をめざすよりも社外での手段を検討する人のほうが多い。これを年代別にみると、若いほど転職が選択肢になりやすく、20代の38.3%、30代も31.4%が「転職を検討する」を選んでいる。

さらに、転職検討と人事評価の関係を年代別にみると、この先給与が上がらない場合、20代では、直近に受けた人事評価(5を平均とした0~10の数値に換算)が高い上位層(8~10)の43.2%だけでなく、中上位層(6~7)の32.3%や標準層(5)の38.6%も転職を検討すると回答。30代も同順に、28.9%、39.1%、23.8%が転職を検討するとしている。

「給与が上がらない会社には長くいたくない」という意識は若年層ほど高く、20代で64.5%、30代も60.1%にのぼる。また、「頑張っても給与は変わらないと感じる」といった諦念感は、年代にかかわらず4割前後が抱いている。さらに、「給与を上げるよりも支出を減らすほうが現実的だと思う」人も全年代で半数程度。「給与を上げるよりも副業や投資で稼ぐ方が簡単だと思う」人は40代以下で4割前後を占める。

横並び水準より給与の未来展望を

パーソル総合研究所の砂川和泉研究員は、調査結果について、「インフレが進むなか、給与の現状維持は実質的な減給と同等に捉えられる」と指摘。給与が変わらない場合、20代の約4 割が転職を検討することが調査結果で明らかになったことを取り上げて「人材流出のリスクが大きいことが懸念される」とした。さらに、こうした状況のなかで重要なのは「他社や業界との横並びではなく、自社の給与の未来展望」だとして、「企業には、給与の未来展望を描けるよう自社の給与決定・調整方針を明確に示したうえで、非金銭的報酬も含めた報酬設計を行うことが求められる」などと分析。そのうえで、「従業員の将来不安を軽減し、定着を支えるためには、賃上げの伝え方・見せ方にも配慮する必要がある」としている。

調査は企業が報酬設計を検討する際の示唆を得るべく、賃金と就業意識の関係性および就労者の報酬に関する意識を定量的に把握することが狙い。2025年6~7月、正社員規模301人以上の企業で働く20~64歳の正社員2,500人からの回答をまとめた。

(調査部)

2026年1・2月号 国内トピックスの記事一覧