使用者による障がい者虐待の通報・届出があった事業所数は前年度から5.4%増加
――厚生労働省「2024年度使用者による障害者虐待の状況等」
国内トピックス
厚生労働省が9月3日に発表した「2024年度使用者による障害者虐待の状況等」によると、使用者による障がい者虐待に関する通報・届出のあった事業所数は1,593事業所となり、前年度に比べ5.4%増加した。一方で、虐待が認められた事業所数は前年度に比べ2.9%減少し、434事業所となった。
同集計は、障害者虐待防止法第28条に基づき、都道府県労働局が把握した使用者による障がい者虐待の状況等をとりまとめたもの。とりまとめ期間は2024年4月1日~2025年3月31日で、同期間内において使用者による障がい者虐待に関する通報・届出があったものや、労働局の対応が完了したものを計上している。とりまとめ方法は、障害者虐待防止法第24条に基づき、都道府県から労働局へ報告があったものを「都道府県からの報告」、労働局や労働基準監督署などに被虐待者、家族、同僚などから虐待に関する情報提供や相談などがあったものを「労働局などへの相談」、それ以外で労働基準監督署による臨時監督や公共職業安定所による事業所訪問などにより、虐待のおそれのある事例を把握したものを「その他労働局などの発見」に分類している。
通報・届出の形態で最も多いのは「労働局などへの相談」
使用者による障がい者虐待に関する通報・届出があった事業所数は1,593事業所で、前年度の1,512事業所を81事業所上回った。内訳をみると、「労働局などへの相談」が1,169事業所で全体の73.4%を占め、次いで「都道府県からの報告」が258事業所(16.2%)、「その他労働局などの発見」が166事業所(10.4%)となった。
通報・届出のあった事業所数を過去5年間でみると、2020年度が1,277事業所、2021年度が1,230事業所、2022年度が1,230事業所、2023年度が1,512事業所、2024年度が1,593事業所となり、2023年度以降は1,500事業所に到達し増加している(図表)。
図表:通報・届出のあった事業所数の推移(5年間)

(公表資料から編集部で作成)
通報・届出の対象となった障がい者数は1.5%減って1,827人
通報・届出の対象となった障がい者数は前年度に比べ1.5%(27人)減少し、1,827人となった。過去5年間でみると、2020年度が1,408人、2021年度が1,431人、2022年度が1,433人、2023年度が1,854人、2024年度が1,827人となり、直近の2年間では1,800人台で推移している。
通報・届出の対象となった障がい者のうち、障がい種別でみると、「精神障害」が730人で全体の41.0%を占めた。次いで、「知的障害」が447人(25.1%)、「身体障害」が399人(22.4%)、「発達障害」が164人(9.2%)、「その他」が40人(2.2%)となった。
虐待種別でみると、障がい者に対する暴言や不当な差別的言動などの「心理的虐待」が914人で全体の41.5%を占めて最も多かった。次いで、障がい者の財産の不当な処分や障がい者から不当に財産上の利益を得るなどの「経済的虐待」が913人(41.5%)、障がい者の身体に外傷が生じる暴行や身体を拘束するなどの「身体的虐待」が164人(7.4%)、障がい者を衰弱させるような著しい減食や長時間の放置などの「放置等による虐待」が157人(7.1%)、「性的虐待」が54人(2.5%)となった。
虐待が認められたのは434事業所で前年度から減少
労働局によって虐待が認められた事業所数は434事業所で、前年度の447事業所から13事業所減少した。認められた形態の内訳をみると、「労働局などへの相談」が260事業所(59.9%)と最も多く、「その他労働局などの発見」が142事業所(32.7%)、「都道府県からの報告」が32事業所(7.4%)となった。
虐待が認められた事業所数を過去5年間でみると、2020年度が401事業所、2021年度が392事業所、2022年度が430事業所、2023年度が447事業所、2024年度が434事業所となっている。
虐待が認められた事業所割合が最も高い業種は「医療、福祉」
虐待が認められた事業所を業種別にみると、「医療、福祉」が114事業所で全体の26.3%を占め、次いで「製造業」が93事業所(21.4%)、「卸売業、小売業」が54事業所(12.4%)、「サービス業(他に分類されないもの)」が48事業所(11.1%)などと続いた。
規模別にみると、「5~29人」が198事業所で全体の45.6%を占め、次いで「30~49人」が55事業所(12.7%)、「5人未満」が50事業所(11.5%)、「50~99人」が32事業所(7.4%)、「100~299人」が26事業所(6.0%)など。50人未満の事業所(「5人未満」「5~29人」「30~49人」の合計)が69.8%で全体の7割近くを占めた。
虐待が認められた障がい者数は前年度に比べ14.3%減少
虐待が認められた障がい者数は652人で、前年度に比べ14.3%(109人)減少した。虐待が認められた障がい者数を過去5年間でみると、2020年度は498人、2021年度は502人、2022年度は656人、2023年度は761人、2024年度は652人となった。
障がい種別でみると、「知的障害」が189人で全体の32.8%を占め、次いで「精神障害」が170人(29.5%)、「身体障害」が142人(24.7%)、「発達障害」が33人(5.7%)、「その他」が42人(7.3%)。
虐待種別でみると、「経済的虐待」が584人(85.0%)で全体の8割強を占め最も多かった。次いで「心理的虐待」が67人(9.8%)、「身体的虐待」が21人(3.1%)、「放置等による虐待」が10人(1.5%)、「性的虐待」が5人(0.7%)となった。
就労形態別でみると、「パート・アルバイト」が306人と全体の46.9%を占め、次いで「正社員」が178人(27.3%)、「その他・不明」が135人(20.7%)、「期間契約社員」が28人(4.3%)、「派遣労働者」が5人(0.8%)。
性別でみると、「男性」が381人(58.4%)、「女性」が150人(23.0%)、「不明」が121人(18.6%)となっている。
講じた措置の8割以上が「労働基準関係法令に基づく指導等」
虐待に対して労働局が講じた措置をみると、「労働基準関係法令に基づく指導等」が608件で全体の87.0%を占めて最も多く、そのうち「最低賃金法に基づく指導等」が179件(25.6%)となっている。次いで多いのは、「障害者雇用促進法に基づく助言・指導、紛争解決の援助等」の57件(8.2%)で、以下、「労働施策総合推進法に基づく助言・指導、紛争解決の援助等」19件(2.7%)、「個別労働紛争解決促進法に基づく助言・指導、あっせん」8件(1.1%)、「男女雇用機会均等法に基づく助言・指導、紛争解決の援助等」7件(1.0%)となっている。
(調査部)
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