【取材】
協会内方針やガイドラインで過剰で不当な要求への適切な対応方針を明示し、対応で苦慮する担当者を後押し
 ――日本菓子BB協会のカスハラ対策に向けた取り組み

業界団体の取り組み

菓子商品に関する適正・公正な取引や安全性に関する課題に対処し、顧客対応・品質管理担当者の業務円滑化に向けたサポートを行う日本菓子BB協会(東京都・港区、中島英樹会長)は、会員社向けに、「お客様対応方針」と各社でマニュアルを作成するための「マニュアルの作成ガイドライン」を2022年に策定。翌年にはカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策を含めて更新を行った。あらゆる申し出に対してサービスとして過剰な対応をしていたこれまでの慣習を改め、過剰で不当な要求には毅然とした対応で臨む方針を明示することで、解決困難な申し出やカスハラに苦慮する担当者・企業が適切に対処できるよう後押ししている。

日本菓子BB協会の活動

消費者対応や品質管理に関する取り組みに特化

日本菓子BB協会は、菓子に関する生産・流通・消費の諸問題に業界全体として対処する機関として、1971年5月に設立。チョコレート公正取引協議会の菓子虫害対策特別委員会が、創立準備を決定した。アメリカで生まれた組織「BBB(ベター・ビジネス・ビューロ)」の考え、「企業が誇大広告や不正な販売を自主規制して消費者の利益を守る」にならっている。

現在の活動分野は消費者対応と品質管理に関する内容に特化しており、主に会員社の「顧客対応窓口」と「品質管理部門」の担当者に向けて、問い合わせ対応へのアドバイス、リスク管理、VOC(Voice of the Customer:顧客の声)活用に関する情報提供などを行っている。

設立当初は22社だった会員社数も、現在は158社に増加。菓子メーカーのほか、卸店や印刷・衛生管理など菓子製造に関連する企業や、食品業界の企業も加盟している。

会報誌・会員専用ホームページでの情報発信や消費者対応に関する実務研究会を実施

同協会内には、「総務企画専門部会」「情報・広報専門部会」「技術研究専門部会」「消費者対応専門部会」の4つの専門部会があり、それぞれ会員社からの6~10人ほどのメンバーで構成されている。

「総務企画専門部会」は、協会活動計画と予算や、年に1度開催される総会の議案書の作成を担当している。

「情報・広報専門部会」は、年4回発行している機関紙「BBニュース」の編纂と協会ホームページ等での情報提供や、総会運営スタッフ、秋季研修の補助業務を行っている。

「技術研究専門部会」は、主に品質管理部門の担当者で構成される。HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:国際的な衛生管理手法)、食品表示・アレルギー表示に関連するマニュアル(リスクコミュニケーション、参考資料)の作成を行っている。

「消費者対応専門部会」は、4地区(関東、中部、西日本、新潟)に設置されている「消費者対応実務研究会」の実施方針や、議論テーマ・課題の設定などを担当。「消費者対応実務研究会」は各地区で年に5~6回開催され、テーマに基づいた勉強会や意見交換が実施されている。コロナ禍を経て、現在はオンラインでも参加できるようになっており、地区をまたいだ情報交換もできるようになっている。

カスハラ対策を進める背景

不具合品の代品を多めにお返しするなどの過度に丁寧な対応を反省

同協会が近年問題視されるカスハラへの対策を進める背景には、菓子業界特有の慣習への反省があると、常務理事の笠原浩児氏は説明する。

「以前は申し出たお客さまに対して、購入された品物よりも多めに返品を行っていた。菓子の単価自体がそれほど高くないことから、サービスやファンづくりの1つと考え送っていた。お客さまを大切にすれば、またたくさん買ってくれるのではないかという思いもあった」

国によっては、商品に不具合があった場合、企業は商品を等価交換すれば対応は完了するそうだが、日本では「お客様は神様」という言葉が浸透していた時代もあり、過度に丁寧な対応が取られていた。「『このくらい対応してもらえて当たり前』という考えを、お客さまに持たれるような土壌にしてしまった」ことが、消費者からの過剰な要求が増加した一因とも考えている。

現品を送らずに返品・金銭を要求する事例も増加し、判断が難しい場面も

近年は顧客対応についての世間の意識も変化。「昔は理不尽な申し出がきても『我慢するのが仕事』だと思って、納得できないことがあっても対応することもあった。今は企業が、我慢しなくて良いのではないかという意識に、変わってきた」と感じている。

一方で、「以前は常識の範疇を超えて暴言や要求する行為はあまりなかったのではないか」と言う。菓子業界や食品業界では、消費者が不具合のある商品を購入した場合、現品を企業に送ることで、企業が代品を送り原因を説明することが、一般的な対応となっている。しかし、現品を送らず申し出だけで、返品や金銭まで要求してくる消費者が以前より増え、本当に不具合のある商品を持っているのか確認できない事例も多く見られている。

「なかには『毛髪が混入していたのでDNA鑑定をしてほしい』と要求されることもある。ただ、今は企業も工程に入る前のエアーシャワーやブラッシング、衛生キャップなどで異物混入を防いでいて、毛髪などが入ることは少ない。消費者が開封後に自身の毛髪が入ったことに気づかず、勘違いして連絡してくる場合もある。企業としては再発防止に取り組むことが重要となる」

消費者の過剰な要求にどこまで対応したら良いか、個々の企業だけでは判断が難しい部分もあるため、「それはもう断って良い、毅然とした対応をとって良い」と言えるルールを作る必要性を感じている。

カスハラ対策に向けた取り組み

統一ルールを明示し、ハラスメントにつながるクレームは顧客対応自体を断る姿勢に

同協会は、過剰対応はせず、消費者からの申し出が事実かどうかを確認できるようにするために、はじめに業界統一ルールを作成した。2018年には、対応の統一ルールとして、「現品がない人には基本的に対応しない」と明示した。

以前より同協会は、会員社向けの「お客様対応マニュアル」の提供や、会員社がそれぞれの商品や方針に合わせた対応マニュアルを作成できるように「マニュアルの作成ガイドライン」などを作成し、情報提供を続けていた。前述したように明らかに正当と言えない申し出も増えてきたことから、対応者に対するハラスメントにつながる申し出に対しては顧客対応自体を断る姿勢を取る方針を盛り込むことにした。

カスハラ対策を盛り込む「協会内方針」や「マニュアルの作成ガイドライン」を公表

「お客様対応方針」と「マニュアルの作成ガイドライン」を公表した2022年には厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成。これを受けて、2023年に「カスタマーハラスメント対策(協会内方針)」を方針に加え、「マニュアルの作成ガイドライン」にもカスハラ対策を追記した。「丁寧に説明しているにも関わらず納得できない等の同じやり取りが3回繰り返される場合は、顧客対応を打ち切っても良い」などの内容が含まれている。

「カスタマーハラスメント対策(協会内方針)」では、カスハラとなる行為として「脅迫や威嚇行為」「合理的理由のない謝罪要求や関係者への処罰の要求」「社会通念上の範囲を超えた原因究明方法の要求」など10項目を列挙。該当する行為がなされる場合は対応を断る可能性があることや、悪質と判断した場合に警察・弁護士などと相談の上、適切に対処することなどを基本方針としている。

策定の際は、会員社に広く使ってもらえるように、顧問弁護士にも確認してもらいつつ、現場に合わせた文言を選定。それぞれの企業にあった、自社の基本方針・基本姿勢を明確にしてほしいと考えている。

少人数で顧客対応を行う担当者にとって心強いものに

「お客様対応方針」や「マニュアルの作成ガイドライン」は、会員専用ホームページに公開し、会員社であれば誰でも、いつでも見られるようになっている。「担当者が1人で顧客に対応している企業もたくさんあるので、その背中を押してあげられる、心強いものになりたい」との思いだ。

カスハラ対策に限らないが、実際にこうした方針やガイドラインを策定すると、「『本当に参考になった』『助かります』と言って喜んでくれる会員社も多い」と話す。また、マニュアルが整備されている企業でも、ガイドラインと照らし合わせて自社のマニュアルが最新の状態かを確認し、新たな基準・切り口を発見して更新できるのではないかと考えている。

最新実態調査では約半数がマニュアル整備など社内で取り組める措置を求める結果に

同協会では2016年から2年に1回、会員社の管理者(部門の管理職・マネージャーなど)と担当者に対して業務実態調査を実施。2020年の調査からは、消費者対応業務における迷惑行為の設問も追加し、調査結果を報告書にとりまとめ、会員社に共有することで、実態把握や課題解決に活用してもらっている。

2022年調査結果では、消費者対応業務における顧客の変化を尋ねる設問(複数回答)において、管理者・担当者ともに、約4割が「質の変化」(問い合わせ内容の細分化や問い合わせ者の反応など)、約2割が「量の変化」(問い合わせ量の増減など)を感じていることが明らかとなっている。

また、迷惑行為から消費者対応部門を守るために必要な措置については、管理者・担当者ともに、企業のマニュアル整備やクレーム対策の教育などといった、「企業として社内にて取り組める措置」の項目が約半数にのぼるほか、消費者への啓発活動や業界団体の取り組みなど、「業界を含めて社外への働きかけに関する措置」の項目が合わせて3割を超えるなど、ともに対応が求められていることがうかがえた。

今後に向けて

企業も消費者もお互いを尊重し合いウィンウィンな関係性となる社会を望む

今後については、「協会やほかの関連団体も含めて、業界団体が企業を助けるような活動をしていかないといけない」と感じており、カスハラ対策も含めて、新規で必要なガイドライン・方針の発信や既存のバージョンアップを検討している。直近では、特にカスハラで怖い場面に遭遇しやすい、対面で顧客対応を行う店頭の担当者向けの対応事例集を作成したほか、今後も現行の資料の更新や最新の情報の共有を進めていく。

一方で、「日本では消費者側に誤った権利意識がまだ高く、そこがカスハラにつながっている」と指摘。なかには自身がカスハラをしているという自覚がない消費者もいることから、啓発活動や、消費者への教育につながる情報提供をする必要もあると考えている。

そうした取り組みを進めることで、「過剰要求なども含めてカスハラが間違った行為だと消費者に理解してもらえたら、次のステップとして、それぞれの企業のファンになってくれるお客さまにしっかりと情報を提供し、お客さまの声を活かした商品・サービスの改善につなげる取り組みに注力してもらいたい」と強調。企業も消費者も上下関係がなく、お互いに尊重し合い、消費者の意見が企業のより良い商品・サービス提供につながるウィンウィンな関係性が社会的に築かれることを望んでいる。

(田中瑞穂)

組織プロフィール

組織名:
日本菓子BB協会
所在地:
東京都港区新橋6-9-5 JBビルディング8F
設立:
1971年5月10日
会長:
中島 英樹
会員社数:
158社(154企業、4団体)*2024年6月時点

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