カスハラの内容のトップは「暴言」。「客観的な判断指標の持ち方」が取り組みの課題
 ――空港グランドハンドリング協会がカスタマーハラスメント対策調査結果を公表

業界団体の取り組み

空港で航空機運航の地上支援を行う「グランドハンドリング」の、業界共通課題を解決することなどを目的に2023年8月に設立された「空港グランドハンドリング協会」(会長:服部茂・ANAエアポートサービス代表取締役会長、会員数91社)は、今年1月にカスタマーハラスメント対策調査結果を公表している。それによると、会員企業があげたカスタマーハラスメント(カスハラ)の内容(複数回答)で最も多かったのは「暴言」で58.8%。半数以上の企業が、事業主の基本方針や基本姿勢の明確化などが未整備だとし、取り組みの課題としては「客観的な判断指標の持ち方」が最も回答割合が高かった。

カスハラ対策を「魅力ある業界づくり」の1つとして定義

協会は、カスハラ対策推進を「魅力ある業界づくり」に向けた事業の1つとして定義している。カスハラ対策推進活動を通じて、「会員事業者の対策推進強化につなげ、従業員の保護及び離職抑制につなげていくことを目指す」としている。

調査は、各会員企業におけるカスハラ対策の実態を把握するために2023年9月4日~10月6日に実施したもの。会員企業51社から回答を得た。

発生状況を把握していない企業が約半数

それによると、自社におけるカスハラの発生状況(件数など)を「把握している」が43.1%、「把握していない」が51.0%などとなっており、約半数の企業が把握していなかった。

主なカスハラの内容を複数回答で尋ねると、「暴言」が58.8%で最も割合が高く、次いで「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」(43.1%)、「長時間拘束」(37.3%)、「威嚇・脅迫」(31.4%)、「権威的(説教)態度」(19.6%)、「性的な言動」(15.7%)、「SNS・インターネット上での誹謗中傷」(9.8%)、「暴行」(7.8%)、「土下座の強要」(3.9%)の順。

協会は「暴言」がトップにあがったことなどについて「航空機の遅延やハンドリングミスなどに起因するケースで発生することもあるため、事業者側から対応を区切る難しさがあることも背景として考えられる」としている。

カスハラ発生時の従業員(被害者)のための相談対応体制の整備について自由記述で回答してもらうと、「特になし」の回答数が16(31.3%)あったが、「相談窓口の設置」の回答数も同数あり、「上司によるケア」も15(29.4%)あった。

約57%がまだ基本方針や基本姿勢の明確化などを行っておらず

厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2020年6月1日適用)により、カスハラに関し事業主は相談体制の整備や被害者への配慮のための取り組みなどを行うことが望ましいと定められていることについて、その認知度を尋ねたところ、「認識していた」が58.0%、「認識していなかった」が40.0%で、認知度は約6割だった。

事業主の基本方針や基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発方法をみると、「特になし」が56.8%と半数以上で、「グループ(本社)方針・規定類に準ずる」が27.4%、「周知・教育」が13.7%、「窓口の設置」が1.9%となっている。

再発防止のための取り組みをみると、「事例共有」と「特になし」がともに37.2%で、「必要に応じて対応」が9.8%、「実績なし」が7.8%、「事例の類型化・共有」が3.9%、「相手先への申し入れ(B to B)」と「教育の実施」が1.9%となっている。

顧客への周知・啓発についてみると、「未実施」が84.3%で8割以上にのぼり、「啓発ポスター掲示」が3.9%、「社内メール周知」「盗撮に関するポスター掲示」「不明」がそれぞれ1.9%という結果だった。

取り組むうえでの課題は「客観的な判断指標の持ち方」

カスハラ対策に企業として取り組むにあたって課題となると考えている点を尋ねると(複数回答)、「客観的な判断指標の持ち方(正当なクレームや犯罪行為以外との明確な線引き)」が66.7%で最も割合が高く、次いで「会社全体でカスハラ対応に取り組む必要性の理解」(60.8%)、「現場への分かり易い周知」(45.1%)、「相談体制の構築(メンタルケアの方法等)」(33.3%)、「事案発生部署との情報の共有体制」(21.6%)の順となっている。協会は「行為を立証する難しさなどがあることがうかがえる」としている。

今後、カスタマーハラスメント対策に業界として取り組むにあたって必要だと思うことを尋ねると(複数回答)、「共通ガイドラインの整備」が76.5%で最も割合が高く、「業界取り組みの対外的な発信」(54.9%)、「法整備への働きかけ」(45.1%)、「セミナー開催」(43.1%)、「他社取り組み事例の共有」(37.3%)と続いた。

対応ガイドラインの策定を検討へ

調査結果を受けて協会は、「調査を通じ、旅客・ランプの職場において、カスハラ対策推進に対する一定程度の課題認識の差はあるものの、改めて個社だけでは解決が難しい問題であることが分かった」「こうした事業者共通課題については、協会の取り組みになり得るため、業界としての共通ガイドラインの整備及び対外発信などの検討に取り組んでいく必要がある」とし、今後の活動として、「カスハラの定義や発生時の対応方法などを取りまとめた『カスハラ対応ガイドラインの作成(仮称)』の策定検討を行う」などとしている。

(調査部)

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