「1人平均賃金の改定額」は昨年を上回る1万3,601円で、改定率は4.4%
――厚生労働省が「2025年賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果を発表
2025春闘における賃上げ等の状況
厚生労働省が10月14日に公表した「2025年賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果によると、2025年中に賃金の改定を実施した、または予定していて額も決定している企業と、賃金の改定を実施しない企業でみた「1人平均賃金の改定額」は1万3,601円で、昨年の1万1,961円を上回った。改定率は4.4%で、昨年(4.1%)に続く4%台となった。改定額を労働組合の有無別にみると、労働組合のある企業では1万5,229円、労働組合がない企業では1万1,980円となっており、労働組合のある企業のほうが3,200円程度高くなっている。
調査は7月から8月にかけて行い、調査の対象は常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業。今回の調査では3,643社を抽出して行い、1,847社から有効回答を得た。
賃金を引き上げた・引き上げる企業の割合は91.5%
2025年中に「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」企業の割合は、前年の91.2%をやや上回る91.5%となった。
同割合を企業規模別にみると、「100~299人」が89.7%、「300~999人」が95.6%、「1,000~4,999人」が96.0%、「5,000人以上」が98.9%となり、300人未満では9割を下回ったが、300人以上の規模では9割以上となっている。
産業別にみると、多くの産業が90%以上となるなかで、「宿泊業、飲食サービス業」(78.4%)と「生活関連サービス業、娯楽業」(79.5%)は70%台で、「医療、福祉」(84.9%)、「運輸業、郵便業」(85.7%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(86.4%)、「教育、学習支援事業」(87.4%)、「建設業」(89.6%)は80%台だった。
労働組合の有無別にみると、「労働組合あり」が95.5%、「労働組合なし」が90.4%で、労働組合がある企業のほうが5.1ポイント高くなっている。
「1人平均賃金の改定額」は前年から約1,600円増加
2025年中に賃金の改定を実施した、または予定していて額も決定している企業と、賃金の改定を実施しない企業でみた「1人平均賃金の改定額」は、1万3,601円となり、1992年以来、33年ぶりに高水準となった前年の1万1,961円をさらに1,640円上回った。改定率は4.4%で、前年の4.1%を0.3ポイント上回っている。
なお、1人平均賃金を引き上げた企業だけでみた同額は1万3,914円(改定率4.5%)で、前年の1万2,183円(同4.1%)から1,731円増加している。
最も小さい規模の「100~299人」でも1万円台に乗せる
「1人平均賃金の改定額」を企業規模別にみると、「100~299人」が1万264円(同3.6%)、「300~999人」が1万2,308円(同4.0%)、「1,000~4,999人」が1万5,859円(同5.0%)、「5,000人以上」が1万6,784円(同5.1%)。
「1人平均賃金の改定額」を産業別に高い順に並べると、「建設業」(2万724円)が最も高く、以下、順に「電気・ガス・熱供給・水道業」(1万9,611円)、「鉱業、採石業、砂利採取業」(1万8,020円)、「金融業、保険業」(1万7,567円)、「製造業」(1万5,952円)などとなっている。
逆に最も低いのは「医療、福祉」(5,589円)となった。このほか、「生活関連サービス業、娯楽業」(7,744円)、「サービス業(他に分類されないもの)」(8,621円)、「教育、学習支援業」(9,300円)も1万円に届いていない。
労働組合の有無別にみると、「労働組合あり」が1万5,229円(同4.8%)、「労働組合なし」が1万1,980円(同4.0%)で、労働組合のある企業のほうが3,200円程度高い。
ベースアップ(ベア)を行った・行う企業は57.8%
2025年中に賃金の決定を実施した、または予定していて額も決定している企業と、賃金の改定を実施しない企業のうち、定期昇給制度がある企業の2025年中のベースアップ(ベア)の実施状況をみると、「ベアを行った・行う」企業の割合が57.8%、「ベアを行わなかった・行わない」企業の割合が15.1%となった。
労働組合の有無別にみると、労働組合がある企業では「ベアを行った・行う」企業の割合は82.1%、「ベアを行わなかった・行わない」企業の割合が9.9%。一方、労働組合がない企業では、「ベアを行った・行う」企業の割合が49.4%、「ベアを行わなかった・行わない」企業の割合が17.0%となり、労働組合がある企業のほうがベアの実施率が圧倒的に高い。
いずれの企業規模でも8割程度が「原材料費・経費」が増加していると回答
企業活動についてみると、「業況」が「良い」と回答した企業は35.3%、「さほど良くない」が51.2%、「悪い」が13.1%となった。このうち、「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」企業でみると、「良い」が37.4%、「さほど良くない」が50.0%、「悪い」が12.2%となった。
「原材料費・経費」については、「増加」が79.0%、「横ばい」が18.9%、「減少」が1.6%となった。このうち「原材料費・経費」が「増加」した割合を企業規模別にみると、「100~299人」が78.9%、「300~999人」が78.9%、「1,000~4,999人」が80.5%、「5,000人以上」が80.0%となり、いずれの企業規模でも8割近くとなっている。
2025年中に賃金の改定を実施した、または予定していて額も決定している企業に、賃金の改定にあたり最も重視した要素について尋ねた結果をみると、「企業の業績」が41.7%と最も高く、次いで、「労働力の確保・定着」が17.0%、「雇用の維持」が11.9%、「世間相場」が7.7%などと続いた(図表)。
図表:賃金の改定の決定にあたり最も重視した要素別企業割合(2025年、2024年)(単位:%)

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注:2024年度調査は、「賃金の改定の決定にあたり最も重視した要素」における「最低賃金」、「行政からの支援(減税・補助・助成)、「専門家からの助言」について調査していない。
(公表資料から編集部で作成)
このうち、前回調査になかった項目をみると、「最低賃金」(3.2%)、「行政からの支援(減税・補助・助成)」(0.1%)、「専門家からの助言」(0.1%)となり、いずれも割合は低かった。
前年と比べると、「消費者物価の動向」(前回7.8%→3.3%)、「労使関係の安定」(同1.8%→0.6%)などが低下する一方、「企業の業績」(同35.2%→41.7%)、「労働力の確保・定着」(同14.3%→17.0%)などが前年を上回っている。
すべての企業規模で「企業の業績」の回答割合が前年から上昇
さらに企業規模別に前年と比較すると、「企業の業績」はいずれの企業規模でも前年から割合が上昇しており、「100~299人」では前回36.8%→44.4%、「300~999人」では同32.2%→36.4%、「1,000~4,999人」では同29.5%→34.0%、「5,000人以上」では同35.4%→36.7%となった。
「消費者物価の動向」と「労使関係の安定」はいずれの企業規模でも前年から割合が低下。「消費者物価の動向」についてみると、「100~299人」で前年6.5%→2.6%、「300~999人」で同10.8%→4.3%、「1,000~4,999人」で同10.3%→6.9%、「5,000人以上」で同8.0%→6.7%となっている。
一方、「労使関係の安定」についてみると、「100~299人」では前年1.7%→0.4%、「300~999人」では同2.0%→1.3%、「1,000~4,999人」では同2.0%→0.4%、「5,000人以上」では同5.0%→4.5%となっている。
労働組合からの賃上げ交渉があった企業は78.3%
労働組合がある企業について、労働組合からの賃上げ要求交渉の有無をみると、「賃上げ要求交渉があった」企業の割合は78.3%で、「賃上げ要求交渉がなかった」企業は18.1%となっている。
このうち、「賃上げ要求交渉があった」企業の割合を企業規模別にみると、「100~299人」が70.1%、「300~999人」が84.8%、「1,000~4,999人」が89.1%、「5,000人以上」が91.1%となっており、「100~299人」ではほぼ7割にとどまった。
(調査部)
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