部会、業種、地場など、複数の「共闘」の効果を活用しながら、医療や介護、福祉に従事する労働者の賃金格差の是正を図る
 ――UAゼンセン・総合サービス部門「医療・介護・福祉部会」の労働条件改善に向けた取り組み

労働組合取材

UAゼンセン(永島智子会長)の総合サービス部門「医療・介護・福祉部会」では、病院や介護、福祉施設で働く組合員の処遇改善について、厳しい経営状況下ながらも他産業との格差縮小をめざし、部会共闘や地場の同業種の単組共闘などを構築しながら賃上げに取り組んでいる。しかし、2024年度診療報酬改定で医療従事者の処遇改善に向けた措置が盛り込まれたものの、ここ2年間の賃上げは、他産業を下回る結果に終わった。総合サービス部門では今後、診療報酬改定の賃上げ効果の検証を政府に求めると同時に、結成以来、初めてつくる産業政策をもとに、確実に賃上げにつながる政策の実現活動をさらに強化する考えだ。

「医療・介護・福祉部会」とは

55組合・44分会、約10万人の組合員が所属

UAゼンセンの総合サービス部門には、8つの業種別部会がつくられており、病院、介護施設や福祉施設の組合で「医療・介護・福祉部会」を構成している。医療・介護・福祉部会には、55組合・44分会(日本介護クラフトユニオンの分会)が所属。同部会だけでも、組合員規模は約10万4,000人になる。

300人未満の組合が約7割を占める。部会の執行委員的な役割を果たす「部会運営委員」の組合の顔ぶれは、現在は、北九州病院労働組合、日本介護クラフトユニオン、立川メディカルセンター労働組合、ノテユニオン、弘前愛成会病院労働組合、会津中央病院労働組合、青山信愛会職員労働組合、青松会職員労働組合、愛染園職員組合、社会保険病院労働組合、徳洲会グループ鹿児島ユニオンの11組合となっている。部会長は、北九州病院労働組合の小關崇仁委員長が務めている。

部門方針の策定時から、各部会と密に意見交換

毎年の労働条件闘争では、まず、UAゼンセンとしての闘争方針が決定され、その産別方針をふまえて、「製造産業」「流通」「総合サービス」の各部門が、部門の闘争方針を策定する(産別方針、部門方針ともに、決定するのは毎年1月中・下旬ごろ)。3部門の各部会の単組は、自分たちが所属する部門の方針にのっとって要求交渉を行う。なお、UAゼンセンの加盟単組は、必ずどこかの部会に所属することになっている。

部会は業界ごとにつくっており、当然、部会の間では賃上げを取り巻く経営環境にバラツキが出るものの、労働条件闘争では、各部会とも部門方針にもとづいて交渉に臨む。ただ、部門方針の策定にあたっては、各部会で議論した意見や要望など(自分たちの業界がどの水準まで要求できそうか、この方針で自分たちの部会がついて行けそうか、など)を部門の執行部が前年秋の段階から吸い上げ、それをふまえた議論を行い、最終方針に反映させているため、闘争で大きく離脱する部会が出るような事態は基本的には生じない。

UAゼンセンの労働条件闘争における賃金闘争では、単組が独自の判断で経営側の回答を受け入れて妥結することはできず、まず部門が妥結できる内容かどうかを確認し、そのうえで、本部の妥結承認に委ねる。こうした統制が成り立つのも、部門方針となった時点ですでに、各部会の状況が十分に勘案された要求基準となっており、各単組がはじめから納得した要求のレベルとなっているからこそ、とも言えるだろう。

年に7回程度は部会で同業の組合が顔を揃える

部会活動は活発だ。総合サービス部門で副事務局長を務める扇谷浩彰氏によると、「すべての部会が集う毎年2回の合同部会を含めれば、部会は年に7回程度は開催されている」という。

また、医療・介護・福祉部会では、独自の労働条件実態調査を行っており、単組間の労働条件の差をそれぞれ確認できるようにしている。調査項目は、賃金、退職金、手当、労働時間関係などと幅広く、特筆すべきは、単組の実名入りで掲載されている点だ。例えば病院には夜勤、資格、役職などいろいろな手当があり、また、その水準も施設によってばらばらなため、詳細な調査データが労働条件の格差是正における重要な武器になる。

ちなみに、2025労働条件闘争では、総合サービス部門は正社員(フルタイム)組合員の賃上げ要求ついて、現行の賃金水準が産別の定める【ミニマム水準】や【社会水準】に未達の場合と賃金水準が不明の場合は、「4,500円(賃金体系維持相当分)に加え賃金引き上げ5.0%基準、または1人平均7.0%基準を要求する。金額については1人平均1万7,000円以上を要求する。格差是正に向けて、積極的な上積み要求に取り組む」とし、【社会水準】または【目標水準】に到達している場合は「賃金体系維持相当分に加え賃金引上げ4.0%以上、かつ1人平均1万6,500円以上を要求する」との方針を立てて取り組んだ。

2025年度の賃上げはどのような結果となったのか

2024年度の医療分野は2%以上の賃金引き上げを記録

では、医療・介護・福祉部会の2025労働条件闘争における賃上げは、目下のところどのような結果となっているのだろうか。

その前に、前回の2024年度労働条件改善交渉の最終結果を振り返ると、「医療」分野では、いわゆるベアや賃金改善を指す「賃金引上げ(診療報酬改定で新設された賃上げ原資である「ベースアップ評価料」含む)」の平均は4,575円(2.12%)で、定期昇給などの賃金体系維持分も含めた「総合計」の賃上げ額・率は7,142円(3.31%)だった。「介護」分野では、「賃金引上げ(介護職員等処遇改善加算含む)」の平均は4,534円(1.67%)で、「総合計」の賃上げ額・率は8,437円(3.12%)だった。

賃上げ額・率は他産業と比べれば高い水準とは言えないものの、「定昇のみ」という決着もめずらしくない業界状況のなかで、おおむね「賃金引上げ」を獲得することができた。

7月上旬時点で「医療」の「賃金引上げ」は1.63%

そして2025労働条件闘争の7月上旬時点での妥結状況をみていくと、「医療」分野では、34組合中15組合で決着しており、「賃金引上げ(ベースアップ評価料含む)」の平均は額で3,932円、率で1.63%。「総合計」では、額で6,628円、率で2.77%となっており、前年を下回る賃上げ水準となっている。

5月末現在で、「介護」分野のほうはまだ3組合しか妥結しておらず、「総合計」の平均は、額で4,076円、率で1.47%となっている。回答が出揃うのは、8月頃となりそうだ。

新設された「ベースアップ評価料」の活用を狙ったが

医療職員の処遇をめぐっては、2024年度診療報酬改定が行われ(2024年3月通知)、2024年度にプラス2.5%、2025年度にプラス2.0%のベースアップを実施し、定期昇給なども合わせて、前年(2023年)を超える賃上げの実現を目指すとされた。また、看護職員などの賃上げを行えるようにするため、「ベースアップ評価料」が新設され、賃上げにその原資を使用することを条件に、医療機関は診療報酬にベースアップ評価料を算定できるようになった。

こうした賃上げを後押しする材料もあり、部会では、「各単組にはベースアップ評価料などを活用しながら賃上げにつなげようと呼びかけた」(UAゼンセンの山﨑茂治・医療・介護・福祉部会事務局長)ものの、現時点ではむしろ、2024年度より厳しい結果となっている。山﨑氏は「2024年度はベースアップ評価料がとれた法人では、賃金引き上げができたところも多いが、2025年度はほとんどが定昇のみという結果となっている。もともとベアの獲得が難しい業界であり、以前の状況に戻った感じだ」と話す。

賃上げが難しい理由

看護職員以外の賃上げにも連動し、結果的に病院は原資持ち出しに

なぜ、賃上げ結果が振るわなかったのか。病院については、「看護職員だけでなく、ベースアップ評価料の対象に入っていない医療事務職員や調理する職員などが働いており、看護職員の賃金引き上げを行うことになると、法人側はそうした職員についても公平に賃金を引き上げる必要がある。ベースアップ評価料が新設されたからといっても、賃上げを行うことは売り上げが変わらないなかでは病院側の原資持ち出しにつながる」と山﨑氏は説明する。

また、今年は、賃金引き上げ回答が出ても一時金の水準が下がり、年収でみれば前年より減少してしまう現象もみられたという。

期待が大きかったぶん、落胆も大きかった

扇谷氏は「2024年度診療報酬改定の際に、厚生労働省から、処遇改善を通じて医療従事者の人材確保のための取り組みを進めることが急務だとの考えが示されたことで、2024闘争ではぜひ賃金引き上げを獲得しようと期待が高まった。それだけに、この2年間の賃上げ結果をみると、各単組の落胆も大きいのではないか」と率直に語る。

そのうえで扇谷氏は、「他産業との賃金水準の乖離が是正されなければ、働く人たちは仕事を続けても賃金が低くて生活が苦しくなり、今の職場を辞めざるを得ないと考える人がますます増えてしまう」と懸念する。

ちなみに部会では賃上げ・一時金のほかにも、「職場のハラスメント対策」や「深夜業の改善」(休憩と休息時間/深夜勤時の仮眠の確保等)「傷病休暇(積立有給休暇)制度の導入/積立日数・使用事由の拡大」「メンタルヘルスへの対応」「総実労働時間1,900時間に向けた各種取り組み」(勤務間インターバル規制等)といった項目に取り組んでいる。しかし、2025闘争では、賃上げに注力したこともあり、働き方に関する要求項目は「軒並み改善に至らなかった」(山﨑氏)。

「病院はどこも人手不足なので、休日増などを求めても、現場ではどうすることもできないことを組合員自身がわかっており、要求項目から外す単組もなかにはあった」と山﨑氏は苦しい単組事情を明かす。

共闘を活用した闘争の工夫

各部会は必ず部会共闘を構築する

毎年の法人側との厳しい賃上げ交渉を効果的に進めるため、医療・介護・福祉部会では、闘争期間中に「部会共闘」を構築している(UAゼンセンでは、他部門も含めて、各部会は必ず部会共闘をつくることになっている)。交渉期間中に、部会の組合どうしで、要求から交渉の進捗を共有し、意見交換している。

総合サービス部門では、4月以降に回答を引き出す中小労組が多いため、4月以降に開催頻度が多くなる。コロナ前は、部会共闘会議は対面で行っていたが、コロナ以降のリモート会議システムの普及のおかげで、効果的に、また頻繁に開催することができるようになり、以前よりも会議が活発化した。

各単組もその恩恵を感じているという。「その都度の部会共闘で情報交換を行うことで、自分たちの交渉だけが苦しいのではないことを実感できたり、明らかに自分たちの組合で法人側から提示されている水準が低いことに気がつくことができる。その後の法人との交渉をうまく進められる材料を見つけることができる」と扇谷氏は言う。

新潟県では精神科4単組で共闘

交渉期間中にはまた、業種が同じ組合による「業種協議会」も開催している。各都道府県に同じ業種の組合の「かたまり」があれば、各都道府県支部とその域内の業種の組合で「業種協議会」を立ち上げ、交渉の状況を情報交換し、作戦を立てながら交渉を進めている。同じ業種の協議会が他県などにあれば、地域間でも情報交換を行って、その材料を、続く交渉に生かしている。

地場の単組が自主的に集まって共闘を組むこともある。例えば新潟県では、青山信愛会職員労働組合、青松会職員労働組合、恵松会職員労働組合、恵生会職員労働組合の精神科4単組で毎年、共闘を組んでいる。15年以上は続いている歴史も古い共闘だ。

4単組は前年の秋口から、共闘スケジュール、要求の組み立て方について話し合い、年明けの1月~2月に、施設の経営・業績などの状況の精査を一斉に進める。2025年度のスケジュールでは、2月20日までに要求書を提出し、ヤマ場の交渉日に設定した3月の最終金曜日(3月28日)までに5回の共闘会議を開催した。ヤマ場である3月28日には、各単組は午後から交渉を始め、今年の交渉終了時刻は翌日の午前4時30分だった。

交渉が一段落すればすぐにリモートで共闘から助言が得られる

共闘の良さは、一連の交渉のなかで、きめ細かく他の単組の情報を入手し、自分たちの交渉の進展具合を客観的に評価できるとともに、支部や部門からのアドバイスを頻繁に得られる点だ。新潟県の共闘でも、ヤマ場の交渉の間はずっと、支部、部門の役員が共闘の指令室となる場所に詰め、共闘に参加している交渉組合はリモート会議システムをずっとつないでいる。

交渉組合は毎回の交渉が終わるとすぐにリモートシステムで交渉や折衝の結果を報告し、そこまでの法人側の回答について、もっと引き出せる水準かどうか、法人側に示させる回答の裏付けとなる経営などに関するデータがないのか、などを話し合う。また、次の交渉・協議で法人側に問いただしたり、確認したりする必要がある点なども交渉組合にアドバイスする。他の組合は、そのやりとりを聞くことで、また自分たちの交渉に生かすことができる。

今年のヤマ場交渉では、山﨑氏は青山信愛会職員労働組合と恵生会職員労働組合に駆けつけたが、「電卓をたたきながら、もっと賃上げ額を引き出せるとか、この水準を出させるには別の条件項目のこの部分は抑えめでもしょうがない、といった議論を行った」という。

疲労感もあるがやりがいも感じられる

4単組の共闘の最終結果は、「賃金引上げ(ベースアップ評価料含む)」は3,687円(1.56%)で、賃金体系維持分を含めた「総合計」では7,262円(2.98%)だった。

新潟県の共闘では、最後の組合の交渉が決着する時刻がほぼ毎年、翌朝になるが、「疲労感はあるが、とてもやりがいがある」と扇谷氏は言う。新潟県4単組の共闘のがんばりを見て、「自分たちもがんばろう」と交渉を続ける部会所属単組もあるという。

2026年闘争に向けて

実際の賃上げにつながる診療報酬改定を

すぐにやって来る2026年闘争も含めて、これから医療従事者などの処遇改善に向けて、どう取り組んでいくのか。扇谷氏は「病院労使だけで、処遇改善できる環境をつくっていくのは多分に無理なところがある。やはり肝になるのは診療報酬改定だが、2024年度改定の後に、2024闘争、2025闘争と2回賃上げに取り組んだものの、2024年度改定の処遇改善を図っていくという狙いが、現場での賃上げに向けた行動につながっていない」と指摘。「政府はぜひこの点を検証してほしい」と要望する。

また、2026年度に予定される診療報酬改定では、医療業界全体の経営改善に向けて、「ここを上げたから、ここを下げるというような改定ではなく、全体のパイを広げていく必要がある」と話す。

総合サービス部門では、2024年度診療報酬改定において新設されたベースアップ評価料が賃上げにどの程度影響があったのかを検証し厚生労働省へ伝えていく(8月頃予定)。そのうえで、すべての医療従事者の処遇改善をめざし2026年度診療報酬改定に向けて署名活動を展開しており、2024年度診療報酬改定時の12万筆を超える15万筆を目標にしている。今年秋には、その署名を携えて厚生労働省への要請行動も予定している。

初めて医療・介護に関する産業政策を確立する予定

UAゼンセンでは、初めて、医療と介護についての産業政策もそれぞれ確立する予定だ。医療については、2026年9月に開催予定の定期大会での提起を目指す。介護については、2026年1月に開催予定の中央委員会で提起したい考え。

内容についてはそれぞれ、内部討議を進めているが、①医療保険制度、介護保険制度の堅持②医療・介護産業の安定と発展③各産業で働く労働者の人材確保と処遇改善――の3つの視点を柱に据える。また、目玉となりそうなのが、介護従事者の公正労働基準確立に向けた最低賃金制度の創設の提案だ。

山﨑氏は「UAゼンセン結成以来、初めてとなる産業政策の策定だけに、医療・介護・福祉部会の期待も大きい」とし、政策実現活動の強化につなげていきたい考えだ。

(荒川創太、田中瑞穂)

労働組合プロフィール

  • UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)
  • 所在地:東京都千代田区九段南4丁目8番16号
  • 会長:永島智子
  • 組合員数:193万6,000人(厚生労働省調査)
  • 上部団体:連合
  • 組織体制:製造産業部門、流通部門、総合サービス部門の3部門制。
  • 総合サービス部門の概況:食品製造やレストランチェーンなど食にかかわる産業や、交通・運輸、エネルギー、金融、ホテル、レジャー、パチンコ、医療・介護・人材サービスなど、生活にかかわるサービス産業の労働組合で構成されている。所属組合数は773組合(約55.8万人)。「フード」「フードサービス」「インフラサービス」「生活サービス」「ホテル・レジャー」「パチンコ関連」「医療・介護・福祉」「人材サービス」の8部会をつくる。

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